魔人グラリナス
眼前に広がるのは、モンスターの大群。その数は正確にはわからないが、数千はいるだろう。
あの後、パニックに陥っていた村の人たちはエリーに任せて、俺は一人モンスターの場所までやってきた。
モンスターは村に向かって一直線に進んでいるようだ。気持ち悪いほどのモンスターの群れが、列をなして進んでいる。
モンスターの群れと言っても、種類は様々で、大きいモンスターから小さいモンスター、鳥みたいなのも、獣みたいなのも、岩みたいなのも、妖怪みたいなのもいる。
よくもまぁこれだけのモンスターを集めたものだ。いや、生み出したのかもしれないが。そんなのはどっちでもいい。
改めて凄い数である。
ただ、俺にとって脅威になりそうなモンスターはどうやらいなさそうだ。
ならば、倒すのは簡単だ。
最大級の魔法をぶっ放せばいい。
なんせ俺は【勇者】である前に、チートだからな。チートに苦戦は似合わない。ここは一気に終わらせてやる。久々の全力戦闘だ。
まず重力魔法で空を飛ぶモンスターを地面に落とした。
一番速度が速そうだったからな。一匹でも村に行ってしまったら厄介だ。
こんなモンスターでも村に出たら災害になりかねないので、注意しなければならない。
空を飛んでいたモンスターの中には竜のような姿のモンスターもいたが、もれなく全てのモンスターが地面に落とされた。割と爽快感があるが、落ちたモンスターを見てみるとペチャンコになっているモンスターもいた。
見なきゃよかった。
とりあえず一番の脅威となりそうなモンスターを倒した俺は、すぐさま地面に降りた。
そして地面に落とされたモンスターも含めて一直線になっているモンスターの列めがけて、光魔法を放った。
光魔法は最大Lv.で超巨大な光線を放つことが出来る。直線状に伸びたモンスターを一掃するにはちょうどいい。
魔力を多めに込めて放った光魔法は、周囲の木々も全て塵に変え、大きな一本道を作り出した。
地盤整理に役立つかな。トンネル工事とかに便利そう。
あまりの威力に若干現実逃避しながらも、戦況を確認する。
どうやら、今の魔法で大半のモンスターが死んだようだ。レベルも1327まで上がっている。
既に人外である俺がさらに人外になっていく。まぁ、今更か。
光魔法で大半のモンスターを倒すことができたが、光線の範囲外にいたモンスターたちが左右に散らばっていることが気配察知で分かった。
俺はその方向めがけて、風魔法を放つ。もちろん、最大Lv.で。
風魔法の最大Lv.魔法は、竜巻なんてものではない。巨大ハリケーンだ。さらに、中でかまいたちも起こっているようだ。これは放ってから気がついた。
上に上がっていくだけかと思ったら、モンスターが細切れにされてるからな。
大量のモンスターが細切れにされながら飲み込まれていく光景は、見ていて気持ちのいいものではない。
それでも、モンスターを一掃できることに、ちょっとした爽快感を覚えていた。
いやいやいや、マズイマズイ。爽快感とか覚えちゃまずいだろ。
バトルジャンキー一直線だ。
しっかりしろ俺、このままじゃこの力に飲み込まれてしまう。
なんだかエリーが昨日言っていた、勇者の力に浸食されるというのが現実味を帯びているような気がした。
あ、でもあいつの話じゃモンスターにとっての勇者ってことだったしな。
細切れになってくモンスターを前にして、そんなことはあり得ないだろう。
どうやら、今の魔法でモンスターの群れは壊滅状態に陥ったようだ。
撃ち漏らしも多少はいたが、各戸対応することでほぼ全てのモンスターを討伐できた。
・・・だが、一匹だけ残っている。それも、かなり強力な個体だ。と言っても、せいぜいがあのレッドドラゴンぐらいだろうが。それでも他のモンスターに比べてとびぬけて強いことが分かる。
多分、ここからでも魔法一発で倒せるとは思うが、どんなモンスターなのかちょっと気になったので、見に行って見よう。
さっきまでの場所から2キロほど行ったところに、そいつはいた。
緑色の太ったモンスターだった。鑑定してみよう。
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名前 :グラリナス
種族名:緑鬼魔人
緑鬼族から進化した魔人。高い知能と指揮能力で、大量のモンスターを統べるのが得意である。怖がりでずる賢い。モンスターの中では高い知能を持つため、中間管理職がよく任される。日ごろから悩みがち。
状態:毛根死滅、恐慌
体力:3780
魔力:3590
筋力:632
防御:481
敏捷:419
知力:1011
【共通スキル】統率Lv.8、火魔法Lv.6、闇魔法Lv.7、時空魔法Lv.4、戦況理解Lv.7
【固有スキル】鼓舞、撤退、大声
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中々のステータスだ。説明欄が多少不憫な気がするが、今はそんなことはどうでもいい。
【魔人】というのが気になった。
魔人という存在は、初めて見た。
サムエルさんから逃げた後、森の中とか荒れ野とか、色々な場所で色々なモンスターに出会ったが、魔人は一匹もいなかった。いや、一人か。魔人だしな。
もちろん、街の中でも見ていない。
なんなんだろうか、魔人とは。
やはりこの世界の危機には魔人が関係していることだろうか。
それに、レベル100で解放されたチートパックの中身は、敵が魔人であることを示唆しているようなものだった。
チートパックの中には、レベルに応じて解放される能力がある。
レベル10で【メニュー】が解放されたように、レベル100でもスキルが解放された。
能力の名前は【不殺】だ。
ただ、これはスキルでも何でもなくて、制限だった。
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【不殺】
魔のつく者以外の人族を殺せない。
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つまり、人に対して死に直結するような攻撃を、俺は出来なくなってしまったのだ。
ただ、制限でもあるが、力が強すぎる俺にとってはありがたいスキルでもあった。
サムエルさんたちから逃げ出し、森と荒れ野で数日過ごし、やさぐれていた俺は、ナザールの街に着いた初日、酒場でヤケ酒をあおっていた。
その時に、酔っ払いのおっさんがあまりにもなダル絡みをしてきやがった。
なんでも、俺の席がそいつのいつも座ってる席だからという理由で、後から店に入ってきていきなり俺に突っかかってきやがったんだ。
口で言うなら退いてやっても良かったんだが、あろうことかそいつはいきなり俺を殴りつけてきた。こっちも腹が立って殴り返そうと思ったら、突然謎の力が働いて、殴ることが出来なかったんだ。
恐らく、あれが【不殺】の効果なのだろう。
あの時は、【手加減】も覚えてなかったからな、この【不殺】がなかったらその人を殺していた可能性があるということだ。それに気が着いた時は、この能力に滅茶苦茶感謝した。
人殺しなんてなったら、それこそ俺はもうどうにかなってしまいそうだからな。
ちなみに、これは自分にも適応される。
俺は自分の力が嫌になって、自分で自分に特大魔法を撃てば死ねるんじゃないかと思って、かなり怖かったが魔法を使おうとしたことがある。
ただ、撃てなかった。
威力の弱い魔法であれば自分に対して撃つことができた。
ただ、あまりにも強大な魔法は撃てなかった。死に繋がる威力だったのかはわからんが、何らかの力が働いて撃てなかった。
恐らく、あれも【不殺】の効果なのだろう。
そんなこんなで【不殺】には割と助けられている俺だが、この【魔人】は恐らく【不殺】の適応外なのだろう。【魔のつく者以外の人族】が対象だからな、明らかに魔人が想定されている。
つまり、魔人はスキルで守る必要のない存在だと、神が認めたという事だ。
とすると俺の相手は魔人なのか?うーん出来れば人型以外が良かった。そっちの方がやりやすいし。
そんなことを考えていると、震えながらうずくまっていた魔人がこちらを見ていた。
「おおおお前が、ここここれを、やややったたたたのかかかか?!」
滅茶苦茶声が震えている。流石に特徴的なしゃべり方ってわけじゃないよな?鑑定にも「怖がり」って書いてあったしな。怖いんだろう。
ただ、喋るのか。ちょっと倒しづらくなる。
「あぁ、俺がやった。」
「おおおお前が、ゆゆゆ勇者なのか?!」
「いや、違う。職業が【勇者】なだけで、俺はただの何でも屋だ。」
魔人はちょっと理解が出来なかったのだろう。一瞬考えた。
「そそそれは、勇者ってことじゃないか!!!」
「いや、職業が【勇者】なだけで、俺はまだ自分を勇者とは認めてねぇ。」
いよいよ魔人はわけが分からなくなったのだろう、考え込んでいる。
あ、段々と震えも止まってきている。もう訳の分からない状況にパニックになっているのだろう。
「訳のわからねぇこといいやがって!!俺を混乱させる気だな!!」
「別にそんな気ねぇよ。混乱させなくても勝てるし。」
「クソ―!なんだってこんな盗賊みたいな見た目の奴に負けなきゃなんねぇんだ!せめてもうちょっと勇者っぽい奴来いよ!クソが!」
ちなみに今の俺はサムエルさんからもらった盗賊の服を着ている。あれが一番性能が良いし、軽くて動きやすいからな。
ナザールの街でもっといい服も売ってたが、高くて買えなかったから我慢した。
それに、ぶっちゃけ装備で上げられるステータスって、俺にとってはたかが知れてるしな。
「それで、さっきからお前ばっかり質問してるから、今度はこっちからの質問だ。お前は何なんだ?」
「あ?俺か?!俺の名前はグラリナス!緑鬼魔人のグラリナスだ!」
知ってるよ。鑑定で見たし。んなことが聞きたいわけじゃない。
「いや、そんなのはどうでも良いんだよ。どこから何しにやってきたんだ?」
「どうでも良いって言うな!俺はこの戦いでどうせ戦死するんだぞ?!名乗ってから死にたいだろ!」
何なんだよコイツ、面倒くさいな!ちょっと脅すように小さめの光線を奴の顔の横スレスレを通るように放った。
「それで、どこから何しに来たんだ?」
しばらく固まっていた魔人だが、少しすると丁寧に喋りだした。
「あ~わたくしは魔王様から派遣されましてね。魔王様がこの世界を乗っ取ると言われていたので、異界からやってきたわけです。ごめんなさい。」
脅しのおかげか、随分としおらしくなったな。流石中間管理職。対応が早い。
それにしても魔王か・・。やっぱりいるんだな魔王。それが俺の相手なのかな。
「なるほど。魔王か。・・・この空の暗さは何だ?」
「あ~これは異界とつながったという証拠だと思いますね。異界ではこの空が通常でしてね。なんでもこっちの世界では空は青いんだとかで?すみませんね、塗り替えちゃって。魔王様も悪気があったわけじゃないと思うんですけどね?」
乗っ取るとか言ってたくせに、悪気しかねぇだろ。むしろ悪気がなかったらそっちの方がやべえよ。
「異界とはなんだ?そこにはお前みたいな魔人がたくさんいるのか?」
「異界というのは、こことは別の世界です。裏側と言った方が良いですかね。まぁ、私からしたらこの世界が裏側ですが。そこには魔人はいますが、魔人は力を獲得して進化しなければなれませんから、数はそんなにいませんよ。」
裏側か。表と裏が繋がったということか。いや、空が塗り替えられているという事は表が裏に侵略されていると言った方が良いだろう。
「世界全体がこうなっているのか?これからモンスターや魔人が大量に来るのか?」
「さぁ?どうなんでしょうかね?わたくしあまり立場が上の方ではありません。そのような作戦会議などには参加できませんので、詳細な情報は持ち合わせていません。申し訳ありません。」
潔い魔人は綺麗に頭を下げながら申し訳なさをアピールする。
死滅した毛根がまぶしいのでやめてほしい。
「なるほど。じゃあ、お前から聞きたいことはもうないな。」
そう言って、俺は短剣を取り出した。
「待って待って待って!せめて、せめて魔法にしてくださいよ!一瞬で楽にしてください!」
別に死ぬならなんだって良いだろうに。最後まで贅沢を言いやがる。
「それか、それか聖剣でも良い!死に際ぐらいカッコよく散らせろよ!バカ勇者!」
段々と口が悪くなってきた。
ダメだ、これ以上コイツと話していると、何だか情が湧いてきそうだ。
緑の気持ち悪い見た目だが。話せるって偉大だな。それだけで親近感を持ってしまう。
「分かったよ。お前の望み通り、魔法で散らせてやる。」
「何が望み通りだ!望み通りなら見逃せバカ!」
お前が言ったんだろうが!それに見逃せば何するかわからんからな。流石にそれは出来ない。
「悪いが、それは出来そうにない。せいぜい楽に死ぬがいい。」
「ひぃぃぃ!死にたくない!」
そう言って、逃げ出す魔人だったが、俺はそのまま雷魔法を放つ。
流石に最大Lv.を放つとあたり一帯に雷雲が発生しちゃうからな。Lv.8の雷魔法に、最大の魔力を注ぎ込み、魔人に放った。
魔人は、一瞬で塵となった。
気の毒な中間管理職魔人だったが、最後の一個手前の望みを叶えられたのだから良かっただろう。
魔人を倒すと、あたり一帯の暗い空が晴れて、青空が戻ってきた。
無事に救えたという事だろうか。少なくとも、異界との繋がりが消滅したということだ。もうこのあたり一帯は大丈夫なのだろう。
さて、村に戻るかね。
これからどうするか、考えないとな。
にしても魔人か。もうちょっと明らかに悪い奴にしとけよ。
戦いづれぇよ。




