うひょおおおおおおお
時間が経つと少しずつ落ち着いてきた。
いや、落ち着いたというよりも、草原で一人立ち尽くすというこれまでにない生命への危機感から、とにかく何かしないと!と感じ、俺は考え始めた。
よし、一先ず状況を整理しよう。
まずは果たしてここが異世界なのかどうかだ。
今のところ見た目には異世界っぽさはない。というか草と木しか見えない。近くの草は俺の腰近くまで伸びているので草原と言うべきか原っぱと言うべきか。
木は100メートル先ぐらいに見える。全方向に木が見えることから、俺がいる部分だけぽっかりと原っぱになっている。
植物には詳しくないから植生なんかもわからん。つまりこれで判断するのは無理だ。諦めよう。
ただ、ここに来るまでの明らかにおかしな状況は、もう異世界にいるんだって思った方が精神的に楽な気がする。
もしかしたらどこか遠い場所に飛ばされただけとか、夢の中とかいうオチもあるかもしれないが、あの「異世界に興味はありますか?」という広告からこんなことになってるんだから、やっぱり「異世界」ということに期待してしまう。
とりあえず誰かに会うまでは「俺は異世界にいる!」と思うようにしとこう。そっちの方が楽しいし。もし違ったらただのヤベェ奴だから、思うだけだけど。
そして自分を改めて見てみる。
先ほどまで着ていたのは寝巻のスウェットだったが……なぜかよく分からないゴワゴワした繊維の布を着ている。俺の肌は敏感な方だから、こんな布では肌を痛めるんじゃないかと心配にはなってきた。
一応上下が分かれているので俺の常識からそこまで離れてはいない服ではある。
ちなみに中に下着は着ていない。きっと異世界ではこれが普通なんだって思うようにした。郷に入っては郷に従えだ。ちょっとスース―して不思議な興奮を覚えるが、何かに目覚めたわけではないと信じたい。
そして持ち物である。俺はなぜか木の棒を握っていた。
持ち物は以上だ。
そして俺の状況整理が終わった。
なるほどね。
ふと冷静になった途端に、俺はパニックになった。
・・・え?待って待って?!
俺今どうなってんの?ここどこよ!
何かアイテムないの?!何かカバンがあって食料やお金や着替えが入ってるとか、神様からのメモが入っているとか。
とりあえず俺のおかれた状況を説明する何かはないの?!
もう持ち物もとりあえずいいから、説明だけでも何かないのか?!
来る前に神様に会う的なイベントとかさぁ?!妖精が出てきたり!女神が出てきたり!
そういうの何もないの?!
説明書は?ナビゲーターは?チュートリアルは?
何だよ木の棒一本で草原に放置って!設定したやつ頭いかれてんのか?!
いや待て待て落ち着こう。焦ってもしょうがない。落ち着け、落ち着け俺。
もしかしてこれからチュートリアルが始まるんじゃないか?
あんなゲームみたいな広告だったんだ。これはゲームの設定を踏襲している可能性がある。
こんなとんでもないことになってるんだ。流石に何も説明なしはおかしいだろ。
そう思って、少し待ってみた。ただ、何も起こらなかった。
うん。じゃあとりあえず呼びかけてみますか。
「あのー!すいませーん!とりあえずこちら落ち着いたんで、状況説明をお願いしてもいいですか?」
返事はない。それでも俺は呼びかけ続ける。
「あのー!聞こえてますー?!こちらもう落ち着いたので大丈夫ですけどー?」
「あのー!誰かいませんかー?誰かいますよね?ねぇ?!」
何度やっても返事はなかったから、段々とこんないかれた設定にしたやつに対してキレてきた。
いや、分かってる。はたから見たら原っぱで一人叫び続けている俺の方がいかれて見えるだろうよ。異世界なのかどうかもわからないのだし、前にいた世界でこんなやつが森の中にいたら、絶対に近寄らない。
でもしょうがないだろ?こんな状況なんだ、パニックになったら人間こうなるんだよ。
結局、俺は怒りをぶちまけながら叫び続けたが、当然のように何も返事はなかった。
……つまり、説明はないということか?
本当にあの「頼んだ!」だけで終わり?
何らかの説明はないんですか?おーい!
今度は念じる方向にシフトしたが、それでもダメだった。
先ほどからずっと無駄に体力を消費している気がしてきたので、いい加減に呼びかけるのはやめにした。
さて、どうしようか。そう考えた時、俺は右手で握っている木の棒が目に入った。
そもそも俺はいつの間に木の棒なんか握ってたんだ?気が付いた時には既に手元にあった。
もしかしてこの何の変哲もない木の棒が説明書になってるとか?あるいはマジックアイテム的な感じなんじゃないか?
それしかないよな。俺に与えられた唯一のアイテムなんだ、きっと特別な力があるに違いない!そうじゃなきゃおかしい!
そう思って俺は木の棒を観察してみた。しかし、やはり何の変哲もない木の棒だ。
とりあえず何か出来ないかと木の棒を振ってみた。
上から下に向かって勢いよく振った。
勢いあまって木の棒の先が地面に着いた。
その瞬間、木の棒は見事に折れた。
・・・先ほどまで一本しかなかった木の棒が二本になった!やった!二刀流じゃん!
「っておいいいいい!俺の唯一のアイテムがああああ!」
もしかしてあれか?かぐや姫的な感じで中から「こんにちは!神様だよー!」なんて出てくるんじゃないか?この際妖精でもナビでも何でもいい、情報くれそうなやつ出てこい!
一抹の望みをかけて木の棒の予想以上に綺麗に折れた部分に注目してみた。
中までギッシリ木でした!
「うあああああああ!」
あまりの状況に俺は怒りを込めて木の棒を放り投げた。
回転しながら飛んでいく木の棒に、意外にも爽快感があり楽しくなってしまった俺は、ついつい先ほど手に入ったばかりの二本目も投げ飛ばしていた。
ちなみに二投目はやり投げスタイルだ。
二回目という事で勢いをつけて投げたからか、3倍ぐらい遠くに飛んだ。というか思ったよりも速く遠くに飛んで行った。もしかしてやり投げの才能があったのか?と思うほどだ。
「気持ちいい・・・!」
自分の眠っていた才能に驚愕しながら、ふと冷静になった。
って待てよ!いよいよ何もなしになっちまったじゃねぇか!
え?どうすんのこれ?
焦りと不安で頭の中がゴチャゴチャになっていく中、俺は一つのことを思い出した。
「そうだ!チート!!!」
恐らくここにくるきっかけになったあのサイトでの登録作業の最後に、「チートがあればほしいか?」と聞かれていた。
そして俺は迷わず【はい】を押したはず!あの時の俺、よくやった!
あのサイトが原因でこの(推定)異世界に飛ばされたんだったら、俺にチートがあるのでは?!
ただ、どうやってそれを調べるんだ?
もしかして、これはあれか、あれを言う時なのか?
俺は周りに誰もいないことをもう一度確認して、興奮を抑えきれず大声で叫んだ。
「ステータスオープン!!!」
すると、目の前に青白い半透明の板が急に浮かび上がってきた。
そしてそこにはゲームでよく見るステータスのようなものが書かれていた。
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名前:ハルヤ・セガワ
性別:男
年齢:22
職業:なし
状態:正常
称号:異世界からの救世主
レベル:1
体力:8
魔力:4
筋力:4
防御:3
敏捷:4
知力:6
【共通スキル】棒術Lv.1、投擲Lv.4
【固有スキル】チートパック
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「うひょおおおおお!マジでステータス出てきた!」
これだよコレ!マジで異世界じゃん!
しかも魔力があるってことは、もしかして魔法も使えんの?
試しに【水よ】と手を前にかざし念じてみた。すると、手から少しだけ水が出てきた!
流石にこの量は手汗の量ではないから、俺の念に応じて生じたはず!つまり、俺は魔法を使ったんだ!
「これ魔法だよな・・・?本当に魔法だよな?!
スゲー!魔法使えるじゃん!ってことはやっぱりここは異世界なのか!」
そしてステータスをもう一度見てみる
―――――――――――――――――
名前:ハルヤ・セガワ
性別:男
年齢:22
職業:なし
状態:興奮
称号:異世界からの救世主
レベル:1
体力:8
魔力:3
筋力:4
防御:3
敏捷:4
知力:6
スキル:
【共通スキル】棒術Lv.1、水魔法Lv.1、投擲Lv.4
【固有スキル】チートパック
―――――――――――――――――
「マジか?!スキル増えてるよ!もしかして魔法覚えたい放題なのか?」
ただ、魔力が減ってるってことは、この魔力を消費して魔法を使うって感じかなぁ。
何にせよ魔法のある異世界に来たってことは確定ってことでいいんだろうか。
少なくともここが俺の知っている地球だとしたら、ステータスの板を出す技術も、魔法を出す技術もないはずだ。
ってことはやっぱり異世界なのか?!俺は異世界に来たのか!半信半疑だったけど、もうこれは確定でもいいよね?!
もうさっきから異常にテンションが上がっている。状態が【興奮】なのもそのせいだろう!
「うひょおおお!異世界だああああ!」
テンションが上がりすぎて大声で叫んでしまった。
まぁ、どうせ誰もいないからいいだろう。
さて、叫んだら少し落ち着いてきたので、もう少しステータスについて考えてみよう。
ステータスと魔法という感動で無視してたけど、ステータスによく分からないものがある。
一つは、称号の【異世界からの救世主】ってやつだ。
とりあえずタップしてみるとちゃんと説明が表示された。
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称号:異世界からの救世主
説明:≪異世界から来た、この世界を救う者≫
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だってさ。情報すくなっ!
とりあえず、これが最初に聞いた「頼んだ!」ってのと関わってるのか?
もしかして俺ってこの世界を救わないといけないの?
勇者的な存在として送り出された?
うーん。日本で平凡に暮らしてた俺は物騒なことは出来れば避けたいが、ただこの称号とステータスを見る限り、戦いに巻き込まれていきそうな気がするんだよなぁ。
まぁとりあえず後で考えればいいか。今考えてもしょうがないし。
あと気になるのは【棒術】と【投擲】についてだ。とりあえずタップしてみる。
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棒術:棒状の物を使うのが上手くなる。
投擲:Lv.に応じて物を投げる速度、距離が上昇する。
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うん。意味は分かった。というか想像通りだ。簡潔な説明ですね。素晴らしい。
ただ疑問なのはなんでこれを俺が持ってんのかということだ。しかも投擲のレベル高いし。
別に前の世界で関連しそうな競技をしていたわけじゃない。
チャンバラとかボールを投げる経験がないわけではないが、それを反映しているのだとしたら他のことだって反映されていてもいいと思うんだ。
例えば……と考え始めたが、何も出てこなくて悲しくなってきた。
よく考えると俺って前の世界で何のスキルも得ようとしなかったんだな。
別に異世界のためのスキルってわけじゃなく、地球での生活の上でも何一つ役に立つスキルを得ようとしてなかったわ。免許も資格も特技も何もなし。異世界に来てテンション上がってたから忘れてたけど、俺ってなんの取り柄もないんだった。はぁ。
っていかんいかん。せっかく異世界に来たんだ。まだ確定はしてないけど、ステータスや魔法でもう半ば確信してる。せっかく異世界に来たんだったら、前の世界でのことは忘れてもう一からやり直すぐらいの覚悟でいこうじゃないか!うん!それがいい!
で、話を戻して【棒術】と【投擲】についてだ。やはりこれは最初に木の棒を振ったのと、投げたのが関係してるのか?それしか考えられないよな。そうだとしたら納得できるんだよ。
木の棒は1回しか振ってないけど投擲は2回投げたからレベルが上がってるってことになるし。もしそうなら2回目が想像以上に飛んでいったのも納得出来る。
ただ、納得は出来るがレベル上がりやすすぎじゃないか?こんなもんなのか?
疑問はいくつか出てくるが、それを検証する前に俺は早く次に行きたくてしょうがなかったから考えるのをやめた。
ちなみにステータスボード、ぶっちゃけ邪魔。
だってA4用紙ぐらいあるんだぞ?持たなくていいのは楽だけど視界に入ると邪魔だ。
そう思いながら「戻れ!」と叫ぶとステータスボードは消えた。便利!
ちなみに検証した結果、念じるだけでいいみたいだ。叫ぶ必要はありませんでした。
さっきの叫びが急に恥ずかしくなってきた。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。
そんなことよりも、だ。
俺は大事なものは最後にとっておくタイプだ。だからこれを最後に回しにしていたのだ。
そう、このステータスの大本命【チートパック】だ!
この中身次第で俺の今後の異世界人生が決まると言っても過言ではない。
変な能力だったらこの世界に連れてきたやつを呪うからな・・・!
誰が連れてきたのかはわからんが多分神様だろう。
神ならばきっと信じれば救ってくれるはず!そうに決まってる!
開く前にいったんお願いしとこう!
「神よ!いや、神様!今まで一度も信じたことはありませんでしたが、これからは心を入れ替えてあなたに付き従います!先ほど「設定したやつはいかれてる」なんて言いましたが、もちろんアレは冗談でございます。あなたには何も恨むところはありません!むしろ慕っております!ですからどうかわたくしに良い能力をお恵み下さい!」
心を入れ替えて敬虔な信徒となった俺に死角はない!
さぁいくぞ!いい能力こい!
そして俺は【チートパック】をタップした。
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【固有スキル】チートパック
内容:言語適正、鑑定、全スキル適正、全耐性、成長補正、(未解放)、(未解放)、(未解放)、(未解放)、(未解放)
言語適正:あらゆる人族が使う言語を理解、使用できる。
鑑定:あらゆる物体の情報を視覚から取得することができる。
全スキル適正:あらゆるスキルを覚えられる。
全耐性:あらゆる攻撃、状態変化への耐性
成長補正:あらゆる経験値1万倍
未解放:レベル10で解放
未解放:レベル100で解放
未解放:レベル1000で解放
未解放:レベル10000で解放
未解放:解放条件不明
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正直な感想としては、思ったより強かったです。はい。
神への信仰心が深まりました。ありがとうございます。
「うひょおおおおおおお!」




