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預言者

勇者を探してやってきたエリーを、とりあえず家に招き入れた。これ以上玄関先で勇者かどうかなんて話を繰り広げたくはないからな。


ただ、俺にとってコイツは厄災をもたらす者だ。茶の一つも出さんがな。




さて、話の流れから家に招き入れることになったが、なんて言って追い返そうか。



俺はまだあきらめちゃいねぇぞ。【勇者】も≪異世界からの救世主≫も、単なる職と称号でしかない。


そんなもので自分の行く末を決めさせてたまるか。




チートは望んだが、救世主は望んでない。あっちが勝手に押し付けてきただけだ。従う理由はない。




「あーエリーさんとやら、実はだね、ハルヤは今家にいないんだ。ちょっと出かけててね。俺の名前はアキヤと言ってな。残念ながら俺は勇者じゃねぇ。」



「ふふ。流石に今更それを言っても遅いと思いますけど。」



・・・確かにそうだな。それに人違いと言ってもコイツのことだ。どうせ帰るまで待つとか言いそうだしな。



「はぁ。わかったよわかった。俺がハルヤだ。だが、俺は勇者じゃねぇからな。」



「そうですか。ならそれでもいいですよ。」



え?いいの?



「なんだそれ?あんた、勇者を探しに来たんじゃないのか?」



「えぇ、探しに来ましたけど、別に用事はないですし。」



「はぁ?どういうことだよ?」



「私はただ、【預言】というスキルで神様からの言葉が与えられたので、それに従って勇者様のところに来ただけですから。そこで何をするとか、勇者様をどうするとか何も聞いていませんので。それにハルヤさんが勇者様でなかったのであれば、もう手詰まりですからね。待つ以外に方法はありません。それも面倒ですから、とりあえずハルヤさんを暫定で勇者様にしておこうと。」



暫定勇者って。それはそれでなんか嫌だな。


というか、何か目的があってきたわけじゃなく、ただ勇者のところに来ただけ?え?何なのコイツ。いよいよ何しに来たんだよ。



「なんだよそれ。アンタも適当だな。」



「そりゃそうですよ。私だって別にやりたくてやってるわけじゃないですし。ただ、預言のスキルは直接脳に響いてうるさいので、しょうがないから来ただけです。」



なんだ、こいつも役目を押し付けられた被害者か。ちょっとだけ同情してしまう。



「なるほどね、つまりあんたは勇者に会うのが目的なだけで、その後どうこう言うのは特にないと。」



「そうなりますね。だからハルヤさんが逃げなくて良かったです。探しに行くのも面倒ですし。あ、でもハルヤさんが逃げて預言が聞こえたらハルヤさんが勇者確定ということになりますね。そっちの方が手っ取り早いです。ぜひ一回逃げてみてください。」



神の預言を受ける人って、もうちょっと厳格な信徒をイメージしてた。

そんなイメージがコイツの一言一言で崩れ去っていく。まぁ、良い意味でかもしれんが。



「そう言われて逃げる訳ねぇだろ。それにもう面倒だ。あんたに隠してても無駄みたいだしな。そうだよ、俺が勇者だよ。」



エリーは何も驚くことなく、ただ笑う。



「ふふふ。やっぱりそうでしたか。では、そんなあなたに依頼してもいいですか?」



「は?なんだよ?!やっぱり依頼があったのかよ?!」


さっきまで会うだけとか言ってたのに騙したな!




「えぇ、依頼です。生活の拠点がありませんので、しばらくここに住まわせてください。」




「は?え?ここに?なんで?」



「え?だって何でも屋でしょう。ならいいじゃないですか。ハルヤさんから離れたらいつ預言が来るかもわかりませんし、毎回来るのも面倒ですから、一緒にいる方が良いと思うんですよね。昨日一日野宿しましたが、毎日は嫌です。なのでよろしくお願いします。」




正直、コイツは可愛い。だから一つ屋根の下はちょっと嬉しい。でも、コイツは預言という厄介なスキルを持っている。


これによって俺は勇者的な、救世主的な行動をせざるを得なくなってしまう気がして、正直気が引ける。



「嫌だよ。帰れよ。」



「どうしてですか?こんな可愛い人と一緒に住めるんですよ?」


そう言って首をコテンと傾ける。あざといなこいつ。可愛いのが余計に腹が立つ。



「自分で可愛いって言うなよ。あんたに関わると厄災に巻き込まれていくような気がする。だから、嫌だ。帰れ。」



「なるほど、なら大丈夫ですよ。」



「いや、何が大丈夫なんだよ。」



「だって私がいようといまいといずれ厄介ごとに巻き込まれますよ。勇者様ですし。なら、一人で巻き込まれるより、道ずれがいた方が気持ち安心じゃないですか?」



確かに、【勇者】という職業に、≪異世界からの救世主≫という称号は外すことはできない。それから逃れることは不可能なのかもしれない。



「自分で可愛いとか道ずれとか、お前の自己認識はどうなってるんだ。」



「それに、私は家事も得意ですし、邪魔にはなりませんよ。生活には花を植える余裕も必要です。私を花と思って愛でればいいじゃありませんか。」



「今度は花かよ・・・。はぁ、わかったよ。もう面倒だ。ここに住めばいい。ただ、あんたは俺を勇者と思って信頼してるのかもしれねぇが、俺だって男だぞ?何するかわからねぇぞ?」



「ふふふ。大丈夫です。奥手って聞きましたから。あ、私は誠実だと思ってますけど。」



「クソ、今度アイツに会ったらぶん殴ってやる。」



「誠実なハルヤさんには無理そうですね。」




結局、エリーと話しているうちに毒気を抜かれてしまった俺は、なし崩し的に同居することになった。



居候することになったエリーと一緒に、寝具やら家具やらを集めに村に行く。


流石に床に寝させるわけにはいかねぇからな。


布団屋なんてものはないが、何か余ってるものがないかを聞きに行く。



その際に隠すのも面倒だからエリーが我が家に居候することを告げると、「結婚すんのか?」といたるところで聞かれてしまった。


「ただの居候だ」と言っても、みんなニヤニヤして本気とは受け止めない。


何が「やるじゃねぇか」だよ。何もやってねぇよ。




しかも俺を奥手扱いしたタマルという女に限っては、俺のことを「ケダモノめ」と言って笑いやがった。


テメーの方がよっぽどケダモノだ。酔ったふりして俺の家に泊まろうとしてたくせに。




そんなこんなで、エリーの生活用品を集め終わった。何だかんだ村の人たちは優しい。割とすぐに集まった。まぁ、お礼に食材やら金やらを渡したから、ただの善意ではないが。



「ハルヤさんはすごいですねぇ。」



「あ?何がだ?」


今のどこに凄いと言えるところがあったのか。

大体お前のせいでこんなことになってるんだぞ、もっと引け目を感じろよ。



「だって、この村に来たのは半年前ですよね?にもかかわらず、信頼されているようですし。」



「あー、とにかくこの村で受け入れてもらうために色々やってたからなぁ。ただ、それは村の人のためというより自分のためだ。特に偉いことはしてねぇよ。」



「ふふふ。やっぱりハルヤさんは勇者様なんですね。」



「今の話のどこに勇者要素があったよ。」



「だって、人を助けても自分のためなんて中々言えないですよ。」



コイツは何も分かってないな。本当に俺は自分のためにやったんだ。

自分の居場所が欲しくて。心地の良い場所が欲しくてやっただけなんだ。



「そんな大層なもんじゃねぇよ。」



「ふふふ。ならそういうことにしておきましょう。」



「なんか勘違いしてるだろ・・・。」



「勘違いはしてないですよ。勘違いは。」



コイツと話してると全部躱されて腹が立つ。


パンチは空振りが一番疲れるからな。それと一緒だ。これ以上無駄に喋るのも疲れるので、俺はため息だけをついて話を切り上げた。




家に帰ると、もう日暮れ近かった。何だかんだ疲れた。体力的にじゃなく、精神的にだ。


もう休んでしまいたかったが、それでも腹は減るので夕飯を作らないといけない。



「あ、そうだ。これから居候させていただくので、ご飯は私が作りますね。材料は何かありますか?」


「あーそういえばそんなこと言ってたな。んじゃ今材料出すわ。」



料理は何だかんだ疲れるからな、割と助かる。


俺は【アイテム】から角ウサギの肉といくつかのスパイス、野菜と果物を出した。



「え?今魔法で出したんですか?」


お、エリーが驚いてる。何事にも達観しているように見えるこいつも驚くことがあるんだな。



「あぁ、これは勇者の能力と言うか俺の能力と言うか、【アイテム】ってスキルで出した。アイテムバッグと違って時間経過もしない便利なスキルだ。」



もうコイツに隠し事をするのは面倒なので、基本的に全部言う事にした。



「勇者様って便利なんですね。」


「おい、人を便利とか言うな。なんか道具みたいじゃないか。」


「じゃあ快適と言いましょう。さて、せっかく新鮮な材料があるんですからね。腕によりをかけて料理しないと!」



そう言ってエリーが料理をし始めた。その後ろ姿には、何かくるものがある。



新婚みたいだな。実際は全然そんなもんじゃないけど。





もしエリーと【預言】スキルなしで出会えてたら、俺はただ喜べたんだろうな。



でも、そうじゃない。やつは【預言】に従ってここに来ただけだ。


奴が【預言】でやってきたというのはつまり、神の命令でここに来たに過ぎないという事だ。



俺が【勇者】だからここに来たのであって、俺が【勇者】だからここに住むのであって。


奴が求めているのは、【勇者】であって俺じゃない。




そんなことを考えると、少し寂しくなった。




称号・職業・レベル・ステータス・スキル、俺の上辺に貼り付けられたそれらの情報が、俺が誰かと出会い関係を深めていくことを妨げてくる。


能力の部分を求められると、とっさに自分ではない何かを求めているんだと、寂しくなってしまう。



俺の能力は全部、チートというズルをして得ただけで、俺が努力して得たものじゃない。だから、それらを俺のものとすることが出来ないんだ。心が、受け付けない。



だから今も、【勇者】を求めるエリーに対して、どこか寂しさを感じてしまっている。





はぁ。エリーと話して少し絆されたからか、また前みたいにネガティブ思考になって落ち込んでいく。


スキルの【勇気】も肝心な時は役に立たない。




そんなことを考えていると、良い匂いがしてきた。


どうやら、ご飯が出来たようだ。



「なにやら考え事をしているようですね。でも残念ながらご飯が出来ました。考え事はいったん中止してください。」



「あぁ、いや、別に大したことじゃないから大丈夫だ。ありがとう。」



エリーは驚いた顔をしたかと思うと、また笑った。


「・・・ふふふ。私今良い発見をしました。考え事をしているハルヤさんに話しかけると優しい返事がもらえます。」



何が優しい返事だ。俺に冷たい対応をさせたのはお前のせいだ。



「俺は元々こうだ。あんたの初対面の印象が悪すぎたせいでぶっきらぼうになっただけで、根はいいやつなんだぞ。」


「なるほど、ではこれからの挽回次第ですね。」


「別に挽回しなくていいよ。出てってくれればそれで元通りだ。」


「私は0じゃなくてプラスを目指したいので、遠慮しておきます。」


「出てってくれればそれでプラスになるぞ。」


「でもそれではいつか忘れてゼロになってしまいます。それじゃ意味がないでしょう。それよりも、ご飯食べましょう。冷めちゃいますよ。」



そう言って、エリーはテーブルにシチューを置いた。


美味そうだな。シチューは久しぶりに食べる。クフの街以来かな。



エリーの調理スキルがどれぐらい高いのかは分からないが、俺より高いという事はない。俺はLv.MAXだからな。



だというのに、いつもの料理よりおいしく感じた。


なんでだろうな。隠しステータスでもあるのか。




いや、本当は分かってる。


誰かと食べるから美味しいんだ。


そしてこのご飯は、エリーが俺のために作ってくれたから美味しいんだ。




分かってるけど、やっぱりコイツの第一印象が悪すぎたので認めたくはない。





結局ご飯をおかわりまでしておいしく平らげてしまった。


「ふふふ。言い食べっぷりでしたね。作ったかいがありました。」


「・・・美味かったよ。」


「なんで納得のいかない表情何ですか?」


「納得がいかないからだ。」


「なるほど。可愛い人が美味しいご飯を作れるという事に、なぜ神は人に二物を与えるのかと納得ができないんですね。」


「・・・あんたの性格がうらやましいよ。」



コイツみたいに、暢気に構えることができたら、俺もちょっとは楽なのかもな。


暢気にチートを喜んで、無双して、俺TUEEEできたら、結局それが一番幸せだ。俺は、そう生きるはずだったのに。



「私も、自分はいい性格していると思います。でも、ハルヤさんも良い性格してると思いますよ。」


「俺がか?」


俺が良い性格。ありえないだろう。すぐ人を下に見てしまう俺に、そんな言葉は似合わない。


「はい。色んなことに悩んで、苦しむ。そんなネガティブ人間に見えます。」


「それのどこが良い性格なんだ!!」


クソ、ちょっと褒められるのかと期待した俺が馬鹿だった。


「苦しむ痛みを知っている人は優しい人です。だからハルヤさんもきっと優しい人で、勇者様なんですよ。」



・・・俺が優しい人か。見当違いだ。苦しむ痛みは知っているが、俺はその痛みのせいでひねくれている。


俺ですら優しく見えるんだ、コイツはきっとあらゆる人を優しい人として見てるんだろう。そういう風に人を見れるコイツの方が、よっぽど優しい人に思えるがな。



「やっぱりアンタの性格がうらやましいよ。」


「ふふふ。またネガティブになって。優しい人ですね。」



クソ、また空振りだ。いつも煽りやがって。


コイツはやっぱり俺をなめている。


世の中優しい人ばかりじゃない。怖い人間もいるんだ。


良い性格だって思っていた俺に襲われることになるかもしれねぇんだぞ!




俺の勇気よ!仕事しろ!





結局、コイツは穏やかに眠りにつき、俺は女性が同じ家で寝ているという緊張で寝不足になった。


やっぱりコイツは呪われた装備だ。

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