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洗礼式

「ド、ドラゴンですか・・・?」


俺は未だに、ゴブリンと角ウサギとしか戦ったことがない。多分、その辺の10歳児ぐらいと同じぐらいの戦闘経験ではないかと思う。


パークウルフも遠目から見たが、戦ってはいない。まぁ、ステータス的に勝てるとは思うが。



「もちろん、危険であるという事はわかっているから、断っても当然文句は言わねぇ。ただ、話だけでも聞いてほしいんだ。」



サムエルさんは、これまでにない真剣な表情で話している。だが、今の俺では受ける受けないという判断はできない。



「話を聞くのはいいですけど、まずは洗礼を済ませませんか?受けるにしろ、受けないにしろ、早く洗礼を受けて自分の職業を知りたいんですよね。もし職業が【ドラゴンの注目の的】とかだったらヤバいじゃないですか。とりあえず洗礼受けてからにしましょう。」



「ハハッ!そんな職業はねぇと思うが、それもそうだな。流石に、戦闘職でもなければ厳しいと感じるかもしれないしな。よし、教会に行くか。」



俺たちは教会に向かって歩き出した。



何だか知らないが、サムエルさんは焦っているようだ。ドラゴンに何か恨みでもあるのだろうか。それとも、ドラゴンを倒さないとまずい事情でもあるのか。



でもないと、素性もよく分からない俺に仕事を頼むなんてことはないだろう。まずは安全を確認してから頼んでもいいはずなのに、サムエルさんは少しでも早く頼みたいと思っているようだ。何か事情があるのか。



ただ、それを聞いたら最後、断り辛くなるんじゃないかと思っている。もし同情的な理由だとしたら、断り辛い。善を強要されるというのは、追い込まれることでもあるからな。


受ければ大変だし、受けなくても心が痛む。


どっちも辛い。


サムエルさんはそれを分かった上で俺に貸しを作っているような気もする。


うーん。サムエルさんは悪い人ではないと思うのだが、何があるのだろうか。



まぁ、考えるのは後だ。というか答えが出ない。

最悪断ってもサムエルさんは許してくれそうだし、金は上薬草を売ればどうとでもなる。


とりあえず今は洗礼だ洗礼。




サムエルさんと話しながら、10分ほどで教会についた。


教会は10メートルほどの建物で、遠くからでもでかいと感じていたが、近くに来るとより大きく感じる。


前の世界の教会のような十字架はかかっていない。


その代わりに、オレンジ色の丸い太陽のような紋章がでかでかと書かれている。


石造りの建物だが、いたるところにある細かい装飾が、神聖な雰囲気をだしている。




開放されている門から一歩中に入ると、サムエルさんは入ってすぐのところにいた20歳ぐらいのシスターに話しかけた。



「すまんが、今日の洗礼式ってまだやってるか?」


「洗礼式ですか?今日の分は既に終わりましたが…ただ、幸い今日は司祭様がまだおられますので、事情があるようでしたらお受けできるかと思いますが。」


「本当か?!ならこれから洗礼をお願いしたいんだが。」


「司祭様に確認してきますが、洗礼をお受けになる方はどこにおられますか?」


「あぁ、こいつだ。」



そういってサムエルさんは俺を指さした。


「え?!この方が?!」


無職な大人にシスターもビックリしている。


「あぁ、ちょっと事情があってな。こいつは洗礼を受けていないんだ。できるか?」


「え、えぇまぁ洗礼はいくつでも出来ますが…そうですか、その年で無職ですか。さぞ大変だったのでしょうね。」


あぁ、シスターに悪気はないのは分かっている。むしろ俺を憐れんでくれているあたり、優しい人なのだろう。だけど、『その年で無職ですか』という言葉は、心に突き刺さる。それにこのシスター、結構美人なのだ。美人に『無職』と呼ばれるとさらにくるものがある。

結構体力も減っているんじゃないだろうか。確認したくなる。



「そういうことでな。出来れば他のやつらとは別に受けたいんだが、どうだろうか?」


「分かりました。今司祭様を呼んできますね。ちょっとお待ちください。」


そう言ってシスターは別の部屋に行った。俺はとっさにステータスを確認したが、体力は減っていなかった。安心した。


「良かったな。何とか今日受けられそうだ。」


「そうですね。僕も、少しでも早く無職から脱却したいです。」


「お、そうか。あんまり急いでなかったみてぇだが、やっぱり早く職に就きたかったんだな。そりゃそうだろう。」



まぁ、無職から脱却したいと思ったのはサムエルさんとシスターのせいなんだが。


すると、奥の部屋から司祭だろう綺麗な服を着た40代ぐらいの男の人が出てきた。結構いい服を着ている気がする。やっぱり教会って金持ってんのかな。



司祭はシュッとしててイケメンだ。というかこの世界に来てから思っていたのだが、サムエルさんもシスターもこの司祭も、みんな顔が良すぎないか?もしかしてこれがこの世界の平均なのか?道行く人もかなり顔面偏差値が高かったからな。



だとしたら、俺はどうなんだろうか。前の世界では良く「特徴のない顔」と言われていた。

横に線を三本書けばお前の顔になるとも言われたこともあったが、的を得ていたので何も言い返せなかった。



だが、この世界ではどうだ?俺はもしかしたらこの世界ではかなりブサイクな部類に入ってしまうんじゃないだろうか。





ヤバいぞ、心が折られそうだ。

一つの夢でもある、「ハーレム」を築けないかもしれない。男なら、そこは一番譲りたくないところだろう。大丈夫だろうか。心配になってきた。



一人ションボリしていると、司祭が出てきた。



「お待たせしました。私がこの教会の司祭のアウレンです。それで、洗礼をお受けになる方はあなたですか?」


アウレンさんは笑顔のまま、俺に向かって話しかけてきた。

やめてくれ、そのイケメン顔で笑わないでくれ。心が折れる。


「え、えぇそうです。私が今回洗礼を受けに来ました。」


すると、アウレンさんもさっきのシスター同様、憐れみの目を向けてきた。


「・・・そうですか。それはさぞ大変でしたね・・・。よし、今すぐ洗礼式をしましょう!礼拝堂に入ってお待ちください。」



そう言うとアウレンさんは礼拝堂に案内してくれた。俺たちが案内された会衆席に座ると、アウレンさんは礼拝堂横の部屋に入って行った。


サムエルさんは無言で座っている。あまり騒ぐわけにはいかないということか。


俺も合わせて黙って座ったまま、礼拝堂を観察してみる。


礼拝堂はやたらと大きかった。天上が高く音がよく響く。一つ一つの音が大きくなるが、かえってその音が静寂を強調する。


中には何人か祈祷している人がいる。たまに祈りの声が漏れている人もいるが、うるさいというほどではない。


礼拝堂の横側には、懺悔室という部屋が見えた。恐らくあそこで懺悔をするのだろう。音が聞こえてこないということは、聞こえないようになっているのか、誰もいないのか。


そして正面。そこにも先ほど入り口で見た紋章が掲げられている。これがこの世界の神を表す紋章なのだろうか。


紋章の奥にはステンドグラスが付けられ、教会の権威を主張しているようにも感じる。




教会という場所には前の世界も通して初めて入ったが、不思議と心が落ち着く。



思えば、この世界に来てからというもの、神を考える時間が増えていた。


前の世界では神の事を考えること何て全くなかったが、異世界に来たからだろうか。神のことをよく考えている。


だって異世界物の定番だからな、神が人を異世界に送るのは。

だから俺は当然のように、こんな場所に送ったのは神だと思っていた。



そうやって、神のことを考える時間が増えて、何となく神の存在を認識し信じるようになったから、俺と神との間につながりができて、この場所を落ち着くように感じているんじゃないだろうか。


そう考えると、少々不気味に感じてしまう。心が、知らないうちに支配されているような気がしてしまうのだ。


あくまでも推測でしかないが。



そんな考え事をしていると、どうやら洗礼式の準備が終わったようだ。


白いローブを着て、赤いストールを首から下げて、銀色を杖を持ち、これぞ司祭!という格好をした司祭が、一段高くなっている祭壇に現れた。司祭の前にはよく分からない白い器が設置されている。


そして準備が整ったのだろう、司祭が俺を手招きし、器の前に立つよう指示している。


俺は席から立ち、器の前に立った。


「これから、洗礼式を執り行います。と言っても、略式とさせていただきますが、よろしいですか?」


「え、あ、はい。大丈夫です。」


すると司祭はニッコリと笑い、洗礼の言葉を述べ始めた。ちくしょう、いちいちカッコいいな。



「恵み深い神よ。洗礼によってここに集う者を神に結びつけ、洗礼によって神の子として新しく生まれ、あなたの力を継ぐ者としてください。水と霊によって、神のみ旨に従う者へと育てられますように。」


そう言って司祭は、器の中に手を入れた。そこにはよく見ると水が入っていた。そして水で濡れた手を俺の頭の上に置いた。



「今、あなたに洗礼を授けます。水とみ霊とによってあなたを新たに生まれさせてくださった全能の神が、恵みによって、あなたを強めてくださいます。」



司祭の言葉が与えられると共に、俺は光に包まれた。今まさに俺に職業が与えらえたのだろう。強い力が体にみなぎっていくのを感じる。


「以上で、洗礼式を終わります。これであなたも神の子とされました。神の祝福がありますように、お祈りしていますよ。」


「はい。ありがとうございます。」



司祭は役目を終えたと言わんばかりに、先ほどの部屋に戻っていった。


俺も、職業が与えられた興奮を抱えたまま、サムエルさんが座っているところに戻った。


あまりここで騒いでも良くないだろう、俺たちは教会から無言のまま外に出た。



帰りにサムエルさんが礼拝堂の入口付近にあった箱に銀貨を数枚いれていることから、あれが献金箱なのだろう。洗礼一回で結構金を入れるんだな。細かい金額設定があるのだろうか。


いずれにせよ、また貸しが増えてしまった。今度返さねば。



帰りがけにシスターにも礼を言い、教会から外に出た。


サムエルさんは伸びをしながら俺に話しかけてきた。


「うーん。やっぱりああいう静かな場所は慣れねぇなぁ。疲れたよ。それにしても、疑ってたわけじゃねぇが、光ったってことは本当に無職だったんだな。それでどうだ、職業には就けたか?」


「まだ確認してません。今確認してもいいですか?」


「あぁ、すまねぇ。確認がまだだったな。いいぜ。俺はここで座って待ってるから、ゆっくり確認しろ。」


そういって教会横の石で作られた花壇の淵にサムエルさんは腰かけた。


俺もその横に腰掛ける。



さぁ、職業を確認しようじゃないか!



何の職業が与えらえるのか。チートパックを開いた時と同じくらいワクワくしながら、自分のステータスを確認する。



―――――――――――――――――――――

名前:ハルヤ・セガワ

性別:男

年齢:22

職業:勇者

状態:正常

称号:異世界からの救世主

レベル:43

体力:811

魔力:830

筋力:481

防御:390

敏捷:452

知力:501


スキル:

【共通スキル】


棒術Lv.5、格闘術Lv.5、剣術Lv.6


水魔法Lv.6、火魔法Lv.6、風魔法Lv.7、土魔法Lv.6、光魔法Lv.6

闇魔法Lv.6、無魔法Lv.6、回復魔法Lv.6

雷魔法Lv.5、氷魔法Lv.5、重力魔法Lv.6、召喚魔法Lv.1、

体力回復速度上昇Lv.6、魔法操作Lv.8、魔力回復速度上昇Lv.7、瞑想Lv,8、溜め時間省略Lv.7


投擲Lv.4、隠密Lv.8、忍び足Lv.8、気配察知Lv.9、観察Lv.9、回避Lv.6、視力補正Lv.7、聴力補正Lv.6、加速Lv.7、跳躍Lv.5、暗視Lv.5、嗅覚補正Lv.4、気配偽造Lv.MAX


採取Lv.MAX、解体Lv.7、調理Lv.4


【固有スキル】チートパック

―――――――――――――――――――――



危うく叫びそうになりながら、俺は無言でステータスを確認していた。


ほぼ全てのステータスが倍以上に上がっている。これは素直に嬉しい。


ただ、なぜか気配偽造が新たに付いている。何だこれ、しかもMAXだし。どうなってるんだ?



そして何よりも【勇者】である。


ステータスの上昇幅からいって、【戦闘職】であるのだろう。


ただ、サムエルさんに教えてもらった職業にはそんな職業なかった。



一体何なんだこの職業は。もしかして、俺を魔王とでも戦わせる気なのだろうか。



職業をタップしても何も出てこなかったが、ステータスではなく【メニュー】を開き、メニューから職業を選択すると詳細を確認することができた。



―――――――――――――――――――――

【勇者】

神と契約した、勇ましい者

全てのステータス上昇値に補正

全てのスキル上昇値に補正

この世界を救うことによって、特殊スキルが解放される。

―――――――――――――――――――――



チートだ。ここにきて、チートな職業まで手に入れちまった。



ただ、段々とチートも喜べなくなってきている。



勇者にしても、称号の≪異世界からの救世主≫にしてもそうだが、完全に俺が進む方向は異世界を救う方向に向かっている気がしてならない。


なんだ?俺はこれから何をしなきゃいけないんだ?




実はここに来るまでの道中で、サムエルさんにこの世界についての話を少し聞いていた。


ただ、世界的に困っていることがあるとは聞いていない。


あまり深く聞いても変だろうからあまり追及していないが、本当に何も知らないという感じだった。



ただ、勇者や救世主が必要なのは、困難な状況のはずだ。


誰かの困窮があって初めて、救いがあるのだ。



だとすると、これから世界が「救われる必要がある状況」に陥るという事なのか?



称号も職業も、どうも異世界でのんびり暮らせるようには見えない。


これから何が起こっていくのか。勇者という職業で、すっかり俺はビビってしまった。




「なんだ?もしかしてあんまり良い職業じゃなかったのか?」




俺があまりにも険しい表情をしていたからだろう。サムエルさんは心配そうな顔でこちらを見ている。


流石にここで、「勇者でした!」とは言いにくい。どうもこの職業はあまりひけらかさない方が良い気がする。気配偽造が付いたのも、そうすべきであると俺に伝えているような。ここは誤魔化そう。



「え?いや、むしろ良い職業でしたよ。何の職業かは内緒ですが、戦闘職でした。」



笑いながら言う俺に、サムエルさんは一瞬迷った表情をしながら、それでも笑いながら返してくれた。



「そうか!良い職業で良かったな!確かにお前さんの気配が、さっきよりも強くなったのを感じるからな。それで、ステータスの確認も終わったか?」


「ステータスの確認も終わりました。だいぶ強くなってましたよ。何よりも、無職とおさらば出来て良かったです。」


「ハハッ!それもそうか。まぁ、何にせよ良かったよ。じゃあギルドにっていきたいところだが、その前に飯食わねぇか?腹減っちまってよ。当然、おごりだ。」



飯か。そう言われると、もう昼はとっくに過ぎているし、俺も段々とお腹が減ってきた。


お腹が空いていると嫌な風に考えちゃうしな。おごってくれるって言うし、ここはサムエルさんに甘えよう。





勇者かぁ。こんなことなら、【木登り名人】でも良かった気がするわ。

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