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闇が落ちてきた日

収穫感謝祭の日がやってきた。


今日ばかりは村の人のほとんどが、教会にやってきている。


当然、全員は教会には入らない。入れてもせいぜいが50人程度だ。


そのため、教会の門の前で収穫感謝祭が行われる。



村の人が持ち寄った大量の収穫物が教会の前に納められている。俺も一応、角ウサギを三匹置いておいた。



収穫物を見てみると、なぜか酒が結構な数で置いてある。


しかもワイン樽っぽいのまである。この村では大体ビールを飲むのが一般的だ。


ワインなんて誰が作ったというのか。ぶどう畑なんて見たことねぇぞ。


後で飲むように持ってきたんだろうか。ならちょっと期待してしまう。俺はワインが好きだからな。



この世界のワインは意外とおいしい。というか食べ物全般が美味しい。


最近になって、その理由は水なんじゃねぇかと思っている。



この世界の水は、魔力で生み出した水が主に使われる。この魔力の水が、想像以上に美味しいのだ。


だから、この世界では水魔法は重宝される。


それに水魔法使いもスキルのLv.上げをしながら金がもらえるということもあって、喜んでその仕事を引き受ける。


リトラスの村のように小さな農村は十分に水魔法使いを抱えているわけではないが、それでも水魔法を使える人はいるし、それにこの村は山から流れる美味しい水が近くの川に流れているので、水不足になることはない。



そういった美味しい水のおかげで食料や酒がとても美味しいものになっているのではないかと思っている。


おかげで食の面ではこちらの世界に来てから困ったことはない。


欲を追えば醤油とか米が欲しいが、ない物ねだりはよくないからな。今の現状に満足することが大事だ。





さて、そんなことを考えていると、村の全ての人が収穫物を収めたのだろう、沈黙が流れ、皆が司祭に注目した。


司祭は捧げられた収穫物の前に立っていた。


ヨボヨボのおじいちゃんだ。立っている姿を見るだけでもちょっと心配になる。





「それではこれより、収穫感謝の儀を始めます。」



司祭の一言で、収穫感謝祭が始まった。


初めに歌が歌われた。と言っても俺は全然聞いたことがなかったが、みんな普通に暗記しているのか何も見ずに歌っている。


エリーですら歌っているから、有名な歌なんだろう。



恵みを受けて 喜ぶものよ

感謝のうたを 高らかに歌え

神が与えた  雪降る前に

心配りて   刈り入れたもう

世界は全て  神の畑ぞ

集めし実りを 御前に捧ぐ




楽し気なメロディーが歌われたことで、何だかこっちまで楽しくなってくる。


今まで収穫祭なんて出たことがなかったし、そもそも収穫を喜ぶことも、神に感謝することもなかった。


だからこういった文化に触れる度に、新鮮な思いを抱く。



前の世界だったら、神なんてものに感謝はしなかっただろう。信じていなかったからな。当然だ。


しかし、異世界というありえない出来事を経験すると、神という存在を少しばかり信じるようになった気がする。


と言っても、神の存在自体に感謝はあまりない。むしろ、なんでこんな風に俺をこの世界に送ったのかと、どこかで恨んでいる。



ただ、今ばかりは、みんなで神を讃えているのだ、神への恨み言は野暮だろう。俺も同じように神に感謝しようと思う。




歌が終わると、司祭の祈り、そして説教が始まった。


説教ではありがたいお言葉が語られている。ただ、まるで校長先生の話のようで、興味をもって聞こうとしないと、いたくつまらないものに感じてしまう。そして眠くなってしまう。


何とか眠気に耐えながらその時間を過ごしていると、司祭が収穫物を祝福し始めた。特に光ったりだなんだはなかったが、その姿はとても神聖なものに見えた。



「これにて、収穫感謝の儀を終わります。では、後は村長に任せましょう。」



どうやら今ので収穫感謝の儀は終わったようだ。次は何があるのだろうか?と思っていると、村長が前に出てきた。




この村の村長は、ヤムニという50歳ぐらいの気のいいおっさんである。


割と強面な顔だが、孫にデレデレしているところをよく見かける。あまり話すことは多くないが、それでも気のいい人であることは知っている。



俺がこの村に来た当初、受け入れてもらえないかもという不安の中、家を貸してほしいと土下座しに行ったら、笑って受け入れてくれた。



後で聞いたら、その時は土下座があまりにも綺麗で笑ったらしい。前の世界では土下座なんてしたことなかったが、なんだろうな、俺の隠れた才能が発揮されたのだろうか。出来れば一生隠れていてほしかったが。



村長が快く受け入れてくれたおかげで、俺はこの村に住むことが出来たし、今もこうして祭りに参加できているのだ。感謝している。



そんな思い出に浸っていると、村長が大声で村の人たちに声をかける。


「さぁ、みんなで収穫物を頂こう!」



村長の掛け声で、さっきまで静寂だった教会前が一瞬にして大騒ぎになった。


皆が捧げた収穫物のところに行く。


持って帰るのかと思ったら違った。どうやらこれからこの収穫物を整理して、皆で食べるようだ。



やっぱりそうだったか。どうりで酒がたくさん置いてあったわけだ。


それにいくつかは既に調理されていたし、収穫の儀式よりも、村としてはこの後の食事がメインなのだろう。



俺にとってはこの世界での初めての祭りだ。やっぱりこういう賑やかなのはいいな。


村人たちと一緒に、ガヤガヤと収穫物を前に賑やかにしていた時だった。






それは起こった。








世界が暗くなった。闇が落ちてきたと言った方が良いだろう。



段々と青空が失われていき、暗くどんよりした空になった。





・・・なんだこれは?




不穏な空の暗さに、村の人たちもパニックになっている。


「な、なんだ?!」


「空が急に暗くなったぞ?雨か?」





あまりにも歪な光景に、皆がパニックになりながら空を見上げる。


司祭も、村長も、村の人たちも皆が不安そうに空を見つめている。





すると、森の方角から大きな音がした。


何千、何万という数の声だ。



恐らく、かなり遠いところからの音だろう。村の人たちには聞こえていないようで、誰もその方角を向いていない。




ただ、聴覚補正を持っている俺は確かにその音を拾った。




これは、大量のモンスターの咆哮だ。




この村の近くにも、弱いモンスターは生息している。


ただ、こんな数のモンスターは当然いない。




だとすると、考えられるのは、この空の闇に包まれた瞬間に、モンスターが生まれたという事じゃないだろうか。





一体、何が起こっているのか、状況が上手くのみ込めない。


なぜ、モンスターが出てきた?なぜ、闇に包まれた?




ただ、何となく伝わってくるものがある。




・・・【勇者】が、≪異世界からの救世主≫が、必要な時がやってきたということだ。








モンスターの声が大きくなってきた。



やめろ。やめろ。




モンスターがこちらに向かってきているようだ。





やめろ。やめろ。やめろ!






早く戦いに行かないと、村の皆が危険だ。






やめろやめろやめろやめろやめろ!!!!!!








きっと村だけじゃない、今、世界が危機的な状況に包まれた。







やめてくれ!!!やめてくれよ!!!!!!






だというのに俺は








もう俺の醜さを!これ以上!見せないでくれ!!!!!






ようやく自分の役目が与えられたのだと









やめろ!!消えろ!!!!こんな感情!!!消えてしまえ!!!!!









歓喜していた。

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