拝啓 勇者様、こちらは今日も平和です。
前回の続きです。
愛しい子、貴方にどうか、素敵な出会いが多く恵まれますように……
懐かしい声、とても穏やかな人、どうしても、もう一度会いたいんだ
「ん……朝、か」
背中にある少し硬いベットの感触を、名残惜しく感じながら体を起こす
鳥のさえずりをかき消すほど賑やかな音楽と人の声が聞こえる
部屋に一つだけある窓のカーテンを開け下を覗くと、朝市で多くの人が賑わっていた
朝食は屋台にしよう、宿のでもいいけど屋台を見て回りながら食べるのは楽しいし
洗面台で顔を洗い、歯を磨いて髪を整える、癖毛のせいで整えるといっても多少ましになった程度で、思うようにまとまったことなど一度もない
掛けてあったシャツに腕を通し、ボタンを止める
ズボンを履いていつもの上着を羽織り、腰に剣をかけた
部屋の扉を開け、廊下を渡った先の階段を下りる
「おはようございます!夜はよく眠れましたか?」
宿の受付に立った、見た目10歳ほどの女の子が声をかけてきた
「おはよう、よく眠れたよ。こんな早くからお手伝いかい?偉いね」
「ふふふ、そんなことないですよ!」
こちらも笑顔で返すと、照れたように笑った
「お出かけですか?引き止めちゃってごめんなさい」
「大丈夫、ちょっと朝市に行こうと思ってね」
「ここの朝市は毎日美味しいものがたっくさん出ていますよ!いってらっしゃい!」
「それは楽しみだな、行ってきます」
そういって店を出ると、途端に賑やかな音楽や人の声が大きくなった
「おい、聞いたか?また戦争だってよ」
「あぁ、東の国の奴らだろ?」
「東の?ついこないだまで友好関係をとかって公言してたんじゃなかったか?」
「それが、裏で暗殺者を雇っていたらしくてな、そいつをひっとらえて拷問して雇い主を吐かせたらって話よ」
「そりゃまた……とんでもないことになったなぁ」
「また戦争かぁ、いつになったら終わるのかねぇ」
俺には仲間はいない、ずっと一人で旅をしてきた
でも、それでいい、この世界に俺は必要ない、だから誰かを巻き込む必要はない
この剣は戦争の道具にはさせない、この聖剣は、世界を守る為にある