鞘の勇者
エリーとトボトボ歩きながら、宿を探して歩いていると、広場に着いた。
もう日も暮れて暗くなっているというのに、広場は灯りがついていたからな、吸い寄せられるように来てしまった。
「いたぞ!勇者だ!」
大声が街中に声が響いた。
・・・もしかして領主の追手かと思い声の方を見ると兵士がいた。
兵士という事はやはり追手なのだろうと思いちょっと焦ったが、なぜかその顔はものすごく楽しげだ。
「あー良かった。まだ街におられたんですね!お礼もまだだったので、会えて良かったです。」
この兵士は、朝一緒に戦った兵士の一人なのだろう。追手ではないようだ。
すると、兵士の大声に気が付いたのか、ぞくぞくと兵士たちがやってきた。アレクセイさんもフェレディさんもやってきている。
「おぉハルヤ殿!まだ街におられたのか!改めて礼を言う!お主のおかげで、こうして勝ちを喜び、酒を飲むことが出来た!勝った後の酒はなんと美味い事か!」
アレクセイさんだ。戦いに勝てて上機嫌なのか、酔っぱらっているからなのかは分からないが、とても楽しそうだ。なるほど、この広場で酒盛りしてたのか。
「ハルヤ殿!!お主の魔法は真に見事であった!!私も長年生きてきたが、あんなに驚いたのは久々だったぞ!!ハッハッハ!!」
相変わらず、フェレディさんの大声はうるさい。酒が入っているのだろう余計にだ。近所迷惑で怒られたりしないのかな?
「んん?!どうしたハルヤ殿?!浮かない顔をして!!」
さっきの領主とのやりとりで何だかんだ疲れたからな、顔に出てしまったのだろうか。
俺の代わりにエリーが答えてくれた。
「ハルヤさんは、傷心状態なのです。」
「ぬ?!お主はハルヤ殿の付き人か?!」
「いいえ、私はハルヤさんのパートナーでございます。それで、ハルヤさんは先ほど領主の館に招かれていった際、領主から「人間じゃない!化け物だ!」などと言われて落ち込んでいるのです。」
いや、パートナーじゃねぇよ。ややこしいこと言うなよ。それに、人間じゃないとは言われたが、化け物とは断定されていなかったような気がするぞ。
「なんだと?!あのバカ領主め!街の恩人に対して何たる無礼!」
フェレディさんが怒っている。領主に対してそんなこと言っていいのだろうか?
「勇者を化け物だと?!あのクソ領主め!」
「勇者様?どうします?館燃やします?!」
「バカ、館は石造りで燃えにくいから、土魔法で埋めてやろうぜ!」
エリーの一言に、兵士も怒りを込めて騒ぎ始めている。
・・・あの領主って、そんなに嫌われてるのか?
「ハルヤさんは化け物で人間じゃないなんて言われたばかりか、女たらしの鞘の勇者とまで言われ、あげく街を救ったにもかかわらず褒美は僅か10万Gしかいただけず、ショックを受けているのです・・・」
エリーがとても悲しそうに言っているが、女たらしの鞘の勇者はお前が勝手に言っているだけだろ。
「あれだけのことをして10万だぁ?!どんだけケチなんだよあのクズ!」
「ケチだケチだとは思ってたがまさかここまでとはなぁ!」
「勇者ぐらい凄かったら女にだらしなくてもいいじゃないか!!」
「どうします?討ち入りしますか?!」
段々と物騒な方向に話が進んでいる。マズイマズイ!別に討ち入りなんて望んでねぇよ!あと女たらしは訂正してほしい。マジで。
「いやいや、皆さんの気持ちだけでありがたいです!討ち入りとかは本当にいらないんで!お金も俺なら稼げますし、最悪なくても生きていけるんで大丈夫です!それと、女たらしでも鞘の勇者でもないんで。そこだけはコイツの勘違いです。」
気持を落ち着かせるために言ったのだが、なぜか余計に盛り上がってしまった。
「なんと!あのクズ領主まで許すというのか!」
「さすが勇者だ!正義の勇者だ!」
「鞘の勇者ハルヤの誕生だ!今日は飲むぞー!」
「鞘の勇者じゃねぇよ!!」
もう、止められる状況ではなくなってしまった。でも討ち入りの雰囲気ではなくなったしもういいか。ただ、鞘の勇者はマジでやめて欲しいんだが・・・。大声で否定し続けるが、どうやら定着してしまったらしい。恨みがましくエリーを見ていると、ニコリと笑っている。コイツ本当に性格悪いな。
エリーと無言でバトルしていると、アレクセイさんが声をかけてきた。
「ハルヤ殿、この度はこの街の領主が失礼した。ケチで有名な領主だったが・・・まさかハルヤ殿にまでそのような真似をするとは思わなかった。あまつさえ勇者を化け物呼ばわりとは・・・。街を代表して、謝罪させてくれ。」
アレクセイさんは領主の分まで謝罪してくれる。確かに領主は嫌いだが、だからといってこの街の人たちに含むところはない。何だかんだこの街の人たちとは少しの時間しか一緒にはいなかったが良い人が多かったしな。
「別に気にしてないからいいですよ。皆さんにはむしろこちらが助けられましたし。あ、そうだ言い忘れてたことがあったのを思い出しました。」
領主に話をしようと思っていたが、この際アレクセイさんに言えばいいだろう。
「あのモンスターの死骸なんですが、どうしましょうか?」
「む?あのモンスターはほとんどハルヤ殿が倒したものであり、そちらの取り分にして構わないと思うぞ?我々が倒した分も確かにあるが・・・領主が褒美をケチったからな。持って行ってしまえばいいさ。ハッハッハ!」
俺の【アイテム】の中には、現在モンスターの死骸だけで1万以上入っている。リトラスの村の分も含めてだからな。金にすれば結構な額になるだろう。それをくれるとは、ありがたい。
ただなぁ。ぶっちゃけ邪魔なんだよな。【アイテム】はソート機能も付いているから、実際にはそこまで邪魔にはならないが、気分的にあまり大量に物を持っていたくはない。割と整理整頓はしておきたいタイプだ。なので、この街に押し付けたい。
「いや、取り分と言われましてもね・・・正直、いらないんですよね。」
「い、いらない?!あの量のモンスターだぞ?!売ればかなりの額になると思うぞ?!」
「いや、今は世界中モンスターであふれてるし、相場も落ちるでしょう。それに、金ならいくらでも稼げるし・・・もらってくれません?」
「な?!い、いいのか?!もちろん、もらえるのであれば有難いが・・・本当にいいのか?!」
「えぇ、皆さんが活用してくれるのであれば構いません。持ってっちゃってください。」
「ううむ。モンスターから救ってくれたばかりでなく、その取り分まで放棄するとは。やはり、勇者と言うのは優しさと正義感に溢れているのだな。いや、すまん。何でも屋だったか。」
そう言えば、アレクセイさんには何でも屋って言ってたんだったな。周りに流されず律儀に受け入れてくれたようだ。
「ははは。この際、もう勇者で良いですよ。実際、職業は勇者ですし。」
「・・・やはり、勇者だったのか。そうだろうとは思っていたがな。いや、これでは疑っていたという事だな。すまなかった。」
「いえいえ、こちらこそだますようですみませんでした。あ、モンスターを渡すのはいいんですが、その代わり一つ頼まれてくれません?」
「ん?なんだ?お主の頼みなら出来る限り協力はさせてもらうが。」
「いや、勇者の話が変に広がっていきそうなんで、止めておいてください。俺は女にだらしないわけじゃないし、鞘の勇者でもないし。ついでに、正義感も優しさもないんで。その辺、よろしくお願いします。」
「ハッハッハ!これまた随分変わった依頼だな!やはり勇者は面白い!わかった、私がちゃんと伝えておこう。」
大丈夫だろうか。まぁ、誠実な人だし信頼できるだろう。
「それで、モンスターの死骸はどうしましょうかね?」
「む?そういえばそうだな。アイテムバックも、あそこまでの量が入るものはないしな・・・。保管できる場所も限られているしな・・・。」
アイテムバックかぁ・・・。この際作れないかな?俺って、戦闘系もそうだけど、生産系もチートなわけだし。
「アイテムバックって、どうやって作られてるんですか?」
「む?アイテムバックか?魔道具は基本的に、付与魔法で各属性の魔法が付与されることで出来ている。アイテムバックは鞄に時空魔法が付与されることによって出来るはずだぞ。」
なるほど、付与魔法か。なら、覚えれば作れるかな?やってみるか。
俺は【アイテム】から鞄を一つ取り出して、付与魔法を念じてみる。すると、すぐに覚えることができた。
「お、いけそう。アイテムバッグ作れそうなので、いくつかバッグ持って来てもらえませんか?」
アレクセイさんに頼むと、アレクセイさんは固まって動かない。
あれ?どうした?
「い、今、何をしたのだ?」
「このバッグに時空魔法を付与しました。」
「な、何だと?!勇者はそんなことまで出来るのか?!」
「えぇ、結構魔力消費するみたいですけど、問題ないですね。俺は勇者であり、何でも屋なんで。何でも出来るんですよ。」
「・・・ここまで桁外れとはな・・・。いや、分かった。バッグを急ぎ集めよう!」
そう言ってアレクセイさんはバッグを集めに行った。
「ふふふ。やっぱりハルヤさんは便利ですね。」
やり取りを見ていたエリーは、いつものように言ってくる。
「便利って言うなよ。それに、さっき女にだらしない鞘の勇者とかいらない名称まで流しやがって。」
「あら?二つ名って素敵じゃありませんか?」
「内容によるだろ!」
エリーと話しているとアレクセイさんはすぐに大量のバッグを抱えて帰って来た。早すぎるだろ。
「ハルヤ殿!兵士たちのバッグを借りてきた!存分に使ってくれ!」
そう言って、10個ほどバッグを持って来た。
後ろから「俺のバッグ返してください!」って声が聞こえてくるが、この際無視で良いだろう。改良するんだ、文句はあるまい。あってもアレクセイさんのせいにしよう。
俺はバッグに付与魔法で時空魔法を付与していく。
最初のものは10個ほどしか入らないバッグだったが、10個目のバッグでは10メートル以内の物を100個まで入れられるようになった。
そうこうしているうちに、次々とバッグが集められ、片っ端から付与魔法をかけていく。時折瞑想をして魔力を回復させる。ここまで魔力を使ったのは久しぶりだな。
そして、100個目になると、大きさ50メートル以内の物を100個まで入れられるバッグが出来上がった。これに関しては魔力を5000ぐらい使った。名匠ハルヤの最高傑作と言っていいだろう。匠歴一時間だが。
「これくらいあれば全てのモンスターを仕舞えるでしょう。」
バッグを返しながら説明をする。
「こっからここまでのバッグは10メートル以内の物100個まで入って、ここからここまでは20メートル以内の物が1000個まで入ります。ここからここまでは50メートル以内を100個ですね。あとこれは5メートル以内を3000個まで入れられて・・・」
色々な種類があるが、後は適当にさばいてもらおう。
アレクセイさん含め兵士たちは俺の作業中はポカンとしていたが、俺の説明を聞きながら青ざめている。
「・・・50メートル以内を100個?・・・なぁ、これって国宝級じゃねぇか?」
多分そうだろうな。そのバッグ作るには付与魔法と時空魔法をどちらもLv.8まで上げる必要があるっぽいし、中々作り手はいないだろう。
「・・・こ、国宝級?!普通に投げ渡されたぞ?!」
「でも能力は国宝級だろ?!普通50メートル以内なんて1個でもアイテム入れられたら滅茶苦茶高級なんだぞ?!それを100個だぞ?!」
「・・・やっぱり鞘の勇者だ!何かを収納するのが天才的に上手いんだ!」
「鞘の勇者!!ありがとう鞘の勇者!!!」
「これ以上鞘の勇者って言ったらそのバッグ燃やすぞ!!」
クソ!エリーが適当につけた名前が広まりそうじゃねぇか!どうしてくれるんだ!
まぁその辺はもうアレクセイさんに丸投げしよう。今はモンスターだ。
「バッグも作り終わったし、モンスターを移しましょうか。」
そう言って、モンスターを移す作業を始めた。
俺が【アイテム】から大量のモンスターを出し、兵士たちがそれをバッグの中に仕舞っていく。
アイテムバッグの性能を実感して、改めて喜びを露にしている兵士たちを見て、チートってのも悪くないなと感じる。
俺は勝手にバッグを一つエリー用にもらうことにした。いや、もちろんアレクセイさんに「下さい」と言ってはあるが。騒いでてあんまり聞いてなかったから結局勝手にもらったことになっている気がする。まぁいいか。
俺の【アイテム】にはエリーの着替えやら装備やらも多少入っている。だが、エリーの荷物持ちみたいな気がして屈辱的だったからな。
もらったバッグにエリーの日用品や、ついでに作った俺の魔法を付与した装備品を入れて渡す。
「あら?私へのプレゼントですか?」
「ちげぇよ。ちょうどよかったから一個もらってエリーの生活用品を詰めただけだ。自分で管理しろ。ついでに装備品もいくつか付与魔法をつけて入れておいた。」
「ハルヤさんからの初めてのプレゼントですね。大事にします。」
「俺の説明聞いてた・・・?」
そんなこんなで移動作業を終えた。これで、この街での用事は全部終わったかな。全てを終えると、アレクセイさんが嬉しそうに笑いだした。
「ハハハハ!勇者というのはこれほどとはな!改めて、感謝する!」
「いえいえ、大したことじゃないんで。」
「・・・いや、大したことだ。・・・昨日の夜、我々は絶望の最中にいた。命の終わりを身近に感じた。だが、一日経ってこうして再びバカ騒ぎが出来ている。改めて、この日常に喜び、この日常を守ってくれたハルヤ殿に、感謝する。」
アレクセイさんは、泣いていた。酔っぱらって涙もろくなっているんだろう。
ただ、昨日までは本当に絶望で苦しかったんだろうな。改めて、救えてよかった。
「こちらこそ、何だかんだ楽しんでるんで。あ、ただ「鞘の勇者」は何とかしといてくださいね?」
「そうだったな。後で兵士たちに言っておこう。それで、ハルヤ殿はこの後どうするんだ?」
「そうですね。この後は、クフの街の近くにある聖剣を取りに行く予定です。」
「なんと!そのようなところに聖剣があるのか!」
・・・俺がその場所に捨ててきたって言うのは黙っておこう。
そう言えば、アレクセイさんたちには事情はあまり話していなかったな。
何が起こるか分からないし、俺は今持っている情報をアレクセイさんに伝えておく。
話を聞きながら、アレクセイさんは驚いているようだが、実際に魔人と対峙したからな。そこまでは驚いていない。むしろ、覚悟していたという感じだ。
「異界に魔王か・・・。まだまだ戦いは続くという事だな。」
「えぇ、そうです。俺は【地図】というスキルで異界と繋がっている場所が分かるので、それに従って今後は異界と繋がっている場所を救っていく予定です。」
そう言って、俺は【地図】を出してアレクセイさんに見せる。いつの間にか兵士たちも寄って来ていた。
「こんなにも精巧な地図が?!それに、こんなにも多くの場所が襲われているというのか?!」
「そうです。ですから、俺たちはすぐに移動していく予定です。」
「なるほどな。いくつか解放されている場所もあるのか。とはいえ、あのクフの街ですらまだ未解放とは。魔人というのはやはり厄介であるのだな・・・。」
ん・・?え?クフの街が未解放?
そう言って、もう一度【地図】を確認する。
クフの街は、確かに黒くなっていた。




