飢餓状態のドラゴン
ドラゴンという恐怖を目の当たりにして思ったより疲れたが、無事に馬車までたどり着いた。
そして馬車に乗り込み少し落ち着いて、サムエルさんはいよいよドラゴンのステータスを確認する。
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種族名:レッドドラゴン
火竜族。気分屋で面倒くさがりの竜族。狩りをするのも面倒になり、時折空腹で飢餓状態になる。獰猛な性格でもあり、一度攻撃された相手は倒すまで止まらない。ブレスや咆哮の前に息を大きく吸い込む特徴がある。非常に長生きである反面、繁殖能力は低いため、個体数は少ない。
状態:左目損傷・飢餓(ステータス減少)
体力:5780(3032)
魔力:4590(2412)
筋力:1510(1032)
防御:970(515)
敏捷:610(410)
知力:908(701)
【共通スキル】爪術Lv.9、自然回復Lv.5、結界術Lv.3
【固有スキル】竜のうろこ、飛翔、威圧、ブレス(火)、竜の咆哮
竜のうろこ
魔法・物理攻撃に耐性
飛翔
翼を使い空を飛ぶことが出来る。魔力を消費することで加速、減速することができる。
威圧
レベル50以下の生物に対し、強い恐怖心を与え、ステータスを低下させる。
ブレス(火)
火魔法Lv.7相当のブレスを放つ。消費魔力に応じて範囲拡大。
竜の咆哮
聞いたものを一定時間恐慌状態に陥らせる。魔力消費大。
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「なるほど、これがアイツの能力か・・・」
ドラゴンは現在、飢餓状態にある。説明にあるように、面倒くさくてものを食べてないのだろう。
そのおかげか、能力自体はかなり落ちている。それでもかなり高いが、装備での補正も考えればサムエルさんたちが戦えるレベルではないかと思っている。
俺はこの世界のステータスを見ることができるが、攻撃や防御の数値のシステムを正しく把握しているわけではない。このステータスがどれだけの脅威なのか、実際のところ正しく把握はできていない。
ただ、高い攻撃力に厄介な固有スキルがあることはわかる。
竜のうろこに飛翔にブレス、さらに竜の咆哮も厄介だ。
だから、とても危険だというのに、サムエルさんは笑っていた。
「そうか、威圧か。だからあいつを怖いと思わなかったんだな。俺たちのレベル上げも無駄じゃなかったな・・・。」
サムエルさんは50レベルを超えている。だからドラゴンに対してもそこまで恐怖心が湧かないのだろう。
「竜の咆哮は怖いと噂に聞いたことはあったが、こんな能力だったのか。これがアイツの奥の手なんだろうな。ブレスと威圧で普段は十分なんだろう。それに今は飢餓状態か。だいぶ弱ってるみたいだな。確かに気配もいつもより弱かった。・・・叩くなら今なのかもしれねぇな。」
「・・・サムエルさん、やっぱり戦うんですか?」
「どうだろうな。仲間がこれを見てどう反応するかだ。ただ、俺はこれを見て思ったぜ、戦うなら今だって。」
確かにそうだろう。飢餓状態なんて次にいつ来るかわからない絶好の機会に違いない。ただ、それでも危険だ。もし何かあったらじゃ遅いのだ。
「・・・僕は正直、危険だと思いました。ドラゴンは攻撃しなきゃ襲ってこないじゃないですか。どうしてもやらないといけないんですか?」
「やらなきゃいけねぇわけじゃねぇよ。今のところクフの街には直接的な被害も起こってはいねぇ。ただな、アイツは気まぐれに襲ってくる。今も被害者がいないことはない。襲われた村だっていくつもある。放ってはおけねぇだろ。」
確かに、ここまで危険な存在だ。放っておくのは良くはないだろう。でも、触らぬ神に祟りなしでもある。放っておいた方が良いこともあるんじゃないだろうか。
「それに、状況があまりにも整ってるんだよ。俺たちはもういい年だ。お前さんは知らないかもしれねぇがな、この年になると段々とステータスが落ちてくるんだ。」
なんと!ステータスって落ちていくのか。でもそりゃそうか、人間は老いる。当然、能力も失っていくものか。
「それに、俺たちの子どもたちももう15歳を超えて成人になった。立派に働いてるし、俺たちの支援が必要なわけじゃねぇ。俺たちが死んだって、何とかなる。」
サムエルさんの子どもたちは15歳を越えて独り立ちしているようだ。なるほど、自分が死んでも迷惑はかからないと。でも、死を考えているという事は、必ず勝てる相手とも考えてはいないようだ。
「領主だってできれば討伐してほしいと言っていた。ただ、あのレベルのモンスターは人を多く集めりゃいいってものじゃねぇ。高価な魔道具で攻撃するのも大変だし、撃ちこんだが最後、襲われるとあっちゃ誰もやりたがらねぇ。だから、二の足を踏んでいた。」
そりゃそうか。襲ってこないとは言え、街の近くにドラゴンがいるのは嫌だよな。
「俺たちはな、確かに冒険者としてやっていた。でも、ドラゴンのことはいつも考えていた。対策もしてある。そのためのスキルもLv.を上げてある。いけないことはないだろう。」
サムエルさんは、いつになく緊張した面持ちで語り続ける。いろいろな感情があるのだろう。いけるかもしれないという歓喜。希望。でも、恐怖や不安もある。
複雑な感情の中で、決めかねているように思う。でも、あの顔は何かを決意しているようにも思う。
うーん。困ったなぁ。俺がステータスを告げたのが原因でサムエルさんたちがドラゴンに挑んで敗れたなんてなったら寝覚めが悪いし、悲しい。勝てば問題はないが、必ず勝てる保証はない。どうしたものか。
相変わらずドラゴンのステータスを見ながら過ごすサムエルさんを見ながら、俺も考え事をしていたら、馬車は街に着いていた。
気が付けば日も落ちようかという時間帯だ。今日はこのまま解散なのだろう。
馬車があった家に着き、サムエルさんは俺を宿まで案内してくれようとした。
ただ、宿までの道は覚えている。
実は今朝、宿屋から馬車まで移動しようとする際に、道順を覚えようとしていたらマッピングを覚えたのだ。
このスキルは面白いことに、頭の中に何となくの方向が思い浮かぶようになる。Lv.がが上がるとより詳細に道が分かるようになる。頭の中に地図が構成されるようなものだ。
恐らくサムエルさんもこのスキルがあるから森や山で迷わず進んでいくことが出来たのだろう。
そんなスキルも覚えたので、俺は宿まで一人で大丈夫と伝えた。
サムエルさんも、仲間にいち早く伝えたかったのだろう。「気をつけろよ。」と一声かけてすぐにいなくなった。
なんだか、今にも飛び出していきそうな不安もあるが、とりあえず疲れたな、宿に向かおう。
宿に行くと、仏みたいな顔をしたヤーレンさんが出迎えてくれた。
「おや、装備が変わると、これぞ冒険者という雰囲気になりましたね。今日はもう用事は終わりですか?」
「ありがとうございます。今日は少し疲れてしまいましてね。一端部屋で休むことにします。」
「そうですか、分かりました。サムエルさんから夕飯代もいただいていますから、夜ご飯の時間には遅れないようにしてくださいね。」
「分かりました。ありがとうございます。」
ふふふ。やはり見た目の変化は大事だな。褒められてしまった。
冒険者の雰囲気かぁ。雰囲気が出ているのかと思うと嬉しくなる。だって冒険者だよ冒険者。前の世界で統計をとったら、「異世界でなりたい職業ランキング1位」になるはずだろうきっと。
そんな憧れの職業になったのだ。改めて嬉しくなる。
といってもまだ格好と雰囲気だけだ。冒険者としては何もしていない。
明日は早速冒険者としての仕事を始めますかね。多分、Gランクだから雑用からだけど、俺のステータスは何だかんだチートだ。すぐにランクもあげられるだろう。
サムエルさんからの依頼を無事にこなした俺だが、今後のことはぶっちゃけ何も考えてない。
冒険者をしながら、日銭を稼ぐ。サムエルさんが教えてくれたことだが、当面はそれしかないだろう。
鑑定や他のスキルで稼ぐことは出来るかもしれないが、得体の知れないやつを最初から受け入れることはないだろうし、あまり特殊なスキルをひけらかしたくはない。
だからまずは冒険者として活動して、地盤を築くことが先決だ。
俺にはチートがある。だからすぐに有名にはなることは出来る。でも、正直あまりひけらかしたくない。
目立つのは好きじゃないからな。陰ながら有能なやつぐらいのポジションが結構好きなのだ。
ふふふ。本気出せば強いけどね?みたいな感じで過ごしていたい。そういう系のチート使いに憧れてしまう。
だから、明日からは雑用をしていこうと思う。
幸い、サムエルさんの依頼をこなしたから、お金がある。
ってアレ?お金は?
・・・あの野郎、金払うとか言ってたくせに、一銭ももらってねぇぞ。
あんな怖い思いしたのだ、もらえるもんはもらっとかないとな。
そもそも、こちとら無一文なんだ。いや、上薬草があるから多少金にはなると思うが。
それでも拠点がないんだ。金がないと生活ができない。
まぁ、多分サムエルさんも放ってはおかないだろう。面倒見のいいサムエル親分だ。きっと何とかしてくれる。
もしこれまでの支払いと装備品が依頼料だと言われても納得するしかないが、多分サムエルさんのことだ。お金を払ってくれる気がする。なんだかんだ親分だしな。
明日あたり、ギルドにでも行けば良いだろう。有名人だし、居場所くらい教えてくれるはずだ。
考え事をしていたらいつの間にか眠っていた。
夕方の鐘の音に起こされ、腹が減っていたから夕飯を食べた。
今日の晩御飯はウサギ肉のソテーだった。
肉系はだめだな。素手で食べさせられる。いや、味はいいんだが、素手が慣れない。
出来ればそうそうに箸が欲しい。そっち系のスキル取得を目指そうか?
何にせよ、明日は冒険者ギルドに行って、今後の生活の目途を立てないとな。
夕方少し寝たはずなのに、夜になると何だかんだ眠くなってきた。
異世界での生活にまだ慣れていないからだろうか、何だかんだ疲れて眠くなる。
そもそも、トイレとか洗い場に慣れないのだ。
ボットン便所は臭いし、トイレットペーパーもない。草で拭くとか初心者には大冒険だ。
洗い場も手拭いで拭くだけだ。幸い石鹸はあるから気分はさっぱりするが、水しかないので冷たくて悲しくなる。
寝巻もないし、ベッドも割と固いし。
寝巻はしょうがないから麻の服を着ている。まさかこいつとまた対面することになるとはな。
一つ一つの生活環境の違いに、疲れが溜まっていくのだ。だから寝れる時に寝ておかないとな。
こうして俺の異世界三日目が終わった。
ここまでバタバタとしていたが、明日からがいよいよ俺の異世界生活の始まりと言って良いだろう。
ゲームで言えば、サムエルさんからの依頼というチュートリアルをクリアしたぐらいのところだ。
いよいよゲームの本編が始まっていくのだ。ワクワクしてくる。
サムエルさんのことは少し心配だが、どうするのかは明日聞いてみよう。何か力になれることがあれば協力はしてあげたい。
そんなこんなで俺はいつの間にか眠りについていた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン!
四日目の朝も、鐘の音で目が覚めた。
一昨日から何度か聞いてきた鐘の音に、徐々に慣れてきている。
さて、今日はギルドに行くのだ。まだ日が昇ったばかりのようだが、こっちの世界は朝早くから活動している。早い時間に行っても大丈夫だろう。
とりあえず朝ご飯を食べようと食堂に向かう。
食堂に向かう際に通る受付で、なぜか頬が腫れているヤーレンさんに挨拶をする。
「おはようございます。」
「あぁ、ハルヤさん、おはようございます。実は昨日の晩、サムエルさんが来ましてね。あなたにと言って袋を置いていきましたよ。」
「え、そうなんですか。ありがとうございます。」
「それと、一週間分の滞在費と食費を払っていかれましたので、荷物はあの部屋に置いておいても構いませんから。」
「え?!そうなんですか?!なんでそこまで・・・。」
「・・・ドラゴンを倒しに行くからですよ。今朝、旅立ちました。」
「・・・は?え、今日倒しに行ったんですか?!」
「そうですよ。今朝、と言っても日が昇る前に出発しました。止めたんですけどね、ぶん殴られました。あまりにも痛かったので、これならドラゴンも倒せるでしょう。」
ヤーレンさんは頬をなでながら、思いつめた表情をしている。
俺は急いで袋の中身を確認した。そこには数枚の大きな銀貨と、手紙が入っていた。
「ハルヤへ
昨日はありがとな。あの後、仲間のところに行ったら、ステータスのことは驚いていたが納得したみてぇでな。そこから作戦会議をしたが、30年以上の想いがもう止められなくなっちまった。
飢餓状態の大チャンスだ。いつまたこんなチャンスが巡ってくるかわからねぇ。それに、俺たちももう年だ、時間もあまりねぇ。
このチャンスを逃さないように、突然ではあるが今日俺たちはドラゴンを倒すことに決めた。
街のやつらには何も言ってねぇ。言ったら、止められるからな。
ギルドには報告してあるから、俺たちに何かあってもギルドが対処してくれるはずだ。
お前さんの鑑定は有益な情報だった。もちろん、ステータスが分かるということもそうだが、何よりも俺たちの背中を押してくれたからな。
もし俺たちが帰ってこなくても、責任を感じるんじゃねぇぞ。この決断は、俺たちだけのものだ。お前さんのせいじゃねぇ。
それに、いつかは戦っていたからな。なら、安全なタイミングを教えてくれたお前さんは、胸を張っていいんだ。
ってさっきから何だか死ぬみてぇな文章になっちまったが安心しろ。俺たちは生きて帰ってくる。
そん時は、お前さんに冒険者の心得を教えてやるからよ。ついでに、先輩の敬い方もな。覚悟しておけよ。
後は、鑑定の礼に3万Gいれておいた。適正料金がわからなかったからな。当面の生活費として十分な額をいれておいた。
宿も一週間借りてある。その後は自分で何とかしろ。お前も冒険者で大人だ。これからのことは何とかなるだろう。
お前さんと過ごした時間は楽しかったぜ、おかげでまだ生きようと思えたからな。きっと俺たちは大丈夫だ。
帰ってきたら、酒でも飲もうぜ。
サムエル」
手紙を読んだ俺は、ヤーレンさんに礼を言って、宿を出た。
そのまま、街の北門へと向かった。




