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何でも屋

俺は、異物だ。




この世界において、俺だけは突出した能力を持っている。




周りの人間が一生懸命努力して得ようとする力を、俺だけは一瞬で手に入れてしまう。




そこに優越感なんてものはない。あまりにもレベルが違いすぎるから。



例えば、100メートル走をやっている人たちが10秒を切ろうとコンマ1秒を競い合ってる中で、自分だけは1秒もかからず100メートルを走れるとしたら、そこに優越感を得られるか?


得られる人もいるかもしれない。でも俺はそうじゃない。



あまりにもかけ離れた能力に、場違い感を抱いてしまう。申し訳なくなってしまうんだ。


ましてやそれが自分の努力ではないとあっては余計にだ。





そしてそれは、チートを持った俺には、どんな場面においても起こることだった。



俺のチートは、すべての事柄において発揮されていく。


モンスターだけではない、日常の働きすべてに発揮されていく。発揮されてしまう。




この力を使って、一躍有名人になることも出来るだろう。



ただ、それは出来なかった。やろうと思わなかった。


あのドラゴンを倒した時に感じた、虚無感が原因だ。



ドラゴンという存在は、この世界における畏怖の対象だ。


トップランカーがあらゆる手を使って、ようやく飢餓状態のドラゴン一匹倒すのがせいぜいなんだ。




ナザールの街で色々な人に鑑定を使って、俺はそのことを痛感した。


サムエルさんの能力が異常だっただけで、この世界ではスキルを5個ぐらいしか持っていないのが普通だ。たくさん持っていてもせいぜい10個ぐらいだ。


スキルLv.も、4もあったら十分に上級者だ。


自身のレベルだって、30もあったらかなりの強者だ。



そのことが、そのあまりのレベルの「低さ」に、俺はあらためて自分の異常さを痛感させられて、それ以来鑑定も人には使わなくなった。





そんな世界で、圧倒的な力をもった俺が、圧倒的な力を使って有名になるということは同時に、この世界の人々の努力をあざ笑う気がして、俺にはできなかった。



そこにあった一生懸命を馬鹿にするかのようで、俺にはできなかった。





だから俺は、出来る限り競争のない、小さな農村であるリトラスの村にやってきたんだ。




そこでの生活は気に入っていた。


誰も競争なんてしない。皆で、出来ることをして共存していく。


そこで俺は、空いている部分を色々なスキルで埋めてやることができた。


おかげで感謝された。


誰かに必要とされる。そんなことがとても嬉しくなった。





ただ、少しだけ不満もあった。チートを持っているからだ。


チートの能力を使えば、もっと凄いことが出来る。もっと大規模なことが出来る。




どこかで、この力を使って、もっと権力を得ることも、名誉を得ることも、金も女も、あらゆる贅沢を手に入れることも出来るのではないか。



そんな心の渇望を覚えていた。



あんなにチートを嫌がったのに、結局もらった力を使おうとする自分がいることに複雑な感情を抱いた。


力を持つと、どうしてもそれが使いたくなる。


力を使わない状態での生活に、不便も覚えてしまう。




もっと出来るのに、もっと強いのに、もっと便利なのに。そんな思いが徐々に膨らんでいく。


力を使いたい。もっと褒められたい。感謝されたい。



圧倒的な力を、もっと使って称賛されたい。



のんびりした村での生活で、俺は段々と刺激を求めるようになっていた。




そんな中で現れたエリーという存在。



面倒なやつではある。それに勇者として、何か面倒で危険なことをさせられそうな怖さもある。


それに【勇者】を求められると、自分ではない何かを求められているようで寂しさもあった。




でも、【勇者】という存在が必要とされることに、どこかで喜んでいた自分がいた。



ようやく、力を使う時が来たのか。


居場所のなかった異物な俺が、ようやくあるべき居場所に納まるのかと。




そのことが、今、世界に闇が落ちてきて、モンスターが大量に出現したときに、心の表側に出てきてしまった。



やっと【勇者】の出番が来たんだ。やっと≪異世界からの救世主≫になれるんだ。



世界が、街が、村が、人々が危機に陥るこの状況を



俺は喜んでいる。





それがたまらなく嫌になった。


自己顕示欲を満たすために他者の困難を望む、自分のあまりにも醜い部分を見せられているようで、気持ち悪くなった。




俺は、こんなにクソな人間だったのか。こんなに、罪深い人間だったのか。



聖人だと思ったことはない。でも、悪い奴だとも思っていなかった。



だというのに俺は、とんでもないクソ野郎だったんだ。






「・・・・さんっ!」



「・・・ルヤさんっ!」



「・・ハルヤさんっ!」




呆然とただ自分の罪深さを自覚させられていた中で、声が聞こえた。


エリーがどこか焦ったような表情で、何度も俺に声をかけていたのだ。



「ハルヤさん!?どうしました?もの凄い冷や汗ですよ。」



冷や汗?そう思って額に手をやると、確かに汗をかいていた。冬も近いこの時期なのに、汗を書くほど俺は追い詰められていたのか。



「エリー・・・俺は、俺は・・・」





「・・・ふふふ。私今良い発見をしました。冷や汗をかくハルヤさんに声をかけると、名前を呼んでもらえます。」



さっきまで焦った表情のエリーだったが、何が面白いのか名前を呼ばれて笑っている。



「それで、どうしましたか?あたりが急に暗くなったと思ったら、ボーっとし始めて、今度は悲しい顔をし始めて、何かありましたか?」



「・・・モンスターが近づいてきている。それも、大量に・・・」



エリーも驚いたのだろう。目を見開いている。



「・・・そうですか。それでは早く逃げないといけませんね。どうやって村の人たちと逃げましょうか。」


「・・・え?逃げるのか?」


「むしろ逃げないんですか?」


何を言ってるんだコイツという表情でエリーは俺を見ている。いや、お前こそ何言ってるんだよ。


「いや、俺は勇者だぞ?」


「はい、知ってますよ。」


「だったら、戦う事を願うんじゃないのか?」


「幸いなことに私以外はまだ誰もハルヤさんを勇者とは認識していませんから、今ならまだはぐらかせますよ?」



それはつまり、勇者であることを隠して逃げろってことか?


「・・・どうして」


「だって、ハルヤさんは勇者をやりたくなさそうだったじゃないですか。なら、やらなくてもいいんじゃないですか?」


「いや、ダメだろ。助ける力があるのに助けないなんて・・・。」


「・・・ハルヤさんは【勇者】がやりたくなくて今もそんなに苦しんでいるんじゃないんですか?」



エリーは俺の苦しみを勘違いしている。確かに今まで俺は【勇者】をやりたくないと語ってきた。だけど、ことその時が来た時に、人の苦しみを、世界の苦しみを、喜んでしまったんだ。だから、苦しんでいるんだ。



「・・・違う。俺は、【勇者】が怖くて苦しんでいるんじゃない。今この世界の苦しみが、みんなの不安が、【勇者】が必要とされているようで・・・。そのことが、嬉しくなってしまったんだ。・・・俺はそんなクソ野郎なんだ。」



そう、俺は人の苦しみを、絶望を喜ぶ、クソ野郎なんだ。だというのに、エリーはいつものように、笑った。



「ふふふ。やっぱりハルヤさんが勇者様で良かったです。」



なんでコイツは、この状況に笑っているんだ?



「人の苦しみを喜ぶ俺が勇者で良かったか?何言ってるんだ?」



本当に何言ってるんだコイツは。



「ハルヤさんが、あまりにも人間らしくて、ホッとしているんです。勇者って、もっと正義感が強くて、もっと善人だと思ってましたから。」



「・・・確かに俺は正義感もないし、善人でもないな。」



「だから私は嬉しいんです。私は、そんなに良い人間ではありませんので、勇者の正義感にあてられちゃうかなって思ってましたけど、初めて見た時からハルヤさんはとても人間らしくて、こういう人が勇者で良かったって私は思いましたよ。」



「・・・エリーにとってはそうかもしれないが、世の中の人にとってはそうじゃないだろ。」



「世の中の人とってはそれこそどうでもいいことでしょう。自分を助けてくれるか、助けてくれないか。大事なのはそこだけですよ。」



エリーは達観しているな。何が彼女をそうさせたのかはわからないが、時折スパッと感情を切り捨てたような語り口をする。



「だから、ハルヤさんがどういう目的だろうと、助けてくれたらそれで世の中の人は感謝すると思いますよ。そこにある思いなんて誰にもわかりませんし。」



助けてくれたらそれでいい・・・か。冷たいような気もするが、確かにそうなのかもしれない。



「人の苦難を喜ぶ、確かにそれは罪深いのかもしれません。けれど、その罪深さから生まれた行動で助かる人がいて、喜ぶ人がいるなら、それは悪いことなのでしょうか?」



偽善だろうと、それが果たされたなら、それは最早善行と呼べるのだ。エリーが言っていることはそういうことだろう。



「褒められたい、感謝されたい。自分の役割を果たしたい。そんな思いは、誰だって持っていますよ。むしろ、そういう思いなしに果たす善行の方が、私は怖いような気がします。だから、人間らしいハルヤさんが勇者でいてくれた方が、私はホッとしてしまいます。」



「・・・そうか。ホッとするか。」



「はい。それはもうホッとします。」



何だか、エリーと話していると、いつも気が抜けてしまう。さっきまで悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた。


なんだろうな、人と話すって、誰かに受け入れられるって、それだけで何にも状況は変わってないのに、なぜか状況が一変したように感じてしまう。


俺からしてみれば、人の苦しみを喜んでしまった俺は糾弾されるべきだ。なのに、エリーは「別に良いじゃないか」と言ってくれた。受け入れられた気がして、ホッとしてしまった。


他人の目を怖がっていたようで、結局は自分を最も攻めていたのは自分だったんだ。



「エリーと話してると、何か気が抜けちまった。もういいや、悩むのは後だ。とりあえずあのモンスターを蹴散らしてくるか。」



そうだった。俺はいつも問題は後回しにする性格だったんだ。


悩むのは後だ。とりあえず今はモンスターを倒しに行くか。村の人に何かあったら、そっちの方が寝覚めが悪いしな。



「問題なんて後回しにすればいいんです。勇者をやるかどうかなんて、後から決めれば良いんですよ。」



「・・・いや、ここでモンスター倒したら勇者やってるようなもんだろ。」



「いいえ、これからモンスターを倒すハルヤさんは、勇者ではなくただの何でも屋ですよ。あくまでも村の仕事の範疇です。ふふふ。」



何でも屋か。そうだな。今は勇者として世界を救いたいわけじゃない。ただ、この村の何でも屋として、困っていることを解決するだけ。



そう考えたら、ちょっと心が軽くなった。




「んじゃ、ちょっと行ってくるわ。」



「はい。行ってらっしゃい。」



エリーは笑顔で見送ってくれる。





久しぶりだな、エリーのいない依頼現場は。


まぁ、こいつはついてきてもどうせ何もしないしな。

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