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勇者

「これが、史実とされている勇者に関する資料です。」



そう言ってリルさんは四冊の本を机に置いた。


『勇者クライド』

『勇者マクグラス』

『勇者ピッパプ」

『石の勇者』



四人の勇者についての本が渡された。どうやら、勇者と呼ばれているのは四人だけらしい。


時間は多少かかるが一つ一つ見ていくか。それにこちらの本は文字が大きく文章量は少ない。そこまで時間はかからないだろう。



まず初めは、恐らく先ほどの『童話 勇者クライド』の基になった人だろう『勇者クライド』を読んでみるか。。



読んでみると、先ほどの話とほとんど変わらなかった。


ただ、最後の部分だけが史実では違った。



―――――――――――――――――――――

『勇者クライド』



勇者は激闘の末に魔王を倒し、国へ帰還した。聖魔法を使い魔力と体力をギリギリまで消耗することになったが、死ぬことはなかったのだ。


だが、その先は悲惨なものだった。



勇者の力を欲した各国が勇者を取り合うようになった。


しかも、その際に使われたのが勇者の仲間だった三人の美女だ。所謂、ハニートラップだった。


その結果、傷ついた心優しい勇者は一人森の中に逃げて行ってしまった。


各国は勇者を探し続けた。勇者は逃げ続けた。


森の中、山の中、果てには海の中にまで、勇者が逃げ込んだ場所を探し当てて、交渉を続けた。


勇者は本当に心優しかったのだろう、追っ手に対して反撃してこなかったので、各国も勇者を追いかけ続けてしまった。


その結果、一つの悲劇が起こった。


ある国が、勇者が最初に逃げ込んだ森の中でしばらくの間一緒に暮らしていた優しい森の民族を誘拐し交渉材料に用いたのだ。


流石の勇者も激怒した。普段温厚な人が怒ると怖い、といったところだろうか。悲劇が悲劇を巻き起こす。


激怒した勇者は、自分を引き込もうとした国家に攻め込み、各国の王城を破壊。特に、自分にハニートラップを仕掛けていた三人は、それは悲惨な末路を迎えたらしい。



そして、当時最も大きく、最も勇者への勧誘が激しく、そして勇者と共に暮らしていた森の民族を誘拐したとされる国家に殴りこんだ勇者は、王城があった首都の街中で、極大の【聖魔法】を放った。まさに全身全霊の一撃は、一瞬で首都を塵に変えた。


これによって勇者は死に、首都と王城を失った国家は滅亡していくことになった。


勇者の力の大きさを目の当たりにすると同時に、こんなにも勇者を追い詰めたと人々は反省した。


それと同時に、自分たちの犯した罪を隠そうとした。


その結果、勇者を心優しい正義の勇者のまま、人々は語り継いでいくこととなった。


そのため、今では【童話 勇者クライド】が史実のように伝えられている。



―――――――――――――――――――――




・・・見なきゃ良かったなぁ。あまりにも胸糞悪い。


勇者が救い出した世界が、勇者を襲うようになる。あまりにもこの勇者が可哀想だわ。


それに史実よりも童話ばっかり伝えられていくところとか、あんまりだわ。


俺も力があるけれども、こうはなりたくない。でもこうなりそうで怖い。あんまり力を見せびらかさない方がいいのか。でもそれじゃあ救えない場面もでてくるだろうし。


それにもうアンデーキアの人たちは俺の力を知っているし、今更か。


今から魔王を倒した後のために、逃げる場所とか決めておいた方がいいのかな?



何にせよ、とりあえず『勇者クライド』からは聖装の情報は得られなかった。




次こそはハッピーエンドを願いつつ、俺は『勇者マクグラス』の本を手に取る。




―――――――――――――――――――――

『勇者マクグラス』



今から800年ほど前、人々は毒のドラゴンの瘴気に困り果てていた。


そのドラゴンは、あたり一面を人が住めないような環境に変えてしまうほどに、強い毒を持っていた。


ドラゴンは住処を転々とするため、世界各地でドラゴンの毒による被害が大きくなっていった。


さらにドラゴンの習性上、山の上に住むことを好み、その結果、人々の生活用水ともなる川に毒が混入。大変多くの人がドラゴンの毒にやられていった。


そんな人々を救うため、神は一人の青年に力を与えた。


力を与えられた勇者マクグラスは、見た目はいたって普通の青年だった。



右腕以外は。



彼の右腕は、ある時を境に急激に巨大化。右腕だけで2メートルほどあり、まるで千年生きた大樹のように太く、どんな岩だろうと打ち砕けるほどに硬い腕になった。


この右腕自体が、彼にとっての聖剣代わりだった。


右腕を一度振れば、風が吹き、火が起こり、水が生まれ、光が飛んだ。右腕が魔法の発動も兼ねていたのだろう。もちろん、物理攻撃においても右腕は最強であった。


右腕一本であらゆる魔法と攻撃を使いこなせるようになったマクグラスは、毒のドラゴンを倒すために旅立った。


右腕だけが化け物じみた大きさとなっていたマクグラスは、人々に恐れられた。時折、モンスターと勘違いされ、攻撃されることもあった。


それでも、持ち前の優しさと正義感で、次第に人々に好かれていった。マクグラスに付き従う人もたくさんいた。


だが、最後の戦いは瘴気を発生させる毒のドラゴン。マクグラス以外の人々は、何とか遠目から確認できる場所で待機し、マクグラスは一人ドラゴンに挑んだ。



戦いは優勢だった。魔法も、攻撃も、あらゆる面でドラゴンを上回っていた。


しかし、ドラゴンの攻撃を右手で防いだ際、僅かに右腕に傷がついた。


その傷口からドラゴンの毒が侵入した。



右腕だけであれば毒が回って来ようとも問題はなかった。しかしマクグラスの右腕以外は、ちょっと強い一般人程度だった。


マクグラスはこのままでは自分の体に毒が回ってくることを察し、右腕を切り離すことにした。



渾身の、ロケットパンチである。



最後の魔力を込めて自分を砲台として発射した右腕はドラゴンに直撃、そのまま大量の魔力のこもった右腕は爆散した。


それによって、ドラゴンもまた散っていった。



しかし、右腕を失ったマクグラスは、最早ただの一般人。その傷に耐えることが出来なかった。急ぎ駆け付けた仲間による懸命な治療も意味をなさず、そのまま命を失っていった。



たとえ見た目は化け物じみていたとしても、彼は世界を救ってくれた。


その正義感、優しさは、まさに勇者と呼ぶにふさわしい青年であった。


人々はマクグラスを、右腕の勇者として讃えた。



これ以降50年ほどにわたって、右腕だけを鍛えて大きくしたり、右腕に模様を刻む行為が流行したことは、勇者マクグラスへの尊敬の大きさを表すためだったとされている。



―――――――――――――――――――――




・・・化け物かよ。


何だよ右腕の勇者って。フォルムを想像すると化け物でしかないだろ。


しかも最後の技が一度きりのロケットパンチとか。ふざけてるのか。




クソ、タイトルからして『勇者マクグラス』が一番まともそうだったのに。


次こそはと期待して、俺は『勇者ピッパプ』の本を開く。




―――――――――――――――――――――

『勇者ピッパプ』



今から500年ほど前、世界は争いに満ちていた。


その中でも、覇権を争う二つの国が存在していた。


「キンザス王国」と「ニットライ帝国」である。


キンザス王国は圧倒的な軍事力を保持し、次々と他国を侵略し国を大きくしていった。


ニットライ帝国は圧倒的な経済力と物量を保持し、次々と他国を支配していった。



軍事力のキンザス。物量のニットライ。


どちらも飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大していただけに、この二つの国家が争うのは時間の問題であった。


しかし、この強大な二つの国家が争えば、巻き込まれる地域は数多く、世界的な損失も非常に大きなものとなる。


次第に醸成されていく戦争への意欲に、人々は恐怖を覚えた。そして、願った。



「誰か、この戦いを止めてくれ。」



その願いは神に聞き届けられた。


そこで与えられたのがピッパプであった。



ピッパプは人ではない。60センチほどの熊だ。



ピッパプは、戦う力は何も持っていなかった。しかし、とても可愛かった。誰もが、その可愛らしさに魅了されてしまうほど、可愛かった。


恐らくそれはスキルによるのだろうとは後世の研究者の多くが一致している見解である。



ピッパプは争い合う二つの国家を訪ねた。それぞれの国家で、ピッパプは盛大に受け入れられた。


王も皇帝も、ピッパプに魅了された。しかし、ピッパプに魅了されながらも、「戦ってほしくない」という願いは叶えられなかった。


もう、止められる状況ではなかったのだ。


王も皇帝も、このまま自分の傍にずっといて欲しいと願ったが、ピッパプは聞き入れず出て行ってしまった。


誰もそれを止められなかった。ピッパプに嫌われたくなかったからだ。それほどまでに、ピッパプに魅了されていたのだ。




時が過ぎ、結局戦いが始まろうとしていた。


にらみ合う両国の兵士たち。もしここで誰かが矢の一本でも撃ちこもうものなら、それは世界を巻き込んだ戦争へと向かう火蓋が落とされる瞬間でもあった。


誰もが、もう戦争に向かうのだと覚悟した瞬間、そのにらみ合いの中になぜかピッパプは現れた。


どこから現れたのかは分からない。だが、確かににらみ合う両者の中央に、ピッパプは現れた。



すると、どこから飛んできたのかは分からないが、弓矢が一本飛んできた。



それはまさに、天から降ってきたようだった。後世の研究においても、未だにどちらの兵士が撃ったものかは分かっていない。本当に、天から撃たれたのかもしれない。



可愛さ以外に何も力を持っていないピッパプは、たった一本の矢で倒れてしまった。


倒れるピッパプの下に、先ほどまでにらみ合っていた両国の兵士は駆け付けた。


「どちらの国でも構わない!医者を!回復術士を!誰か呼んでくれ!」


「生きろ!ピッパプ!生きてくれ!!」


そこには既に、敵味方はなかった。両国が協力して、ピッパプを生かそうと治療した。


両国の軍医がかけつけ、出来る限りの力で回復魔法を放った。



だが、ピッパプが回復することはなかった。




そこに集った兵士たちは誰しもが涙した。


何の力も持たないピッパプが、止めるために戦場にやってきた。


自分たちが愚かに争い合うが故に、ピッパプを失った。



ピッパプの死は、瞬く間に世界中に広まった。



ピッパプを失った。あのピッパプがいなくなった。



そのことは、世界から活力を奪った。


最愛の人を失うかのような喪失感が、世界を包み込んだ。


そして同時に人々は思った。なぜ、私たちは戦ってしまうのか。なぜ、争ってしまうのか。



こんな無益なことは、もうやめるべきだ。



不可能だと思っていた戦争の回避が、ピッパプの死によって奇跡的にもたらされた。



それ以来、人々はピッパプを勇者と呼んだ。


命をかけて戦争を止め、多くの人々の命を救ったピッパプを、勇者と呼ばずにはいられなかった。


キンザス王国とニットライ帝国は共同でピッパプの墓地を作り、共同でピッパプの人形を作り、世界各地にピッパプの魅力と功績を伝え続けていくこととなった。


これが、後のピッパプ帝国の始まりであった。



―――――――――――――――――――――



・・・熊かぁ。いよいよ人ですらなくなった。


しかも、能力が可愛いだけって。いや、実際にはコイツの能力が一番ヤバいのかもしれないけど。


王も皇帝も陥落させるって、どんだけ可愛かったんだよ。


でも、勇者のイメージが崩れるなぁ・・・。



ピッパプって帝国の名前に関しては聞いたことはないが、既に滅んでしまったんだろうか?

元々が二つの国家からなってるわけだしな。分裂していてもおかしくはないか。






さて、まともな勇者物語がここまでなかったが、残念ながら残すところあと一つになってしまった。


それも、一番期待できなさそうな物が。


だか、希望は最後まで捨てちゃいけない。


俺は『石の勇者』を開いた。



―――――――――――――――――――――

『石の勇者』


今から300年ほど前、石の勇者が人々を救った。


石の勇者は、石である。まごうことなき、ただの石である。


―――――――――――――――――――――



・・・俺は一端本を閉じて深呼吸した。ダメだ、もう読みたくない。最早生物ですらなさそうだ。


でも、逆に気にもなってきたので、続きを読むことにする。




―――――――――――――――――――――


石の勇者は、名前もない。なぜなら、ただの石だからである。


だが、彼には意思があった。そして、浮遊であらゆるところを飛び回り、念話によって人と喋ることが出来た。


石は人々と念話で会話しつつ、人々の生活に協力していく。


彼は【石の意思】というスキルによって、あらゆる石を操ることが出来た。


ある時は地面に埋まる石を取り除いてやった。


またある時は家を建て、ある時は街を作った。


ある時は石でモンスターをやっつけた。



意志ある石を、人々はあがめた。知恵のある「賢者の石」として大切にしていた。




悲劇が起こった。「魔人エンダーギル」が地上に現れたのだ。


魔人エンダーギルは、かつて勇者クライドによって滅ぼされた魔王を復活させるため、人々の血を欲した。


村を街を襲い、全てを壊していった。人々は立ち向かったが、魔人エンダーギルは強かった。その強さに、人々は絶望した。


石は人々の絶望を前にして意思を奮い立たせた。


魔人エンダーギルに立ち向かうべく、石は世界中の石を操り、エンダーギルと戦った。


しかし、どれだけ石を投げつけようとも、エンダーギルはその全てを払いのけた。


それでも石は諦めない。何度も、何度も、エンダーギルに攻撃し続けた。気が付けばそこは、石の海と化していた。


石は、意思があろうとも石だ。故に、疲れも眠気も空腹もない。エンダーギル相手に、何日も、何日も攻撃し続けた。


エンダーギルも反撃しようとするが、あまりにも多くの石で埋め尽くされた地形の中で、意思をもった石を見つけられず、足止めを食らう形となった。


膠着状態が続く中、動いたのは人々だった。


【石の意思】は、石にしか効果はない。だが、【石の意思】に、人々の意思もまた呼応した。


世界中から、石と共に戦う者たちが、自らの意思で集まってきた。


全ての人々の意思が石に向けられる時、石のスキルは進化した。


【石の意思】が【鋼の意思】となった。


これによって、石のもとに駆け付けた人々が持っていた鋼の剣を、石が操れるようになった。


そのことに気が付いた人々は、世界各地から鋼の剣を急いで集めた。



数千本の鋼の剣が、魔人エンダーギルに襲い掛かる。


流石の魔人エンダーギルも、この攻撃には耐えきれず、石の前に、いや全世界の意思の前に膝を屈し、絶命した。



人々は石をあがめた。これからも、この石を大切にしていこうと、世界中が考えた。


だが、石の意思が、全ての人に伝えられた。



「自分はただの石だ。そして、意思が消える時が近づいている。」



そして、石から意思が消え、本当に、ただの石となった。



人々は石を讃えた。


人ではない。生物でもない。だが、彼は私たちを救ってくれた勇者である。


石の勇者だ。


意思の消えてしまった石の勇者を土台として、一つの墓を作った。


魔人エンダーギルに殺された人々を覚えて。そして、石の勇者の意思を受け継ぐために。


石から意思は消えようとも、その意思は、今も世界中の人々の中に残されている。



―――――――――――――――――――――



・・・とうとう生き物でもなくなったか。


イシイシイシイシよく分からなくなるとか思いながら、それでも中身は一番勇者っぽかったな。


ただ、石だもんなぁ・・・。何となく納得がいかない。今度その墓でも訪ねてみようかな。





さて、4つの勇者物語を読み終えたが、聖装に関して分かったことは何一つない。


クライドは初めから持ってたし、他の勇者は「右腕、可愛さ、意思」と聖装っぽいものが何一つ出てこない。


こんな話ばっかりだからエリーは勇者を探して俺のところに来た時に、「多分人探し」なんて言ってたんだな。




というか、よくよく考えると良くないことに気が付いた。



この四つの勇者に、俺もこれから混ぜられていくのか?


嫌なんだけど。

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