3話消失・迷子
『待たせたね、みんな。集まってくれてありがとう。さあ話を始めよう』
堂々と喋っているように見えるが、内心はドキドキしている。それもそうだろう。さっき気絶してから目が覚めたとき、頭がハッキリしていなかったせいか普通にしていたが、よくよく配下達を見るとゲームが現実化していることがよくわかる。配下の質感が、表情が、雰囲気が、まるでゲーム時代とは明らかにリアルだった。
何を話すか頭を整理しているとふとおかしいことに気づいた。
「あれ、まだ全員集合していないけれど残りの5体はどうしたのかな?」
十柱は名前の通り十体の魔物で構成された私が誇る最強の魔物達だ。だがこの一層に集結している面々を見ると明らかに少ない。
純粋に疑問に思ったので口にしたのだが、そのときラヴィが冷汗をかきながら震えはじめた。特に怒った声音を含んではいなかったはずなのだがそこまで怖がられると流石に申し訳なくなる。
「…それが、残りのもの達がこのイビルナーヴァから消失しました。その者らは全て外で活動していたため心話で連絡をしようとしたのですが繋がらず…そのため外に直接出向こうとしたら外の様子がおかしいことに気づきました。」
「おかしいこと?」
「はい。イビルナーヴァの周辺地帯は森林に囲まれているはずですが、何故か見当たらずそれどころか砂漠と化していたのです。そして周囲にいる魔獣も見たことのないものばかりで…。」
このフェイズ•ローズの世界は大森林に覆われているという設定だ。そのため砂漠地帯というのは存在しない。だというのに砂漠に囲まれているということは…
「ラビィ、お前はこの状況をどう考える?私の予想としては何者かによるイビルナーヴァごとの強制転移だと思うのだが。」
「はい、私もそう考えます。ただこれほどの範囲を転移させるというのは相当な力を持った、それこそ非常に厄介な敵性存在と思われます。」
理由がなんにせよ今この状況をすぐに把握する必要があった。周囲にいる魔獣が見たこともないというのならここはフェイズ•ローズの世界とは違う場所なのだろう。その魔獣たちの戦力、およびその他の生命体の確認、食料の確保など、やらねばならないことが次々と頭に浮かんでくる。
「ではお前たちに命令を下す。直ちに城の周囲10km圏内を索敵しなさい。分かったことを逐一報告。特に知的生命体を発見したら交戦せずただちに戻って報告せよ。役割はお前たちに任せる。以上頼んだよ。」
「「ハッ」」
息の揃った返事が帰った瞬間、各々が直ちに行動を開始した。
ゲーム時代と同様にどうやら私に対する忠誠度は高いようだ。これで反抗されたらだいぶまずいことになっていたが、ともかく調査結果を心待ちにしながらマイルームに戻るのであった…。
***
「これが探査結果をまとめたものです。周囲の魔獣の脅威度、およびその他生物の分布をまとめたものです。」
「ふむ、どうやら前の世界の魔物よりは遥かに弱い存在のようだ。」
そうなのである。見た目は強そうなのだが、フェイズ•ローズ時代の生息するモンスターに比べれば遥かに弱い。プレイヤーの初期状態でも相手取れるレベルの強さだ。
「それにしても人がいるとは…。しかも結構近いね。このまま生活していればこちらの存在がバレるのもそう遠くなさそうだ。」
部下からの報告で人間がいることがわかった。フェイズ•ローズの世界はプレイヤー以外に人間は存在しなかった。この世界にいる人間がプレイヤー並みの強さなら非常にまずいことになったのだが
「だけどあまり強くないようだね。周囲に生息する魔獣のほうが強いくらいだ。これならそこまで危険視する必要はなさそうだ。あっ、そうだ。食料自給の目処はたちそうかな?」
「周囲に食べられそうなものはありますが、さらに詳しい調査をしないと分かりません。しばらくの間は食糧庫を解放するしかなさそうです。」
「あいわかった。では引き続き調査を頼むよ。」
うさ耳を撫でながらいうとラヴィの顔がだらしなく喜色に歪む。目がトロンとしていきこのまま続けると変な空気になりそうだった。手を離すと残念そうな顔をしたがすぐにキリッとした顔つきに変わった。
「かしこまりました。全てはニーナ様のために。」
カッコいいセリフを吐いたあと小さな尻尾をブンブン振り回しながらマイルームをあとにした。
「さてこれからどうしようかなっ。」
ゲーム最初期の興奮が蘇ってくる。どんな時も新しい挑戦というのはワクワクしていくものだ。
私はその興奮を胸に配下からの報告を待つのだった。
今日はこれで終わりです。