Side サムエル
アイツと別れてから、俺はすぐに仲間の下に向かった。
ドラゴンバスターズの奴らはどうせパーティー所有の一軒家にいるだろう。普段はそれぞれ活動することもあるが、週に一度は集まることになっている。大体はただの酒盛りだが。その日が今日だ。
もし参加できない場合があっても、大体は事前に言っておくことになっている。今日は誰からも何も聞いていないから全員いるはずだ。
扉を開けると案の定、全員が集まっていた。相変わらず暇な奴らだな。
いつもと変わらない光景に、気が抜けた気分だ。
「よぉサム!今帰ったか!全然来ねぇから、また夫婦喧嘩でもして今度は街から追い出されたのかと思っちまったよ!ガハハ!」
「あぁ、ちょっと野暮用でな。お前らと違って忙しいんだよ。」
「んなこと言って、どうぜまた人助けだろ!助けてばっかりだからお前は貧乏なんだよ!」
「てめぇは酒ばっか飲んで貧乏じゃねぇか。そっちよりマシだ。それに俺は貧乏じゃねぇよ。」
「俺はちゃんと後輩に酒おごってやってんだ。これも人助けだ!心が貧しいとそいつ自体も貧しくなっちまうからな。酒で豊かにしてやってんだ!ガハハ!」
ったく、大剣使いはどうしてこう大声で大雑把かね。
アムノンの奴を筆頭に、出会う大剣使いのことごとくが大声で大雑把なのは、街一番の大剣使いがこいつだからなんじゃねぇかと思っている。
「てめぇが一人で飲みたくないだけだろ。俺んとこに苦情が来るんだぞ?酔ったアレックスがメンドクサイって。」
とか言いながら、こいつも結構後輩に慕われてるんだがな。
「ガハハ!それはすまなかったな!んで、そろそろいいか?酒飲み始めて?」
そう言いながらアレックスはもうジョッキを持っている。
だが、まだ酒を飲ませるわけにはいかねぇ。
「ちょっと待ってくれ。今日は一つ大事な話がある。」
「おいおい、それは冷えたビールよりも重要なものなのか?!また面倒な依頼でも持ってきたか?!」
「また」とはなんだ「また」とは。いつも事務仕事をしてやってるのに、迷惑そうにいいやがって。まぁ確かにこの間は面倒な依頼だったが。それでも金払いが良かったからいいじゃねぇか。
それに今日はその話じゃない。
「依頼じゃねぇ。ドラゴンについての情報だ。」
すると、全員が俺の方を向いた。相変わらず「ドラゴン」という言葉には敏感なやつらだな。
ま、俺もその一人だが。
「実は【鑑定】という特殊なスキルを持った奴と知り合いになった。そいつにあのドラゴンのステータスを見てもらってな。これがそのステータスだ。」
そう言って羊皮紙を机に出した。全員が唖然としながらも羊皮紙を見つめている。
すると、回復魔法使いのネルソンが口を開いた。
「・・・【鑑定】なんて聞いたことはないが・・・こ、これは本物なのか?」
博識なネルソンでも知らねぇのか。やっぱりかなり特殊なスキルみてぇだな。
「あぁ、そいつは初対面の俺のステータスを完璧に言い当てやがったからな。隠していた【感覚鋭敏】も含めてだ。能力は本物だろう。」
「にわかには信じられんが・・・サムが嘘を言うとも思えんな。ただ、そいつは信頼できるのか?」
俺の固有スキル【感覚鋭敏】は相手の心の機微が少しだけ分かる。極秘なスキルだが、こいつらには話してある。だから、俺が信頼できると言えばそれで終わりだが、それでも降ってわいたような幸運な出来事に、にわかに信じられないのだろう。
「そいつは一昨日森の中で発見したんだが、泥だらけの麻の服と木の棒一本で森の中にいたんだよ。あまりにも怪しかったが、そいつは特殊な【固有スキル】と俺より高い【隠密】、そんで22歳なのに【無職】だった。洗礼は確かに受けられたし、ギルド登録も出来たし、賞罰も何もなかった。そういうことだろうよ。」
この言葉だけで、全員が事情を察したようだ。ただ、正義感の強い盾術士のフェルはかえって怒り出した。
「な・・・!そんなやつをドラゴンの近くまで連れて行ったのか?!」
そりゃそうだろう。俺だってそう思うよ。でもしょうがねぇだろアイツが行くって言ったんだから。
「俺もそう思ったよ。最初は【鑑定】という能力が凄すぎて依頼しちまったが後で反省してな。だから別に無理ならいいって言ったんだが、アイツが行くって言ってくれてな。」
最初に出会った俺への恩返しと思ったのかもしれねぇが、それでも行くと言ってくれたのはアイツだ。それにアイツは怖がっているようにも無理をしているようにも見えなかった。
「それに無理している様子じゃなかった。善意でアイツは動いてくれたんだ。それになんだか図太い奴でよ。ついつい気を許して頼んじまった。そんで昨日、ソイツと一緒にドラゴンの近くまで行って見てきたんだ。」
それでフェリもこれ以上追求しても意味がないと思ったのか、渋々引いてくれた。
こいつは正義感も強いが、物分かりも良い。過ぎたことに言及しても今は意味がねぇ。
それにドラゴンの情報だ、これを持ってきたことに対して、これ以上何か言うのは得策とは思わなかったんだろう。
「このステータスは、ソイツがドラゴンの前まで行って、震える手で書いてくれたんだ。だから、このステータスは本物だ。ここに嘘はねぇ。」
「なるほど、だからこんなに震えた文字なのか・・・。感謝しなきゃな。」
フェリも諦めたようだ。
「あぁ、だが直接言っても目立つだけだ。ま、今後何かあったら助けてやりゃいいだろう。」
そんな話をしていると、アレックスが口を開いた。
「そいつについてはその辺で良いだろ?!サムが匿ったんだ、きっと大丈夫だろう。それよりもステータスだ!話が本当なら、ここに書いてあるのがドラゴンの能力なんだろ?!」
そうだ、今大事なのはアイツについての話じゃない。ドラゴンだ。
アイツが決死の思いで書いてくれたステータスだ。無駄にしちゃいけねぇ。
「あぁ、そうだ。そして見りゃ分かるように、ドラゴンは今飢餓状態だ。俺も近くまで行ったが、確かに前よりも気配が弱っていたから間違いじゃないだろう。」
「なら!今が絶好の機会じゃねぇか!それにこのステータスなら、戦えるぞ!威圧にもかからねぇし、他のスキルも対応できる!準備に取り掛かろうぜ!」
「・・・俺もそう思っていた。みんなはどうだ?」
他の奴らも見てみると、フェリもネルソンもうなずいていた。
すると、さっきまで黙って羊皮紙を見ていた水魔法使いさんが言い放った。
「明日だ。明日行こう。」
・・・は?明日だぁ?!
「おいおいエドム!流石にいくら何でも明日は・・・」
「いや!!エドムの言う通りだ!明日だ!明日行こう!」
アレックスまで便乗し始めた。
フェリも早くドラゴンを倒したいのか、頷いている。
そしてなんと普段は割と冷静なネルソンも頷いている。
俺は思わず笑ってしまった。
「・・ハハハッ!流石に腐れ縁だな。まさか全員が俺と同じ考えだとはな。」
「なんでぇ、サムもやっぱり明日って思ってたのかよ。」
「そりゃそうだろう。飢餓状態だぞ?いつ飯食いに行っちまうかわからねぇ。それに俺たちは、常にドラゴンと戦う準備はしてきた。30年以上もだ。いつだって、何なら今すぐにだって戦えるぞ。」
「ガハハ!なら今から行くか?」
「馬鹿野郎、家族に言わないで出かけたら、勝って帰ってきた時が地獄だぞ。ドラゴンよりよっぽどそっちが怖えよ。」
「ガハハ!家族持ちは大変だな!よし、明日だ明日!そうと決まったら今日は飲むぞ~!」
するとエドムがアレックスの飲もうとしたジョッキを蹴り飛ばした。
「馬鹿かアレックス。決戦は明日だ。今日は禁酒だ。」
エドムは両親と妹をドラゴンに殺された。家族全員奪われたんだ。だから一番ドラゴンへの恨みが強い。何としても明日倒したいんだろう。
それにエドムは何だかんだアレックスの操縦が上手い。
「明日勝って飲む酒はうまい。今日我慢したら余計にうまい。だから今日は禁酒だ。」
「なるほどな!よし、分かった!今日はこのまま解散だ!明日に備えて今日は寝るぞ!おやすみ!」
そう言って解散しそうになったが、ようやく冷静さを取り戻したネルソンが言った。
「いや、作戦会議は?」
そりゃそうか。ステータスが分かっても何も作戦なしじゃ意味がねぇ。
その日は作戦会議して、それぞれ家に帰った。
アレックスとエドムは独り身だから、パーティーが所有している一軒家にそのまま住んでいる。
俺含めた他の三人はそれぞれ帰路についた。
ついつい勢いで明日って言っちまったが、ミツパになんて言おうかなぁ・・・。
ドラゴンよりもミツパが怖い部分もあるが、ここは男らしく言うっきゃねぇ。
「ただいま。帰ったぞ。」
「あら、おかえりなさいあなた。・・・何かあったのね?」
俺が何か言う前に、ミツパに先越されちまった。そんなに顔にでてたか?
流石に、もう30年近くの付き合いだからか、俺の表情一つで事情を察したみたいだ。
「あぁ、・・・明日、行ってくる。」
「そう、じゃあ、今日の夕飯は豪華にしなきゃね!」
こいつも何だかんだ覚悟してくれてたんだな。
こりゃあ、ますます負けらんねぇ。
俺たちは明日。ドラゴンを倒す。
名実ともに、ドラゴンバスターズになるんだ。




