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人間じゃない

なぜ聖剣の鞘しかないのか。その理由を俺はよく知っていた。


そもそも、キノボーは初めは一本だったんだ。だが、俺が振ったところで、折れて二本になった。


折れたにしては随分断面が綺麗だなと思っていたが、最初から二つのものがくっついた状態だったという事だろう。



そして、俺はその二本ともぶん投げてしまった。


幸い、一本は剣術の練習のためと歩きやすいという理由のため拾っていたが、もう一本は割と遠くまで飛ばしてしまったので、見つけることは出来なかった。


だから俺は諦めた。だって、ただの木の棒でしかなかったし。ただの木の棒を一生懸命に探すわけがないだろう?誰だってそうするだろう?



だから、この件に関して、俺は何も悪くない。



「な?エリーもそう思うだろう?」



俺はまるで弁明するかのように、なぜ聖剣がないかの説明をした。利口なエリーだ。状況を察してくれるだろう。



「ふふふ。なるほど、そうだったんですね。それではしょうがないですね。」



おぉ、やはり分かってくれたか。流石エリーだ。




「では、これからはこう呼ぶことにしましょう。女にだらしのない鞘の勇者だと。」





「やめろ!!女にだらしないも嫌だが、鞘の勇者は嫌だ!!その並びだと不埒なものを想像させるじゃないか!!」


あの勇者の並びに『鞘の勇者ハルヤ』とか並んだら最悪だ。絶対に回避しなければならない。



「ふふふ。冗談ですよ。でも、これで次に行くところは決まりましたね。」


・・・コイツの話は時折冗談か本気か分からなくなるから疲れる。



「・・・あぁ、そうだな。俺がこの世界に来た初めての場所に向かおう。」


何にせよ、これで次の目的地が決まった。一先ずは聖装を整えて、そこから世界の闇を晴らしていくことにしよう。



「なるほど、そこに聖剣が捨ててあるわけですね。」


「聖剣じゃない。まだ木の棒だ。解放してないし。」


「では、言い方を変えましょう。そこに神から賜ったものが捨ててあるわけですね。」


「・・・怒ってんの?」


「ふふふ。いえ、全く。むしろ楽しんでいます。」



そう言って本当に楽しそうにしているエリー。いじる材料を見つけるとすぐにこれだ。コイツの前に弱みは見せたくないものだ。



「ま、とりあえず行先は決まったが、その前に領主のところに行かないとな。約束しちまったし。」


「そう言えばそうでしたね。では、さっそく向かいましょうか。」



領主の館に向かうことになったので、俺は聖装から盗賊の服に着替えることにした。



「あら?着替えちゃうんですか?」


「いや、なんかちょっと恥ずかしくて。」


「そうでしたか?とてもカッコいい装備でしたよ。これぞ勇者!って感じでした。」


「だから恥ずかしいんだよ・・・」



図書館を出ると、既に夕方になっていた。


とりあえず領主の館に向かうが、そう言えば場所を聞いていないことに気が付いた。


だが、通りすがりの人に聞くとすぐに教えてくれた。


この街の一番でかい建物で、とても目立つから分かりやすいとのことだった。

言われた方向に向かうと、確かに分かりやすくでかい建物がすぐに目に入った。


石造りの馬鹿でかい建物は、この辺一帯で一番力を持っていることを誇示するかのように、存在感を表していた。あんまりいい趣味には感じないが、こっちの領主の館は大体こんなもんなんだろうか?



あまりにもデカすぎて入って良いものかと躊躇ってしまう。


だが、躊躇してもしょうがないので、門番に声をかける。


「あのー、こちらの館に来るように言われていたハルヤと言う者なんですけど・・・。」


「おぉ!あなた様は此度の戦いで街を守ってくださった勇者様ですね!お話は聞いております!お連れの方もどうぞお通り下さい!」



大歓迎で迎え入れてくれる。前の世界ではこんなデカい建物にこんな風に招待されることなんてないから緊張してしまう。



門を入っていくと、明らかに使用人と言った格好の女性が俺たちを案内してくれる。


「こちらのお部屋でお待ちください。すぐに領主様を呼んでまいります。」


そう言って、俺たちは馬鹿でかい部屋に座って待つことになった。



「なぁエリー。俺、作法とか何も知らないんだが、エリーは出来るか?」


「私ですか?一通りは出来ますが・・・ハルヤさんはそのままでいいと思いますよ。」


「いや、流石にまずくないか?」


「いいんですよ。「俺が勇者なんだから、お前らが合わせろ」ぐらいで構えていれば。」


「・・・それこそマズ過ぎるだろ。」


「ふふふ。大丈夫ですよ。それにハルヤさんの言葉遣いはかなり丁寧だと思いますよ?ですから心配することはないと思います。もし食事などがあったとしても、マナーが重視されるのは貴族同士のやり取りだけですからね。平民は気にしなくていいんです。」


そう言うがなぁ。やはり、一つ一つのことにビクついてしまう。エリーが言ったように、「お前らが合わせろ」ぐらいの気持ちで言った方が精神衛生上はいいんだろうけど・・・。やっぱり俺はそこまで達観は出来そうにない。



そんな風に悩んでいると、領主がやってきた。俺はすぐに席を立って礼をした。エリーもそうしているから、多分大丈夫だろう。


「ほぉ。ハルヤ殿は言葉遣いも丁寧であったし、もしやどこかの貴族なのか?」


領主イグニスが感心している。貴族って、前の世界ではただのサラリーマンの息子だよ。


「いえ、わたくしは貴族ではありません。最低限の礼節を街の方に習う機会があっただけで、ちゃんとしたものは身に着けていません。」


「いやなに、平民でそれほどまでのものが出来れば十分であろう。」


領主と話していると、横にいたおじさんが間に入ってきた。


「イグニス様、それぐらいで良ろしいかと。それにこちらの方は我々の街を救ってくれた勇者ですから、礼節を尽くすのはこちらの方でしょう。」


「おぉ、そうであったな。勇者殿、失礼した。」


「いえいえ。勇者とはなばかりのただの一般人ですから。」


本当のことを言っただけなのに、なぜか領主のツボにはまったようだ。


「ハッハッハ!それだけの力を持ったものが一般人か!世の一般の力も上がったものだな!それだけ高ければ我々ももっと楽できるのだがな!まぁ、立ち話もなんだ。席にかけてくれ。」



そう言って、全員が席に座った。一呼吸おいて、領主イグニスが改まって礼を言ってきた。


「改めて、この度の戦での援軍、感謝する。お主が来ていなかったら、今頃この街は滅亡していたかもしれん。来てくれて助かった。」



領主が礼を言うので、俺も頭を下げておく。


そう言えば、この世界の貴族って初めて会った気がする。


やはり貴族というのは常に人の上に立ち続けているという事だろう。何となくこの人からも上から語られているというか、こっちを品定めしているような感じというか、何にせよあんまり気持ちのいい雰囲気は感じない。



「そして、これが今回の件での報酬だ。中には10万G入っている。すまんが、これから復興だなんだとどうしても金がかかる。まぁ、お主は平民であるしな、十分な額を入れておいた。」



そう言って、俺に褒美が渡された。


にしても10万Gか。・・・正直、思ったよりも安いな、と思ってしまった。いや、別に金欲しさに助けたわけじゃないからいいんだけど。



この世界の金の価値は、1Gが前の世界での2円ぐらいの価値だ。


つまり、ここでは20万ぐらい渡されたことになる。


こっちとしてはそこまで大変だったわけじゃないが、街の一大事を救って20万かと思うと、ちょっと少ないなと思ってしまった。それでも、これから復興だ何だと金がかかるしな、しょうがないのかな。



「ありがとうございます。大事に使わせていただきます。」



そう言って、礼をしながら受け取る。・・・なんだかんだお金をもらえるのは嬉しい。



「うむ。それで、今日話をしたかったのは今の状況についてだ。私たちは全く情報を持っていなくてな。今のこの状況は、一体何なのだ?」



そうか。空が暗くなったのは昨日のことだしな。流石に情報が欲しいよな。と言っても、俺もあんまり持ってないんだけど。



「わたくしもそこまで情報を持っているわけではないのですが、この状況は、魔王がこの世界を支配するために起こした状況のようです。空が暗くなっているのは異界との繋がりが出来たからだそうで、恐らくその繋がりによって大量にモンスターがこの世界に送られたのかと。」



「何?!異界に、魔王だと?!まさか、勇者クライドのおとぎ話のようなことが、現実に起きるとはな・・・。」


勇者クライドって、おとぎ話として知られていたのか。と思っていると、横にいたおっさんが訂正していた。


「イグニス様、ですから勇者クライドはおとぎ話ではなく史実であるとお教えしているではありませんか。」


「と言ってもなぁ。あまりにも現実離れしていたからな、にわかには信じられんだろう。凶悪なモンスターをあっさり倒すなんて化け物じゃないか。」


なるほど、あくまでもおとぎ話としてしか捉えない層もいるという事か。

というか俺を前にして化け物って・・・もう少し言い方ってもんがあるんじゃないか?



「にしても、異界に魔王か・・・。とすると、このあたりは空が戻ったという事は、異界との繋がりは消失したということか?」



多少怒りを覚えながらも、ここは我慢だ。指摘しても面倒だしな。


「恐らくそうだと思います。私はまだアンデーキアの街で二カ所目なので確証はありませんが、どちらもモンスターを統率していた「魔人」という種族の者を倒した瞬間に空が回復したので、恐らく魔人の消失をきっかけに、異界との繋がりが切れると予想されます。」


「なるほど。魔人とやらまでいるのか。これはもう、勇者クライドが史実であると認めねばならぬな。それで、お主は勇者なのか?」



「・・・はい。私が勇者です。」





「そうかそうか!ではこの世界は安泰だな!良かった良かった!異界に魔王と聞かされどうなることかと思ったが、問題なさそうだな。」




安泰か・・・。まぁ、そりゃそうか。人からしたら勇者がいてくれたら安心するもんだよな。


ただ、なぜだろうか。期待されているのだろうけど、あんまり嬉しくない。何というか、随分他人事なんだなって思ってしまった。


全部の責任を負わされているようで。また一つ、命を背負わされたような気分だ。






「領主様、発言を失礼いたします。」


エリーが唐突に発言しだした。なんだ?





「ん?なんだ貴様は?」


なんだコイツ、さっきまでは割と丁寧だったのに、勇者以外にはあたりが強いな。




「私は神からの預言を授かっている者です。」


「おぉ!であれば、お主は預言者か!勇者に預言者。ますますこの世界は安泰だな!」


すぐに貴様からお主に呼び方が変わった。なんか嫌いだわコイツ。





「いえ、そうではありません。」


・・・おいおい、何を言うつもりだ?



冷や汗をかく俺をよそに、エリーは淡々と話し始めた。


「彼は確かに勇者ですが、史実から推測するに、その使命は魔王を倒すということに過ぎません。」


「ん?だから、この世界は安泰だと言っているじゃないか。」


「しかしそれは、この世界に住む人全員の平和が守られるという事ではありません。」


「どういうことだ?」



「今回、私たちはアンデーキアに来ましたが、この街に行けと言う預言を与って来たわけではありません。この街に来たのは、たまたま図書館があり、勇者について調べるためにたまたま来ただけです。」


「それでも来てくれたじゃないか。それがまさに勇者への神の導きであろう。」





「えぇ、私たちはやってきました。他の選択肢を切り捨てて、ここに来たのです。」


その一言で、重たい空気が張り詰めた。





「勇者は、恐らく一人しかいません。他の勇者の史実を見ても、二人出てくることはありませんでしたから、今回もそう考えるのが妥当でしょう。ですが、一人では限界があります。必ず、救えない場所が出てくるでしょう。」


「そ、それはそうかもしれんが。」


「世界は勇者が魔王を倒すことで平和を守れるかもしれませんが、あくまでも世界規模の話であり、人々の生活まで完全に守られる保証はありません。」


「・・・。」


「この場所も、異界との繋がりがもう一度起こらないとも限りません。一度あったことですから、二度目がないとは限らないでしょう。相手は魔人ですから、他の場所を支配した後で別の場所にやってくることは十分に考えられます。」


「そ、それは本当か?!だが、だとしても勇者がいれば・・・」


「勇者は一人なのです。今もどこかで苦しんでいる誰かを切り捨てなければならなかったように、この場所が再び異界に繋がった時、勇者がすぐに駆け付けられる保証はありません。」


「こ、この街を見捨てるというのか?!」


「そうではありませんが、時と場合において不可能なこともあるという話です。世界は安泰でしょうが、自分たちの生活までも保障されているとは考えない方が良いという事をお伝えしたかったのです。」




エリーの発言は、とても冷たいものだ。場合によっては切り捨てると言っているようなものだ。




それでも、俺には、とても温かい言葉だった。一人で背負うなと言われているようで。





だが、領主には、冷たさは冷たいまま伝えられたようだ。



「ふざけるな!それのどこが勇者だ!救える力があるのだろう?!ならば全てを救ってみせよ!」


「ハッキリ言いますが、救える力がないということです。見れば分かるでしょう?彼は、確かに職業は勇者ですが、ただの一人の人間です。」





「勇者は化け物じみた力を持ってるじゃないか!もはや人間じゃない!」





「ふふふ。勇者が人間じゃない?変なことを言いますね。私からしたらあなた方のような勇者に全てを押し付ける人たちの方がよっぽど人間じゃないように見えます。」


「何だと貴様?!私を愚弄するというのか?!」


「先ほどから聞いていますと、世界が危機に陥っているのにあまりにも危機感がありませんでしたし、何も協力する気もないようでしたので。もう少し危機感をお持ちになった方が良いというただの忠告ですから、愚弄しているわけではありませんよ。ふふふ」



エリーと領主の言い合いが段々とヒートアップしている。


いつも器用に躱していくエリーなのに、何が琴線に触れたのか、滅茶苦茶キレている。さっきリルさんにデレデレした時に怒っていたのとはまるで違う。


だが、流石にこれ以上言い争いを続けさせるのはマズイだろう。



「エリー!これ以上詰め寄ってもしょうがないだろう!領主イグニス!連れが失礼した!」


「ふん!勇者は飛び切りの能力を持っているようだが、こんな預言者がお伴では大変だな。」



・・・コイツ、エリーを馬鹿にしやがった。


何だろう。普段面倒だと思っていたエリーだが、そのエリーを誰かに馬鹿にされると、ものすごく腹が立つ。



もういいか。コイツと話すことはなにもない。



「人が救えた。それでいい。もう帰ります。まだ救わないといけないんでね。あ、金ありがとうございました。この街の価値が10万Gだってのが分かって良かったです。それでは。」


「なんだと貴様!勇者だからと言って調子に乗るなよ!」



怒る領主を無視して、さっさと時空魔法で館の外に出た。


追手が来るかもしれないが、別にどうでもいいだろう。いくらでも巻けるし。


俺とエリーは、トボトボと歩き始める。今日泊まるところを確保しなくちゃいけないからな。





「人間じゃないか・・・。」



何だか、ズシリとくる一言だった。




「ふふふ。何を言いますか。ハルヤさんは人間ですよ。」


「でもなぁ・・・。」


「なら、人間らしいところをいっぱい挙げましょうか?ネガティブで人の痛みを喜んで、女にだらしがなく、鞘の勇者で」



「もういい!もういい!それは人間らしさじゃなくて、ただのダメな部分だ!」



「あら?そうですか?とても人間らしい部分だと思いますけど。ふふふ」




さっきまであんなに怒ってたって言うのに、何なんだコイツは・・・。




まぁ、とりあえず言っとかないとな。



「エリー。ありがとな。」


コイツはきっと、俺に全てを任せようとしている領主に怒ってくれたんだ。それだけで、心は十分に満たされた。





「あら?ハルヤさんは蔑まれて喜ぶタイプの人でしたか?」




・・・やっぱりコイツは面倒だ。

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