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異世界で靴磨き始めた


 なんで…… どうしてこんなことに…… 


 あれ程楽しげな賑わいを見せていた人々の希望とも言えたダンジョンは、今や怒号と怨嗟の声で埋め尽くされ、オレは喪失感から何も考えることが出来なかった。


 どこかで選択を誤ったのだ…… 一体どこで……?


 

 涙で滲む世界と、嘘だと思いたい心になんとか距離を置き、思い出してみる。


 オレは気づいたら異世界にいた。いや正確にはおそらく異世界なんだと思う、くらいの認識でしかない。

 召喚された時、といっても召喚かどうかも分からないのだが。周りには誰もいなかったし、元の世界で死んだような記憶もなければ、神のいる世界で面談して、当然のようにされるこの世界の説明も、特典も、頭に直接聞こえてくるような声も何もなかった。

 少し歩けば集落に着く。そんな道の真ん中にいつの間にか立っていた。ただその集落が今まで住んでいた場所とは大きく異なっていたから世に聞く異世界なのかと思っただけだ。


 異世界モノを読んだ事があるので多少異世界には憧れもあったりしたのだが、着の身着のままで放り出されるようなのは望んでいない。本当に何もないのか、考えても、魔力の動きか何かがあるのではと、感じてみようとはしてみたが何もなかった。

 

 道に突っ立っていても仕方ないので壁に囲まれた集落を目指して歩き始めたところ、一匹の大きいミミズのようなものに行く手を遮られた。

 大きいといっても胴回りがネコくらいで、長さは2メートルくらいか。こちらの身長を軽く超える化け物というわけではないが正直気持ち悪い。


 草の生えていない道を塞がれているが、草の生えてる原っぱを迂回すればいいだけなのでちょっと距離をとりつつその横を通りすぎようとすると、ミミズが鎌首をもたげてオレの膝にぶつかってきた。驚いたし、多少痛かったのでイラっとしたが、気にせずに歩みを進めると後ろから何度も体当たりを繰り返してきた。


 おいおいなんなんだよコイツは。


 何がしたいのか分からないが、これだけ痛いと腹が立ってきたので全力で蹴り飛ばした。

 蹴りを入れたところが多少へこんだだけで、ミミズは特に変わった様子も見せずに体当たりを繰り返してきた。それがなんだかオレを煽っているように感じたので、オレはその挑戦を受けた。


 こうしてオレとそのミミズの死闘が幕を開けた。


 ミミズはオレに愚直に体当たりを繰り返すだけだし、そんなオレも大きいミミズに触るのに気が引けて蹴りを入れる事を続けるだけ。お互いに相手を殺しえる程の攻撃力がないのだ。いや例え手で触れたからといってもミミズに関節技や締め技が効果あるとは思えないが。


 そんな応酬をどれだけ続けただろうか。いい加減疲れてきたところ、ミミズの動きも鈍くなり、やがて動かなくなった。


「はぁはぁ…… 手こずらせやがって……!」


 それがオレがこの世界で発した最初の言葉だった。


 しかし強敵だった。この世界の雑魚ってこんなに強いのか? それともたまたま……


 そこまで思考を巡らせたところで答えは出た。周りを同じようなミミズに囲まれていたからだ。こんなのを相手にしていては体が持たない。オレは疲れで走ることも出来ず、ミミズ達にいいようにボコボコにされながら壁に囲まれた集落を目指した。



 なんとか集落までたどり着くと、門で番をしている全身鎧を着た男に声をかけられた。


「ゴギ、バンゼリリズゾラヂビギセジョグドギデギス?」


 クッソ…… 言葉がわかんねぇ…… 異世界モノで言葉が通じねぇとかどんなハードモードだよ…… もうやだこの世界……


 この世界に早々に嫌気が差しながらも一応言葉を返してみた。


「このミミズ達がクソしつこくて…… 出来れば助けて欲しいんだが……」


「バビ? ガガガガ…… あー、これでどうだ? 言葉はわかるか?」


 なんだ…… ちゃんと通じるじゃないか……! 

 たったそれだけの事でもこの時はありがたかった。口の動きと言葉の内容がズレているような気がするけど。

 

「あ、ああ。わかる」


「それで、どうしてミミズを街に招き入れようとしている?」


 言葉がわかると理解できる、相手の声色に含まれる明らかに不審者と相対するような姿勢。


「このミミズ達がオレの後をずっとついてくるんだ。わざわざ招きいれようとしているわけじゃない」


 気後れしそうになりながらもオレは言葉を返した。ちなみにその間もオレはミミズ達から攻撃を受けていた。門番の距離も近いのにも関わらず、ミミズはわき目もふらずオレだけを執拗に攻撃しているのだ。


「まさかお前…… ミミズと同レベルなのか……?」 


 信じられないものを見るかのように門番はオレをまじまじと見た。


「レベルとか言われても」


 ミミズのレベルっていくつだよ。その前に自分のレベルも知らんけど。


「争いは同じレベルの物同士でしか発生しない。ミミズが何かに襲い掛かっているのを今までの人生では見た事がない」


「どういうことだよ。実際襲われてんだけど。オレはミミズになめられているってことなのか」


「ちなみに…… その…… ミミズから攻撃を受けているようだが…… 痛いのか?」


「めちゃくちゃ痛ぇよ」


「すまない! 私は自分の仕事をサボっていたようだ!」


 急に殊勝な態度になると、門番は足でミミズをプチプチと軽く潰していった。やはりこのミミズはいわゆる雑魚で、オレはその雑魚と死闘ができるレベルだと思うと、やりきれない思いだ。


「しかし、なぜそんなレベルで外に? いやそもそもなんで子供よりレベルが低いんだ? 一体お前は何者なんだ……?」


 門番に驚愕された。おそらくオレが弱すぎて。目の前で心配してくれている門番が悪い奴には見えなかったので、オレは経緯を話した。といってもなんだか分からないうちに道に立っていて、ここが見えたから歩いてきた。多分この世界の人間じゃない。くらいの説明しか出来なかったが。


「にわかには信じがたいが、ミミズが何かを襲うなんてところは初めて見たし、おそらく真実なのだろうな…… 街に入れるのは問題ないが、その弱さでは街の中で死にかねんな…… どうしたものか……」


「街の中で死ぬってなんだよ。この中は殺人鬼でいっぱいなのか」


「そこまでではないが、ガラの悪い連中もいるし、酔っ払いとケンカなんかしたら君のレベルでは命が危ういだろう。下手したら走り回っている子供とぶつかっただけで……」


 子供とぶつかって一方的にオレだけが死ぬ世界。泣きたくなってきた。


「ミミズにしか出会わなかったのは幸運だったな。あれより弱い生き物はこの世界にいないからな」


 まじかよ…… この世界で最弱の頂点はオレかミミズの二択だ。いや一対一なら倒したからかろうじて最弱ではないな…… なんの励ましにもならない。


「仕方ない。このまま街に入れて死なれても寝覚めが悪いし、せめて子供と同じくらいの経験値を分けてやろう」


 そう言って門番は手を差し出すと、オレの手を握ってきた。丁度握手のような感じだと思ったら、なんか体にすごい力が漲ってきた。


「なんという力だ……!! 信じられんほどのすさまじい力が……!! オレはいま究極のパワーを手に入れたのだ!!!」


 体に溢れてきた力の感想が思わず口から漏れてしまった。


「……感動しているところ悪いが、さっきのミミズ達の経験値にちょっと足しただけだぞ。子供といっても孤児の5歳の子と同じくらいだから街の中では本当に気をつけるんだぞ? あと最初言葉が通じなかったようだが、街の中で君と会話が出来るのは、『通訳』持ちの人間、商人や施設の受付だけで一般人とは会話出来ないだろう。身一つでここに着て不安だろうが、がんばるんだぞ。何か困った事があればここに来るといい。日が落ちていなければ大体ここにいるし、相談くらいならのってやれるからな」


「ありがとう、親切なおじさん……」


 親切なおじさんにお礼を言って、オレは街へと踏み入れた。親切なおじさんが街と言ってはいたが、オレの感覚からすれば遠くで見た印象通り田舎の集落だ。住居は木造の平屋で、金持ってそうな大きな土地面積持った建物が精々二階建てくらいのヤツだ。文明レベルが高いとは言えない。自分の弱さには嫌気は差したがきっとオレは戦闘力ではなく、現代知識で美味しい目にあう系のやつなんだろう。そうに決まっている。


 商人のところに行って現代の知識を売れば一財くらい築けるだろう。

 しかし現代の知識で売れるものってなんだ……? スマホとか便利で普及させれば便利になるとはわかっていても個人でスマホ作れるヤツなんているのか……? 当然オレは作れない。いやそもそも有線の電話の仕組みだってわからないぞ…… 作れて精々糸電話だ。糸電話がこの世界に革命を起こすか? 起こさないだろ。なら電力ならどうだろう。確かモーターが回れば電気って作れるんだよな。何か金属を円状にたくさん巻いてその円に磁石を差し入れするとモーターが回って電気が…… ダメだ知識があやふやすぎてそんなの作れる気がしねぇ。ならレモンに銅板と亜鉛板さして電池を作るのはどうだろう。豆電球もないのにどうやって電気が流れている事を証明するんだ。そもそも豆電球ってなんだよ。なにもない状態から豆電球作れるか? いや例え材料があったとしても作れるか? あれ、思った以上に現代知識を持ってないぞ。オレが! 分からない事はググれば大体解決してきたこのオレが! ググることができねぇじゃねぇか!?


 ポケットからスマホを取り出してみても当然圏外。ブラウザを立ち上げてみても恐竜のアイコンとエラー画面が出るだけ。オフラインで使う事を想定してなかったからキャッシュもねぇ。恐竜のアイコンをタップすると恐竜が走り出した。もう一回タップすると恐竜がジャンプする。右側からサボテンが流れてきたので恐竜をジャンプさせる。そんな事を続けているとバッテリーがなくなった。


 何をしているんだオレは……!? 何かに使えたかもしれないスマホのバッテリーを無駄に使ってしまった。というかこの辺全然人いねぇな。人間そのものがいなければ物珍しいであろうオレに声がかかるわけもない。


 なんかもうすでに困ってきたな…… 何をすればいいのかわからない。オレは一体何をすればいいんだ…… と、公衆トイレがあるな。用を足しておこう。


 薄暗いトイレのスイッチを押し明かりをつけ、用を足す。

 ……は? スイッチ? 考え事をしていたせいで何気なくやってしまったが、スイッチを押したら天井の明かりがついたぞ!? 電気あんのかよ……! しかし電信柱らしきものは立っていなかったぞ!? どこから電気引っ張ってきてんだ!? しかもこのトイレ水を流す構造ではないが、なんかスライム状のものがはい回っていて見た感じはすごいキレイだ。文明レベル思ったより低くないのか……? 

 トイレを這いまわるスライムを見ていると、スライムが段々こっちに向かってきているような…… オレは直感で理解した。多分こいつオレを襲ってくる。


 急いでトイレを飛び出し、後ろを確認するとスライムがトイレを這い出してきていた。


 思った通りだ! 想像以上にヤバい所だぜ!

 まだ親切なおじさんの元を離れるべきではない。そう思ったオレは元来た道を引き返した。




「どうした? なにか忘れ物でもしたのか?」


 門へ近づくと親切なおじさんが声をかけてきてくれる。


「いや、早速困った事に。トイレに入ればスライムに襲われるし、そもそも街でやるべき事も分からないんだ」


「トイレのスライムに? そ、そうか。ミミズと同じようなものだからな…… あれも襲ってくるのか、それは気の毒に……」


 それを聞いて親切なおじさん心底心配そうな顔を向けてくれるが、今まで触れなかったもう一人の門番、全身鎧に顔も全て覆うバケツみたいな兜を被っているヤツが全身をカタカタ震わせていた。親切なおじさんと違ってスライムにも襲われるレベルのオレに笑いをかみ殺しているといったところだろうか。


「悪気はないんだ。気にしないでやってほしい」


 オレがバケツをムッとした表情で見ていると親切なおじさんがフォローをいれてきた。


「お前は別の世界から来たと言っていたな。そこでは何をしていたんだ?」


 何をしていた、か。向こうでも特にこれといった特技とかやりたい事もなく、その日暮らしの日雇いだったんだよな……


「色々な人の手伝い、かな。特に決まった事はしていない」


「冒険者だったのか? 向こうの生き物はひょっとしてすごく弱いのか?」


 その親切なおじさんの言葉を聞くや否や、バケツが腹を抱えてうずくまってしまった。


「どうした!? 調子が悪いのか!?」


 親切なおじさんがバケツに声をかけると、バケツは立ち上がり、首を振った。


「面白かっただけです」


 透き通るような声でそれだけを言った。親切なおじさんと違って若い、ともすれば幼い声だったが、オレが弱いのが相当に面白かったらしい。なんだコイツ、クソ失礼な奴だな……!


「冒険者じゃない。なんというか、まぁ何でも屋みたいなものだ。店番したり、物を運んだり、掃除したり。人を襲ってくる生き物はあんまりいないし、わざわざ狩るのは一部の人だけだ」


「そうか。向こうでは子供の仕事が大人の仕事として成り立つのだな。そういう事であれば納得もいく」


 バケツが地面に膝をついて地面を叩き始めると軽くクレーターが出来ていった。


「子供のwwwwwwwww 仕事wwwwwwwwwwww」


 ムカつく野郎だが、この世界の住人らしく強さがヤバそうだからオレは見ない振りをした。


「変なところに笑いのツボがあるんだな。私には何が面白いのかさっぱりわからないが」


 おじさんはいい人。バケツの中身は声から予想すると声変わりもしていないクソガキ。


「まぁそれは置いておくとして、君はまず何よりも経験値を稼がなければならない。トイレに行くたびにスライムに襲われていた落ち着いて用も足せないだろう」


「まぁな…… だが経験値? その辺のミミズを倒しまくればいいのか?」


「それでも得られない事はないが、本当に微々たる物だ。一日中ミミズを倒していたところで暮らしてはいけない」


「いやミミズだけを狩って暮らしていくつもりは最初からねぇよ。経験値を稼げば強くなる。強くなったらその上の獲物を狩りにいけばいいんだろう?」


 なんだよ。経験値システムがあるならちゃんと言ってくれよ。雑魚倒しまくってるだけで強くなっていってゆくゆくはオレツエー出来るならそれでいいよ。最初は弱くても、いずれサイキョーになれるのなら我慢できる人間だぜオレは。


「それはまぁ、その通りなんだが。君の世界もそんな感じだったのなら分かると思うが、出ていく経験値を考えるとあまり現実的とは言えないな」


「は……? 出ていく経験値ってなんだよ……? 経験値を貯めればレベルがあがって強くなっていくんだろ……? あ、死ぬと経験値ロストして決まった所に戻されるタイプの世界なのかな? だったら死なないように気をつけるからデスペナなんて気に……」


「何を言っているんだ? 動揺しているようだがとにかく落ち着け。君の世界とこちらの常識はどうやらだいぶ異なるようだから、私はこちらの世界での常識を言うぞ。命あるものは死んだら生き返る事は出来ない。君が元々死んでも復活するという体質なら別だが」 


 そんな体質の奴がいてたまるか。


「その年で常識を持っていないで、別の世界に放り出されるって、大変そうですね。話が噛み合わな過ぎていっそ哀れに思えてきましたよ」


 地面を叩くのを止めたバケツが話に加わってきた。今までの態度はクソだったが、これから有益な情報をもたらしてくれるのなら許してやってもいい。


「要はこの世界での生き方を教えてあげればいいんですよね? なら簡単ですよ。この世界は通貨の代わりが経験値なんですよ。通貨は存在しません。だから文明社会で生きていくだけで経験値が減るんです。人と接しない山奥で自給自足の生活するなら経験値は減りませんけど、溢れる程経験値が貯まっていてレベル高いならともかくレベル低いと山中の生き物が襲ってきますよ。アクティブな生き物多いので。ちなみに貴方が絡まれていたミミズですけど、小さい子供、幼稚園くらいですかね。そのくらいの子供が遊びで殺せるレベルの生き物です。貴方の世界のミミズと大きさが違うだけで多分同じような存在ですよ。親のいない子とかは親から経験値がもらえないのでもっと弱いですけど、そもそも孤児の割合低いですし。例外ですね」


「なん…… だと……」


「ちなみにあのミミズ100匹くらい倒した経験値で小さいパン一個買えるくらいですよ。貴方の今の強さだと、ミミズ一匹倒すのに大体10分くらいでしょうか。となると100匹倒し終わるのに大体16時間半くらいですね。途中で強くなる分を引いたとして、大体16時間労働してパン一個ですけど。そんな時給で大丈夫ですか?」


「大丈夫ではない……! ってちょっと待て。この世界には通貨がないのに何故通貨の存在を知っているんだ!?」


「この世界に転生した、とかいう寝ぼけたこと言ってる人が身近にいて色々話をしてくれるんですけど、その人の話に合わせていた結果そういう知識を得ました。今でもコイツ何言ってるんだって思っていますけど、貴方みたいにリアリティを感じさせてくれるほど命がけで経験値持ってない人は素直に関心しますよ。そういうロールプレイは仲間内でやってくださいね。私たち一応現在進行形でお仕事中ですので」


「なんだ。そういう事だったのか。本気にしてしまったよ。まぁうん、それなりに面白かったよ」


 バケツがオレを異世界にきたロールプレイだと勝手に判断した結果、親切なおじさんもオレがそういうショーをしたみたいな扱いで接してきた。いやこの際それはどうでもいい。ミミズを倒しても稼ぎがそれくらいだとするならば、


「オレはどうやって稼げばいいんだ……?」


「ああ、楽しませてくれたお礼だ」


 おじさんと握手するとさっきとは比べ物にならない程の力がオレに流れ込んでくる……! 


「それよりも、この世界に転生してきた奴がいるのか?」


 おじさんとは違い経験値をくれるつもりを微塵も見せないバケツに質問してみた。


「同じ趣味を持っている者として紹介して欲しいんでしょうけど、ここの領主様なので会うのは無理ですよ。小さい領とはいえこの辺りを治めるトップですからね」


「領主様がそういう趣味をお持ちだったとは……」


「そうですよ。本人は秘密にしているらしいのであまり広めちゃダメですよ」


「分かった。私の胸の内に留めるだけにしておこう。何、優秀な方だ。どういう趣味をお持ちでも私が尊敬している事に変わりはない」


 領主様とやらの話が弾む二人。領主様を知らないオレは当然その話には加われない。

 

「その異世界転生ロールプレイ続けるなら冒険者ギルドに行くといいですよ。あそこなら子供のおつかいも仕事として多少はあります」



 バケツに言われた通りにオレは冒険者ギルドへと足を運んだのだが、この地域の言葉を話す事が出来ないオレに紹介されるような仕事はなかった。薬草の採取とか魔物の討伐等の言葉が話せなくても受けられる依頼はあるにはあったが、どこに生えてるのかも、見た目も分からない草や生き物を持ってくるなんてオレには無理だった。経験値を払えばそのあたりの情報も買えるらしいが、足りなかった。そんなオレを憐れに思ったのか受付の人はギルドの出入り口あたりで靴でも磨いたらどうか、という提案をしてくれたのでオレはそれに従い、靴を磨く仕事を始めた。

 靴を磨いていると色々な事が分かってくる。冒険者らしい皮鎧等を着て武装している人は靴なんて磨いていかないが、冒険者ギルドに訪れる普通の人は靴を磨いていってくれる。たまに来る客と話をしてなんとか簡単な日常会話も覚えていった。

 

 靴をひたすら磨いた。

 オレは異世界に来て何をやっているんだろう。

 そんな思いとは裏腹に着実にオレは強くなっていった。なんだかkarateの修行でもしているような気分だった。

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