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ドラゴンの恐怖

ゴーン、ゴーン、-ゴーン。


朝の鐘が鳴った。前の世界でも実家の近くの寺が鳴らしていたからか、鐘の音にはあまり驚かない。


ただ、寺の鐘は低い音だったが、こちらの鐘は高い音がする。


どちらも割と好きだが、俺は低い音の方が好みだ。なんとなく落ち着くからな。




さて、朝の鐘が鳴ったということは、次の鐘でサムエルさんがやってくる。


なので、朝ご飯を食べにいこう。



朝ご飯はパンとサラダと牛乳と、よく分からないおじやみたいなものだった。


これがこの世界の一般的な朝食なのだろうか。


パンはやっぱり美味い。これだけで全然いける。サラダは色鮮やかな見たこともない野菜でちょっと気味が悪いと思ってしまったが、味は良い。


牛乳も前の世界のものとは違い、ちょっと濃い味だった。臭いと言った方がいいだろうか。


そして、おじやみたいなもの。米っぽいが多分違う。穀物であるということしかわからない。味は非常に薄いが、塩をかけて食べると食べられないことはなかった。美味しくはなかったが。



前の世界との違いはあるが、それでも割と満足のいく朝食だった。




ゴーン、ゴーン、ゴーン!



今日二回目の鐘が鳴った。ということはもうすぐサムエルさんが来るという事だろう。


俺は部屋を出てロビーにあった椅子に座る。


ヤーレンさんは不在だった。挨拶ぐらいしたかったが、まぁいいだろう。



昨晩、寝る前に改めてステータスを確認したが、洗礼式を受けた時と何も変わらない。まぁそりゃそうだ。何もしてないし。


ただ、冒険者の称号が付いたかと思ったが、≪異世界からの救世主≫しかなかった。Aランクぐらいにならないと付かないのだろうか?



今日はこれからいよいよドラゴンとご対面する。ちょっと怖い。


だから実際に今どのぐらい自分が戦えるのかを判断しておきたいが、サムエルさんの前で戦うのは自分の手の内を見せることになるからな。


サムエルさんを信頼していないわけじゃないが、何があるかわからない。できればまずは一人の時に確認したい。



となるとやはり、まずは依頼をこなしてからだな。隠れて見るだけだし、サムエルさんの口ぶりから、特に戦う場面もないだろう。



いずれにせよ、ドラゴンを鑑定する依頼を終えるまでは、派手にいくのはやめた方が良いだろう。


今は目の前にあることをすませながら、これからの事を少しずつ考えればいい。




ロビーで待っていると、サムエルさんがやってきた。


「よぉ。おはようさん。ちゃんと起きてたな。寝てたらぶん殴ろうと思ってたんだがな。」


「ちゃんと起きますよ。今日が命日かもしれないんでね。」


「ハハハッ!この依頼を舐めてないようで良かったよ。・・・最後に確認だが、本当にいいのか?今ならまだ断ってくれても構わないぞ?」


「大丈夫です。これはサムエルさんへの恩返しと言うより、僕の好奇心ですよ。ドラゴン、見てみたいし。」


サムエルさんは心配してくれているが、まぁ何とかなるだろう。それにドラゴンもやっぱり見てみたいと思う気持ちもある。


「・・・そうか。ありがとな。まぁ、気を引き締めてるようだし大丈夫だろう。よし、行くとするか!」


そう言ってサムエルさんは行こうとするが、そこで思い出したように止まった。



「おっと、忘れてたぜ。お前さんの装備なんだが、流石にその服のままというわけにはいかないだろう。俺のお古で悪いが使えそうなやつを持ってきた。背丈も大して変わらんから大丈夫だろう。」



そう言って、サムエルさんはいかにも盗賊という感じの装備を渡してくれた。


薄い茶色の服は、カッコいいかダサいかで言えばダサいが、それでもようやく麻の服から脱却できるのと、冒険者らしい格好になれることにテンションが上がった。



「え、いいんですか?!ありがとうございます!」


「あぁ、一端部屋にいって着替えてくるといい。あと、どうせ今日も使うと思ってな、昨日あの後ヤーレンに言ってもう一泊分金払っといたから、荷物も部屋に置いておいていいぞ。」


「おぉ!何から何までありがとうございます!じゃあ、部屋に行って着替えてきます!」



ワクワクしながら、部屋に戻って着替える。


着替えた服と木の棒は【アイテム】にしまっておこう。盗られたら困るし。

なくなっても困らんが、何だかんだ愛着が湧きかけている。


ついでに、装備した服を鑑定しておく。


―――――――――――――――――――――

E.緑のバンダナ

 防御+5


E.青銅のナイフ++

 攻撃+35、【短剣術】習熟度補正


E.盗賊の服(上)+

 防御+10、敏捷+20、【罠術】習熟度補正


E.盗賊の服(下)

 防御+10、敏捷+15、【隠密、忍び足】習熟度補正


E.オーク革の手袋

 防御+10、【器用】習熟度補正


E.狼革のブーツ

 敏捷+25、【加速】習熟度補正


E.オーク革のベルト

 防御+2

―――――――――――――――――――――


いかにも初期装備と言ったところだろう。


いや、序盤からちょっと行ったぐらいの装備か?結構いいものをもらった気がする。



ただ、能力はどうでもいいのだ。ここに来て大事なのは見た目だ。



この見た目、鏡がないからわからんが、きっといかにも冒険者といった風貌になったはずである。


もうそれだけでテンション上がっちゃうよね!


指先が空いた手袋なんて、中二病と言われてしまうかもしれないが、いかにもなものにテンションが上がってしまう。




後はこのナイフである。正直、獲物を持ったのは初めてだ。包丁ぐらいならあるがノーカウントでいいだろう。


今からこれを使うのだ。ちょっと怖い気もするが、武器を手にするとわくわくしてしまう。


ちょっと振り回してみると、自分が強くなった気がしてしまう。いや、実際にスキルLv.が上がっていくから強くなるんだが。




さて、あまり装備で浮かれて待たせるのも良くないだろう。さっさとサムエルさんのところに戻ろう。




すると、サムエルさんはロビーで待っていたが、俺を見つけるとニヤニヤしだす。


「お前さんもちょっとはマシになったな。いっぱしの冒険者っぽいぜ。」


サムエルさんが素直にほめてくれる。気味が悪い。


「ありがとうございます。なんで笑ってるんですか?」


「いや、ちょっと昔を思い出して懐かしくてな。俺も初めての装備でワクワクして、今にも誰かと戦いたい!とか思ったもんだよ。」


「いや、僕はそんなこと思ってませんけど。」


見当違いもいいところだ。俺はそんなに野蛮じゃない。



「そうなのか?でも、ワクワクしてるのは確かだろ。」


「まぁ、それもそうですが。」


「いいじゃねぇか。好奇心は大事にしとけ。年取ると、ワクワくしたくても出来ねぇからな。」


サムエルさんが哀愁漂う一言を言いだしてきた。なんだろう、この服にも親父臭がついている気がしてきた。




「さーて、んじゃちょっくら山まで行きますかね。」


そう言ってサムエルさんは宿から出ていく。俺も鍵を受付の箱に入れて、急いでサムエルさんの後に着いていく。





街を歩くと、まだ早い時間にもかかわらず、多くの人が働き始めている。


光の魔道具はあるから、夜も作業できるのかと思い、労働開始時間も遅めになるものかと思ったがそうではないようだ。


俺もそのうちこういう生活に慣れていくのかな。



そんなことを考えていると、一軒の家についた。家の前には幌馬車がある。もしかしてこれに乗るのかな?とワクワクしているとサムエルさんが疑問に答えてくれた。


「これから馬車に乗って北門を抜けて山のふもとまで行く。時間にして鐘二つ分ぐらいだろう。」


鐘二つ分か。二時間ぐらいだろうか?時間の感覚がわからん。



「そうだ、お前さん、馬車には乗ったことあるか?」



「いえ、見たことはありますが乗るのは初めてですね。」


「そうか、じゃあ酔わないように気をつけな。もし酔ったら吐いてもいいが外に吐けよ。」


前の世界では車酔いはしないタイプだったが、馬車は別物だろう。酔わないといいな。


「なるほど、酔わない方法はないんですか?」


「あるぞ。」


「え?あるんですか。じゃあ先に言ってくださいよ。それで、酔わない方法は何ですか?」


「あぁ、乗らねぇことだ。」


クックッと笑うサムエルさんに殺意を抱く。そう言えばこの人はこういう人だった。どうしよう、今から依頼キャンセルしてやろうか。



「ハハハッ!すまねぇすまねぇ。お前さんが緊張しているみたいだったからつい茶化したくなってな。酔わねぇ方法なんてねぇよ。慣れだ慣れ。よし、んじゃあ行きますか。」


そう言ってサムエルさんと二人馬車に乗る。


既に御者は乗っていた。俺たちが乗り込むのを確認して、馬車が動き出した。




馬車での道中は視界がほとんど布でふさがれていたので、あまり景色を楽しむことは出来なかった。


ただその代わりサムエルさんから冒険者の心得や失敗談を色々と聞いていた。


装備品で良くない物を掴まされたとか、アリ系の虫モンスターが思っていたよりも固くイライラしてぶん殴って手の骨を折ったとか、沼地に足を取られて高かった靴を紛失したとか。



仲間のことも少し聞いた。



サムエルさんたちドラゴンバスターズは5人組で、ハンターのサムエルさんのほかに、大剣術士、水魔法使い、回復魔法使い、盾術士がいるらしい。割とバランスの良いパーティーとのことだ。


30年以上一緒に活動しているらしく、最早家族みたいなものらしい。


凄いな、30年以上やって誰一人欠けることがなかったのか、と思っていると、そうではなかったようだ。


サムエルさんは「最初は7人だったがな、2人は死んじまった。」と悲しそうに言った。



これは、俺に対する警告でもある。冒険者はいつ何が起こるかわからない。


常に死と隣り合わせだ。だから、気をつけろと。口では言わないが、雰囲気でそう伝えているように感じた。




何だか重たい空気になってきたが、そんな話をしているうちに思ったよりも時間が経っていた。


幌馬車が停まった。山のふもとに着いたということだ。酔わなくて良かった。




「よし、着いたな。ここから山の中腹までいくが、道中はなるべく戦闘を避けていく。ドラゴンの住処まで一直線に進んで、ドラゴンを見て、この羊皮紙に能力を書き込む。そんで撤退する。以上だ。わかったな。」


「分かりました。」


「後は山の中じゃいつモンスターが襲ってくるか分からない。ほとんどの敵は俺が気付けるが、そうじゃない敵もいないことはない。お前さんも気を抜くなよ。いつ死ぬかわからんからな。」


さっきの警告の続きでもあるのだろう。俺は改めて気を引き締める。


「よし、いい顔になったな。まぁ、不安を煽っちまったが、特に危険な山じゃねぇ。ある程度は肩の力を抜いていけ。」


気を引き締めつつも、ある程度はリラックスしないといざという時に動けないからな。うまくやっていこう。


何にせよ、俺はステータスも高めだ。何かあっても動けないことはないはずだ。サムエルさんにステータスがバレるのはちょっと怖いが、まぁサムエルさんだし、受け入れてくれるだろう。



そんなこんなで俺たちは山に入っていった。


道中はほぼ全ての敵を無視した。いてもサムエルさんが対応していた。経験値を獲得したいとも思ったが、今日は無視でいいだろう。何があるかわからんからな。



途中で少し早めのお昼ご飯を食べる。干し肉とパンだ。


干し肉は塩辛かったが、パンと一緒に何とか食べた。


ワイルドな味に新鮮な思いをしたが、できればあまり食べたくはない。



「悪いな。いつもだったらモンスターを倒して肉を得ることもあるんだが、今日はそういうのもなしだ。ドラゴンまでなるべく何もしないでおこうと思ってな。」



体力を温存しつつ、山の中腹までやってきた。ここまでかなり早足で来たが、体力があがったこともあってかほぼ疲れていない。


サムエルさんも少し驚いているが、気にしなくて楽だと思ったのだろう、何も話しかけてこない。



岩肌が段々と見えるようになり、崖のようになっている場所もでてきた。



そして、目的地がもうすぐというところで、ドラゴンが近づいてきたからだろう小声でサムエルさんが話しかけてきた。


「もう少し行くと、崖に出る。そこの反対側少し下の方にドラゴンの巣がある。やつはこの時間になると入り口付近まで出て寝るから、その時にステータスを見ろ。もしドラゴンが気がついたら全力で岩の方に逃げろ。いきなり森の中に逃げてもブレスで燃やされる危険があるからな。俺が奴の気を引くから岩を盾にして隠れろ。そうすりゃ追ってはこないはずだ。」


そう言って、サムエルさんは隠密を発動した。俺も隠密を発動する。


「やっぱり俺よりも隠密が上手いな。それなら何とかバレずにいけるだろう。よし行くぞ。」



先ほどまでとは違い、一歩一歩慎重に歩いていく。


崖になっている場所に立つと、150メートルほど先に穴が見えた。改めて自分の目の良さを認識させられる。視力補正ってすごいな。




少し待つと、全長10メートル以上はあるだろう、巨大な赤い怪物が出てきた。




あれがドラゴン・・・!




・・・体が、震える。今の俺じゃあ絶対に勝てない。


そんなことを思わせる威圧感を漂わせながら、ドラゴンは巣の入り口で日向ぼっこでもするように寝始めた。



寝息がここまで聞こえてくる。それぐらい巨大な生物でもあるということだ。




寝たのを確認し、俺は【鑑定】を使う。きっと目が光っているのだろうがお構いなしだ。



ドラゴンのステータスを見ることが出来た。



じっくり鑑定しながら、詳細まで俺は羊皮紙に書き込もうとするが、手が震えて上手く書けない。でも、何とか手を抑えながら能力を書き込んでいく。


と、ここにきて文字に関しては考えてなかったことに気が付く。こっちの文字がわからん。


少し焦りながら、とにかく日本語で書いて後で口頭で説明すればいいだろうと思った。しかし、書き始めるとこっちの文字を書くことができた。


自分でも知らない文字を勝手に使っている感覚に、奇妙な感じを覚えるが、便利だからこの際何でもいいだろう。



サムエルさんはその間、ドラゴンを憎々しげに見ながら、襲ってこないか観察している。




そのまま10分ほど書き続けた。




・・・よし、書き終わった!緊張で初めは手が震えて手間取ったが、ちょっとずつ慣れてきて何とか書ききった。


書いたものを確認する。ちょっと震えているが何とか読める。大丈夫だろう。




小声でサムエルさんに報告する。




「終わりました。いつでも撤退できます。」


「よし、良くやった。ズラかるぞ。」




そう言って俺たちは慎重にその場から撤退した。


幸いなことにドラゴンは追ってこない。


ただ、それでも慎重にしながら、30分ほど歩き、ようやく一息ついた。



「よし、よし!良くやった!」


サムエルさんは俺をねぎらってくれる。


俺もまさかあそこまで恐怖するとは思わなかったからな。それでも、無事に依頼をやり遂げられてホッとした。



「とりあえず、ステータスの確認はどうしますか?今からやりますか?」



「いや、早く見たい気持ちもあるが、馬車に戻ろう。そこまで行きゃ落ち着いて確認できるからな。」



そう言って俺たちは馬車に戻った。


日はまだ高いが、ドラゴンという恐怖を目にしたからか、俺は疲れ切っていた。


今は一刻も早く街に戻りたい気持ちもあったからな、馬車まで戻ることに賛成した。



とりあえず依頼は終わったが、サムエルさんはこれからどうするのだろうか。



多分、サムエルさんたちは戦える。だが、危険でもある。



どうするのだろうか。

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