生意気
ドラゴンバスターズの他のメンバーと合流すると、皆一様に温かく受け入れてくれた。
どうやらサムエルさんと一緒に、ドラゴンとの戦い以来ずっと俺を探し続けてくれていたらしい。
理由は「礼を言いたかっただけ」と来たもんだ。気持ちのいい人たちだな。
合流した俺たちは「食堂レイモンド」に向かうことになった。
懐かしいな。この世界で初めて文明的な食事をしたところだ。
ただ、この状態で食堂はやってないんじゃないかと思ったが、サムエルさん曰く「あいつならどうせ開けてるよ」という一言で向かうことになった。レイモンドさんは狂人なのだろうか。
「にしても、お前さんが勇者とはなぁ。変な奴とは思ってたが、ここまで変とは思ってなかったよ。」
「勇者を変という枠組みに入れないでくださいよ。」
「だって勇者は変な奴ばっかりじゃねぇか。」
・・・痛いところを突かれた。どうやら、サムエルさんは勇者の史実を知っていたらしい。
その辺は、盾術士のフェリさんが詳しいんだとか。フェリさんは俺を擁護してくれている。
「君は勇者という重荷を背負うことになってしまったのだな・・・。辛いことも多いだろう。俺たちで出来ることは少ないかもしれないが、いくらでも協力しよう。」
・・・良い人だ。勇者を「重荷」と言ってくれる。その重さを理解してくれるだけで、感動してしまう。
「でもよ、コイツが変な奴なのは変わらねぇだろ。勇者だから変な奴なんじゃなくて、変な奴だから勇者に選ばれたんだよきっと。」
「サムエルさん、ちょっと黙っててください。今ちょっと感動してるところなんで。」
「ハハハ!すまねぇな。戦いばっかりで高揚しててよ。残念ながら止まれそうにねぇ。」
なんて馬鹿話を続けていると、「食堂レイモンド」に到着した。
本当に開いているようで、そこには既に結構な客が来ていた。よくもまぁこんな状況で店やってるな。
すると、一人の客が俺たちに気が付いたようだ。
「おぉ!今回の功労者のドラゴンバスターズじゃねぇか!それに、金髪の美少女だ!噂は本当だったんだ!」
すぐにこの街の人気者であるドラゴンバスターズは取り囲まれてしまう。ついでにエリーも金髪の美少女と呼ばれてもてはやされ、満更でもない表情をしている。本性を暴いてやろうか。
・・・今は勝ちを祝う時か。水を差すのも無粋だろう。
まだ正体がバレていない俺は、のんびり過ごそうと考えていた。ただ、そんなことは当然サムエルさんが許すわけがない。
「今回の功労者は俺たちじゃねぇ!ここにいる「鞘の勇者ハルヤ」の活躍が大きい!コイツは一人で街の外にいた大魔人を撃破し、俺たちに魔道具を与えて魔人討伐の手助けをしてくれたんだ!」
その一言で、食堂レイモンドは一際大きい騒ぎになった。だが、訂正させてほしい!
「俺を紹介するのはいいですけど、「鞘の勇者」はやめて下さい!それにあんたらに魔道具を渡したわけじゃない!エリーに渡したのを勝手に使っただけだ!話を盛らないで下さい!」
俺の叫びは騒ぎの前に虚しくも無視され、「鞘の勇者ハルヤ」が一瞬にして定着してしまった。
「勇者だと?!この世界に神は勇者を送ってくれたんだ!」
「あの西門での大きな魔法は勇者の一撃だったのか!」
「俺も遠目からだけどあの魔法見たぜ!凄かったよな!」
「鞘の勇者だ!鞘の勇者に乾杯だ!!!」
完全に「鞘の勇者」で盛り上がる人々を前に、俺は沈黙せざるを得なかった。
エリーに、サムエルさんに、なぜこうも「鞘の勇者」を定着させようとするのか。絶対に面白がってやがる。
「ハハハ!やっぱり二つ名はいいな!インパクトが段違いだぜ!」
「サムエルさんにも二つ名つけましょうか?ほら吹きサムエルとかどうですか?」
「お、いいねぇ。嘘も方便。大好きな言葉だぜ。」
何も悪びれる様子のないサムエルさんだった。
騒ぐのもいいがお腹が空くという事で、俺たちは食堂の中のテーブルに座る。
注文は「適当に飯と酒を持って来てくれ」という一言で終わった。気楽でいいな。
「さて、ハルヤ。今のこの状況は何だ?知っている情報を吐け。」
「なんで尋問みたいになってるんですか。普通に話しますよ。」
「うるせぇ、お前さんは問い詰めねぇと吐かずに逃げちまうからな。こんぐらいでいいんだよ。」
そういえばそうだったな。何も言わずに逃げたしな。
過去の自分を振り返りつつ、俺はここまでの道中で得たことを全部話した。
魔人について、大魔人と魔王について、今の世界の状況について。
知っていることに限りはあるが、知っている限りは話した。
「なるほどな。そんな状況になってんのか・・・。」
厳しい状況であることを伝えられ、重たい空気が流れた。
だというのに、彼らは笑った。
「ガハハハハ!ドラゴンの次は魔人か!暇してたからちょうどいいじゃないか!」
「モンスターが大量にいるということは経験値も得られ放題だ、魔人の経験値はうまかったし。」
「あなたたちは・・・なぜ困っている人を助けるという方向にいかないんですか。」
「そうだな。盾は人を守るためにある!まさにこの状況にうってつけだ!」
大剣使いも、魔法使いも、僧侶も、盾術士も、みんな戦うことしか考えていない。
そこには絶望も悲壮感もない。こんな状況なのに、負けるとは思っていないかのように、笑っている。
「どうした?そんなすっとぼけた顔して。」
「いや、どうしてこんな状況で笑ってるんだろうと思って。」
「そりゃあ、やるべきことが決まったからだろうよ。」
やるべきこと・・・?
「俺たちはな、ドラゴンを倒してからどこかポッカリ穴が開いたように感じちまった。目標を失ったんだ。30年以上そのために生きてきたからな。それを失った時、思ったよりつまらなくなっちまってな。」
目標を達成するときは目標を失う時でもあるということか。確かにそれは、喪失感があるかもな。
「そんなところに、自分たちの力を活かせる場面が来たんだ。嬉しくもあるだろうよ。」
「でも、世界が大変な状況なんですよ?」
・・・俺は、つい自分のことを棚にあげて言ってしまった。ちょっと前まで、自分だって世界の苦しみを喜んでいたのに、いや今だって自分の力を活かせることにどこかで喜んでいる自分がいるのに。まるで糾弾するように、言ってしまった。
「ハハハ!だからちょうどいいんじゃねぇか。助けを求める人がいて、助けられる自分がいて。誰かのために何かが出来る。それは嬉しいことじゃねぇか。」
やっぱり、この人は強いなぁ。そんなこと関係あるかよと言わんばかりに笑うその姿は、やっぱり強いと思ってしまう。
「それにしてもお前さん。この状況が分かってたから、あの時一人でどっか行っちまったのか?」
そう言えば、あの時のことは何も話していなかった。
どう話せばいいのか。そんなことを考えてはいたが、酒の勢いもあったのだろう。俺は洗いざらい全てを話し始めた。
「実は俺、サムエルさんと会う前の日にこの世界に来たんです。俺はそれまで、こことは違う別の世界で生きていたんです。」
「はぁ?別の世界?!」
「そうです。力が欲しいかと言われて「はい」と答えたらこの世界に連れてこられていました。」
「・・・とんでもない話だが、辻褄はあうな。お前さんはあまりにも常識がなかったし、無職だったしな。」
「はい。それで、俺は異世界から来る時に神様から特別な力をもらいました。その力は、全ての経験値が1万倍になるというものでした。それを使って、スキルもすぐにレベルを上げられたんです。」
「い、1万倍だと・・・?」
「一日かけて色々な能力を上げました。力が上がっていくことが楽しくて楽しくて。もらった力にとても喜びました。そして二日目でサムエルさんに出会って、街に行って洗礼を受けた時に俺は勇者という職業をもらいました。ただ、俺は力が欲しかっただけで、別に勇者とかそういうのになりたかったわけじゃなかったんです。」
「・・・そりゃそうだろうな。力を与えられたからって、それ使って世界救えって言われたら困るだろうよ。」
「でも、勇者の能力上昇値は確かに強くて。それに経験値1万倍の効果もあって。僅か四日目で俺はサムエルさんたちと肩を並べられるぐらい強くなって。」
「四日か・・・あっという間だな。」
「そしてドラゴンを倒した瞬間、とんでもない経験値が入って、・・・っ。あ、あまりにも強くなりすぎた自分に怖くなって・・・同時に、30年以上頑張ったサムエルさんたちを一瞬で追い抜いてしまったことに申し訳なくなって・・・。」
気が付けば、俺は泣いていた。この半年、ずっと心に引っかかっていた思いを吐露しているからか、涙は止まらなくなっていた。
「だからサムエルさんたちから逃げました。その後、ナザールの街に行きましたが、そこでも俺は鍛冶も生産業も何でもすぐにLv.が上がって・・・。嫉妬や僻みが怖くなって隠すようになりました。でも、それも段々と周りを馬鹿にしているみたいな気がするようになって・・・。」
話さなくていいことまで話している気がする。でも、もう止まらなかった。異世界に来て、ずっと辛かった思いや感情を、誰かに話したかった。
「そこから俺はリトラスという村に行き着きました。そこで力を隠しながら、生活してました。居心地がいい場所でした。でも俺、段々と自分の力を使いたくなってきて・・・。空が暗くなって、モンスターが攻めてきた時、俺は嬉しかったんです。ようやく、勇者の力を使う時が来たんだって・・・でもそんな風に思う自分が本当に嫌になって・・・ズズ」
「そうか・・。」
「俺もう、分からないんです。自分が何をしたいのか。今だって、助ける力があるからそれを使っているだけで、勇者をやりたいわけじゃないんです・・・。でも、やらないと苦しむ誰かがいるから、それを見ないふりが出来ないからやっているだけで・・・。」
号泣しながら語る俺。色んな感情が入り乱れて、話している自分でも訳が分からなくなっている。
誰かに、話をしたかったんだ。こんなことを話しては、失望されるかもしれない。でも、止まらなかった。
そんな俺を見て、サムエルさんは言った。
「お前さんは、生意気だな。」
「・・・は?」
「だから生意気だって言ってんだ。」
「・・・その生意気が分からないんですけど。」
「自分で何でもできると思ってる奴をそう言うんだよ。」
自分で何でもできる・・・か。
「生意気な奴ってのはなぁ、自分で何でもできるって思っちまうから、誰かに頼ることを知らねぇ。お前さんはなまじっか何でも出来ちまうから余計にこじらせてやがる。」
「・・・確かに何でも出来ますね。」
「いいか。お前さんの経験値1万倍って能力は破格だ。それだけで、俺たちよりもステータス的に強くなるのは簡単だろうよ。今だって、戦ったらお前さんには勝てねぇだろう」
正確には、【不殺】があるから俺は勝てないんだが、そういうことじゃないか。
「でもな、お前さんは苦しんでるじゃねぇか。ステータスが高かろうが、スキルが高かろうが、それで本当に強くなるわけじゃねぇんだよ。」
確かに俺は苦しんでいる。でも、強くないとはどういうことなのだろうか。
「俺たちドラゴンバスターズがなせトップランカーなのか分かるか?それは周到なまでに準備するからだ。全部の依頼に対して、準備を欠かさない。」
確かに、ドラゴンを前に相当準備していたみたいだしな。
「それは同時に、自分たちが弱いことを認めていることでもある。弱いから、仲間に、情報に、道具に頼るんだ。それが出来る奴が本当に強い奴になっていくんだ。」
「本当に強い奴・・・」
「お前さんは、ステータスが高いことを強いことと同義にしている。でもな、そうじゃねぇ。お前さんだって弱いんだ。人は一人じゃ生きていけねぇ。」
俺が、弱い・・・か。
「能力が高ければ高いほど、誰かに頼ることを忘れていく。生意気に自分で全部できると考えて、全部自分で抱え込もうとする。その結果勝手に一人になって苦しんじまう。本当はそんな必要はねぇんだ。弱くていいんだよ。強くある必要なんかねぇんだよ」
弱くて、いいのか。
「お前さんは、まだまだヒヨッ子だ。頼り方も、弱さの受け入れ方も知らねぇ。今だって、こんなになるまで一人で抱え込んでたんだろ?あんな可愛いパートナーがいるくせに。」
・・・いい話の途中で申し訳ないが、エリーはパートナーじゃねぇ。アイツまた適当言いやがって。
「だから、お前さんはまだまだ俺より弱いんだよ。勝手に抜いた気になってんじゃねぇ。」
そう言い切ったサムエルさんは、とても大きく見えた。
この人には、勝てない。ステータスとか【不殺】だとかそんなもの関係なしに、絶対に勝てない。
そう思わせる何かがあった。
圧倒的なまでの敗北感は、驚くほどに、心を軽くさせてくれた。
「一人で抱え込むんじゃねぇよ。お前さんは、勇者である前に俺の子分なんだ。親分は子分を見捨てねぇ。わかったな?」
「・・・ははは!分かりました。親分。」
久々に心から笑えた気がする。




