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親分子分

大魔人を倒したというのに、空が暗いままだった。

おかしいと思っていると、街の方から音が鳴った。


何者かが大量の魔法を放ったのだろう。



そこでようやく気が付いた。

まさか、もう一人魔人がいるのか?!



急ぎ街へ向かおうとするが、大魔人との戦いでだいぶ体力も魔力も使っている。

【瞑想】で少し魔力を回復させよう。流石にヘロヘロで行ってもしょうがないし。


はやる気持ちを抑えつつ魔力を回復させていると、空が急に晴れた。




・・・空が晴れたという事は、恐らく誰かが魔人を倒したという事だろう。

はぁー良かった。クフの街もこれで解放されたってことだな。




空が晴れていくと、街の周辺にいたモンスターたちは四方に撤退していった。


モンスターたちは指揮官を失ったということが分かるようで、どこに行くのかは分からないが一斉に街から遠ざかっていく。本当は追いかけて数を減らしたいが、残念ながら追いかける体力はない。




戦いが終わって気が抜けたからだろうか、眠気や疲れ、空腹が一気に襲ってきた。




・・・とりあえず、街に行くか。時空魔法を使ってもいいが、突然現れてもビックリするだろうし、普通に門から入っていこう。エリーを転移させた教会まで歩いていくかな。


空が晴れたことで分かったが、今日は星空が綺麗だ。歩くにはちょうどいい。



っと、この勇者の装備は恥ずかしいから、盗賊の服に着替えておこう。

装備を変えて、クフの街に向かうことにした。




クフの街に向かう道中、俺は考え事をしていた。

クフの街の人たち、主にサムエルさん含むドラゴンバスターズの人たちに会ったら気まずいと思ってしまう。



一緒にドラゴンを倒した後、俺はほぼ何も告げずに逃げた。

あの時感じた虚無感、申し訳なさがなくなったわけじゃない。


さっきの戦いではチートが役に立った。努力を上回ってこそチートと思った。

だけど、それが尊敬する人にも適応されるかと思うと、気が引ける。


何の努力もせずに強くなってしまう奴を前に、努力してきた人は何を思うのか。


・・・やっぱりいい感情ではないだろう。




出来れば、会わずに済ませたい。


それに向こうも一緒にいたのはわずか三日だ。もしかしたら忘れてるかもしれないし。


・・・うん。それでいいか。エリーを拾って、さっさと聖剣探しに行こう。


エリーには申し訳ないが、今日は野宿だ。サバイバルには慣れているし、それに俺は便利だからな。何とでもなるだろう。




門に近づくと、激闘の跡を見ることが出来た。

多くの兵士が亡くなっている。恐らく冒険者だろう格好の人たちもいる。

改めて、その被害を見ると、やっぱり悲しくなってくる。




そこでふと気が付いた。

ドラゴンバスターズの人たちももしかしたら・・・。




そう思ったら、確認せずにはいられない。とりあえず門にいた兵士に聞いてみる。


「あのーすみません。ドラゴンバスターズの方々は無事ですか?」


「ドラゴンバスターズの人たちは街中にモンスターが出てそちらに向かったよ。街中から轟音がしたと思ったら空が晴れたってことは、彼らが魔人倒してくれたということだろう。やっぱり凄いよなぁドラゴンバスターズ!ドラゴンだけじゃなく魔人まで倒しちゃんだぜ?!」


「・・・そうだったんですね。ありがとうございます。」


人気者だなドラゴンバスターズ。無事も確認したいが、この人はどうやら知らないみたいだ。


それにしても、彼らは魔人のところに向かったのか。だとしたらかなり危険だったんじゃないのか?

不安が増していく。大丈夫だろうか。



ドラゴンバスターズの人たちは街中にいるようだし、街中に向かおう。




街に入っていくと、至る所で建物が壊されている。街中にもかなりのモンスターが入ったんだな。


綺麗だったクフの街だからこそ、破壊された建物がその景観を乱してしまう。それだけで、悲しい気持ちが押し寄せる。


それでも、もうモンスターはいなくなったからか、街の人たちは夜だというのに結構な数の人が外に出て、楽しそうに話している。


街の景観よりも、今は生きている喜びの方が勝るのだろう。




街中を歩いていると、声が聞こえてきた。


「おいおい聞いたか。ドラゴンバスターズが今度は魔人を倒したらしいぞ!」

「聞いた聞いた!それも滅茶苦茶強い魔人だったらしいな!」

「それもほとんど彼らだけで倒したらしいな!」

「いや、なんでも金髪の美少女も一緒に戦ってたという事だぞ!」

「美少女だと?!」



・・・金髪の美少女?

もしかして・・・いや、そんな都合のいいことあるわけないか。


あいつはレベルが上がってるそうだが、戦えるイメージがない。

俺の魔法を付与した魔道具もいくつか渡したが、それで戦えるとは思えない。


いや、戦えるのか?結構な装備に強化しちゃったし、いけるのか・・・?


いや、そんなわけないよな。エリーだし。


あいつが働いてるのほぼ見たことねぇし。




そう思いながら、教会に向かう途中の広場を通ると、なぜだかあのドラゴンの骨が飾ってあった。


懐かしい。今にして思えば、よくあのレベルの中で、あんなデカ物と対峙したものだ。


鑑定をしに行った時に感じた恐怖が、結局今の今までで一番怖い体験だったな。

大魔人に至ってはドラゴンよりも圧倒的に強かったが、やはりドラゴン以上の恐怖はなかった。


今の強さと、過去の恐怖は、あまり相関性がないんだな。




そんなことを思いつつ広場の骨を見ていると、発見してしまった。


ドラゴンバスターズの方々がいた。誰も欠けることがなかったようだ。安心した。

そしてその周りにはたくさんの人がいる。ついでに、エリーもいる。

随分と親し気にドラゴンバスターズの人たちと話をしている。やっぱりエリーも一緒に戦っていたのか?





・・・大丈夫だ。今ならまだ見つかっていない。


無事は確認できたし、さっさと逃げよう。あの場に乗り込むのは気が引けるから、残念だがエリーは置いて行こう。


サムエルさんなら優しいからきっと助けてくれるはずだ。達者でな。


短い間だったが、エリーには世話になった。・・・世話になったか?いじられた記憶の方が多い。


俺はエリーとの思い出を振り返ってみるが、あんまりいい思い出は出てこなかった。おかげで置いていくことに引け目を感じなくなった。思い残すことなく道を引き返そうとする。




・・・なぜか隣にエリーがいた。



「ふふふ。ハルヤさん、どうして後ろを向いているんですか?あ、ハルヤさんが靴に加速を付与してくださったおかげで、私はこうしてスゴイ速度が出せるようになりました。ありがとうございます。」



そうだ。コイツの靴には加速が付与してある。


付与魔法は、魔法しか付与出来ないのかと思っていた。だが、Lv.が上がったおかげか意外にも出来てしまった。残念ながら高品質なものじゃないと一つ以上のスキルはつけられないようだが。それでも十分スゴイ発見だと思う。


「どうしたんです?行かないんですか?ハルヤさんの恩人が待っていますよ?」


「・・・いや、ちょっと気まずくて。」


「そうですか。なら街から出ましょうか。」


「いいのか?」


「えぇ。私は特に。ただ、サムエルさんは半年前からずっとハルヤさんを探していたようで、今日こそはあの時の礼を言うんだって。あと、色々教えたいこともあるんだってとても優しそうに話していましたが。ハルヤさんが嫌ならしょうがないですね。」



その優しさが、逃げようとする心にグサグサ刺さる。



「ハルヤさんが勇者だって伝えたんですけどね。「俺はアイツの親分で、何があっても子分は見捨てない」って。大魔人がいるって伝えられても、「助けに行くんだ」って言ってましたね。本当にお優しい人ですね。ハルヤさんに会うのを楽しみにしていたようですが、会えないとは残念ですね。でも、ハルヤさんが嫌ならしょうがないですね。」


「・・・出ていかせる気ねぇだろ。」


「ふふふ。滅相もございません。私は勇者のパートナーですよ?勇者の意思に従いますよ。意思を曲げさせようと努力することはありますが。」


「それは従ってるって言わねぇよ!」



そんな風にエリーと話していると、どうやら向こうが気が付いたようだ。近づいてきている。




・・・どうしよう。何て言おう。


何だか緊張してしまう。さっきまで大魔人と戦ってたのに、そんなものより全然緊張する。



お久しぶりです親分

逃げてごめんなさい

また会えて良かったです



色んな言葉が頭に浮かぶ。でも、どれもしっくりこない。


感謝か、喜びか、謝罪か。何を伝えればいいのか分からない。こんなにも悩むのは、俺の中でサムエルさんがとても大きな存在だということだろう。



俺が悩んでいると、サムエルさんの方から声をかけてきた。





「よぉハルヤ!お前さん、勇者なんだってな?それも、クク、さ、鞘の勇者らしいじゃねぇか!ハハハハハ!」




開口一番、大爆笑しながら声をかけてきた。




「・・・おい、エリー。お前、なんて言ったんだ?」


「え?ここまでの道中をありのまま伝えただけですよ?」


「ありのままじゃねぇよ!鞘の勇者って言ってる時点でテメェの主観が入ってるじゃねぇか!」


「主観ではなく事実をお伝えしただけです。現に鞘しか持ってないじゃないですか。後は話の前後関係からサムエルさんが鞘の勇者の意味を勘違いしただけでしょう。私の責任ではありません。」



コイツ・・・!ああ言えばこう言う!そんなんだから良い思い出が全然出てこなかったんだぞ!

エリーに対して、なぜかサムエルさんも援護射撃をする。



「そうだぞハルヤ!その嬢ちゃんはきっとそのまま伝えたはずだ。俺は嘘ついてたら分かるからな。ちゃんと事実だったぞ。さ、鞘の勇者ってのも、ほ、本心でちゃんと言ってたぞ。・・・クク・・・ハハハッ!」


「何笑ってんだよ!勇者だぞ勇者?!もうちょっと敬えよ!」


「お前さんが言ったんだろ?「敬意は自然に発生するもんだ」ってな。だから俺もさ、さ、鞘の勇者にふさわしい、け、敬意ってもんをだな、クククっ。」


毎回「鞘の勇者」って言う度に笑いそうになるのを堪えてやがる・・・クソ!緊張した俺がバカみたいじゃないか!



「あーダメだ。面白すぎる。やっぱお前さん、初めて会った時からそうだったが、面白い奴だな。」


「あなたは初めて会った時から変わらずに嫌味な人ですね。」


「ハハハ!この年になるとな、変わることが怖いもんでな。」




相変わらずだな。そう、何も変わらない。


俺が勇者だって分かっても、この人は何も変わらない。


それが、嬉しかった。




「そうだハルヤ、言い忘れてたよ。」


「なんですか?」




「・・・久しぶりだな。元気だったか?」



「・・・はい。」


元気だよ俺は。今さっきの、アンタのおかげでな。




「そうかいそうかい。そりゃ良かったよ。というか、腹減らねぇか?飯食いに行こうぜ。それに、酒でも飲もうって約束を果たすにはちょうどいい日だ。」


「そう言えば言ってましたね。もちろん、奢りですよね?」


「あぁ?勇者だろ?困ってる民衆を助けるつもりで払えよ。」


「いやいや、俺は勇者である前にサムエルさんの子分なんで。お願いします親分。」



「・・・しょうがねぇなぁ。子分に言われちゃ、しょうがねぇ。」




強くなっても、勇者になっても、親分子分は、変わらなかった。

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