は?
気が付くと、時刻は夕方に近づいていた。
順番は違うが同じように四冊の本を読み終えたエリーが話しかけてくる。
「勇者の物語の史実を読んだのは初めてでしたが、非常に勉強になりました。ハルヤさんはどうでしたか?何か分かったことはありましたか?」
分かったことか。勇者が変人だらけなのは分かった。いや、人じゃないから変態と言った方が良いのか。
「何も分からねぇよ。ただ勇者クライド以外は変な奴だというのは分かった。」
「ふふふ。確かにそうですね。良かったですね。」
「何も良くねぇよ。唯一まともな勇者クライドも悲惨な結末だし。」
「そうですか?これだけ変な勇者だらけだったら、人であるというだけで、皆さん大層お喜びになると思いますよ?」
「・・・それはそれでなんか腑に落ちない。」
人ってだけで喜ばれるってなんだよ。あんまり嬉しくねぇよ。それにやっぱりこの並びに加わりたくない。
「良いじゃありませんか。それに、勇者は皆心優しく正義感に溢れてたそうですよ。良かったじゃないですか。」
「良くねぇよ。俺は優しさも正義感も持ってねぇし。」
全ての勇者に共通していたのは、心優しく正義感に溢れていたという事だ。そんないい部分だけ、俺は共通していない。チートと一緒に、優しさと正義感も与えとけよ。
「でも、こうも考えられるじゃないですか。勇者のような行動をすれば、心優しく正義感に溢れているとみなされる土壌が出来ているのだと。」
「はぁ?それはつまり、力を使って人を助ければ、向こうが勝手に解釈してくれるってことか?」
「そういうことです。勇者という存在は心優しく正義感に溢れていると思われているわけですから、ハルヤさんも根がどんなに腐っていても、勇者という職業が人々にそう思わせてくれるという可能性があるわけですよ。良かったですね。ふふふ。」
「おい、俺は腐ってるまでは言ってないぞ。優しさと正義感を持ってないというだけで。」
「それは失礼しました。女にだらしないというだけでしたね。」
・・・さっきのこと根に持ってやがる。
「と、というか、エリーは最初「多分人探し」とか言ってたけど、勇者の話を知っていたのか?」
「いえ、私が知っていたのは『童話 勇者クライド』の物語だけです。クライドの史実も知りませんでしたし、他にも勇者がいてそれは生物であったり無機物のこともあったという噂話を聞いたことがあっただけで、正確なところは今日まで知りませんでした。」
「なるほどなぁ。あんまり勇者物語は知られてないんだな。」
「そうですね。ピッパプ帝国についても、かつてそのような国があったとは聞いたことがありましたが、既に滅んでいたはずです。それもかなり前に。」
うーん。というと勇者の情報を持っていそうな場所も検討が付かないんだよなぁ。
どうしたものか。
ピッパプ帝国の跡地に行くとか、石の勇者の墓場を探しにいくとか、もしかしたら過去の勇者を追いかけていけば手掛かりがあるかもしれない。しらみつぶしに行くしかないのか・・・。
二人悩んでいると、リルさんが声をかけてきた。
「何か有益な情報は見つかりましたか?」
「いえ、特には見つかってませんが・・・それでも勇者について知られたのは大きな収穫でした。ありがとうございます。」
「そうでしたか・・・。こちらもお力になれずに申し訳ありません。今後も何か必要な資料がありましたら、当図書館にあるものでしたらいくらでも貸し出しますので、お声がけくださいね。」
そう言って、リルさんは去っていった。あぁ、本当に癒される。心なしか良い匂いがした気がするし。嗅覚補正、ナイスだ。
「フフフ。やっぱりハルヤさんは勇者様ですね。」
「は?なにがだよ。」
「勇者クライドもハニートラップに引っかかりかけていたようですし、似ているなと。」
「リルさんは別にトラップじゃないだろ・・・。」
「失礼しました。女にだらしないと言った方が良かったでしょうか?フフフ。」
「エ、エルフが初めてでテンションが上がっていただけで、だらしないわけじゃないぞ?」
笑いながら怒りをあらわにしていたエリーだったが、不思議な顔をした。
「エルフを見たことがなかったのですか?色々なところを旅していると聞いていましたから、てっきり見たことがあったのかと思ったのですが・・・。」
そう言えば、俺は旅をしてきていた設定になっていたな。
ただ、何だかんだエリーとはこれからも旅を続けていくことになる気がしてきている。やはり、ここはちゃんと話した方が良いだろう。
「あー、実は俺、元々この世界の人間じゃないんだよ。」
「・・・は?」
お、エリーが驚いている。たまに見るコイツの驚く顔は、何だか勝った気分になって気持ちがいい。
「今から半年前かな。別の世界にいた俺が、いつの間にかこの世界に呼び出されてな。その時に、今の力をもらったんだよ。」
「・・・なるほど。あまりにも常識がないと思っていましたが、そういう理由だったんですね。」
やっぱり常識がないとは思ってたのか。まぁ、それに関してはしょうがないか。
「それにしても、異世界からの召喚ですか。それはまた凄い話ですね。まさに、神様が遣わしたようなものじゃないですか。」
「うーん。実際に自分に起こったこととして考えると、そんな凄いことじゃないんだがな。前の
世界ではいたって普通の人間だったし。」
「そうなんですか?ハルヤさんのいた世界ではハルヤさんは普通だったと。それは変わった世界だったんですね。」
「おい、それは俺を変わった人間と見なしているという事か?」
「ふふふ。この世界とは別の価値観を持っているというだけで他意はありませんよ。」
「他意しかないように見えるがな・・・。」
相変わらずだなコイツは。異世界から来た勇者という傍から見たらスゴイ肩書を提示したのに、コイツは俺をなめっぱなしだ。最近ではもうあきらめてるがな。
「それで、召喚された際に、何か聖装のようなものはもらわなかったんですか?」
「いや、何ももらってないな。みすぼらしい格好と木の棒で放り出されたからな・・・ん、あれ?」
前に違和感を感じたことを思い出した。
神にもらった木の棒と麻の服と革のサンダル。これはおかしなものだった。
そもそもそんな格好で異世界に放り出されたことに怒りを覚えた。鑑定をしても、ただの木の棒と麻の服と革のサンダルで神への復讐まで考えた。
ただ、今にして考えれば、その時に鑑定で得た情報はとてもおかしなものだった。
だって、こっちの世界では、鑑定したものは基本的に俺の中では平仮名と漢字で表される。
だというのに、あの時身に着けていたものだけは、カタカナだったんだ。
俺は急いで、木の棒と麻の服と革のサンダルを取り出して、鑑定してみる。
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【キノボー】
何の変哲もないキノボー。歩くときに使うと少し役に立つ。
攻撃力補正なし。
価値:なし
【アサノフク(上)】
何の変哲もないアサノフク。着ると少し暖かい。
防御力補正なし。
価値:なし
【アサノフク(下)】
何の変哲もないアサノフク。人間としての尊厳を守る。
防御力補正なし。
価値:なし
【カワノサンダル】
何の変哲もないカワノサンダル。蒸れやすい。
俊敏補正なし。
価値:なし
―――――――――――――――――――――
やっぱり、おかしい。何でカタカナなんだ?
もしかして、と思い。俺は最初の格好を装備してみた。
―――――――――――――――――――――
装備:
E.キノボー
E.アサノフク(上)
E.アサノフク(下)
E.カワノサンダル
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「どうしたんですかハルヤさん?いつの間に着替えたんですか?」
「いや、ちょっと引っかかってな。着替えたのは【装備】という能力だ。」
「早着替えも出来るのですか。相変わらず勇者は便利ですね。ふふふ。」
「だから、便利って言うな。」
さて、着替えたはいいが、どうしたらよいのか。
分からない。分からないが、スキルはいつも俺のすべきことを教えてくれる。
今も、聖装解放を願ってみると、魔力を通せという意思が伝わってくる。
俺は、装備に魔力を通そうと念じてみる。すると、あたり一面が光に包まれた。
その光と共に、俺は聖装を身に着けていた。
―――――――――――――――――――――
【勇者の剣(鞘)】
神が遣えし勇者に送る剣の鞘。勇者しか使うことはできない。
その見た目は人々に力を与える。
恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。
【勇者の鎧(上)】
神が遣えし勇者に送る鎧。勇者しか使うことはできない。
その見た目は人々に希望を送る。
恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。
【勇者の鎧(下)】
神が遣えし勇者に送る鎧。勇者しか使うことはできない。
その見た目は人々に愛を語る。
恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。
【勇者の靴】
神が遣えし勇者に送る靴。勇者しか使うことはできない。
険しい勇者の道のりを支える。
恐ろしく頑丈で、この世の物では破壊できない。
―――――――――――――――――――――
・・・まさか、既に聖装を持っていたとは。
真っ白な装備を身にまとった俺は、それだけで自分が勇者であるかのように思えてきた。
いや、実際に勇者なんだが、心が奮い立たされるような気がしてしまうのだ。
何よりも、見た目がものすごくカッコいい。今までは盗賊っぽい格好だったのが一変して、今は誰が見ても勇者と思えるだろう。それぐらい、カッコいい。
エリーも目をパチクリしている。
「急に光ったかと思ったら、ハルヤさん、また早着替えですか?」
「いや、これは俺がこの世界に来た時に与えられていた装備に、魔力を込めたらこうなった。まさか、最初から持っていたとはな。」
ずっと、あの時の装備については文句を抱えていたが、まさか聖装だったとはな。ただ、だとしても聖装になる前の状態はもうちょっといい物にはできなかったのか。せめて剣と鎧をよこしてくれてたらもうちょっと使えたし、もうちょっと早く解放できていた可能性もあったのに。
「なるほど、だから【聖装解放】だったのですか。それが、解放された姿という事ですね。」
「そういうことだろうな。はぁ、わざわざ図書館までくる必要はなかったな。」
「ふふふ。いいじゃないですか。勇者のことも知れましたし、それにこの場所に来たから閃いたというのもあるでしょう。これも、必要なことだったんですよきっと。」
エリーって割とポジティブ思考だよな。達観しているとも言えるが。何にせよ、愚痴言われるよりかはいいか。じゃないと次に伝えることで怒られてしまうかもしれないしな。
と考えていると、エリーの方から言及してきた。
「それで、どうして剣は鞘だけなんですか?もしかしてその姿が聖剣なんですか?」
「・・・いや、これは間違いなく聖剣の鞘だ。聖剣は別にある。」
「聖剣は手元にはないんですか?」
「多分・・・森に捨ててきた。」
「・・・・は?」
お、エリーが驚いてる。これまでで一番の驚きだな。
ただ、何だろう。勝ったとは思えないな。
むしろ、ごめん。




