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変わる日常

エリーという爆弾を抱えてから1週間。


俺の日常は少しだけ変わった。いや、精神的には大きく変わったと言っていいだろう。



仕事自体は大して変わっていないが、朝昼晩いつもエリーが一緒にいる。


何かあるとついてくるのだ。


ただついてくるだけで、コイツは何もしないが。



それがどこか居心地よくて、でもそれがどこか寂しくて。



【勇者】についてくるのか、俺についてくるのか。そんなものは答えが決まっている。






今日はまずミトばあちゃんのところに行く。


なんでも俺のマッサージはよく効くからという理由で、週に一回程度マッサージを頼まれる。


まぁ、Lv.MAXだからな。整体師としてでも稼げるぐらいに上手いんだ。そりゃそうだろう。




今日の報酬は柿5個。マッサージだけだし、金なんかむしろもらえない。


その日食う分があれば十分だ。


ちなみに、もらうのは正確には柿ではなく「トピー」と呼ばれている果物だが、柿っぽいので俺は柿と言っている。



大体どこの依頼も報酬はそんなもんだ。金じゃなくて食料。報酬と言うかおすそわけだ。


ただ、プライドの問題で俺は報酬と呼んでいる。





「よぉばあちゃん。マッサージに来たぞ。」


「おんやぁハルヤでねぇか。いつもありがとうねぇ。」


「お礼にとっちゃんからトピーもらってるからな。気にすんな。にしても今日も今日までよく生きたな。」


「ほっほっほ。いつもありがとうねぇ。そんじゃ、今日もよろしく頼もうかね。」



そう言って、家に入った俺は、ばあちゃんの体をマッサージしてあげる。


ミトばあちゃんは不思議なことに、「よく生きた」と褒めてやると、すごく喜ぶ。



以前に年を聞いたら80歳と言われ、前の世界では当たり前のようにいた年齢だが、こちらでは滅多に見ない年齢だったので思わず「よく生きたな」と言ってやったら、ミトばあちゃんは泣き出した。


何が琴線に触れたのかはよくわからんが、「ありがとう、ありがとう」と泣きながら感謝されたのをきっかけに、今では毎回挨拶のようになっている。



だが、エリーには不思議な挨拶だったんだろう。



「よく生きたなって不思議な挨拶ですね。」


「おんや、あんたは確か・・・誰だったかね。最近物忘れが激しくてねぇ。」



そういえばエリーがここに来るのは初めてだったな。



「ばあちゃん、こいつはエリーって言ってな。俺の同僚だ。」


「そうかいそうかい。ハルヤもついに結婚かい。」


「ばあちゃん、頭だけじゃなくて耳まで悪くなったか?」


「ハルヤは随分口が悪くなったもんだねぇ。」


「聞こえてるじゃねぇか。エリーはただの同僚だよ。それ以上も以下もねぇ。」


「ほっほっほ。それで、挨拶の話だったかねぇ。」



ばあちゃんめ、話逸らしやがった。ちょっと強めにマッサージしてやろうか。と言ってもこんなヨボヨボのばあさんだ。流石に怪我しそうでできない。ぐぬぬ。



「「よく生きたな」って、不思議だなと思いまして。」



「確かにそうさね。でもハルヤはいつも「生きた」ことを褒めてくれる。皆「生きて」と願うばかりなのにねぇ。」



別に俺だって「生きてくれ」と願ってるぞ?冷たい人と思われてないか?

ちょっと不安になるが、ばあちゃんはいつもと変わらず淡々と話し続ける。



「わたしゃもう十分生きた。そう思っとる。それをハルヤは認めてくれた気がしてね。嬉しくてつい泣いちまってね。それ以来、ハルヤはいつも生きたことを褒めてくれるようになったのさ。」



へぇ、そんな理由だったのか。俺も初めて聞いた。今度からはもうちょっと心を込めて言ってあげよう。


「おかげでなんだか元気が出ちまってね。死ねなくなったがね。」



老人のこういうギャグって扱いに困るよな。返し方がイマイチわからねぇ。



「なるほど。それは残念でしたね。せっかく死を覚悟していたというのに、肩透かしですね。」



・・・こいつには配慮ってもんがないのか!?僧侶だろお前、もっと優しくしてやれよ!


冷や汗をかきながらやり取りを聞いていたが、ばあちゃんは笑ってくれた。



「ほっほっほ。ハルヤも良い人を見つけたみたいだね。今度こそ安心して死ねるかねぇ。」



「見つけてねぇよ。俺が見つけられたんだ。それにコイツは色んな意味でいい人じゃねぇ。残念だったな、もうちょっと生きろ。」



「そうかい?そりゃ残念だ。悔いを残して死ぬことになるとはねぇ。」


「そんだけ言える元気がありゃ十分だ。さて、マッサージも終わりだな。」



気が付けば20分ぐらいマッサージをしていた。どうやらこれぐらいでいいらしい。


その辺はスキルLv.のおかげか感覚で分かる。



無事にマッサージを終えた俺たちは、もらった柿を食いながら、次の現場である収穫感謝の手伝いに向かう。


エリーにも柿をわたしてあるが、コイツは何もしてねぇからな。取り分は二つだ。


今日も柿がうまい。パキっとしたタイプの柿だが、甘みもそこそこで食べやすい。



「ハルヤさんは、色々な方に頼られてるんですね。」


「頼られてるわけじゃねぇよ。依頼と言っても大体は俺がいなくてもなんとかなるもんばかりだ。今のマッサージだって、別にやらなくたって何とかなることだしな。」



実際そうだ。俺がやる仕事は、生活に必要なものではない。小さな農村だ。その部分は既に埋まっていた。だから、その周りにある部分で仕事をするしかなかったからな。



「それもまた必要な仕事ですよ。必要のないことは、誰も頼みませんから。」


「そりゃそうかもしれんが・・・。っていうか、お前はいつも見てるだけだな。ちょっとは手伝えよ。」


さっきのマッサージの時もそうだが、こいつはいつも見てるだけだ。まぁ確かに手伝いを必要とする仕事がなかったとも言えるが、それでもついてくるなら何か手伝えよ。


「しょうがないじゃありませんか。私に出来ることはなさそうでしたし。」


「なさそうでも探すんだよ。そうすりゃ見つかる時もある。」


「なるほど、確かにそうですね。では次は探すことにいたしましょう。」


「・・・見つけることじゃなく、探すことを目的にしてないか?」


「いいえそんなことはありませんよ。ハルヤさんの目を逸らさせるのが目的ですから、探すのは手段です。」


「見つけることを目的にしろ!」



コイツとのやり取りはいつもこんな感じで適当だ。何なんだよ。そもそも何で神はコイツを俺のところに連れてきたんだ。せめてもうちょっと真面目な奴を連れて来いよ。



もしくはコイツに「働け」って預言を与えてくれ。




収穫感謝祭の場所である教会に着いた。


木造建築の小さな教会は、この村唯一の公共施設でもある。


洗礼式や祭り、時には村の会議もこの教会で行われる。


村のみんなで管理して、村のみんなで司祭に給料を払う。と言っても、給料とは名ばかりの食料ばかりだが。




収穫感謝祭は明日行われる。そのため、今日はこの教会の掃除をするらしい。


ちなみにこれは依頼ではない。参加できる人が参加するというものだが、よそ者の俺はこういったものには積極的に参加することにしている。


祭りの時とは別に月に一回はこうして掃除の日が設けられているが、俺は必ず出席している。


顔も覚えられるし、信頼もされる。何より暇だしな。


男の参加者は毎回俺だけしかいない。他の人は働いてるからな。だから、力仕事とか高所の作業は俺のところに回ってくる。そのため、貴重な戦力として毎回重宝されている。




今日はいつもの掃除とは違い、外壁を拭いたり、落ち葉を掃いたり、小さな木の剪定など、教会周りの清掃を行うらしい。


いつもよりは作業が多めだ。冬への準備でもあるのだろう。小さな木には冬囲いもするそうだ。



俺の他にも村の主婦たちが数人来ているが、いつもの掃除よりも人が多い。



俺たちが到着すると既に作業は始まっていたようで、布や箒、小さな刃物を手に枝を切ったりしている。


すると一人のおばさんが俺たちに気がついた。


「あら~ハルヤじゃない。ようやく来たわね。あら?あらあら?もしかしてこの人が噂に聞いてた奥さんね?可愛い子捕まえたわねぇ。やるじゃない!」


流石のおばさんネットワークである。情報の早さ、そして正確性よりも面白そうな方向に変化させていくのはお手の物だな。


「違う違う。ただの居候で同僚だ。」


「居候ってあんた、男女が一緒に住む理由なんで一つでしょ。恥ずかしがってんじゃないよ。」


本当にただの居候なのだが、村の人たちは認めてくれない。



どうやら、この村では一緒に住むというのは結婚を意味するらしく、ただの居候というのはあり得ないらしい。おかげで全員が俺とエリーを夫婦として扱うようになった。毎回訂正するのが面倒である。



「初めまして、エリーです。不束者ですがよろしくお願いします。」


礼儀正しく挨拶するエリーに、おばさんはまるでおもちゃを見つけたように目を輝かせている。


「あらあら、随分上品なお嬢さんじゃない!初めまして、私はビルハ。よろしく!それじゃあみんなに紹介するからちょっといらっしゃい。」



そう言ってエリーはおばさんネットワークの中に吸い込まれていった。


何だかんだエリーは器用だからな。その辺は上手くやるだろう。ついでに訂正してくれるとありがたいのだが、あまり期待は出来そうにない。



俺はエリーを放って、掃除をすることにする。



村の主婦たちが手の届くところは大体やってくれるので、俺は俺にしかできそうにないところを中心に掃除していく。


高いところの壁を拭いたり、太い木の枝を切ったり。補強に関しては大工のおっちゃんに任せればいいので、手は触れないでおく。



そんなこんなで掃除を続けていると、あっという間に掃除が終わった。



エリーもおばさんネットワークに交じって一緒に掃除をしていた。


受け入れられたようで良かった。変な事言ってないといいが。



掃除が終わると、司祭が挨拶に来てくれた。


司祭は67歳の物腰のやわらかい優しいおじいちゃんだ。


前の世界だったら60代はまだまだ元気なものだが、魔法があるとは言え医療もそこまで発達していないこちらの世界では、67歳でも見た目はかなりのおじいちゃんのように老けている。


「皆さん、今日はありがとうございました。今年も無事に収穫祭を迎えられそうで何よりです。今年は天候も良く、豊作だったようですからね。明日は皆で神に感謝し、喜び合いましょう。」



司祭に礼をして、それぞれが帰路に着いた。



収穫感謝祭か。何をするんだろうか。


俺が村に来てから、祭りは初めてである。ちょっとワクワクしている。





「収穫感謝祭ですか。今年もそんな時期なんですねぇ。」


「そうだな。もうすぐ冬がやってくるな。今も随分寒くなってきた。」


もう昼も過ぎているというのに、ひんやりした空気が残っている。いよいよ冬も近いという事だ。俺は無意識に自分の腕を抱く。


「この辺の冬は寒いですからね。雪が降らないといいですけど。」


「げ、この辺の冬って寒いのかよ。」


前の世界での実家は北国だった。ただ、だからと言って寒さが好きなわけじゃない。むしろ辟易している。サムエルさんたちから逃げた後、なぜ北上してしまったのか。今になって後悔してくる。



「ハルヤさんはこの辺のこと何も知らずに来たんですね。」


「あぁ、適当に北上したらこの村にたどり着いただけだからな。」


ちなみにエリーには俺が異世界から来たことは言っていない。この村に来たのも、色々な景色を見たくて旅をしてたら行き着いた、とだけ言ってある。杜撰な設定だと自分でも思うが、エリーはそれ以上言及してこない。


「なるほど。やっぱり逃げるなら北ですよね。私もそう思います。なんでしょう?人間の習性なんですかね?」


「いや、別に俺は逃げてねぇよ。」


いや、正しく逃げたのだが、そのことは言ってない。なぜこいつは俺が逃げたと思っているのか。


「なんとなく、ハルヤさんだったら旅してこの場所に来たっていうより、逃げてここに来たっていう方が似合う気がしましてね。私の中ではハルヤさんは勇者の力に浸食されていくことに恐れて、この村で精神を癒している最中ということになっています。」


「どんな設定だよ!ていうか勇者の力が浸食ってなんだ!勇者が悪みたいじゃねぇか!」


「ふふふ。勇者とは実はモンスターにとっての勇者であり、人間にとってはむしろ悪の存在だったんですよ。そのことに気が着いたハルヤさんは人間の街から離れてこの村にやってきたんです。」


「やめろ!なんか勇者がどんどん悪者になってくじゃねぇか!」


「そこに遣わされた私は実は勇者に対抗すべく神が遣わした者であり、勇者を倒す運命にあるのです。あぁ、残念です。ハルヤさんと戦わなければならないなんて!」



もうツッコミが追い付かない。というか神の預言者であるコイツがいうと嘘とは言えちょっと物騒になってくる。


「あぁ、神よなぜ私たちを戦う運命にしたのですか!なぜこのような試練を!そう叫びながら私たちの戦いは熾烈なものとなっていきます。」



段々と一人でヒートアップしていくエリー。コイツは劇とかが好きなんだろうか。


「しかし、戦っている中で私の力が覚醒し、ハルヤさんは自我を取り戻すのです!」


なんで俺は自我を失ってるんだ。あ、そうか勇者の力に飲み込まれたことになってんのか。


「そして自我を取り戻したハルヤさんは、なんと自らの力の浸食を止めるため、自ら命を絶つのです!」


その物語の俺、悲惨すぎるだろ・・・。


「悲しみに暮れる私はそれでも人々に言うのです。最大の悪を自ら倒した彼こそ、真に勇者だったのだ・・・と。」


自分で自分の命を絶って勇者って・・・。


なぜコイツは勇者である俺を目の前にこんな悲惨な勇者物語を作れるのか。血が通ってないのかコイツは。


「めでたしめでたし。」


「めでたくねぇよ!」


「ふふふ。どうでしたか?熱い展開に感動のストーリーです。心が燃えてちょっとは寒さも穏やかになりましたか?」


「なるわけねぇだろ。むしろ背筋が凍ったよ。」


「あら?ふふふ。それは残念でした。」




なんで笑ってやがるんだコイツは。


そう思いながら、俺もちょっと笑っていた。




少し心が温まりながら思う。こんな日常も悪くはないのかもしれないな、と。

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