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冒険者ギルド

素手で熱い肉を食うという新鮮な出来事を経験することになったが、オーク肉は思いの外おいしかった。というよりも、肉に効いているスパイスが美味しかった。


何のスパイスをつかっているんだろうか?


前の世界で言うところの、中東の料理に似ている気がした。食ったことはないがな。何となくそんな雰囲気だ。


何にせよ、ただ焼いただけの肉じゃなくて良かった。



そして何よりもパンである。


種なしパンかと思ったが、ちゃんとフワフワのパンだった。


それに味が良い。良い小麦を使っているのだろうか。前の世界で発売しても普通に売れそうな味だった。



そして野菜が入ったスープも、毒々しい見た目のキノコや野菜から見た目は遠慮したいものだったが、良い出汁が出てるのか味付けが美味しいのかはわからないが、美味しかった。



故に、大満足なランチである。


こっちの世界のご飯は美味しい。異世界二日目にして、想像以上の収穫である。


手づかみという想像以上の損失はあったが、無事にカバーしたと思おう。




「いい食べっぷりだったな。ここの飯は旨いだろ?」



「はい、想像以上に美味しかったです!」



「だろ?俺も街からしばらく離れるとここの味を思い出しちまうんだ。」



あー確かにここの料理は旨いし、何か温かみがある感じなんだよなぁ。恋しくなる気持ちは分かる。



「あ、そうだサムエルさん。さっきの鑑定の話ですが、お引き受けします。なので、ここの飯、これからも何回かおごってくださいね?」



サムエルさんは、まさかこの流れで了承すると思ってなかったのか、目を見開いている。



「・・・ほ、本当に良いのか?!自分で頼んどいてあれだが、ドラゴンだぞ?」



「だってサムエルさんも無事に帰ってこれたんですよね?なら大丈夫ですよ。僕、隠密高いですし。」



サムエルさんは、真剣な表情をしたかと思うと、肩の力が抜けたように、フッと笑った。



「・・・すまねぇな。いや、ありがとう。恩に着る。」



何だかんだ優しいサムエルさんだ。恩を売っといて、いざそれを回収するのは心苦しいと思ってるのだろう。



「気にしませんよ。見るだけだし。あ、ただ道案内はよろしくお願いしますよ。」



「当たり前だろ。まかせとけ。それで、いつ頃行くか?」



「うーん、どうせやることもないし、今日行きましょうか?」



「はぁ?今日だぁ?お前さんは意外と肝が据わってんなとは思ったが、まさかここまでとは思わなかったぜ。」


サムエルさんが驚いている。流石に今日行くとは思わなかったのだろう。

落ち着いた雰囲気のサムエルさんを驚かせるのは割と楽しい。ちょっとスッキリした気分だ。


「早く行ってくれるのはありがてぇが、今日はなしだな。行って帰ってくるのに1日でも行けないことはないが、今から行ったんじゃ帰るのは夜になっちまう。」


それもそうか。夜の森って怖いもんな。昨日は一人で寝たけど。というか割と熟睡したけど、二日連続は勘弁だ。


「確かにそうですね。じゃあ、明日にしましょうか。」



「あぁ、わかった。明日にしよう。お前さんは宿屋にでも泊まっておけ。俺がそこに迎えにいくからよ。」



「わかりました。もちろんそれも奢りですよね?あと、良い宿なんでしょうね?」



「あ~知人がやってるってだけで、そこまで高級宿って訳じゃねぇが・・・なんだよお前さん、依頼引き受けた途端、急に態度デカくなったな。」



「そりゃあ、こっちは危険な依頼を引き受けるわけですから、このご飯も宿も正当な報酬ですからね。もう引け目を感じる必要はなくなりましたから。ふふふ。」



笑って言う俺に、サムエルさんは何を勘違いしたのか笑いながらお礼を言ってきた。



「・・・ありがとよ。お前さんは、変わってるが、良い奴だな。」



何を勘違いしているのか。別に引け目を感じてほしくなくて図々しくなったわけじゃない。こっちが俺の素だからな。そう思いながらカッコつけてたが、やはりサムエルさんは悪魔だ。追撃してきやがった。



「お?何だお前さん照れてんのか?顔が赤いぞ?まだまだカッコつけるには若かったかねぇ。」



「・・・そういうの突っ込まないのがおじさんの余裕だと思いますよ。」



「おじさんってのはな、案外余裕がないもんなんだよ。ハハハッ!」



いつかこの人をギャフンと言わせてやりたい。





「さて、腹も膨れたし、とりあえずギルドに行くとするか。」



おぉ!すっかり洗礼とか【勇者】とかドラゴンで忘れてたが、そうだった。俺はギルドに行って冒険者になるんだった!



「そうでしたね!ギルド行きましょうギルド!」



「お、なんだお前さん、危険だなんだ言いながら、冒険者になる気満々じゃねぇか。」



「そりゃあ男の子は誰だって冒険者に憧れますよ。自由でカッコいいし。」



「まぁ確かにそうだな。ただな、これだけは言っとくぞ。自由ってもんは責任が付きまとう。誰にも甘えられねぇ。それだけは忘れるんじゃねぇぞ。」



おっと、浮かれていたらサムエルさんからの忠告が入った。傍から見たら今の俺って、職業を手に入れてちょっと強くなって浮かれてる奴だもんな。注意したくもなるか。



「肝に銘じておきます!」



「おいおい、大丈夫かよ。まぁ、聞くよりも経験だな。なんかあったら俺に言えよ。」



そう言ってサムエルさんは街の中心部に向かって歩き出した。やっぱりこの人は親分気質なのだろう。




歩き出してから20分。ようやく冒険者ギルドについた。デカい無骨な建物だ。


石造りの大きい建物はそれだけでこちらを圧倒させる。


装飾も何もない、ただ『冒険者ギルド』と書かれた看板がひっさげられた建物が、かえって圧迫感を増してくる。




ヤベェ、ちょっとビビってる。


前の世界じゃ喧嘩とも厳しい上下関係とも無縁だったからな。怖くて近寄ろうとしなかった部分もある。


ステータスが高くなろうとも、その辺の気質が変わったわけじゃない。


果たしてこんな場所に俺なんかが行って大丈夫なのかと心配になってくる。


一応武器(木の棒)は持っているから何かあっても戦えるか。いや、木の棒だしな。無理か。




ビビっている俺に構わず、サムエルさんは扉を開けて中に入る。


俺も続いて中に入ると、中にはいかにも冒険者と言った格好の強面な人が数人いた。


中には獣人やトカゲのような人もいる。今となってはその見た目のいかつさに好奇心よりも恐怖を覚える。



みんなサムエルさんを見ている。いや、サムエルさんが連れているわけの分からない俺を見ている。



あまり注目されたくないので、「俺は空気」「俺は空気」と念じながら、サムエルさんの後に続く。


すると、周囲の目が変わった。いや、警戒したと言ってもいいかもしれない。



あ、今俺隠密使ってたのか。かえって刺激してしまったのだろうか。




そんな俺の焦りはお構いなしに、サムエルさんは受付にいた可愛い女性に声をかける。


「よぉ、アリサ。いつもご苦労さん。」


「あ、サムエルさん。昨日ぶりですね。それで、本日は何の御用件ですか?」


「すまんが、こいつの冒険者登録がしたいんだ。」


そう言って後ろの俺を指さす。


可愛い人だな。ちょっとデレデレしながら軽く会釈する。


この年で冒険者をやるという人はすくないのだろうか。アリサさんも少し驚いている。しかし、流石はプロだ。すぐに平静を装った。


「はい、わかりました。登録には1000Gかかりますがよろしいですか?


「あぁ、大丈夫だ。俺が払う。」


そう言ってサムエルさんは銀貨を1枚出した。何だか出してもらうのに慣れてきてしまっている。マズイマズイ。いや、これはそもそも正当な報酬なんだ。引け目に感じる必要はない。


ただ、美人なお姉さんの前でいい年した大人がお金を払ってもらうのは別の意味で気が引ける。


でもまぁ考えてもしょうがない。無一文だし。あはは。


頑張って働こう。



「はい、確認しました。それでは、今回冒険者登録をされる方のお名前と年齢を教えていただけますか。」


「あ、はい。ハルヤです。22歳です。」



「ハルヤ様、22歳ですね。ありがとうございます。では、別室で審査をいたしますので、移動していただいて構いませんか?」


「はい、わかりました。」



そう言ってアリサさんが奥の部屋に行くので、俺もついていく。サムエルさんはロビーで待っているようだ。


審査って何するんだろうか。ステータスとか見られんのかな。チートパックとか、スキルLv.とかあんまり見られたくないんだが。


それともあれか?誰かと戦うとかか?


それはそれで嫌だな。まだ【勇者】になってからの戦闘にも慣れてないし。圧倒して目をつけられたら嫌だぞ。ボコボコにされるのも嫌だが。



不安を抱えながら奥の部屋に行くと、街の入り口で賞罰を審査した水晶より少し大きい水晶がポツンと置かれていた。


そしてその横に受付嬢が立ち、説明を始めた。



「それではこれより審査をいたします。こちらの水晶はハルヤ様の魔力を認識し、身分を証明するとともに冒険者ギルドと契約を結ぶことになります。もし誰かと契約をしていた場合、水晶は反応いたしませんのでご注意ください。」



冒険者ギルドと契約?聞いてねぇぞ。え、あれ?俺って【勇者】として神と契約してるけど大丈夫なのかな?ヤバイヤバイ、不安になってきたけど、今更引き返せる雰囲気ではない。



「また、こちらの水晶は触れていただくと賞罰がかけられている場合はもれなく赤に、賞罰がかけられていない場合、生活職の場合は黄色に、戦闘職の場合は青に光ります。もし赤に光った場合は、この場で拘束させていただきますがよろしいですか?」



なるほど、ヤバい奴は捕まえるし、向いてないやつには勧めないというわけね。



「は、はい、わかりました。」


「では、こちらに手を置いてください。」



ドキドキしながら手を置く。大丈夫なんだろうか。


賞罰に関しては門では大丈夫だったし、今回も大丈夫なはずだが、契約は大丈夫なのか?不安になってきた。


ここで水晶が反応しなかったら、怪訝な目で見られるだろうし、サムエルさんになんて説明しよう。


いや、そこまで言ったら【勇者】のことを話すしかないが、何だか騙していたようで申し訳ないような気がしてしまう。



どうしよう、どうしよう。




そんな俺の不安をよそに、水晶は無事に青色に光った。とんだ肩透かしである。



「はい。確認が終わりました。では、引き続きカードを作成いたしますので、ロビーにてお待ちください。」


「ありがとうございます。」



無事に終わったので、ロビーにてカードが出来上がるのを待つことにする。


その間も、周りの冒険者は俺たちの方を見ている。


すると一人近づいてきてサムエルさんに話しかけ始めた。



「サムエルさん、お久しぶりっす。」


「おぉ、アムノンじゃねぇか。久しぶりだな。元気してっか。」


「はい、滅茶苦茶元気です!それにしてもサムエルさん、また人助けですか?」


アムノンという人は、大剣を背負った、短い金髪の爽やか青年だった。声も爽やかである。ただ、声がデカくてうるさいが。


そして獣人である。犬のような顔に、しっぽが生えている。いいなしっぽ。触ったら怒られるかな?




というか、「また人助け」ってことは今までも何回かこんなことがあったのか?


「まぁ、そんなところだな。」


「やっぱりそうっすか。」



うんうん、とうなずきながら、アムノンさんは俺の方に向いたと思いきや、ガッと俺の両肩を掴んだ。


「あんたも良かったなー!面倒見がいい人に助けられて。さっきの隠密も中々だったぜ!これからがんばれよ!」


「え、あ、はい。ありがとうございます。」


アムノンさんはそう言って俺の背中をバンバン叩いて去っていった。


悪い人じゃないんだろう。ただ何だろう。前の世界ではここまで初対面でグイグイ来る人とは接したことがなかったから、面喰ってしまった。


犬っぽいから人懐っこいのかな?


ただ、隠密が中々だったと褒められたの嬉しかった。まぁLv.9だしな。実際には中々どころじゃないと思うんだが、何だかんだ褒められると嬉しい。



「あいつも言ってたが、お前さんの隠密はかなり高レベルだな。ただ、何であんなところで使ったんだ?」



正直怖かった、とは言い辛い。男は強がりたいものなのだ。



「ふふ、試してみたのですよ。僕の隠密についてこれるか・・ね?」



「はぁ?お前ってたまにわけの分からないこと言うよな。大方、怖くなって隠れたってところだろうよ。ここの奴らは見た目怖いしな。」



俺はあんたのそういう何でも見透かしてくるところの方が怖いよ。



「サムエルさんって、細かいところに気が付きますね。」


「まぁ、職業柄な、そういうのは得意なんだ。」


「嫌味で言ったんですけどね。」


「もちろん、そういうのも分かってるぞ。」



クソ、こういう時だけおじさんの余裕を見せやがって。



サムエルさんへの復讐を考えていると、アリサさんがやってきた。


「はい。ギルドカードの作成が終わりました。受付の方に今一度お越しください。」


受付の方に行き、引かれた椅子に座った。


テーブル越し対面にはアリサさんが座る。やっぱり可愛い。心なしか良い匂いがする。


来てよかった異世界。改めて思うよ。



「では、これより冒険者のシステムを説明させていただきます。」


そう言って説明が始まった。


10分くらい説明されたが、要約するとこうだ。



冒険者ギルドはほぼすべての街にあり、それらは一つの組織となっている。


各冒険者ギルドでは共通のランク制度と冒険者カードになっているため、身分証としても機能するらしい。


渡されたギルドカードは何の材質でできているのかわからなかったが、プラスチックのような材質でできたカードだ。


そこには俺の名前や性別などと一緒に、デカデカと「G」と書かれていた。


早くランクを上げたいなぁ。



さらに、ギルドは使えばお金の貸し借りもやってくれるらしい。銀行業も兼ねているわけだ。


冒険者にはルールはほとんどないが、罰則はある。


迷惑行為や依頼が達成できなければ罰則が発生する。


その時折に判断されるが、降格であればまだ穏便な方で、最悪な場合は冒険者カード剥奪、つまりはクビになることもあるらしい。



というか結構いるんだとか。やっぱり荒っぽい奴が多いのかな。



ランクは依頼をこなしていくことでポイントが加算され、そのポイントによってランクが上昇する。


雑用からモンスター討伐、護衛依頼や国家や領主からの特殊な依頼も存在する。それらの依頼をこなすと依頼度によってポイントが加算され、そのポイントに乗じてランクが決定される。


初めはランクGだが、しっかり仕事すればEランクぐらいは誰でも上がれるらしい。


ただ、それ以上のランクになると、モンスター討伐や護衛依頼などが入ってくるため、強さが求められていく。


そのため、昇格するにはポイントを貯め、さらに試験を受けないといけないらしい。


中々険しい道なようで、だからみんなサムエルさんが所属するドラゴンバスターズを尊敬しているそうだ。



冒険者は依頼をこなさなくても良いが、2年間音信不通だと再登録が必要らしい。まぁ、いつまでも身分を保証するというわけでもないのだろう。



他にも細々としたことを色々と言われたが、全部は覚えきれなかった。


知力は上がってるんだが、記憶力は上がっていないのだろうか。



まぁ、アリサさんも、全てを覚えられるとは思っていないのだろう。


「わからないことがあれば、いつでも聞いてください。」と言われたからな。



いずれにせよ、これで俺は冒険者となった。憧れた冒険者になったのだ。何だか感慨深い。




しかし、俺の感慨をやはりこの男がぶち壊す。サムエルだ。


「よし、これでお前さんはGランク冒険者だな。Aランクの俺は直属の先輩であり、圧倒的な上司になったわけだ。これからは敬えよ。」


「・・・敬意というのは強制されるものではなく、自然と発生するものですから。いつか発生するといいですね。」


「良く回る口だな。今冒険者登録したばっかりの奴に言うのも何だが、お前さん、やっぱり商人とかの方が似合ってるよ。」


「サムエルさんも、教育者とかの方が向いてるんじゃないですか?反面教師に向いてそうです。」


「てめぇ・・・」



サムエルさんはなんだかんだ笑っていることから、こんなやり取りを許してくれるのだ。そして驚くことに、近くにいた冒険者も笑っている。こっちの会話なんて聞いていないと思ってたから驚いた。


Aランク冒険者と言う尊敬の対象であるサムエルさんをいじる俺を怒らないどころか笑っているところに、サムエルさんの人望が見えてくるな。相当好かれてるんだな。




あ、アリサさんも笑ってる!こればかりはサムエルさん良くやった!

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