馬鹿野郎
戦後処理を行っていた場所で、フェレディの大声が響き渡った。
「今、我々を助けてくれた者に、文句を言ったのは貴様か?!」
フェレディは一人の青年に詰め寄った。
「い、いえ!文句などではありません!!」
「だとしても、貴様は今、彼がもう少し早く来てくれたらと願ったではないか?!」
「それは・・・確かに願いましたが、文句ではありません・・・」
「・・・馬鹿野郎!!!」
一段と大きな声が戦場に響いた。
「貴様のその願いは、今ここにある全ての犠牲を、意味のないものとする!!!」
「我々は、勝ったのだ!あの苦しみの中、援軍が来るまで耐え忍び、大群のモンスターに打ち勝ったのだ!仲間が命を懸けて守った時間が、モンスターの大群から街を守り、援軍が来るまでの時間を与えたのだ!」
「貴様が今の現状を嘆くとき、我々の仲間がモンスターの大群を前に命を懸けたことそのものを否定する!!」
「我々は何だ?!アンデーキオの兵士である!この街に生き、この街を守り、この街のために死んでいくのだ!!そのことを誇れずしては、我々は戦いのたびに嘆くばかりだ!!」
「今我々が為すべきことは、死を嘆くことではない!戦いに勝ったことを祝うことだ!それこそが、そこで散った命を最も讃える、最高の死者への弔いであるのだ!!」
「この戦いにかけた命は、必ずや、次の命のために生かされていく!生き残った我々は、戦死した者たちを胸に、なお生きる喜びを噛み締めてゆくのだ!」
「この街の、この国の、この世界の平和は、彼が一人で守っていくものではない!皆で共に守っていくものだ!!責任を誰かに押し付けるという楽な方向に進んではならん!!もし悔やむのであれば、自らの力を上げよ!!」
フェレディさんの大声の演説は、戦場どころか、街中にまで聞こえていたようだ。
街中からも、歓声が沸いている。きっと、今の大声で戦いの勝利を知ったのだろう。
さっきまで、あんなにうるさいと思っていたフェレディさんの大声が、今ばかりは心地が良かった。
共に守っていく、と言ってくれた。その一言が、俺の胸を打った。
俺はやはり、今の今まで、この世界の人を下に見ていたのだろう。
この世界の人々を、弱い存在として、守らないといけない存在として。どこかで、下に見ていた。
でも、彼らは共に世界を守るために戦っていたのだ。
共に、戦ってくれるのだ。
異物である俺は、誰とも分かり合えず、誰とも共存できないと思っていた。
でも結局は、その考えが俺とこの世界を隔てていた。
俺は一人で敵と立ち向かうわけじゃない。
この世界の人たちと共に戦い、共に守っていくんだ。
そう思えた時、俺は思った以上に重荷を感じていたのだろう。いつの間にか泣いていた。
周りの兵士たちも一緒になって泣いていた。
勝った喜び。友を失った悲しみ。終わった安堵。
色々な感情を帯びた涙の輪に、俺も加わっていた。一緒になって涙していた。
理由は違えど、共に時間を過ごし、共に涙することは、温かい気持ちを与えてくれた。
泣いていると、一人の兵士が俺のところにきた。
さっきフェレディさんに詰め寄られていた人だ。
「先ほどは済まなかった・・・君に全てを負わせてしまうところだった。むしろ私たちは感謝しなければならなかったんだ。そのことを、仲間の死という事の前に、忘れてしまっていた。」
「いや、俺の方こそ、もっと早くに・・・」
「それでも、君は来てくれた。それで私たちは救われたのだ。さっきあんなことを言ってしまった私が言うべきではないかもしれないが、君は胸を張っていいんだ。失った命ではなく、助けられた命に、胸を張ってくれ。」
「・・・はい。ありがとうございます。」
「はは。感謝するのはこっちだよ!さっきまであんなに強かったのに、話してみると、意外と普通の青年なんだな。それで、君は街の中に戻っているかい?我々は、まだ事後処理が残っているからな。」
事後処理、それは亡くなった者たちと、おびただしいモンスターの群れを処理する作業だ。俺が手伝う範囲ではないのだろう。でも、ここは最後まで手伝いたい。
「いや、俺も手伝います。最後まで、協力するつもりで来たんで。」
「そうかい?勇者に戦後処理は似合わないぞ?」
「ははは。俺はただの何でも屋なんで。」
兵士たちは、疲れているだろうに、死者を皆で集めている。俺だけ、街に帰るのは気が引けるからな。
ついでに、モンスターの死骸は俺のアイテムで持っていくことにした。
みんなビックリしているが、作業が軽くなって助かったのだろう。大喜びしている。
改めて俺の力の異常さを披露することになってしまったが、今更気にすることでもない。
モンスターを全て回収し、戦死した兵士たちを集め終えた。
どうするのかと思ったら、街の中の墓地に埋葬するらしい。これから運んでいくのだとか。
俺であれば時空魔法で転送することが出来るので、提案すると了承してくれた。
急ぎ兵士を一人浮遊で街中に連れて行き、墓地まで案内してもらった。
飛ばす先が分からないと転送できないからな。
フェレディさんとは違い、兵士さんは静かだった。むしろ割と楽しげだ。さっきみたいにならなくて良かった。
その際に初めて街中をゆっくり見ることが出来たが、クフの街に比べて雑多な印象だった。
ナザールの街もそうだったが、この世界の街は基本的にはあまり整理されていないと考えた方がいいだろう。
寄り合いになっていったところが発展して、一つの街になっていくとこうなるということだ。
改めて、クフの街の綺麗さを思い知った。
墓場に連れて行ってもらった俺は、すぐさま南門に転移し、死者たちを墓場に転送した。
北門でも同じようにモンスターを回収し、死者たちを転送する。
ついでに兵士たちも転送しようかと提案したが、戦いの勝利を告げるために門から帰る必要があるとのことで、むしろ門から一緒に帰ってほしいと逆に提案されてしまった。
戦勝報告か。俺が混じっていいものかと言ったら、むしろ一番活躍した人物なんだから参加してくれと頼まれてしまった。
あまり人前に行くのは得意じゃないが、そう言われては断り辛い。一緒に帰ることになった。
門を通っていくと、街の人たちが出迎えてくれた。
空の暗闇が晴れたことに加え、フェレディさんの大声で戦いの勝利を知り、今か今かと待っていたのだろう。たくさんの人が出迎えてくれた。
兵士たちが来ると、大歓声だった。皆で、戦いの勝利を祝っている。単純に、こればかりは嬉しいものだ。この人たちを守れたというのは、そこにあった複雑な感情を忘れさせてくれる。
「兵士たちが帰ってきたぞ!!」
「うおおおおおおおおお!!!」
「あのモンスターの大群に勝ったんだ!!」
「ありがとう!!ありがとう!!!!!」
この人たちの、この表情のために、俺はこれからも戦い続けていくのだ。それが簡単なものではないことは今回の戦いの中でも考えさせられた。
でも、こういう表情に出会えるたびに、乗り越えていけるんじゃないかと思わせてくれる。
それぐらい、多くの人の喜びの感情をぶつけられることは、嬉しいことだった。
街中を通っていくと、街の中の広場に着いた。
到着するとそのまま兵士たちは整列し始める。俺はなぜか総大将の横に連れていかれた。
出来れば後ろの方が良いんですけど・・・という俺の発言は完全に無視された。
広場には、見るからにいい服を着ている金髪の青年がいた。あれが領主だろうか。
すると、青年の横にいたこれまた見るからにいい服を着たおじさんが発した。
「総大将アレクセイ!戦の報告をせよ!」
総大将はアレクセイと言うのか。名前すら聞いてなかったな。
「は!空の暗闇と同時に発生したと思われるモンスターは、その数にして万の軍勢でありました!開始直後から押され続けていた我が軍でありましたが、こちらにいる青年が突如援軍として現れ、巨大な魔法を放ち数多のモンスター屠り、最後に現れた魔人レル―を打ち破った瞬間、空が再び暗闇から解放されました!これによって戦の終了と見なしました!・・我々の勝利に終わりました!!!」
その瞬間、広場に集まっていた人々から歓声が沸き起こった。
「よくやった!!」
「勇者様ありがとう!!」
「勇者だ!!勇者が来てくれたんだ!!!」
「静粛に!静粛に!」
領主っぽい人の横にいたおじさんの一声で、騒ぎが収まり沈黙が流れた。
すると、領主っぽい金髪の青年が話しかけてきた。というかもうこの人が領主確定だろうから、勝手に領主という事にしておこう。
「聞けばそちらの青年の働きが大きいとのこと。そなた、名を何と申す。」
ヤバい。俺に話が振られた。作法なんて当然わからないが、見よう見まねでいいか。
「は!わたくしの名前はハルヤと申します!」
「ハルヤよ!此度の援軍、真に感謝する!そなたの勇敢さと、類まれな力によってこの街は救われた!突然の出来事に褒美を準備できていないが、いずれそなたの働きに免じた褒美を授与する!」
返事はなんて言えばいいんだ。もう分からん!適当だ適当!何かあったら逃げよう。
「は!有難き幸せに存じます!」
「うむ!それでは皆の者よ!此度の戦は勝利に終わった!生きている喜びを噛み締め、今日は喜ぼうではないか!」
その一言で、街は再び歓声に包まれた。
どうやら、祝勝の式典っぽいものは終わったようだ。
そりゃそうか。戦いも終わったばっかりで、そんな大々的には出来ないもんな。復興作業とかあるだろうし。
さて、俺の役目も終わりかな。ところところで歓声の中に「勇者!」という声が混じっていた気がするが、既に勇者として認識されているという事だろうか。
そんなことを考えていると、領主の横にいたおじさんがこちらにやってきた。
「ハルヤよ。此度の働き、真に見事であった。それで、領主イグニア様がそなたに褒美をつかわすと同時に、話を聞きたいとのことであった。申し訳ないが、この後で領主館に訪ねてもらっても構わないだろうか?」
そう言えば褒美を授与するとか言ってたな。時間は惜しいが、流石に無下にはできない。それに俺も話したいことがあったしちょうどいい。
「わかりました。構いませんが、この後図書館で調べ物がしたいので、夕方ぐらいでもいいですか?あと、こちらも連れが一人いるので、一緒でも構いませんか?」
「もちろん構わない。むしろ時間は夕方ぐらいの方が私たちも好都合だ。では、また後程会おう。改めて、此度の働きに感謝する。」
そう言っておじさんは行ってしまった。
さて、モンスターとの戦いで何だかんだ疲れてしまった。
少し休みたいところではあるが、この街に来た目的は、図書館を使うことにある。
さっさとエリーを見つけて図書館に向かうとしよう。
そう考えてエリーを探すと、すぐに見つかった。
というか向こうからやってきた。
「ハルヤさん、お疲れさまでした。大活躍だったようですね。」
「そうだな。大量のモンスターを倒したからな。大活躍と言っていいだろう。」
「なんだかスッキリした顔していますね。モンスターを大量に倒すのは爽快感があるんですか?」
確かにモンスターを倒すのはちょっとした爽快感があるが、スッキリしたのは別の理由だ。
「いや、そうじゃない。俺が一人で勇者を背負おうとしていたところに、共に戦っていくと言われてな。何だか、一人じゃないって言われたようで、ちょっと肩の荷が降りたというか。ちょっと心が楽になった。」
エリーもなんだかんだ心配してくれていたのだろう。そう伝えると、安心しているようだった。
「ふふふ。なるほど。それは良かったですね。ハルヤさんが元気で安心しました。」
「すまないな。エリーにも心配かけたな。」
なんだろうな。エリーの声が、いつも戦いの緊張感から開放させてくれる。何だかんだ、コイツに気を許しているということだろうか。
「ふふふ。ハルヤさんが元気そうなので、言わないでおこうかと思いましたが今報告してしまいますね。」
「ん?なんだ?」
「ハルヤさんが街に向かう途中で撃った魔法で倒したモンスターですが、死体が街の中に落下し、8件の建物を破壊しました。内3件ではけが人も発生しましたが、回復魔法でことなきを得ました。以上です。」
忘れてた・・・。というか今言う事か?!こっちは勝利の余韻に浸ってたっていうのに!いや、俺も悪いしすぐに言うべきかもしれないが、もうちょっといいタイミングはなかったか?!
「ふふふ。でも、皆さん、街を守ってくれての行動だって分かってますから、誰も恨んでませんからご安心ください。」
なんだよ、脅かすような言い方しやがって。やっぱりコイツに気を許さない方が良い気がしてきた。
「・・・それに、私はいつまでもハルヤさんと一緒に戦いますよ。」
来ても何もしないくせに。でも、その一言が、とても心強かった。




