エリー
コンコンコン!
「あのー、すいません」
農村の小さな村に、簡素に『何でも屋』とだけ書かれた看板を下げた俺の職場兼住居。
そこに、扉をノックする音と、綺麗な声が響いた。
昼も過ぎた時間だ。この時間にここに来る人は珍しい。
それに村の人は大体扉を叩く。コンコンではなくドンドンだ。
珍しい音に驚きながら、俺は玄関に向かう。
「はいはーい。今行きます。」
ドアを開けると、見た目20歳ぐらいの金髪の僧侶の服を着た女性が立っていた。可愛いな。
とりあえず玄関先ではあるが、扉の内側に彼女を招き入れた。
可愛い人ではあるが、こんな人農村にいたっけ?
「どちらさん?何のご用件ですか?」
突然の可愛い人の来訪にテンションが上がりながら、冷静に対応する。
第一印象は大事だ。今後この人と何があるかわからないからな。油断するとデレデレしちゃいそうだから、ここは真面目に顔を作って対応する。
「すみません、私は村の外から来たよそ者ですが『何でも屋』とあるのを見つけまして、私でも頼んでいいんですか?」
「はい、誰でも何でも頼んでいいですよ。ただ、本職の方が村にいるものについては断ってます。鍛冶とか大工とか。その人たちの手が足りない時はそれらも受け持ちますけど・・・。」
村には既に鍛冶師や大工がいる。だから、彼らの仕事の領分は犯さないように気を付けている。
屋根の修理依頼を大工のおっちゃんが腰が痛くて出来なかったのでやったこともあれば、鍛冶を手伝えと鍛冶師のジジイから頼まれた時は手伝ったこともあるが、基本的にお断りしている。
というかそもそも俺のところにそういう依頼はこない。おっちゃんとジジイのところにまず行くからな。
俺は彼らと競合したいわけじゃない。彼らも含めて、この村で共存していきたい。だから、俺の居場所づくりのために競合を避けることは必要なことだ。
「そうでしたか。じゃあ大丈夫だと思います。私が依頼したいのは、多分人探しです。」
「・・・はぁ?多分人探し?」
「はい、多分です。正確には私は何を探しに来たのか分からないんです。人なのか、生物なのか、もしかしたら物なのかもしれません。」
あ、これはあれだ、関わっちゃいけない人だ。
前の世界にいたころ、怪しい宗教の人が家に勧誘に来たことがあった。
その人は困っているという口ぶりから、話を聞くと段々と宗教の勧誘にすり替わっていった。
その時と雰囲気が似ているような気がする。
話を聞いたが最後、段々と宗教に勧誘され、最後には「さぁ、一緒に幸せを探しに行きましょう!」とか言われるんだ。
今、頭の中でこの依頼をどうするということは考えていない。
この人をどうやって穏便に帰らせるかということだ。
クソっなんでこんな可愛い人が来ちゃったんだ。冷たく外に放り出すのは罪悪感が出てしまう。
なるほど、そういう狙いか。美人なら断れないだろうと。そうはいくか。
ここは冷たく断ろう。あなたと関わり合う気はありませんというのを伝える感じで冷たく断ろう。
「そうですか、それは私の領分からは逸脱しますね。申し訳ありませんが、冒険者ギルドに行った方がいいと思います。今から出れば今日中にはたどり着けますから、街までの旅の安全を祈っていますよ。では。」
そう言って扉の外へ促した。しかし、出ていこうとしない。
「残念ながら、この場所でそれが見つかるとのことなんです。あの・・・話だけでも聞いてくれませんか?」
クソ、美人がそんな悲壮感を出すんじゃねぇ。後そのタレ目で見つめてくるな。心が揺らぐ。
この場所でそれが見つかるって、完全にヤバい雰囲気を出してきた。
どうしよう・・・。
「ちょっと今日は用事が・・・。」
「でしたらそれが終わってからでも構いません。」
ヤバい!選択肢を間違えた!ここは終始受けない流れを貫かなきゃいけなかったのに!
クソ―!口が滑った。
もうハッキリ言うっきゃないな。
「そもそも、得体の知れないあなたの得体の知れない依頼を受けるのは怖い。だから出ていってください。」
「得体が知れないのは確かでしょうが、それなら知れば良いじゃないですか?」
「世の中知らない方が良いこともある。知ったら最後というものもな。だから聞かないに越したことはない。」
「でも、ここまで不思議な言い方されたら気になりません?あなたはいい人そうだからきっと後で思うんですよ。「あの人はなんだったんだろう・・・そもそも何を探していたんだろうか」って」
ああいえばこう言うな。かなり強情な勧誘だ。屈しちゃだめだ。
「あいにく、俺はいい人じゃないんでね。出てけ。出口はあっちだ。ついでにそこを右に曲がるといい。村の出口に行けるから。」
「ふふふ。残念ながら、私にとってここは入り口で、右に曲がっても村の入り口しかありません。」
何だこいつ。いよいよ本格的にヤバいよ。
「はぁ、何なんだよあんたは・・・。もうハッキリ言うが、宗教勧誘ならお断りだ。俺は幸せなんか探しに行かねぇぞ。」
「宗教勧誘ですか?確かにそうかもしれませんね。私は神様の言葉に従ってここにいますから、宗教と言えば宗教でしょう。でも幸せなんか探してませんよ。」
神の言葉に従うか、いよいよ直接的な表現をし始めたな。
「じゃあ、何を探してるって言うんだよ。」
「私が探しているのは、勇者です。勇者と言うからには多分人だと思うんですよね。」
・・・やっぱり関わっちゃいけない人だった。
こいつの言う勇者は、多分俺のことなんじゃないだろうか。というか絶対にそうだよな。
とすると、こいつは神から遣わされたってことか?
なんで今更?もしかして、勇者が必要な状況がこれから起きるってことか?
せっかく、せっかく居場所が少しずつ出来てきたのに、俺は勇者をしなきゃいけないのか?
「あれ?どうしました?勇者になにか心あたりがあるんですか?」
「・・・いや、ないな。あまりにもぶっ飛んだ答えにビックリしてただけだ。」
「そうでしたか、それは残念です。でも、どうでしょうか。怪しい宗教勧誘ではないので、一緒に探してくれませんか?」
嫌だな。勇者探しなんてしたくない。
なんで自分で自分を探さなきゃいけないんだ。
それに、勇者なんてやりたくない。明らかに過酷な労働を強いられそうじゃねぇか。
なんで【勇者】なんだよ。【木登り名人】で良かったんだ。それだったら大工のおっちゃんにすぐに弟子入りして名工になれたかもしれねぇのに。
「申し訳ないがお断りだ。勇者なんて知らないし、そんな雰囲気のやつもいない。恐らく、神の間違いだろう。帰った方がいいぞ。」
「ふふふ。嘘が下手な人ですね。」
「はぁ?嘘なんかついてねぇぞ。」
「だってさっきから目がキョロキョロし始めましたし、私は勇者が人とは限らないと思ってましたけどあなたは断定しているようでしたし、何よりも私を早く追い出そうとなんて普通はしませんよ。勇者が村から出たってなったら、普通は喜びますからね。」
・・・まさか怪しい宗教勧誘の方が良かったと思うことになるとは。
サムエルさんの時もそうだったけど、俺って嘘が下手なのかな・・・。
「ふふふ。ここでの沈黙は肯定を意味しますよ。」
「あまりにもな意見にちょっと黙っただけだ。俺は本当に嘘なんかついてねぇぞ。」
「でも、村の方々はみんな言ってましたよ。ハルヤはスゴイ奴だって。」
こいつもしかして事前に色々聞いてたのか?!
「な・・・テメェ!ここが初めてじゃなかったのか!」
「昨日からこの街に居ました。村の方に聞いたら、半年ほど前に来たハルヤという方が何でも器用に出来て、それにとても強くて力持ちで足も速くて。あ、でも手は全然早くないと女性の方が言ってましたよ。誠実と奥手は紙一重ですが、その方は奥手と取ったようですね。」
クソ、いらねぇ情報まで持ってきやがって。それを言ったのは多分この間一緒に酒を飲んだ奴だろう。アイツめ、酔っぱらってたからこっちが気を利かせて家まで送ってやったのに!そんなことを言うなんて!
「それでハルヤさんの場所を聞いて、今日ここに来ました。何だかハルヤさんとの会話が楽しくてついつい本題に入る前に遊んでしまいましたが、ようやく本題に入れそうです。」
こいつも初めから言えば良いのに遊びやがって。なんなんだこの世界は、サムエルさんもそうだが、意地悪な奴ばっかりだ。
「私の名前はエリーです。勇者の下に行くよう、神から預言を与ってやってきました。よろしくお願いします。勇者様。」
ニコリと笑うエリーと名乗った女は、もう俺を勇者と断定している。
・・・よし、逃げよう。こいつに関わったら俺は名実ともに勇者にさせられる。
「あ、逃げてもまた追いかけますからね?神様の預言がありますから、どこでも追いかけられますし。」
なぜ俺の考えが分かるのか。しかも逃げても追うって、呪いの装備かよ。
「だから諦めて捕まってください。勇者様。」
何で何も悪いことしてないのに捕まらないといけないんだ。
そしてそのニコリと笑顔で笑うのはやめろ。
可愛いから。勇者でもいいかなって思っちゃうから。
そんな理由で勇者やることを決意したくないんだ。




