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パンダ

魔法を撃とうとした瞬間、【不殺】が発動した。


生き残りがいる。戦っている様子はないから、誰かが倒れているのだろう。




俺が魔法を放てないことに気がついたフェレディさんが大声を発する。



「どうした!!さっきの魔法は放てないのか?!」


「あぁ!放てない!恐らくまだ生き残りがモンスターの群れの中にいる!!」


「なんだと?!」


「俺のスキルは生きている人には撃てない!必ずどこかに生き残りがいるはずだ!」



クソ、こうなったらもう範囲魔法は放てない。


今は撃てる方向にだけ光の刃を放つことにする。


光の刃を撃ち続けていると、一カ所だけ撃てない方向があることが分かった。



そこに生き残りがいるという事か・・・!




そちらの方向に向かおうとした瞬間、声が聞こえてきた。




「その力の大きさ、貴様、さては勇者だな!」


恐ろしく獰猛な声に、そちらの方向を見ると、ソイツはいた。







パンダだ。あれはまさにパンダと言った方がいいだろう。




フォルムは、やせ型のパンダだ。でも、人と言うよりも圧倒的にパンダ寄りだ。





ただ、喋れるということと、気配の強さから言ってアイツは魔人なんじゃないだろうか。俺はすぐさま鑑定を使う。


―――――――――――――――――――――

名前:レル―

大熊猫魔人

可愛い見た目に反して、狡猾な性格をしている。獰猛な声と話し方は一見凶悪な人物と思わせるが、実は仲間思いで寂しがり屋。割と小食。


状態:憤怒


体力:5780

魔力:1590

筋力:849

防御:565

敏捷:309

知力:450



【共通スキル】統率Lv.5、格闘術Lv.8、回復魔法Lv.5、捨て身Lv.6、盾術Lv.7


【固有スキル】入れ替え、狂暴化、ドーピング



入れ替え

味方として双方が認識している場合にのみ発動可能。対象の生物と場所を入れ替える。



狂暴化

自我を失う事と引き換えに、全ステータス上昇



ドーピング

体力を消費し、一定時間ステータスを上昇。


―――――――――――――――――――――



大熊猫魔人か。やっぱりパンダ魔人じゃねぇか。


あと、前回の時もそうだったが、なぜ鑑定は性格まで伝えてしまうのか。


ぜひ今後はやめていただきたい。特に、仲間思いとか寂しがり屋とか、そういう情報は本当にいらない。



さて、パンダ魔人だが、能力的には問題なく倒せる。だが、一つ問題がある。




奴は、兵士を一人抱きかかえているのだ。




恐らく、俺たちが大声で人に向けてスキルを放つことができないことをしゃべっていたせいで、やつは人質をとったということだ。



賢い。いや、こっちがあまりにもバカだったというか。


完全に無警戒だった。



フェレディさんはまだいい。この状況において魔人がいることは知らないだろうからな。


ただ、俺は知っていたというのに、何も警戒せずにいてしまった。


魔人は喋れる。言葉も理解している。知能もある。そのことを知っているはずなのに、何も考えていなかった。



こんな見た目パンダな奴に上を取られたようで、無性に悔しくなった。





「クハハハ!勇者よ!我に魔法は使えないようだな!まさか本当にこの作戦が有効だとはな!」




捕まっている人はグッタリしているが、パンダのフサフサの毛に包まれているのだ。ちょっとうらやましい。



さて、どうしようかな。と言っても、色々やりようはあるのだが。




「さぁて、勇者よ。まずはその武器を置くのだ。兵士たちもだ。もし置かなければこの人間を殺すぞ?」



・・・なるほど。人質か。誰かが死んでしまうのは嫌だな。とりあえず俺はさっき拾っておいた剣を置いた。どうせ拾い物だし、最悪格闘術で何とかなる。




しかし、フェレディさんは魔人に言った。あまりにも単刀直入に。





「はぁ?!お主はバカなのか?もしその者が死ねば、お主に攻撃がいくのだぞ?!唯一の盾をそんなに簡単に捨てるのかお主は?!」





そうなのだ。人質をとって何故か勝ち誇っていたパンダだが、その人質は唯一の盾であり、その人を殺した瞬間に、俺の魔法が当たるようになる。


だから、本来丁重に扱わないといけない。というか、人を抱えたまま逃げるのが一番良い選択のはずだ。そんで人里に紛れれば俺の攻撃は回避しやすくなる。


なのに、奴はなぜか勝ち誇って出てきてしまっていた。




俺は流石に誰かが傷つくのが嫌なので、相手の口車に乗って、油断しているところを無属性魔法で捕まえようかと思っていたが、フェレディさんは思ったことを素直に口に出すタイプだったようだ。





「・・・!」


あ、パンダが口を開いて唖然としている。やっぱり考えてなかったのか。馬鹿だなコイツ。





とりあえず、俺は無魔法で唖然としているパンダを拘束した。



「な・・・何をした?!」



捉えられたパンダはじたばたしている。


ついでに捕まえられていた人を回収する。




「よし、これで心置きなく魔法を撃てるな。」



とりあえず、パンダの後方にいるモンスターに向けて、俺はそこそこの魔力を込めて風魔法を放つ。ハリケーンだ。


周辺にいたモンスターを巻き込み、ハリケーンは進んでいく。




パンダはその光景を見ながら、唖然としている。



ついでに、フェレディさんたちも唖然としている。



俺も唖然としている。






周辺にあった森も、多くの木が吹き飛ばされてしまった。


季節は秋だったしな、落ち葉も凄いことになっている。


ハリケーンは落ち葉の衣を装い、鮮やかだ。


そして巻き込まれた末に吹き飛んでいったモンスターや木や落ち葉が周辺の街道やらなにやらをグチャグチャにしていく。





使う魔法間違えたなぁ・・・。






長い沈黙の後、パンダは口を開いた。



「なんでこんなやつが来たんだ!ついてねぇ!」



とりあえず、街の人たちには後で謝ろう。今はコイツについてが先決だ。



「それで、お前は何なんだ?」



「俺の名前は!」

「あ、名前はいい。大熊猫魔人のレル―だろ?見たから。分かってるからそれはいい。何しに来た?」


「な!何故それを!」


「いや、鑑定の能力で見たから、それで、何の目的でここにきたんだ?」


「そんな能力まで持ってるのか?!卑怯じゃないか!クソ!この魔法を解除しろ!」



するわけねぇだろ。コイツも面倒だな。話が進まない。グラリナスの時と同様に、顔のスレスレに光線を放つ。




「それで、何しに来た?」


「ひぃぃぃ!わ、我々は、この世界を乗っ取るために魔王様に遣わされた者だ!」


「なるほど。それで、他の街にもお前たちのような魔人が送られたのか?何人だ?魔王はどこにいる?」


「わ、私はそこまでの情報はもっていない!魔人の数も知らないが、百以上は送られたはずだ!魔王様の居場所は私はしらない!本当だぞ!」


「なるほど。コイツもあんまり情報は持ってなさそうだな。」


俺は魔力を込めた雷魔法を放とうとする。



「待て待て待て!私には、友がいる!もし私を倒せばソイツの恨みを買うぞ!」


「別に、魔人の恨みならいくらでも買っていいよ。どうせ安もんだし。」


「クソ―!我が友グラリナスよ!必ず、我の敵を!」




「あ、ソイツもう倒しちゃった。」



「な、なんだとおおお?!」



それが魔人レル―の最後の言葉だった。


ちょっと見た目がパンダで可愛かったので一瞬気が引けたが、奴は魔人だしな。


雷魔法でレルーが塵となって消滅すると同時に、周辺一帯に青空が戻ってきた。


よかった、これでこの辺も大丈夫だろう。




さて、兵士たちはなおも唖然としている。


あまりにもな出来事に、どうしていいかわからない感じだ。



すると、総大将が出てきた。


「そなたがいなければ、この街は滅んでいたかもしれん、本当に、本当にありがとう。」



感謝された。こちらとしても何とか街の崩壊前に間に合って良かった。



「戦える力があるから来ただけだ。それに、そこまで強敵じゃなかったから、何も問題じゃない。」


「なんと、あの敵が脅威じゃないとは・・。しかし、あの魔法の威力を見ればそれも頷ける。そこまでの力、やはりそなたは、あの魔人とやらが言っていたように勇者なのか?」



さて、何と言ったものか。正直に、勇者だって言えればそれでいいんだが。



「・・・いや、ただの何でも屋だ。」


「何でも屋?勇者じゃないのにこんなに強いというのか?」


「そういう奴もいるってことだ。何にせよ、助かったから良いじゃないか。」



勇者だと言えなかった。怖いという部分もある。勇者という重荷を背負うことが。だから、はぐらかした。



「総大将!!今は勇者かどうかはいいではありませんか!!それより、モンスターがいなくなったのです!!死者を弔ってやろうじゃないですか!!」



相変わらず馬鹿でかい声だ。ただ、今はそんな大声に救われる。


周りの兵士たちも頷いて、死者を集めだした。




見たくはない。助けられたかもしれない命だ。


そんなことを思っていると、声が聞こえた。






「・・・なんでもうちょっと早く来てくれなかったんだ。」







心臓が跳ね上がった。



今言ったのは、誰かはわからない。独り言なのだろう、俺に向けて語られたわけじゃないようだ。




きっと、仲間が死んでしまったんだろう。



震えた声が、親しい誰かを亡くしたのだという事を伝えてきた。








言外に伝えてくる。お前のせいだって。



もっと早く来てくれたら、助かったのにという文句が、言葉にまとった雰囲気が伝えてくる。




・・・何だよそれ。俺のせいかよ。




だから、勇者だって言いたくなかったんだ。



【勇者】に≪異世界の救世主≫に、あこがれも多少はあった。だけど、エリーと話すうちに、その責任の重さを痛感させられた。勇者であることが怖くなった。



もし俺が勇者と名乗れば、その瞬間に世界の平和の責任を、命の責任を背負わされるようで、怖いんだ。



だから、何でも屋なんてカッコつけて。でも本当は勇者でいたくないだけで。





気持は分かるよ。あんな魔法でモンスターを簡単に蹴散らせるんだ。


あと少し、一時間でも二時間でも早く来てくれたら、もっと犠牲は少なかったのにって思うよな。






でも、なんでその責任を俺が背負わなきゃいけないんだよ。



俺だって好きで【勇者】や≪異世界からの救世主≫なわけじゃねぇ!





チートが欲しいかと聞かれたから【はい】と答えただけだ!




誰かを救いたいなんて思いはなかった!そんな大層な役目はいらなかった!!




でもしょうがないだろ?!力を持った以上、助けないことの方が悪いように感じるんだよ!


だから、助けてるんだ!!



俺に、責任を押し付けるなよ!命を、背負わせるなよ!!





勇者に全てを押し付けるなよ!!!!








「今言ったのはどこのどいつだ!!!!!!」






俺じゃない。

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