図書館
エリーと合流し街中を進んでいると、至る所で声をかけられた。
全員が感謝を伝えてきてくれる。中には「勇者様、ありがとう!」とまで声をかけられる。
途中で寄った食事処でも、勇者へのサービスだと言って大量の料理を無料で出された。明らかに食えない量だったが、感謝の証しでもあるのだ。何とか胃袋に納めようと気合を入れて食い始めると、意外になんとかなった。
勇者と名乗った覚えはないんだが、圧倒的な力と救世主的な行動によって、俺は既に勇者と認定されているらしい。
「ふふふ。すっかり勇者様ですね。何でも屋は廃業ですか?」
「みんなが勝手に言ってるだけだ。こっちも勝手に何でも屋で通していこうかな。」
「なるほど。力には力という事ですね。勇者らしいです。」
「そういうことじゃねぇよ・・・。それで、図書館の場所はこっちでいいんだよな?」
「はい、あそこに見える大きな屋根の建物が図書館ですね。ちなみに、その三軒手前がモンスターの落下で一部破損した建物になります。」
エリーは、いつもいらない情報まで逐一報告してくる。というか楽しんで報告してくる。
クソ、なんて言ってその家に行けば良いんだ。近くを通らない方が良いだろうか。
ただ、その家を通らないようにすると大きく迂回しなければならない。流石に面倒なので、ソーッと通り過ぎようとする。
チラッと家を見ると、家の玄関横に2メートルぐらいの大きな鳥型のモンスターの死体が見えた。
あんなものを落としてしまったのか、改めて気が引けてしまう。とりあえず怪我人がいなくて良かった。
家の周りには人が集まって品評会のようなことをしている。
俺はバレないようにソーッと過ぎようとすると、一人の人が俺に気がついた。
俺を発見して明らかに興奮した様子に、こちらも身構える。
「おぉ?!あんた今回の戦いで大活躍だった人だよな?!あのデカ物を空から落としたのもアンタなんだよな?!」
流石に、違いますなんて言ってやり過ごしても、後でバレたら面倒だ。
「・・・はい。」
「うぉー!やっぱりすげぇな!あんなでかい化け物を一太刀だもんな!」
すると、その声によって家主が俺のことに気がついたようだ。
「あんたがウチにモンスターを落とした人か!」
「・・・はい。そうです。本当にごめんなさい。」
俺は本当に申し訳ないと思い綺麗に頭を下げる。しかし、家主にとってはそれはあまり大きなことではなかったようだ。
「何も謝ることはあるめぇ!街を助けてくれたんだしな!そんで、このモンスターはどうするんだ?!」
「え、あ、はい。ありがとうございます。モンスターですか。やはり回収した方がいいですよね?」
「やっぱりこれはあんたのものになるのか?!」
「え?いや、別にいりませんが・・・邪魔じゃないですか?」
「何言ってんだ!こんな大きなモンスターだ。売ればいい金になるだろう!体に傷もねぇし良い額になるはずだ!いらねぇんだったらもらっていいか?!」
「え?いや、もちろんいいですけど・・・。」
「よっしゃああ!こりゃラッキーだったぜ!ありがとよ勇者様!」
そう言って家主はモンスターのところに戻り、これは自分のものになったと周囲の人に自慢していた。
ついでに、家の損害部分を「勇者の聖痕」とか言って紹介している。
強いというか強かというか。いずれにせよ、落ち込んでいないようで安心した。
途中でアクシデントもあったが、不安要素が取り除かれ、スッキリした気持ちで図書館についた。
が、どうやら今日は休業らしい。ドアが閉まっている。
そりゃそうか、あんな大参事だったんだもんな。図書館なんて開いてはいられないか。
さて、どうしたもんかと思っていると、中から人が出てきた。
美しい緑色の髪が特徴の美人。
そして何よりも耳が長い。
つまり・・・エルフだ。
いるんだエルフ。
いるんだな。エルフ。
いてくださったんだな、エルフ。
美しい・・・。
この世界は色々な人族がいる。獣系の人族ばかり見ていたから、すっかりエルフの可能性を忘れていた。
俺は、久しぶりに感謝した。
これほどまでに美しいエルフと俺を導き合わせて下さった神に感謝した!
異世界万歳!来てよかった!
見惚れる俺をよそに、エルフが語り掛けてきた。
「こんにちは。私はこの図書館の管理をしています、リルです。すみません、本日は臨時で休館とさせていただいたのですが・・・もしかして、あなたは噂の勇者様ですか?」
リルさんか。声まで美しい。
例えるなら鳥だ。それも、大自然の中で聞く鳥のさえずりのように、清らかで美しい声だ。
「えぇ、私が勇者です。」
何でも屋?んなもん知るかよ。廃業だ廃業。今は勇者であることが重要なんだ。
「まぁ、そうでしたか!この度はこの街を救っていただきありがとうございました!」
そう言って笑顔になり、綺麗に礼をするエルフ。中身まで備わっているようだ。
この笑顔を守るためなら、俺は勇者になることに何も恐れを抱かない。最早、怖いものなど何一つない!
「・・・どうしましたハルヤさん?先ほどまであれほど勇者であることを固辞していましたのに、今更勇者と名乗るのですか?」
ゾクッとした。
いつもより一段低い声で話すエリーに、大量のモンスターからは一切抱かなかった恐れと言う感情を植え付けられた。
「え?あ、いやー。今は勇者であると伝えた方が図書館に入れてもらえるかなと思いまして。」
「ふふふ。なるほど。そういうことにしておきましょうか。」
怖い。これ以上エリーの機嫌を損ねないように、さっさと話しを進めよう。
「それで、今言ったように、俺の職業が【勇者】なんです。だから、勇者の情報が欲しくて図書館に来たんですけど、中に入れてもらえませんか?」
「そういうことでしたら構いませんよ。普段は料金も発生するのですが、どうやら緊急事態なようですし、何よりも街を救って下さった勇者様ですからね。ご自由にお使いください。」
そういってリルさんは俺たちを中に案内してくれた。
図書が納められている部屋は、とても大きい部屋だった。
さすがに前の世界ほど大きな図書館ではないが、それでもかなり大きい。
本は前の世界に比べてかなり大きいし重い。紙が発達していない羊皮紙の本だからこうなるのかな。
リルさんは、勇者に関する資料をいくつか持って来てくれるそうだ。
待っている間暇だから図書館の中を散策していると、早速、勇者に関する本を発見した。
随分煌びやかな本だ。とりあえずこれを読ませてもらうことにした。
そこには一人の勇者について書かれていた。
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世界がモンスターに襲われる中、ある日、世界に神の声が響いた。
「私がこの世界に光を遣わす。」
言葉と共に、ある一人の少年に光が差し込んだ。光と共に、彼の手には美しい聖剣が与えられた。
少年の名前はクライド。その見た目は大変麗しく、とても優しい少年だった。
クライドは聖剣を携えて、旅に出た。だが最初は、勇者と言えどもまだ子供だったクライドは侮られた。
それでも街から街へ転々として、それぞれの場所でモンスターによって困っている人たちを助けてあげたそうだ。
何を言われようとも、勇者はただ正義のために働き続けた。人々の平和を願い、戦い続けた。
街々を救ってくれるクライドに、人々は手のひらを反すように称賛を与えた。心優しい勇者はそれを笑って受け入れた。
旅を続けるクライドのもとに、魔王の使いとして数多の魔人が襲い掛かる。それでもクライドは屈することなく、モンスターと戦い続けた。
いつしか、勇者クライドの名は世界中に知れ渡り、クライドは世界中の人の希望となった。
旅の道中、クライドは三人の仲間を得る。
大魔導士のイブ。
大剣術士のエルサ。
大賢者のモニカ。
美しい女性3人を旅の仲間とし、クライドは旅を続けた。
時には挫折も、時には苦しみも味わいながら、仲間の励ましと、自身の勇気によって乗り越えていった。
苦難の度にクライドは一つ成長し、勇敢な男となっていく。そして、いよいよ魔王の下にたどり着いた。
成長した彼は聖剣の能力をいかんなく発揮し、魔王相手に善戦した。
それでも魔王は強かった。圧倒的な魔力の前に、勇者たちは屈しようとしていた。
だが、勇者だけは諦めなかった。持ち前の勇気で最後の最後まであきらめなかった勇者は、戦いの中で一つのスキルを獲得する。
全ての体力と魔力を解放し、彼は覚えたばかりのスキル【聖魔法】を放った。
その威力は、他の魔法とは比べ物にならないほど、強大なものだった。
流石の魔王も耐えきれず、見事勇者たちは魔王を倒した。
しかし、あまりにも強大な魔法をつかった代償に、勇者もまた散っていった。
残された三人の仲間たちは、悲しみに暮れながらも勇者の全てを人々に語っていった。
人々は平和を祝い、もたらしてくれた勇者を讃えた。
世界に平和は訪れた。
勇者の命を代償に。
讃えよう、神を。
遣わされた勇者を。
喜ぼう、平和を。
守られた命を。
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うーん。これぞ王道の勇者物語って感じだな。
途中の民衆の手のひら返しとかはちょっとイラっとしたりしたが、それでも笑って受け入れるあたり、まさに正義の勇者って感じだ。
あと三人の美女を侍らすところとかはうらやましい。俺も勇者として活動すればモテるんだろうか?
それに最後の【聖魔法】で魔王を倒すあたり、熱い展開もあって、よくある物語って感じだ。
ただ、最後がなぁ。勇者も散ってしまうあたり、不安を覚える。
俺ももしかしたらいずれ聖魔法を覚えるのかもしれないし、それを使ったら死んでしまうという事もあるのかもしれない。
うーん。世界を救えるのはいいかもしれないが、死にたくはないなぁ。
そんなことを考えながら、俺は『童話 勇者クライドの冒険』を閉じた。
・・・読み終わってから気が付いたよ!童話かい!
ならこれは創作物なのか?ただ、童話と書いてあるだけで、史実が基になった可能性はあるか。
出来れば史実では勇者が何とか生き残っていたとかいうオチになっていないだろうか。
そんなことを期待していると、リルさんが戻ってきた。
四冊の本を重そうに持っていたので、颯爽と近くまで行き手伝ってあげる。
こういう時の点数稼ぎは重要だからな。
すると、少し離れたところに気配察知が引っかかった。
力が膨れ上がる感じだ。そっちの方向を見ると、エリーがいた。不気味に笑っている。
人は何かを得る時、それは同時に何かを失うことでもあるのだ。
経験と引き換えに新鮮さを失うように
知識と引き換えに想像を失うように
リルさんの点数を引き換えに、エリーの点数を失うように
流石図書館、色々なことを教えてくれる。




