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ドラゴンバスターズ

サムエルさんに連れられて、教会から歩いて5分ほど街の中心部に向かい『食堂レイモンド』と書かれた場所に入った。



ちなみにこの国の文字だが、見たこともない文字だ。だが、なぜか読める。

そのことの気持ち悪さを感じるが、便利だから良しとしよう。



『食堂レイモンド』からは焼いた肉のにおいがして、改めて俺も腹が減っていることに気が付かされた。



木造で作られた一軒家は、中に入ってみると思ったよりも広かった。


木のにおいと焼けた肉の匂いが混じり、俺は改めて異世界の生活にワクワクしてくる。



さっきは【勇者】という職業にビビっていたが、結局はチートをもらえたんだ。


それに今のところは世界的な問題は起こっていないのだ。今から不安になっていてもしょうがない。



そもそも俺は問題に関しては全て後回しにする性格だ。俺らしくなかったのかもな。




と考えを整理して気分が良くなった俺は、何を頼もうかとメニューを探したが、そんなものはなかった。



サムエルさんについていく形で木のテーブルに備えられた椅子に座り、そのまま待つこと数十秒、奥から茶髪の若い女の子がやってきた。


「あら、サムエルさん!久しぶりね。もう街に帰って来てたの?」


「おぉミラ、久しぶりだな。相変わらずちいせぇな。昨日帰ってきたとこでよ、ここの食堂の飯が恋しくなってな。」



サムエルさんはここの常連なのか。ミラという女の子と仲が良さそうだ。


「嬉しいこと言ってくれるねー!小さいは余計だけど。それで、今日はいつものメンバーじゃないのね?」


「あぁ、ちょっと迷子を拾ってな。」


そう言ってサムエルさんは俺の方を指さす。ミラと呼ばれる子も指を向けられた俺の方を向いたので目が合ってしまった。



改めて正面から顔を見ると、やっぱりこの世界の人は顔面偏差値が高めだ。この子もハッキリとした顔の美人だ。


まだ12-3歳ぐらいだろうか?幼さが少し残る顔だが、それでも既に将来の美人という事は確定していると言って良いだろう。ちょっとあんまりこっちに注目しないでほしい、自信なくすから。


すると、ミラと呼ばれる子は笑顔で挨拶してきた。


「初めまして、この『食堂レイモンド』の看板娘のミラよ!サムエルさんは口は悪いけど根はやさしい人だから、誤解しちゃだめよ。迷子ってのも冗談だろうし。」



看板娘って自分で言っちゃうのか、この子も中々愉快な子だ。サムエルさんの口の悪さは分かっている。基本的に信じてないから大丈夫だ。ただ、勘違いしているようなので一つ訂正をしておこう。


「初めまして、ハルヤです。ご忠告ありがとうございます。ただ、迷子っていうのは本当なんですよ。人生の迷子ですから。」


「そ、そうなのね。・・・随分丁寧な話し方ね。サムエルさん、中々不思議な人を連れてきたわね。」


あ、引いてる。愉快な子と思っていたが、流石に人生の迷子には突っ込んでくれなかった。まぁ、冗談じゃなくてホントなんだが。


「ハハッ!変なやつだろ?森で迷子になってたから拾ってきたんだ。まぁ、多分悪い奴じゃねぇ。良くしてやってくれ。」


「森で迷子って・・・本当に変な人ね。まぁ、この街にいるならここの常連になってね!そしたらサービスするから!」


そう言ってミラは奥に行った。が、すぐに戻ってきた。


「いけないいけない。注文聞くの忘れてた。今日のオススメはオーク肉のステーキだけど、それでいいかしら?」


オークか。いるのかオーク。やっぱり豚みたいなモンスターなのだろうか。角ウサギも旨かったからなぁ。モンスター料理に期待してしまう。


「あぁ、それでいい。大き目で頼むよ。お前さんもそれでいいよな?」


「はい。もちろんそれで構いません。」


「じゃあ大きめ二つね。合わせて銀貨1枚よ。」


そう言ってサムエルさんは財布から銀貨を1枚出した。


銀貨1枚で二食分か。高いのか安いのかはわからない。金銭感覚が全くわからないのだ。


質問してもいいんだろうか。ただ、それをしたらますます素性が怪しまれる気がする。もう十分怪しんでいるだろうが、サムエルさんが突っ込まないでいてくれているだけだ。あえて怪しいことをこれ以上する必要もないだろう。


どうしても必要だったらその時に聞こう。




「ここの食堂は味付けが上手いからな。それにパンが旨い。期待していいぜ。」


「そうなんですか。僕はオーク肉も初めてなので、楽しみです!」


お金のことを考えていると、サムエルさんがここの料理について教えてくれた。そもそも前の世界にはオークすらいないからね。美味しいといいなぁ。



「なんでぇお前さん、オーク肉食ったことなかったのか。」



そっか、確かにさっきのミラとのやり取りもオーク肉はメジャーっぽい感じだったもんな。普通は食べたことあるのか。



「え、えぇ。肉は角ウサギの肉ばっかり食べてましたから。」


「あぁ、確かに角ウサギも旨いしな。ただまぁ、オークの方が肉はいっきにとれるからよ、こういった食堂じゃ重宝するんだ。」


「なるほど、勉強になります。」


するとサムエルさんは笑いながら改めて俺を観察してくる。


「お前さん、本当に何も知らねぇんだな。今更ながら本当に山育ちなんじゃねぇかと思えてくるよ。」


「だからそうだって言ってるじゃないですか。」



なんでサムエルさんはいつまでも信じてくれないのか。やっぱり盗賊系は疑り深いんだろうか。



「まぁ、お前さんの素性は気になるが、それはいつか言いたくなったらで構わねぇ。ただ、次から嘘言うんだったら、10日は歩いたって言うべきだな。それならもう少し誤魔化せるだろ。」



なるほど、10日行けば山があるのか。



「そもそもですね、1日という言葉の意味がそれぞれで違うという可能性もあるじゃないですか。僕にとって1日とは5回太陽が沈んで昇ることを指すのであって、それはつまり僕の言う2日とサムエルさんが言う10日が同じ可能性もあるわけで。」


「なるほど。確かにその可能性があるな。じゃあ聞くが、どうして1日という単位が違うかもなんて思ったんだ?普通そんなことは思わねぇ。それに今の口ぶりだと、俺の言う1日が太陽が1回沈んで昇ったことだと思ってるように聞こえたんだが?」



墓穴って、掘っても掘っても掘りつくせないもんなんだな。でもいつか埋められるかもしれない。諦めちゃだめだ。



「・・・何となくサムエルさんの口ぶりからそうかなぁと思いましてね。」



「そうか。ならそういうことにしとこう。ただな、だからと言ってお前さんのいう事は間違ってるぞ」


「・・・なぜですか?」



「なぜって・・・この街に来る前に気が付かなかったのか?すぐそこに山があるじゃねぇか。10日もかからねぇ。1日で行けるぜ?」



「・・・はぁ?」


あ、確かにあったわ山。ちょっと違和感感じたけど放置してた。



「街から北側に1日行けば山はあるからよ。お前さんが言ってたように、もともと歩いて二日のところに山はあるぞ?あ、つまりお前さんの間隔じゃ1日もかからねぇか。ハハッ!」



いい人だとは思っていたが、この人は悪魔だ。悪魔。信頼しちゃいけなかったわ。


断罪してもいいと思うんだ。だってこっちは【勇者】だぞ?勇者が悪と決めた相手だ、倒しても問題ないだろう。



「ていうかお前さん、街を見た時、奥に山があるの見えただろ?何も言わねぇから、もうあの嘘はどうでもいいものと思ってたけど、まさか気が付いてなかったのか。」



この人、最初からずっとだましてたのか・・・!そもそもそんな嘘設定意味ないと思ってすっかり忘れてたわ!街のことしか目に入ってなかったよ!ちくしょう・・・。



「大人って汚い!!」



「いや、お前も大人だろ。まぁ、悪かったな。警戒してたからよ、何とかしっぽ掴もうと色々嘘を織り交ぜて試しながら話そうと思ったんだが、まさか一個目で引っかかるとは思わなかったよ。ハハッ!」



人の悪い顔で笑うサムエルさんに、軽く殺意を覚えた。


相手は有名人だからな、何とかバレないように闇討ちしてやる。隠密はこっちが上だ。闇に紛れて一発ぶん殴るぐらい許されるだろう。



「まぁそんな怒んなって。それはそうとよ、その山が俺が依頼するものに関わってるんだよ。」



「あぁ、その山にまさかドラゴンがいるんですか・・・?って街から滅茶苦茶近くにいるじゃないですか?!」



なんだよそれ、クフの街ヤバい場所じゃん。早々に出ていく計画をした方がいいのだろうか。



「まぁそう焦んな。ドラゴンは住処を転々とするんだよ。あのドラゴンがきたのはここ半年ぐらいだ。ただこの街には結界が張ってあるからな。近づいては来ねぇから安心しな。」



結界か。流石異世界、便利だな。



「それにドラゴンは頭もいいからな。大きい街はそもそも襲ってこねぇ。あの山でも近くにいる魔物を食べて寝るぐらいだからな。人にそこまで害はねぇ。」



なるほど、確かに物語によってドラゴンって狂暴だったり良い奴だったりするからな。こっちの世界では割と穏やかなんだな。



「じゃあなんでそのドラゴンの情報が欲しいんですか?」



「ドラゴンはな、基本的に人は襲わねぇが、気まぐれで人里を襲うことがあるんだよ。そして、そのドラゴンの気まぐれが、俺が暮らしていた小さな村に向けられたんだ。」




あぁ、そういうことか。やっぱりドラゴンヤバい奴じゃん。




「ドラゴンの気まぐれで、俺が住んでいた村は半壊した。その時俺は8歳だったんだがな、とてつもなく怖かったが何とか逃げ延びることが出来たんだよ。」



サムエルさんは重たい口調で、淡々と過去を話し始めた。



「ただ、ドラゴンのブレスで焼かれた人もたくさんいた。俺の親父もその時のブレスで死んじまってな。他にも知り合いが何人も死んだよ。」



「それは・・・辛かったですね。」



「あぁ、辛かった。まだ子供だったしな。ただ、俺だけじゃなく、他にも家族を失った奴らもたくさんいてな。その中に仲が良かった同年代の奴らが何人かいたからよ、そいつらと一緒にパーティーを組んで冒険者を始めたってわけよ。同じ傷を持つものがいたから、慰められたんだ。」



「なるほど、それでドラゴンバスターズですか。」



ドラゴンを倒した者じゃなくて、ドラゴンを倒すのが目的だったのか。


安易な名づけではあるが、カッコいい名前だな。



「あぁそうだ。だがな、俺たちだってバカじゃねぇ。すぐにドラゴンを追いかけたって死ぬのは分かっていた。だから、力を上げるためにモンスター相手に努力し続けてきた。」



「ただ、力を上げても上げても、あの日のドラゴンの姿に、俺たちがどこまで近づいているのかわからなかった。正直言うと、怖かったんだろうな。結局俺たちは、冒険者としての生活を続けて、知り合いも増えて、いつの間にか家族も出来て、気が付けばAランク冒険者になっていた。守るべきものの方が増えちまった。だから、ドラゴンだけを追うわけにはいかなくなった。」



サムエルさんは少し辛そうに自分の過去を語ってくれる。辛い過去を思い出しながら話すのは苦しいことだ。それでも話してくれるところに、今回の依頼への思いがあるのだろう。



「ただな、だからと言ってドラゴンへの恨みを忘れたわけじゃなかった。そんな時だ、半年前にドラゴンがすぐ近くの山に住み着いた。あの時の個体に違いなかった。忘れもしねぇ。左目に大きな傷を負っているドラゴンだったからな。」



「それを見た瞬間、身震いしたよ。レベルが上がったからかな、あの時ほど恐怖は感じなかった。今の俺たちなら、もしかしたら叩けるんじゃねぇかって。ただな、だからと言ってすぐにというわけにはいかなかった。ドラゴンを倒せるなら死んでもいいって思いは子どもの頃と変わらねぇが、俺たちが死んだら困る人が増えちまったからな。簡単に突撃するわけにはいかねぇんだ。」



「だから、入念な準備をした。死ぬわけにはいかねぇが、戦わないわけにはいかねぇからな。だがそれでも、相手の情報はそこまで分からなかった。ドラゴンの倒し方なんて、誰も知らねぇんだ。そんなときに、お前さんに会ったのさ。」



だから、【鑑定】を欲していたのか。んで、ドラゴンの情報を持ってきてほしいと。



「危険な依頼だという事は分かる。だが、あいつを目視することが出来る距離までは俺も何回か行ったことがある。近づいても向こうからわざわざ襲ってくる可能性は低いだろう。俺たちは、30年以上待ったんだ。力を蓄えて、倒すためにな。そんなタイミングでお前さんに出会った。これは、俺は運命だと思ったんだ。」



なるほどなぁ。そういう理由で俺の【鑑定】を欲しがっていたのか。



「ただ、お前さんにそんな危険なことを依頼するのは気が引けるのも事実だ。【鑑定】だって無暗にひけらかしたくはないだろう。それに俺たちは情報がなくてもいずれは戦うんだ。だから、そこまで気にしなくていいからな。」


理由はよく分かる。良く分かるだけに、断り辛い。


サムエルさんも断ってもいいという雰囲気を何度も出してくれるが、理由を聞くとより断りにくくなってしまった。



危険なことはやりたくないんだけどなぁ。ここで断るのはやっぱり気が引ける。よし、受けてやろうじゃないか!


悪魔だなんだと言ったが、俺からすれば何も説明してくれない神よりも、何だかんだ教えてくれるサムエルさんの方がよっぽど神だからな。力になってやりたい。


それに、本当に危なかったら逃げればいいだろ。きっと何とかなるはずだ。



「わかり・・

「はい!お待たせしました!オーク肉のステーキです!」



俺の了承が遮られ、目の前にはカットされたおいしそうな肉が運ばれてきた。



「・・・まぁ、話は飯食ってからにすっか。ここじゃ重たい話も似合わねぇしな」


「あら?何か話してたの?ごめんなさいね、間に入っちゃって。」


「いや、いいんだよ。むしろちょうど良いタイミングだった。さ、熱いうちに食おうぜ!」




そう言ってサムエルさんはオーク肉を食べ始めた。素手で。


俺も食べ始める。素手で。




マジかよ。素手しかねぇのかよ!


いつか鍛冶スキルを鍛えてフォークを作ることを心に決めた。


いや、箸でいいか。

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