「異世界に興味はありますか?」
初めての執筆です。物語って、考えるのと書くのでは全然違いますね。
俺の名前は瀬川春也。22歳。至って普通の大学生だ。いや、正確には昨日まで大学生だった。
今は大学4年の春休み。地元の小さな会社だが就職も決まり、入社式までの学生と社会人の間の時間。どこに遊びに行くでもなく、俺は家で一人寂しくダラダラと過ごしていた。
就職は地元なので実家に帰ることが決まっている。大学四年間一人暮らしをしたこの家とももうすぐお別れだ。だからと言って、なにもこの部屋が名残惜しくて貴重な春休みを家で過ごしているわけじゃない。
ただ外に出るのが面倒で、家でダラダラしているだけだ。昨日あった卒業式前は特にひどく、3日ぐらい家に引きこもっていた。
別に友達がいないわけじゃない。会えば話すやつは何人もいたし、同じ学科で良くつるんでいた奴も二人ほどいた。一応、昨日あった卒業式の際に、久しぶりに人に会って楽しくなったせいか、「卒業旅行にでも行くか?」と今更ながら誘ってはみた。
「俺たちもいよいよ卒業か。なぁ!春休み暇だろ?卒業旅行でも行くか?」
「卒業旅行に行くってのもいいかもしれないなー。」
「でも、男二人で行っても惨めなだけだろ~。」
「いやいや三人な!今誰を除外した?」
「確かに春也抜きで二人はちょっとキツイな。」
「なんで俺外されてんの?!」
「まぁ実際は卒業したからと言っても、集まろうと思えば集まれるし、今から急に予定立てて行くのもキツイだろ。今はちょっとバタバタしてるし、旅行はまたいずれ行こう。」
「だな~。いつか、・・・三人で旅行にいこうな~。」
「まぁそれもそうか。分かったよ。いずれな。」
「あぁ、いずれな。」
結局俺も同じことを考えたから「いずれな」と返した。確かに引っ越しは3日後だし、流石にキツイか。
俺が地元に帰ったらもうこいつらと会うことはない気がしていた。それぐらいのつながりでしかなかったと思う。こいつらも卒業式だからってさっきまでちょっとだけ涙目になっていたけど、どうせ同じ考えだろう。「いずれ」はきっと来ない。
何かに熱中することもなく、そこそこの大学で、そこそこの成績で、そこそこ仲の良いやつらと、だらだら過ごしてきただけだ。終わりもこんなもんだろう。
俺だってこうなりたくてなったわけじゃない。
陽気に「卒業旅行どこ行く?」と騒いでいるグループを「理想の大学生活」とうらやましく思う自分もいる。
一流大学に通い、一流企業に入社が決まっている小学生時代の友人に「理想の人生」とうらやましく思うこともある。
俺だって努力すれば、もしかしたらそうなれたのかもしれない。
頭が悪かったわけでも、運動神経が悪かったわけでも、ブサイクだったわけでも、人見知りだったわけでもない。どちらかと言えば、大体のことは要領よく出来てたと思う。
ただ、俺は必要以上のことを何もしなかった。良くなろうとする努力を後回しにした。
そのツケが今になって少しずつのしかかってきている。
もしかしたら社会人になってからも変われるチャンスはあるかもしれない。でも、多分俺はそこでもやらないだろう。22年という年月は、自分を諦めるには十分な年月だ。俺は多分、いつまでたっても努力しない。
一方で、人生を諦めたとも考えていない。22年と言う年月は、正確には、自分を知った年月だ。大事なことは、努力しようと頑張ることじゃない。
努力をしない平凡な人間がこの先どうやって幸せに生きていくかである。
そのことを、俺は社会人になってから考えようと思う。当然、考えるのは今じゃない。
自分を受け入れ、どこかで達観しつつ、適度に流され生きていく。面倒なことは後回し。
それが俺の生き方だ。
特別にはなりたいさ。でも、特別になろうと努力する気はない。
そんなことを考えたのは、無駄に朝早く目を覚まし、何をするでもなくスマホをいじっていたら、ある広告を目にしたからだ。
でかでかとそこにはこう書いてあった。
「異世界に興味はありますか?」
俺は「異世界」への興味を持っていた。
ここ数年、小説投稿サイトで流行っている「異世界の物語」を俺は読み続けていた。
多くの異世界物は、チートを持った主人公が、なぜか次々に出てくる悪い奴らを粉砕し、周囲からは尊敬され、女からは好かれ、成り上がっていく。地位も名誉も力も金も女も、何から何まで手に入れる物語だ。それを読んでは「妄想物語かよ」と冷ややかな目で見ていた。
しかし、同時にどこかで憧れていた。特別になりたいという思いが俺の中に確かにあるからだ。それも、異世界に行くだけで何も努力せずに与えられるチートという特別に俺は憧れていた。
「妄想物語かよ」と見ていたのは、俺の中にも似たような妄想があったからだ。だから、書かれている小説に対して、俺の妄想が世に出ているようで恥ずかしくなったのだ。
特別にはなりたいが、努力する気はない。そんな俺だからこそ、冷めた態度を取りつつも、異世界物を読むのが実は好きだった。だから、チートをもたらす可能性のある「異世界」に興味があった。
俺はいつの間にかその広告を押していた。すると、登録サイトに飛ばされた。
「あ、これは危ないやつだ」と中学生時代にワンクリック詐欺で肝を冷やした経験がそう告げてきた。その時は俺の「面倒なことは後回しにする」という性格が幸いし難を逃れたが。
危険だ、と思いつつも、なぜか俺は登録しようと思っていた。
自分でも不思議なほどに、「異世界」に心を惹かれていた。
きっと何かのゲームなのだろうと、不思議な高揚感を持って俺は登録作業を始めた。
【あなたの名前は】
【あなたの性別は】
【あなたの年齢は】
【職業は】
【家族は】
・・・・・
・・・
・・
いくつかの質問に答えていくと、【最後の質問】と出てきた。
【もしチートが与えられるなら、欲しいですか?】
俺は迷うことなく【はい】と押していた。
気が付くと俺は真っ白い空間にいた。
白いという情報以外には何もない。もはや目を開けているのかすらわからないほど白一色だ。
「なんだこれ?」
当然、夢だと思った。だが、それにしては違和感が何もない。
頬を抓れば痛いと感じるのだから、多分夢じゃないんだろう。
それでもこの白い空間は「現実ではない!」という事を俺に意識させる。
すると、声がした。聞こえてくるというよりは、俺の内側から沸き起こるように声がした。
『頼んだ!』
大人のような、しかし子供らしさもあり、威厳を感じさせながら、どこか気軽で、優しく、厳しさを帯びた、何とも言えない声で、俺の内側からたった一言が起こった。
そして状況が一変した。白い空間が裂けたのだ。
真っ白い空間が突如として消え、俺は今、だだっ広い草原に一人ポツンと立つことになった。
「・・・はぁ?」
人間は困惑すると何も考えられなくなるのか。
あまりにも異様な出来事に、俺は唖然としながら立ち尽くすしかなかった。
そして少しして、俺はパニックになった。
「なんだこれ?どうなってんだ?!」
そこで思い当たるのはただ一つしかなかった。
『異世界に興味はありますか?』
・・・・・え?マジで異世界に来たの?




