第80話「はじまり」
ケガから回復したあかねたちが続々と目を覚ました。
みんな一様に戸惑った様子だった。
それもそのはずだ。目が覚めたらディフェクタリーキャッスルのベッドの上にいたんだから。
私はあかねたちに事の顛末を話した。
使用された武器によって亜人たちがどうなったのか?
ガルードさんの最期、陽宝院君が死んだこと、そしてーー
クライム・ディオールが真の魔王になったこと。
あの仮面の下にはもう私たちの知るハルト君はいない。
私の話を聞いた東坂君は唇を噛み締めながら拳をベッドに叩きつける。
あかねの表情にも暗い影を落とした。
「メイちゃん先生も⋯⋯右条もどうして敵になっちゃたんだよ⋯⋯悔しいよ」
あかねは佐倉先生と仲良くしていたからひときわショックが大きい。
あとは如月那由多君の行方だ。
トールさんとリルフィンさんも手伝って、あかねたちをレナルパトル領から運び出そうと馬車に乗せていた。
だけどそのときにはもうナユタ君の姿はなかった。
彼だけ先に回復して目が覚めていたのだろうか⋯⋯いや、きっとはじめから起きていたんだ。
彼が私たちの前にあらわれたタイミングもディフェクタリーキャッスルから指揮していたはずの陽宝院君が
レナルパトル領にあらわれたことも不自然なくらいタイミングが良すぎた。
あの2人が何かしらで情報のやりとりをしていたのは間違いない。
ナユタ君は陽宝院君の死を目の当たりにして、今は何を思っているのだろうか⋯⋯
ーー
私たちは立ち止まってはいられなかった。
牢屋に閉じ込められていた鷲御門君たちを解放して体制の立て直しを急いだ。
そこからはほとんど日をおかずにニュアル女王陛下の下、ジャネラル・鷲御門を中心とした新政府が樹立。
7人会議が廃止されて以降、これまで陽宝院君とダグラス・オルト内務卿の2人だけで決められていた政治から
2年B組のメンバーによる話し合いでフェンリファルト皇国の政治を動かしていく体制に改めた。
ーー
第一回 御前会議
ハルト君が先の皇帝陛下とはじめて出会ったこの広間で私たちの会議がはじまる。
テーブルを囲むメンバーは18人。
ニュアルちゃんの目の前でフェンリファルト皇国のこれからを話し合うんだ。
鷲御門 凌凱
月野木天音
東坂慎次
東堂あかね
葉賀雲 影家
博士こと結城 護
鳴島海
櫻井濯斗
紡木美桜
露里一華
篠城彩葉
乾すずの
石動エミル
川南綾人
三好刹那
小鳥遊杏樹
国城カエナ
吉備津瑠美花
それでも空席は4つ。
残念ながらナユタ君と紫芝さんたちウォーリアーの3人は姿を見せなかった。
議題は魔王軍への備えだ。
陽宝院君が倒されて以降、魔王軍は目立った動きを見せていない。
それまでに皇国の国力を高めて魔王軍に対抗するための体制を構築することが急務だった。
私は開口一番、亜人のみに作用する危険な物質の使用禁止を訴えた。
「え⁉︎」
最初に驚いたのは開発者の博士だった。
「ドリニクスニウムを使用禁止にする⁉︎ じゃあどうやって亜人たちと戦えというんだ」
「博士、私は見てきたの。物質の毒に侵された亜人が目を覆いたくなるような姿になって死んでいく姿を。
アレは非人道兵器。もう2度と使用してはいけない」
「月野木さんは戦わないから平気でそんなことが言えるのよ」
やはり私に反対意見を述べるのは紡木美桜さんだ。
「獣のような耳があったり、昆虫のような羽が生えてたり、
人間の常識で考えられないような身体能力を使って攻撃してくるのよ!
いくら紋章の力があっても人外が相手じゃ限界がある⋯⋯」
紡木さんは伏し目がちに右腕を握る左手に力を込める。
「右腕が動かなくなった私でも少しは優位に戦えるんだったらなんだって使うべきよ!」
「姿形が違っても亜人の人たちだって私たちと同じ人間!」
「亜人は人ではないわ。私たちの世界だったらモンスターでしょ?
緑色の肌した奴なんか長い舌によだれを垂らしながら人を襲ってたじゃない!
あんなのをどうやって私たちと同じ人間として見ろというの?」
「それこそが陽宝院君の罠よ。あの物質には感染する力がある。
しかもダグラス内務卿はニュアル女王陛下が感染することを望んでいた」
「⁉︎ なんのために⋯⋯」
「女王陛下に亜人の血が流れていることを証明したかったのよ」
「月野木殿、女王陛下に対して不敬ですぞ!」
ギールさんが動揺した様子で遮る。
「ギールさん、シャルユさんをあなたが否定なされるんですか?」
「どうしてその名を⋯⋯」
「この異世界を救おうと戦った優しいドラゴンが教えてくれました」
玉座から私たちの議論を見つめていた女王陛下が口を開く。
「よい、月野木天音。そなたの考えを述べよ」
「この異世界の歴史は学んだつもりです。亜人も人間も互いを人として認め合い共存することです。
そうしなくちゃディオールとプリミティスプライムを巡る戦いは治りません」
「左様か。プリミティスプライムの名まで知っていることには驚いた。
そなたのいう共存とやら実現するには何が必要じゃ?」
「法の支配です! 武力で勝ったものが負けたものを強いる世の中じゃ何も変わりません。
同じ社会で生きていくために亜人も人間も関係なく、今日ここに集まった者たち以上の人数で議論をおこなうんです。
みんなで話し合ってつくったルールにみんなが従って生活する。そうやって平和が生まれるんです」
「陽宝院もはじめは同じことを申してたのう」
「何よ、法が支配する私たちのいた世界だって争いは無くなっていないじゃない」
「その通りよ。だけど亜人の人たちが私の考えを理解してくれたら、魔王軍は瓦解する」
「そうか! 」
やはりすぐに勘付いてくれるのは東坂君だ。
「やつらの多くは魔王に従わされているだけだ。エルフやオークたち、もっとたくさんの種族の亜人たちが離反して
俺たちについてくれれば、危険な武器を使わなくても俺たちは勝てる」
「リルフィンさんやガルードさんと同じ考えの亜人はきっといっぱいいるはず。だから戦うことなく私たちは魔王軍に勝てる!」
「甘いわ」
「そこまでだ美桜」
否定した紡木さんを鷲御門君が制する。
「このクラスの中で誰よりも亜人と向き合ってきたのは月野木だ。
その月野木が出した答えなんだ。俺は快く従う」
「凌凱⋯⋯」
「結論は出たようじゃのう」
***
ドリニクスニウムの使用を禁じる法令がニュアル女王陛下から発布された。
魔王軍はレナルパトル領からその先へ侵攻してくる気配はない。
その間にも私たちは魔王軍と戦う準備を進めている。
博士たちが着手している自動車やバイクの完成が間近だ。
電気やアスファルトの整備といったインフラ整備を推し進めて近代化を進める。
これが私たちの壊すことしかできない君への反抗だ。
あの日、誕生した魔王クライム・ディオールからは抗えないほどの恐怖と戦慄を与えられた。
だけど、私は必ず君を取り戻してみせるよ。
「それでナユタ君はどうするの?」
柱の陰に隠れていたナユタ君が静かに姿を見せる。
「いつから気づいていたの?」
「ずっと」
「意外と勘がいいんだね。陽宝院君や右条君たちをみていると月野木さんは相当鈍い人だと思っていたよ」
「私の影の中にいっつも忍者がいたから、いやでも勘が鋭くなるよ」
「ああそっちの勘か。 獣と同じだね」
「それはどういう意味?」
「月野木さんがおもしろい女ってことだよ」
「それはよくわからないけどスパイはまだ続けるの?」
「そうだね。陽宝院君もいなくなったし、あのヘタレのおじさんまで仲間にしちゃう月野木さんの方がおもしろそうだ」
「それじゃあ君をウィギレスのメンバーと正式に認めよう」
私はナユタ君に手を差し出す。
「ようこそ」
「僕はずっとウィギレスの仲間だと思っていたのにひどいな」
そう言ってナユタ君は私の手を取る。
「ちゃんとナユタ君のことも信じているよ!」
つづく
第6章 完
ジェネラル・ワシミカド編へつづく




