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葬儀

モンスターとの戦闘はあっという間に終わった。時間にして一時間もかかってないだろう。



村に戻ると、パニックになっていた村人たちだったが、まだ教会前に全員が残っていた。


青空が戻ってきたからか、落ち着きを取り戻しているように見える。


心配そうな顔をしている者もいるが、あちらこちらで笑い声も聞こえてくるから大丈夫だろう。


俺は居なかったことがバレないように、コッソリと集団に戻っていく。




「ハルヤさん、おかえりなさい。」


エリーが出迎えてくれた。ずっとここにいたのだろうか。


「ただいま。村の人たちは大丈夫だったか?」


「えぇ、あのあとも引き続きパニックになっていましたが、全員がどうしていいかわからず戸惑っていましたので、私の預言のスキルを村長にお伝えし、「神の預言が大丈夫だと告げている」と伝えてもらいましたら落ち着きました。」


「そんな預言があったのか?」


なんだ、神はそういう預言もくれるのか、と思っていたら、エリーはすっとぼけた顔をしている。


「え?そんな都合よくあるわけないじゃないですか。」


「じゃあ嘘かよ・・・」


「ふふふ。何を言いますか。神はハルヤさんという勇者を遣わしたのですから、それはもう「大丈夫」と言っているのと同義ですよ。だから、嘘じゃありません。解釈です。」



こいつって、割と大胆不敵なところがあるよな。ふてぶてしいというか。


ただまぁ、今回はコイツのおかげで村の人たちがパニックにならずに済んだんだ。良しとするしかないか。



「それで、ハルヤさんこそ大丈夫だったんですか?」



「あぁ、何も問題はなかった。・・・ただ、グラリアスとか言う魔人が現れてな。どうやら今この世界を魔王が乗っ取ろうとしているらしい。空が暗いのも、異界とつながったからなんだとか。」



これによって俺は、いよいよ勇者として遣わされていくのだろう。ハッキリ言って心はもうすでに決まりかけている。誰かを助けられる力があって、それを使わないと悲しむ人がたくさんいるわけで、勇者をやらないわけにはいかなくなった。



だというのに、エリーはやっぱりエリーだった。



「なるほど。魔王が攻めてきたというわけですね。嫌な魔王ですね。こっちは収穫感謝祭で楽しんでいるというのに、せめて明日来てくれたらよかったのに。」


「・・・いや、問題はそこじゃないだろ。」


「年に一回のお祭りが潰されたんですよ?大問題じゃないですか。」


「つってももし魔王が攻めてきて滅ぼされたら年一回どころか一生潰されることになるんだが・・・。」


「だからですよ。せめて楽しい思い出を胸に死んでいきたいのに、収穫感謝が中止になったまま死んだら悔いが残るじゃないですか。きっと魔王はそれを狙っていたんですよ。魔王は卑劣な者であることがよく分かりましたよ。」


「・・・なんで死ぬ前提なんだよ。」



何だかんだ、話をあまり重たい方向に持っていかないようにしてくれるエリーは、優しい奴なんだろうな。時々会話が面倒になることもあるが。


初めての大規模なモンスターの群れとの戦闘で、何だかんだで殺気立っていた俺は、途端に緊張の糸が切れたように感じ、ため息をついた。



「あら?魔王をけなすとため息ですか?やはりハルヤさんはモンスターの勇者であるという事ですか・・・?」



「んなわけねぇよ!あまりにもあんたの緊張感がねぇからため息ついただけだ!」



「緊張感ですか?あるわけないじゃないですか。だってハルヤさんが戦いに行ったんですから、それはもう勝ったも同然だったわけで。いわばこれは信頼の証しですよ。ふふふ。」



「あんたの信頼は分かり辛いんだよ。」



「残念ながら信頼は見せられないので、こればかりは信じていただくしかありませんね。なのでこれは私のせいではなく、ハルヤさんの疑う心に問題がありますね。」



「俺のせいかよ!」


またいつものペースに持っていかれてしまった。これからのこととか考えると、勇者とか魔王とか異界とか、本当だったら重大な問題を抱えているはずなのに、そんなものも全部含めて、どうでもよくなってくる。



緊張感も毒気も抜かれてしまった俺は、いつの間にか笑っていた。




すると、一人の村人が走ってきた。




とっつぁんだ。




ミトばあちゃんの息子で、フランクという名前の50後半のおじさんだ。


何かあったのだろう、焦った顔でこちらに走ってきている。




「はぁはぁ・・・大変だ!ばあちゃんが!」




え・・・?ミトばあちゃん?




「はぁはぁ・・ミトばあちゃんが、目を覚まさねぇ!」




その一言で、村の人たち全員がとっつぁんを見た。



今日、この場所にミトばあちゃんは来ていない。


高齢だったから来てないだけなのかと思ってたが、目を覚まさないから来られなかったのか?




とっつぁんはなおも叫ぶ。




「カール司祭様!急いで家まで来てくれ!」



司祭は、この村唯一の司祭であると同時に、唯一の医者だ。


医者といっても、健康状態をスキルで診るだけで、処方することは出来ない。


それでも、自分の病状がなんであるかが分かるだけでも十分だ。



「わかりました!急いでいきましょう!」



と言っても、司祭はヨボヨボのじいちゃんだ。大人が急いで行っても、ここからミトばあちゃんの家までは歩いて30分はかかる。司祭なら余計に時間がかかるだろう。なら、俺が手伝うしかない。



「俺が司祭様を背負っていきます!急いでいきましょう!」



「おぉハルヤか!お前なら体力もあるし大丈夫だろう!司祭様!ハルヤが負ぶってくれるって言うから、急いでいきましょう!」



「分かりました。ハルヤさん、お願いしますね。ただ、乗り物には強くないので、できればあまり揺らさないでほしいのですが・・・。」



「善処します!」



そう言って俺たちはミトばあちゃんのところまで小走りで向かった。



何だかんだ村の人たちも一緒についてきた。全員だ。



ミトばあちゃんはこの村の最長老でもあったし、人柄もあってか村のみんなが大好きな人だ。



俺ももちろんその一人だ。よそ者の俺を、まず初めに「ハルヤ」と呼んでくれたのはミトばあちゃんだったからな。嬉しかったのを覚えている。




そんな感情が後押ししたのか、俺は司祭を負ぶっているにもかかわらず、結構なスピードで走ってしまった。


村人も誰一人ついてこれていない。


これでもかなり【手加減】しているのだが。でも今は急ぐ方が大事だ。



司祭も何とか気を失っていないから大丈夫だ。いや、気を失っても回復魔法があるから大丈夫だ。ひどいかもしれないが、とにかく急ごう。





ミトばあちゃんの家に着いた。


とっつぁんも急いできたのだろう。ドアが開きっぱなしだ。勝手に入る。




いつも寝ているところに、ミトばあちゃんがいた。






・・・あぁ、嫌だなぁ。いつも俺のスキルは嫌な時によく働く。

いや、この場合、何も働いていないと言った方が良いかな。





【気配察知】も、【聴覚補正】も、なんにも働かない。









司祭は、スキルを使って診たのだろう。そして、祈り始めた。



「父なる神よ・・・。どうか、ここに眠る魂を、あなたが御許で温かく受け入れてください。」






その一言が、ミトばあちゃんが死んだことを告げている。




俺は思わず、泣いていた。司祭も、泣いている。





沈黙の時間を過ごしていると、村の人たちも家に着いたのだろう。外が騒がしくなってきた。


司祭と一緒に玄関に行くと、村の皆が駆け寄ってくるのが分かった。




「ばあちゃんは?!ばあちゃんはどうだったんだ?!」



司祭は、重たそうに、だが、キッパリと語った。



「・・・ミトさんは、天に召されました。老衰です。」




一端の沈黙の後、とっつぁんが口を開く。



「・・・そうか。老衰か。本当に、最後まで、幸せだったんだな。」



「えぇ、召され方として、これ以上のものはないでしょう。何も苦しまず、眠るように天に召されたのだと思います。」



「ばあちゃんは、天国にいけますか?」



「えぇ、必ず。」



「そうですか。・・・良かったなぁばあちゃん。」



前の世界でも、老衰は苦しまずに眠るように亡くなる、一番良い死に方だと聞いたことがある。


でも、やっぱり悲しいものは悲しい。



高齢だから覚悟もしていたし、死に方も良かったのかもしれないが、それでも悲しいものは悲しい。


村の人皆が泣いている。とっつぁんも、村長も、おばさんも、司祭も、一度しか会ったことのないエリーも泣いている。



この涙が、ばあちゃんの人柄を表している。







そのまま、葬儀になった。


本当だったら次の日に行うらしいが、今日は収穫感謝祭で、村の全員が集まっているし、ばあちゃんも賑やかな方がいいだろうとのことで、そのまま葬儀に移っていった。




前の世界のように火葬ではない。土葬だ。




墓場に行き、そこに常に用意されている棺にばあちゃんを収めると、その棺を前に、司祭の祈りが捧げられた。


そして、まだ誰も収められていない場所に埋めてあげた。


村の人みんなで穴を掘り、みんなで埋める。これがこの世界の葬儀の方法なのだろうか。



そんなことはどうでもいいか。今は、ばあちゃんが安らかに天国に行けるように願いながら、俺も土をかぶせてあげる。




あぁ、そういえば今日は挨拶がまだだったな。遅くなったが、最後の挨拶だ。




「・・・良く生きた。本当に、良く生きた。」



静かに、最後の挨拶を、ばあちゃんだけに語ったつもりだった。でも、とっつぁんには聞こえていたようだ。


「ハルヤ、ありがとな。ばぁちゃん最近はいつも、「ハルヤが生きたことを褒めてくれる」って嬉しそうに話しててな。おかげで、ばぁちゃんは最後の最後まで、元気でいられたんだよ。」



「・・・そうですか。こんな僕でも、出来ることがあってよかったです。」



「何言ってやがる。ハルヤは何でも出来るじゃねぇか。」



「そうですかね?」



「あぁ、間違いない。なんたって、ばぁちゃんが言ってたからな。何でも屋は、何でもできるって。」



何でも、は流石に言い過ぎだ。


どれだけスキルを願っても、人を生き返らせるスキルは、残念ながら覚えられなかった。


こればかりは、神だけのものなのだろう。


だから、俺は何でも出来るわけじゃない。




でも、俺にはこの世界で俺にしか出来ないこともある。




「何でもできる、かぁ。じゃあ、世界でも救ってみましょうかね。」



「ハッハッハ!何でもって言ったが、世界と来たか!そんだけのことが出来たら、ばあちゃんもビックリして目を覚ますかもしれないな!」



「なるほど、じゃあなおさら、世界を救わないとですね。」



「あぁ、期待してるよ。」






ばあちゃんの葬儀が終わると、宴会になった。


収穫感謝祭が中止されていたからな。その分もあって、宴会になった。ミトばあちゃんへの弔いでもある。



宴会と言っても、みんなどこかしんみりしている。


今日はいろいろあったからな、空が暗くなって、晴れたと思ったらミトばあちゃんが死んで。



ただのお祭り騒ぎとはいかなくなった。


それでも、腹は減る。腹が減ると余計に悲しくなる。


だから、みんな何だかんだいっぱい食べて、収穫を喜んでいる。



悲しさを紛らわせるように。不安を押し殺すように。


食べて、飲んで、また日常に戻っていく。




それが、最も正しいのかもしれない。


日常は、嫌なことを後回しにさせてくれる。悲しまないように、考え込まないように、やることを用意してくれる。


止まらないように、倒れないように、歩き続ける道を用意してくれる。




俺も、その日常に戻ることも出来る。でも、俺は日常に戻りたいとは思わなかった。




俺はこの日常を守りたいんだ。


誰もが、「よく生きた」と言って、死ねるように。


突然その時がやってきて、悔いが残ってしまう事の無いように。






帰り道、エリーと二人で帰るこの道は、しばらく通ることはないのだろう。


きっと今も、困っている人はたくさんいる。だから、俺はすぐに旅立つことに決めていた。



「ハルヤさん、どうやら、決まったみたいですね。」



エリーには、俺の覚悟が伝わってしまったのか。



「あぁ、決めたよ。」


「どうするんですか?」





「勇者は、やらない。」





エリーがちょっと驚いている。コイツは、俺が勇者をやると思っていたのだろう。勇者なんかやらないよ。俺にそんな大層なもんは無理だ。




「俺がやるのは、何でも屋だ。これからは何でも屋として勇者という働きをするだけだ。」



「ふふふ。なるほど、私の案が採用されたわけですね。」



「ちげぇよ。エリーの案じゃねぇ。」



「あら?そうでしたか?」



「ミトばあちゃんだ。何でも屋は、何でもできるんだとよ。だから、ちょっと世界を救ってこようかなってな。」



「なるほど、流石にミトさんには勝てませんね。お譲りしましょう。」



「というわけで、俺はこれから旅に出る。エリーはどうするんだ?」



「どう、とは?」



「いや、別に俺の旅についてくる理由もねぇだろ。危険もあるし。それに俺は時空魔法が使える。それを使えばいつでも帰ってこれるから、ちょくちょく帰ってくれば預言も伝えられるし、無理に一緒に行く必要はねぇぞ?」



実際そうだ。これからはきっと危険な旅になる。エリーを連れていく必要もないだろうし、預言を聞きに戻っても来れる。



だから、一緒にくる必要はない。だというのに、こちらの心配はよそに、エリーは何を言っているのかと言う顔をしている。



「なるほど、時空魔法ですか。ハルヤさんは思ったより便利なんですね。」



「だから便利って言うなよ。」



「失礼しました。快適でしたね。それはそうと、ついて行かないという選択肢はないですね。」



「危険だぞ?」



「刺激的でいいじゃありませんか。私こう見えても刺激を欲する人間なんですよ?ふふふ」





やっぱりこいつは面倒だな。置いていこうかな。

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