明日へ
冒険者ギルドから出ると、いよいよ日も暮れてきた。
異世界二日目は中々に充実した1日だったように思う。ただ、色々ありすぎて疲れたな。
「さて、今日の要件は終わりだな。早速、宿に行くか。」
「そうですね。僕も今日はいろいろあって疲れました。」
「お前さんは初めての街に洗礼にギルドに目白押しだったもんな。そりゃ疲れるわな。」
そんなこんなでさっさと宿に向かうことになった。
先ほどまではずっと中心部に向かっていたが、今度は北側の方に向かっていった。
「そういえばお前さんにこの街のことはあんまり教えてなかったな。」
「そういえばそうですね。見たことしか情報にありませんね。」
そう言ってサムエルさんがこの街のことについて教えてくれた。
クフの街は今から300年以上前、【大魔導士】という戦闘職に就いたクフという冒険者が、この辺一帯を大型魔獣との戦闘の際に火魔法を撃ちまくって燃やし尽くし、荒れ野にしてしまったらしい。
とんでもない野郎だな。というか、魔法ってそんなことまで出来るのか。
そして荒れ野にしてしまったことを申し訳なく思った大魔導士クフは、その辺一帯を治めていた領主の下に謝罪にいったんだとか。
だが、領主はむしろ大型魔獣を討ち取ってくれたことをほめて、面白そうだから荒れ野になった一帯に街を作ろうともちかけたらしい。
謝りに行ったら、逆にほめてくれた領主にクフは好感と興味を抱き、街づくりに全力で協力したそうだ。
そのため、街壁や堀、さらには道の舗装、治水なんかも、クフが3年もかけて全て魔法で作り上げたらしい。
さらにクフお手製のモンスター除けの結界魔道具まで設置したんだとか。クフは多彩だな。
感覚としては街づくりのゲームみたいだな。むしろそんな感じで楽しんでたんじゃなかろうか。
それにしても凄いな魔法って。壊すだけじゃなく街も作れるのか。
そんな感じで街の根本的な部分が出来上がり、それも非常によく出来た街だったのですぐに人が殺到し、クフの街は次第にでかくなっていったんだとか。
ただ、暮らしやすいと弊害もある。それは、人の増加だ。
住みやすい土地、街壁の守り、さらに結界まで存在する。安全な街だからこそ、安全に子育ても出来る。
結果として人が増えすぎてしまったが、街は壁によって限界があるため土地は広げられない。
街壁を壊して広げればと思ったが、どうやらクフの魔法で作られた街壁は相当強固なものであるらしく、役立つのだとか。
あの街壁はモンスター相手ではなく、戦争の時に役立つそうだ。
モンスターがいる世界でも、やはり戦争はあるんだな。その辺はあまり変わらないようだ。
そのため、このクフの街の土地価格はかなり高騰してしまっているようだ。特に中心部は貴族街と呼ばれ、金持ちばかり住んでいるんだとか。
なるほど、近づかないようにしとこう。
増えすぎた子どもたちは結局、別の街に移っていく。
ただ、全員がそうできればいいが、仕事の当てもなく、家族の援助を受けられない子どもも結構いる。
そういった子どもたちは、外に行くでもなく、クフの街のスラム街のような場所で暮らしている。
孤児院などもあるが、どこもいっぱいで、そこでも溢れてしまうのだそうだ。
そのため、サムエルさんはそういった子どもを良く助けたりしているらしい。
子どもが働けるように、冒険者としての道を提示したり、生活職の場合はその職に口をきいたり、いわゆる職業斡旋だな。ハロワサムエルだ。
この辺は、さっき冒険者ギルドで「また人助け?」と言われていたことを思い出したので突っ込んで聞いてみたら教えてくれた。
ただ、サムエルさんは恥ずかしいのか「子分を増やしてるだけ」と言っていた。
なんだ、やっぱり親分じゃないか。
「そういえば、明日のことって何も決めてませんでしたね?」
明日が命日になってもおかしくもないことをするのに、何も準備していなかったな。暢気すぎるだろうか?【勇者】でステータスが強くなったからか、気が大きくなっている気がする。
ただまぁさっきの冒険者ギルドでビビったみたいに、いざ脅威が近づくと怯えてしまうんだが。
「あぁ、そう言えば何も決めてなかったな。明日は街の北側の門からでて、しばらく行ったところにあるタポルの山に向かう。その山の中腹に、あいつの巣がある。そこに近づいて中を見るってのが明日の予定だ。」
「なるほど、ちなみに、明日は二人で行くんですか?」
「あ?そりゃそうだが、何だ二人じゃ不安か?」
サムエルさんは不服そうだ。そりゃ人数が大いに越したことはないのかもしれないが、そういう意味で言ったわけじゃない。
「いえ、サムエルさんの仲間も一緒に行くのかなーと思って」
「いや、お前さんの能力をあまり色んな人に知らせるわけにもいかねぇだろ?だから一緒にはいかないようにって思ってたんだが。」
サムエルさんは、俺の【鑑定】の能力を極力人に教えないように言っていたし、たとえ仲間であったとしてもバラすつもりはないようだ。ただ、そこまで隠さないといけないことだろうか?
「うーん。そりゃ不特定多数に知らせては欲しくないですが、サムエルさんの仲間なんですよね?なら大丈夫じゃないですか?言いふらすような仲間なんですか?」
「そんな奴らじゃねぇが・・・まぁお前さんのことを話していいならこっちとしては楽だが・・・それでも明日は二人だな。なるべく隠密の能力が低い奴は連れていきたくねぇ。」
確かにそうか。別に戦うわけじゃない。ただの偵察だ。なら、人数が少ない方がいいか。
「確かに人数が少ない方が良さそうですね。」
「ま、二人だからって心配すんな。なんかあったら身を挺して守ってやるよ。」
「分かりました。何かあったらサムエルさんを囮にすればいいんですね。」
「ハハハッ!そこまで堂々と言うやつは初めてだよ。明日は気合入れねぇとな。」
そんなこんなで、サムエルさんと話しながら歩いていると、お目当ての宿に到着した。
『孤独の拠り所』という何とも言えないセンスの名前の宿だ。
いささか不安になってきた。
こちらの不安をよそに、サムエルさんはさっさと中に入っていく。
木造二階建ての細長い建物は、中は思ったよりも落ち着いた雰囲気だ。
そして暗くなってきたから気が付いたが、なにやら電気のように光っている物体が壁にかけられてある。
あれは、もしかして光を出す魔道具なんじゃないだろうか?
さすがに電気は通ってないよな?あれ、もしかしてもう電気が発明されてるのか?
俺はその器具をマジマジと見ていると、サムエルさんは受付にいた男の人に話しかけていた。
「おっさん、客連れてきたぜ。」
「おっさんはやめてくださいよサムエルさん、あんたの方が年上でしょうが。」
「ハハハッ!つっても、ヤーレンの方がおっさんみたいだろ?お前さん最近運動してねぇだろ?ホレホレ、こんなに腹に肉がついちまって。」
そう言いながらサムエルさんはヤーレンという人のお腹を触っている。
うん、確かにちょっとメタボかな。いや、かなりか。でも、仏みたいでご利益ありそうな感じだ。
「やめてくださいって!もう二度とあんたが夫婦喧嘩したとき使わせてやらねぇからな!」
あ、仏が怒った。仏の顔も三度までだな。いや、三つつきまでか。
「む・・それは困る。悪かった。」
「はぁ、分かればいいですがね。それで、お客さんってのはその後ろの方ですか?」
ヤーレンさんとサムエルさんは割と気心知れた仲なのだろう。軽快なやり取りが交わされている。
「あぁ、そうだ。こいつを今晩泊まらせてやってくれ。」
「ちょうど一部屋空いてるんでこちらとしても助かりますよ。サムエルさんの友達なので割増しで料金は20万Gですがいいですか?」
「なんで俺の友達だと高いんだよ!それにこいつは俺の子分だ。」
何だか漫才を見ている気分だったが、聞き捨てならない言葉が聞こえていた。
子分だと?いや、親分とは何回か言ったが、子分になったつもりはないぞ。
と思っていると、ヤーレンさんも察したようだ。
「ふふ。はいはい、またいつものやつですね。それじゃ、料金は2000Gですがよろしいですか?」
「あぁ、構わねぇ。こいつの分は俺が払うからよ、よろしくな。あと、夕飯と朝飯を食わせてやってくれ。追加で払う。」
「いつもありがとうございます。それじゃ、追加で500Gになります。このまま部屋に案内しますか?」
そう言ってヤーレンさんは俺に声をかけてきた。
疲れたからな、このままちょっと休憩したい。サムエルさんも察してくれたのだろう。今日はここで解散となった。
「よし、じゃあ今日はここまでだ。また明日な。この街は朝日が昇ると鐘が鳴る。そこからしばらくするとまた鐘が鳴る。それが鳴ったら迎えに来るからよ。寝坊すんなよ。じゃあな。」
そういってサムエルさんは宿屋から出ていった。
「それではハルヤさん、部屋に案内しますね。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「それにしても、サムエルさんに拾ってもらって良かったですね。あの人、口は悪いですが、頼りになりますからね。」
「ははは、みんなそれを言いますね。まぁ、僕もかなり助けてもらってますが。」
思えば、今日サムエルさんに会わなかったらどうなっていたんだろうか。
街に来られなかったかもしれないし、そもそも森から出られなかったかもしれない。
門でも止められて怪しまれていただろうし、洗礼も、冒険者ギルドの登録も、ここまでスムーズにはいかなかっただろう。
やっぱり、サムエルさんは遅れてきたチュートリアルなのか?
明日からはナビとか妖精さんとか呼んだ方が彼も喜ぶだろうか。
「さて、こちらがお使いいただく部屋です。トイレは共用トイレが奥にございます。体を洗う場合は奥の洗い場をお使いください。夕食は夕方の鐘がなってから利用できますが、もう一度鳴るまでにお越しください。それ以降はお出しすることはできません。以上ですが、何かありますか?」
「いえ、ありません。ご丁寧にありがとうございます。」
「・・・それでは、こちらが鍵になります。出る際にはロビーの箱にお戻し下さい。では、ごゆっくりどうぞ。」
そういってヤーレンさんは俺に鍵を渡して出ていった。随分丁寧な人だったな。
さて、今日一日はいろいろあったので大分疲れた。
とりあえず横になる。すると、少し眠くなってきた。
あぁ、だめだ、ここで寝たら夕飯を食べ損ねてしまう。
こういう時こそ、全耐性の出番だ。この眠気を飛ばしてくれ。
そう思ったが、眠気は飛ばない。使えねぇな。
とりあえず、ここで寝たい。うん、仮眠しよう。
ゴーン、ゴーン、ゴーン!
鐘の音に目を覚ますと、外は既に夕暮れだった。
良かった、これは夕方の鐘だな。夕飯を食べ損なわずに済んだみたいだ。
鐘の音は想像以上にうるさかったので、無事に起きることができた。
夕飯を食べに食堂に行く。
今日のメインは角ウサギの肉と野菜を煮たシチューだった。
スプーンはあるんだな。手づかみじゃなくて助かった。
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「あら、あなたお帰りなさい。」
「あぁ、ただいまミツパ。」
今日も変わらずに妻が出迎えてくれる。そして用意されていた飯を食い、酒を少し飲んで、風呂に入って寝る。
こういう日常が、やっぱりいいもんだ。
もしかしたらこういう日常が、もうすぐ崩れてしまうかもしれない。
そう考えると、ドラゴンに立ち向かうことは果たしてどうなのかと思ってしまう。
でも、それが俺たちの目標でもあるんだ。今更やらないわけにはいかねぇ。
しかし、今日は変な一日だった。
昨日の不思議な音から、まるで導かれるように森の中に様子を見に行ったが、そこで出会ったあいつは、どうにも変な奴だった。
世の中の仕組みをまるで分かっていなかった。もしあれが演技なのだとしたら大したもんだが、流石に演技にしても大胆すぎる。
誰かの差し金にしても、理由もわからねぇし、何よりも無職の状態の奴を差し向ける意味がわからねぇ。
アイツは、何者なんだろうか。
そう考えると、やはり一つの結論に行き着く。
【鑑定】というスキル。あれは優秀なスキルだ。
相手のステータスもモンスターの能力も物の良しあしも。何もかもが分かっちまう。スゲー能力だ。
俺の装備品の能力だけじゃなく、適正価格まで分かるってのは、商人からすれば天敵みたいなもんだろう。反対に味方にしたら頼もしい。
貴族からしても、相手の能力が分かるというのは喉から手が出るほど欲しいだろう。情報は力だからな。
だから、あの能力のせいで、あいつは誰かに隠れて飼われていたんじゃないかと踏んでいる。
そうじゃなきゃあそこまで常識がないわけがねぇ。
取って付けたような嘘も、こっちの嘘に対して慌てるあたりも、あまりにも不用心だ。クフの街に入った時の表情からしても、まるで街に出たことはねぇんだろう。
にもかかわらず、言葉遣いはやたら丁寧だし、頓智の効いた言葉をたまに言う。
明らかにそこら辺の田舎町で育った奴の態度じゃなかった。
街を知らないくせに、大都市で育ったようなしゃべり方と内容の豊かさ。あまりにもチグハグだ。
どこかに隠されていたと言われた方が妥当だ。
逃げ出さないように、一人でどこにも行けないように拘束して、能力を使いたい時だけ持っていく。
道具みたいに使われたんじゃねぇだろうか。
何よりも無職だ。
洗礼を受けていない。それは異常なことだ。
アイツがショックを受けるかもと思ったから言わなかったが、7歳で洗礼を受けるのは、【固有スキル】を獲得する年齢であり、自我が形成され始める時期であり、それによって神からの守りが消滅するタイミングだからだ。
その年齢を超えても洗礼を受けない奴は、賞罰の対象にならねぇ。
賞罰はなぜか洗礼を受けた奴相手にしか発生しない。
神との繋がりのないやつには何をやっても許されるということだ。殺しても何しても犯罪にはならねぇ。
だからみんな洗礼を受ける。普通だったら親や周りの奴が受けさせる。
恐らく、それを利用してアイツを閉じ込めていたんじゃないかと思っている。
無職にしておいた方が、力も強くなりにくいし、圧倒的に支配しやすい。固有スキルが使えるんなら、無職にしておいた方が飼う側は安全だ。
そうやって支配され続けたから、あいつは息を潜めながらの生活を強いられて、隠密で隠れることを学んだんじゃないだろうか。
じゃないとあの年で、俺の気配察知でも見破れないほどのLv.にまでは上げられないだろう。
今でも思い出す。10年前の事件だ。
ある貴族が、大量に無職の子どもを隠し持っていた。
何をしていたかと思うと、一部は有用な固有スキルをもっていたから、繋ぎとめておくために無職のままにしていた。そしてそれ以外は腹いせに叩く用だと言い放った。
死んだ奴も何人もいたらしい。
普通のやつにそんなことをしたら賞罰がついて犯罪者になるが、無職のやつにはそれが許される。
それを利用して貴族が隠し持っていたんだ。
今思い出しても腹が立つ。結局は王の怒りを買い、奴が廃摘された時はスッキリしたが、被害にあった奴らの心の傷は今でも癒されてはいねぇ。報われねぇな。
その時の被害者のほとんどが、隠密を獲得していた。
スキルは簡単に取得できるわけじゃねぇが、強く願ったんだろう。ほとんどが獲得していた。
殴られたくないから、蹴られたくないから、怒鳴られたくないから、殺されたくないから。
貴族に見つからないように、息をひそめて隠れ続ける毎日だったから、奴らは隠密を獲得できたんだ。
取得していた内の何人かは高レベルというところに、さらに胸糞悪い思いを抱えた。
その時に、あいつは良く似ている。
有能な固有スキル、隠密、そして無職。そういうことなんじゃねぇかと思ったから、素性は聞かないようにした。
辛い過去ってのは言いたくないもんだ。正確には、思い出したくないもんだからな。
大方、何とか逃げ出して、森の中をさ迷うことになったんじゃねぇかなと思ったからだ。
ただ、不思議なんだ。アイツは。
アイツは、あまりにも無垢だ。
まるで誰かに支配されたことも、何かを強いられたこともないように見えた。
あまりにも魅力的な能力だったからついつい依頼しちまったが、反省してこっちが気を使って【鑑定】を強いないように気を付けてんのに、あいつは全然気にしねぇ。
こっちを疑ってもいやしねぇ。
それがおかしいんだ。あまりにも、人の悪意に触れた形跡が見えねぇ。
過酷な状況を生きてきたなら、もっと人を怖がるはずだ。なのに、アイツは怖がらねぇ。
あいつは一体何者なんだろうか。
いつか話してくれたらいいんだが。
まぁ、何にせよ今はドラゴンだ。
ようやく、ようやくあのトカゲに一泡ふかせるチャンスが来るかもしれねぇんだ。
そう考えると、もしかしたらあいつは神が送ってくれた使いなのかもしれねぇな。
上手くいった折には、あいつを助けてやらなきゃな。
さて、明日に備えて寝ますかね。
・・・アイツ、寝坊しないよな。ちょっと抜けてるから心配だが。
まぁ、その時はその時だ。ぶん殴って起こそう。
可愛そうなやつとか思ってたが、割と図太いからな、あいつ。気を遣うのが途中から馬鹿らしくなったし。大丈夫だろう。殴るぐらい笑って許してくれる。




