大魔人
西門に向かうと、他の門との違いに気が付いた。
西門は他の門以上に人が倒れている。恐らく、ここが一番襲撃が激しいという事だろう。
魔人はまだ奥の方にいて攻撃を仕掛けている気配はないが、それでもモンスターの数が多いのか、かなりの人が倒れている。
俺は一面に範囲魔法を放とうとするが、やはり【不殺】が発生してしまう。
とにかく、今は西側の人たちを助けないとマズイか。すぐに前線に降り立とうとするが、前線がかなり広がっているので、どこから手を付ければいいのか分からない。
とりあえず、問題のなさそうな後方めがけて魔法を放ちつつ、さっさと魔人を倒すことにする。
前回のように人質をとられたらかなわないしな。
魔人の場所は、気配察知ですぐに一番後方にいることが分かった。そこなら、周りに人がいることもないだろうからありがたい。
俺はすぐに魔人の方向に向かおうとするが、そこそこ魔力を使ってしまったことを思い出した。
一応瞑想を使用し魔力を回復しておくか。
気がはやる時が一番危険だからな、用意は大事だ。
・・・さて、魔力もかなり回復したので、魔人のところに向かおう。
と、魔人は既にこちらに気が付いていたようだ。明らかに警戒している。
戦闘が始まる前に、魔人を鑑定しておく。
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名前:レッセイ
猫犬大魔人
鍛え上げられた肉体は、種族としての高さもさることながら、己が鍛錬によって獲得したものである。力を求め、戦いに飢えている。猫でも犬でもなく、猫犬であることを本人は誇りに思っているため、どちらであるかは聞かない方がいい。
状態:正常
体力:14291
魔力:6941
筋力:8916
防御:4298
敏捷:9517
知力:4810
【共通スキル】格闘術Lv.MAX、回避Lv.MAX、加速Lv.MAX、足さばきLv.MAX、嗅覚補正Lv.MAX、牙術Lv.MAX、先読みLv.MAX、体力回復速度上昇Lv.MAX
【固有スキル】魔法耐性(強)、武道の心得、気合の一撃
魔法耐性(強)
魔法への高い耐性を得る
武道の心得
格闘術の体力消費を減らす。
気合の一撃
体力を消費し発動可。込めた体力の分、威力を上昇する
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想像以上に強かった。それに、「大魔人」とある。
ステータスから言っても、ただの魔人ではないということなのだろうか。
いずれにせよ、こんなのが街中に放たれたらたまったものじゃないだろう。
さっさと排除してしまいたいが、魔法耐性を持っているようだ。ここから魔法を撃っても意味がない。ならば、肉弾戦しかない。
俺は、魔人の目の前に降りていく。
上空から奇襲をしかけてもいいのだが、明らかに相手はこちらに気が付いて構えているしな。意味がないだろう。
なら、地に足つけて戦った方が戦いやすい。そう考えて、魔人の目の前に降り立つ。
「その姿は・・・主は勇者か。」
「あぁ、俺が勇者だ。」
「ククク。この世界にも強者はいたのだな。私よりも能力は高そうだ。」
「俺はステータスを見れるからな。どうやら、あんたよりは随分強いみたいだよ。猫犬大魔人のレッセイさんよ。」
「ほぉ?面白い能力をもっているのだな。とはいえ、ステータスはステータスにすぎん。強いか弱いかは、戦えば分かるだろう。」
そう言って、魔人は構える。
・・・今までの魔人とは、明らかに格が違う。
強さもそうだが、その雰囲気は、圧倒的強者の雰囲気をまとっている。
ステータスは確かに俺の方が高い。だが、相手も有用なスキルを持っているし、戦いは何があるかは分からない。気を付けなければならないだろう。
ドラゴン以来の強者との戦いに、緊張してしまう。
両者共に構える。どちらが先に攻撃するか慎重になっていると、相手が先に動いた。
「フン!」
とてつもない速さで殴ってくるレッセイに対し、俺は回避を選択する。
しかし、相手もそれを読んでいたのだろう、強烈な蹴りが飛んできた。
腕でガードするが、かなり痛い。腕がジンジンする。
この世界に来て、誰かに痛みを与えられたのは初めてだ。
「ほぉ。やはり中々やるようだな。ならば、攻めあるのみだ!!」
レッセイの攻撃は激しさを増す。
俺も回避やガードをしつつ、カウンターを決めようとするが、全て避けられてしまう。
相手に全く触れられない。
対して、相手の攻撃は段々当たるようになってきている。完全に動きが見切られ、ジリジリと体力が削られていく。
「なるほど。主は強いが、強くはないな。」
「はぁ、どういうことだ?」
「それが分からんから、強くはないという事だ。」
レッセイがおかしなことを言いながら、再び攻撃を続けてくる。
相変わらず、向こうの攻撃は俺にダメージを与えるのに、こちらからは一切ダメージを与えられていない。
おかしい。なぜ相手はあんなに強いのか。ステータスはこちらの方が高いはずだ。それも、倍ぐらい高いはずだ。
スキルだって、持っているものであれば同じぐらいだ。
持ってないスキルの【先読み】も今の戦いで手に入れられた。段々と相手の攻撃を先に読むことが出来るようになってきている。Lv.もガンガン上がっているはずで、その正確さも上がってきている。
だというのに、相手の方が常に一枚上手だ。依然として、こちらは攻められ続け、相手への攻撃は全て躱されている。
俺は【浮遊】で一端上空に飛び回避するが、そこにも相手の衝撃波が飛ばされる。それも、あまりに的確に飛ばされてくるので、一呼吸おく暇もない。
何となく見当はついている。認めたくはなかったが、分かっている。
アイツと俺の差は、圧倒的な経験の差だ。
経験値は俺の方が得ているだろう。ステータスの差がその差だと思う。
しかし、俺には戦闘経験がほとんどない。あっても、常に一方的だった。ここまで、長引く戦いはなかった。
その差が明らかに出てきている。
スキルLv.は10がMAXだ。そのため、それ以上スキルLv.は上げられない。
だが、それで終わりではない。いかにそれを上手く使いこなすかは、その人の技量次第になっていく。
本来であればスキルLv.を10まで上げるには、そのスキルを相当使い込まなければならないから技量も同時に上がっていく。
だというのに、俺にはその経験もない。だから、ハリボテのようなスキルしかないということだ。
高性能のハードを持っていても、ソフトがなければ意味がない。
「強いけど、強くない。」アイツの言葉がよく分かる。
戦いながら、俺は自分の経験のなさを嘆いた。だが、嘆いていてもしょうがない。
今はあるもので戦うしかない。
だが、何が使える?相手に魔法は効かない。耐性があるし撃つだけ無駄だろう。
大魔法を使うには溜め時間がいる。溜め時間中にもスキルは使えるが、同時にスキルを使うのは集中力を使うため、隙が生じてしまう。お試しで撃つにはリスクが高い。
「勇者よ?何を考えているのだ?!戦いに集中しろ!」
クソ!考える暇ぐらいくれよ!こっちは勝つために考えてるんだ!戦いに集中してるだろ!
「お前の倒し方を考えてただけだよ!」
「ククク!圧倒的な力を持っているのだ、力でねじ伏せればよかろう。まぁ、その力も当たらなければ意味がないがな。」
クソ、完全に優位に立っているのは向こうの方だ。
何か手はないかと魔法も使ってみる。だが、攻撃しても全部避けられた。
危険を冒しつつ高い威力の攻撃を仕掛けてみるが、それも全然効かない。
重力魔法で足を止めようとするも、高い筋力と耐性のためなのか全然効かない。
「ククク。どうした勇者?もう打つ手がないのか?」
クソ、笑いやがって。
何だよ魔法耐性って、チートかよ。
チートは俺のもんじゃないのかよ。
俺はチートとは名ばかりのハリボテのスキルしか持っていない。
スキルをすぐに得られる代償だ。チートの代償と言ってもいいだろう。
・・・いや、努力しなかったツケが回ってきたってところか。
向こうの努力に対して、チートでは太刀打ちできない。圧倒的な能力差でも、努力の前には敵わないというのか。
・・・でも、俺はこの世界を、チートで生きると選んだ。
勇者も異世界の救世主も押し付けられたものだが、チートだけは俺が選んだんだ。
そうだ、俺はチートなんだ!勇者である前に、チートに生きているんだ!
努力の前に、チートが屈してたまるかよ!
チートの本領を見せてやるよ!
手がない?あぁ、現時点では手はないよ!全部試したからな!
でもな、俺はチートだ。ないなら得ればいいだけだ。
俺は可能性にかけて魔法を発動する。
土魔法と火魔法を発動し、土の火の球が出来上がった。
それを相手に投げつけるが、当然のように躱された。
「なんだその魔法は?本当に打つ手がなくなったのか?勇者とやらも、拍子抜けだな。」
そう言って、相手は攻撃し続ける。
俺は今度は土魔法と水魔法で泥を作り相手に投げつけるが、当然避けられた。
「何をしている?そんなもので攻撃しているつもりか?」
相手の攻撃を、俺は結界魔法で弾く。だが、それも簡単に破られた。
「ん?そんなことまでできたのか。だがな、結界など、私の力の前には無意味!」
俺は闇魔法と火魔法で火を見えないようにさせながら相手に投げつつ、格闘術で攻撃する。
「ククク!そんな小細工通用せん!悪あがきもここまでくると惨めだな!」
俺は、様々な魔法を繰出しながら、相手に攻撃し続ける。
「勇者よ・・・。そろそろ終わらせてやろうか。これ以上、惨めな姿をさらさせるのも忍びない。」
そう言って、相手は力をこめ始めた。【気合の一撃】を放つつもりなのだろう。
その一撃は、流石のステータスがあろうとも、大ダメージを受けかねない。
だがな、こっちも十分に溜め続けたからな。だいぶ疲れたが、おかげで、魔力も十分に溜まったよ。
俺は今さっき得たばかりのスキル【複合魔法】と【多重詠唱】を使いつつ、浮遊で上空に飛び、残りのほとんどの魔力を使って魔法を放つ。
最大級の土魔法で作った土の塊に火魔法をまとわせつつ、重力魔法で加速させて撃ちだす。【メテオ】だ。スキルではないけど。勝手にそう呼ばせてもらおう。
【魔法耐性】がなんだ。そんなもん、圧倒的チートの力でねじ伏せえてやるよ!
「な?!なんだこの魔法は?!こんな魔法知らんぞ?!」
「そりゃそうだろよ!今作ったからな!お前の言うように、圧倒的力でねじふせてやるよ!」
「なんだと?!それが勇者の奥の手か!だが、負けるわけにはいかん!!!」
そう言って、レッセイは回避しようとするが、俺は無魔法を使い【メテオ】を操りレッセイの方に向かわせる。
レッセイは気合の一撃を、【メテオ】に向かって放つことにしたようだ。流石にこの一撃は、いくら魔法耐性があるとはいえ、食らったらマズイと察したのだろう。
俺も負けじと魔力を込めて重力魔法を放つ。【メテオ】の後押しだ。
この魔法が破られたら、戦況はかなり悪くなる。魔力をかなり使ってしまったからな。出来れば、ここで終わりにしたい。
「うおおおおおおおお!!消え失せろレッセイ!!!」
「負けてなるものかああああああああ!!」
互いに、死力をかけた一撃がぶつかり合う。
轟音と共に、地面が揺れた。
辺り一面を大きな爆風が襲う。
木はなぎ倒され、モンスターも吹き飛ばされている。
至る所で小さな火災が起きているが、森林火災とまではいかないから、その内消えるだろう。
・・・門からかなり離れていて助かった。もし近くに人がいたらこの魔法は撃てなかっただろう。
俺は地上に降りて、レッセイの様子をうかがう。
どうやら、まだ生きているようだ。だが、気配はかなり弱っている。大ダメージを与えたということだろう。
吹き飛ばされていたのか、少し離れたところに奴はいた。
右腕と両足が吹き飛んでいる。だが、辛うじて生きている。恐ろしい生命力だな。
向こうもこちらに気が付いたようだ。
「・・・勇者よ。・・・わたしの負けだ。勇者というのがここまでとはな・・・」
戦いに生き続けたのだろう魔人は、負けたというのに、どこか清々しい顔をしている。
「あぁ、お前の負けだ。それでも、強かったよ。今まで戦った中で一番な。」
戦闘経験はまるでない俺だから、比較対象は大したことないがな。
「・・・ククク。勇者に褒められても、魔人は喜ばんよ。喜ぶのは、勇者の嘆きだけだ・・・。」
「そりゃ残念だったな。ところで、お前は一体何なんだ?異界や魔王のことは知っているが、大魔人という事は、幹部か何かなのか?」
「・・・私は戦いに生きたものであると同時に、王に仕える者だ・・。勇者に情報など渡すわけがなかろう。」
「そうかい。他の奴らはすぐ教えてくれたんだがな。」
「・・・ククク。その嘆き。気持ちよく死ねそうだ。」
恐らく、コイツはもう限界なのだろう。今にも、息を引き取りそうな中、最後の力を振り絞り、声を発した。
「・・・勇者よ。一つ教えてやろう。・・・魔人から進化した者が、大魔人となり、大魔人から進化した者が王となる。一つ進化するだけで、圧倒的な力を得る・・・。大魔人を、魔王を・・・なめるなよ。」
そういって、レッセイは息を引き取った。最後まで、強い奴だったな。
「・・・忠告ありがとうよ。俺がただの勇者だったら、負けてたかもな。ただ、俺は勇者である前に、チートなんでな。」
さて、魔人を倒したから大丈夫だろう。そう考えて空を見上げる。
空は依然として暗いままだった。




