第79話「降臨〜魔王クライム・ディオール!」
「フェーズ2か⋯⋯」
魔王クライムは変わり果てた陽宝院君の姿を見て険しい表情をする。
たしか魔王クライムは言っていた。
深い絶望が佐倉先生やハルト君のような変貌を与えると⋯⋯
なら陽宝院君もーー
太陽神ソルスを彷彿させるような金の装飾。
着ていた上着はひきちぎれて筋肉が粒々とした裸の上半身があらわになっている。
そして体中に刻まれたタトゥー⋯⋯陽宝院君は瞬く間に別人とかしてしまった。
「月野木にフラれたことが相当ショックだったようだな」
「⁉︎」
「ハハハハッ! そうか僕はついに、ついに神へと進化を遂げたのか。
この全身からみなぎる力間違いない!右条君、今、僕が天音にフラれたからどうだと言ったね。
勘違いしないでほしい。僕は天音にふさわしい存在に生まれ変わったのだよ。
右条! 僕の天音から離れたまえ。彼女をこれから女王としこの神の妃として僕とこの異世界に君臨するのだよ。
なのに君は僕よりも先に天音をお姫様だっこするなどとけしからん」
「月野木、こいつは危険だ。離れていろ」
そう言って魔王クライムは抱き上げていた私をおろした。
「リルフィンのそばから絶対に離れるな」
「ハルト君⋯⋯」
魔王クライムは鞘からセレスさんが変身した日本刀を引き抜いて構える。
そして陽宝院君も不敵な笑みを浮かべながら手に”ライジングアーチェリー“を出現させる。
「僕はずっと右条君のことを恐れていたよ。それは鷲御門よりもね」
2人の目があった瞬間、2人の姿が瞬間移動のようにして消えた。
すると私の正面から右から左から見上げた空から“カキン”“カキン”と刃と刃がぶつかる音が聞こえてくる。
「まったく見えない」
魔王クライムと陽宝院君は視界に捉えることができない速度で戦っているんだ。
「あっちの世界にいた頃は箸にも棒にもかからない奴だったが、この異世界に来てからの君は違った。
この世界を熟知し、行動も僕よりも先回りしてうまく立ち回った」
「⋯⋯」
空中に2人の姿が現れた瞬間、陽宝院君が振り下ろしたライジングアーチェリーが魔王クライムの
日本刀を真っ二つに折った。
「きゃああああ!」
「セレス!」
「これがスーパーライジングアーチェリーだよ。感じるかい? 神である僕の力を!」
「くッ⋯⋯」
陽宝院君はライジングアーチェリー⋯⋯いや、スーパーライジングアーチェリーから
光の矢を連射する。
「どうだい? ハイパーアローの威力は」
魔王クライムは激しい爆発から避けるのが精一杯の様子。
陽宝院君は恨み言を吐きながら光の矢を放ち続ける。
「僕は天音を守るのに必死だった。彼女はこの異世界で生きていくのには弱すぎた。
いかに彼女を危険から遠ざけるか、そのために僕は立ち回って来た。
「⋯⋯」
「それなのに! 異世界に染まった君は平気で彼女を危険の中に連れ出したいと僕に言ってきたんだ。
許せなかったよ。なんの策も講じないまま、天音をどんな危険があるかわからないエルムの森の外に連れ出そうとする君を」
立ち昇る煙の中から魔王クライムは肩に担いだロケットランチャーを発射する。
飛翔したロケットランチャーは空中に浮遊する陽宝院君を直撃ーー
煙で陽宝院君の姿は見えなくなったけど、次第に煙が晴れてくると傷ひとつないまま
空中に浮遊する陽宝院君の姿が現れた。
「僕は、口ではクラスメイト全員で生きて日本に帰ることを唱えつつも、本音は天音以外のクラスメイトの命なんてどうでもよかった。
僕と天音の2人が無事ならそれでいい。だから紡木君の暴走を黙認して君を排除したんだ」
魔王クライムは陽宝院君に言葉ではなく攻撃で返す。
ライルさんをマシンガンに変身させて銃弾を連射する。
陽宝院君は飛んでくる複数の銃弾を澄ました顔で躱すと、握りしめた拳を開いて
パラパラと受け止めた弾丸をこぼしてみせた。
「紡木君の君に対する激しい思い込みは僕にとって飛び上がらんばかりに嬉しい状況を生んでくれた。
それなのに君は生きて再び僕の目の前に現れた。しかも2度ならず3度までも。
それも性懲りも無くまた僕から天音を連れ出そうしている」
「⋯⋯」
「なるほど!僕はフラれたわけじゃない。君が彼女を洗脳しているんだ!
そうじゃなかったら僕がフラれるわけがないんだ。
右条君、君はいやらしくも天音の脳をいじったね。君の力ならそんなことも容易いはずだ」
ち、近いことはされたけど⋯⋯あれは頭に直接記憶を流し込まれただけで脳はいじられていないし、
洗脳もされてない!
「⋯⋯」
魔王クライムはライルさんをスナイパーが使うような銃に変身させてスコープをのぞきながら構える。
「⁉︎ 答えないならば君をここで断罪する!天音を救うのはこの僕なんだ!」
陽宝院君が放った矢が炎をまとうフェニックスに姿を変えた。
本物の鳥のように自在に飛ぶ矢に魔王クライムは照準が定まらずに翻弄されている。
不意を突かれた瞬間、フェニックスが魔王クライムの側面から直撃する。
「ライル!」
魔王クライムの手に握られた銃は半分、熱で溶けてしまっている。
「右条君、これでトドメだ。君が死ねば天音の洗脳も解けるはずだ」
「クッ⋯⋯」
陽宝院君はエネルギーを収束させた矢を放つ。
陽宝院君が放った矢はイナズマを帯びた光線のようになって魔王クライムへと伸びる。
魔王クライムにあたる直前でオッドさんが変身した盾が間に入って防ぐ。
「オッド!」
光線のような威力を持った矢はオッドさんの盾でわずかにそれて魔王クライムへの直撃をまぬがれた。
しかし、オッドさんの盾には大きな穴が⋯⋯
『無事でありますかクライム? お守りできたならばよかったであります』
「⁉︎ ⋯⋯」
浮遊していたオッドさんの盾は事切れるように地面の上に倒れる。
「君もしぶといなぁ右条君、さて今度はどんな武器で抵抗する気だね」
「クッ⋯⋯」
魔王クライムは険しい表情で陽宝院君を見やる。
こんなに追い詰められた魔王クライムははじめてみる⋯⋯
次の武器で戦うにしてもイリスちゃんはーー
「⁉︎」
さっきまでリルフィンさんの膝枕で横になっていたはずのイリスちゃんが
魔王クライムのそばまでやってくる。
傷はリルフィンさんのヒールングで回復したようだけど細胞の崩壊は止まっていない。
やはりリルフィンさんのヒーリングでも博士の開発した物質は治せないんだ。
「イリス⋯⋯その身体で無茶をするな。俺はひとりで戦える」
「クライム⋯⋯死ぬのはこわくない。それ以上にクライムと一緒にいたい。
私はメフィリスのような強い武器になる。だから英雄クライムと一緒に戦わせて」
「それがイリスの願いだったな⋯⋯分かった。一緒に戦おう」
イリスちゃんの頭を撫でる魔王クライムの頬には涙がつたう。
その瞬間、イリスちゃんの全身が光り輝いてメイスに変身する。
「どんな武器で戦おうが結果は同じだ」
魔王クライムは顔をあげて鋭い眼光を陽宝院君に向ける。
「いくぞ陽宝院!」
「掛かってきたまえ!」
魔王クライムはメイスを振り上げて高くジャンプする。
陽宝院君もスーパーライジングアーチェリーを両手に握りしめて待ち構える。
「「うおおおおお!」」
魔王クライムと陽宝院君は交差する。
ーー
静寂が生まれて背中と背中で向き合う陽宝院君と魔王クライム。
漂う静寂をはじめに打ち破ったのは陽宝院君の悲鳴だ。
「ぐああああ!」
陽宝院君の左目から左上半身に掛けて血が噴き出す。
勝ったのは魔王クライム?
しかし、イリスちゃんのメイスの一部が砕けて崩れた。
そして魔王クライムも片膝をついて苦痛の表情を浮かべる。
メイスを掴んでいる右手から紫色に変色をはじめている。
「俺もすでに人間じゃないってことか⋯⋯」
すると、陽宝院君が笑い声をあげる。
「ハハハッ残念だったね。僕の紋章は右目だ。左目を潰してぬか喜びでもしたのかい?」
陽宝院君のダメージがみるみる回復していく。
「次こそこれでおしまいだ」
陽宝院君が動けなくなった魔王クライムに向かって容赦なく光線のような矢を再び放つ。
「ハルト君!」
光線が魔王クライムに直撃すると爆発の衝撃がドーム状に広がって私とリルフィンさんを飲み込む。
ーー
気がつくとリルフィンさんと私は光がまぶしいドームの中にいた。
そして中央には片膝をついたままの魔王クライムがーー
魔王クライムの周囲にはたくさんの光の粒子が集まって漂っている。
すると光の粒子からイリスちゃんたちの姿が現れてくる。
だけどそれは半透明で幻のよう⋯⋯
「イリス⋯⋯ライル⋯⋯セレス⋯⋯オッド⋯⋯」
「クライムはそんな顔をしないで」
「そうだぜ、クライム」
「アームズ族にとって宝具に転生することはとても名誉なこと」
「そのときが来たのでありますよ」
「クライムがイメージする武器はどれもおもしろかったよ。今度は私たちをどんな武器にしてくれるんだい?」
魔王クライムは顔をあげて細胞の崩壊が進む右手を4人に向かってゆっくりと伸ばす。
「ハルト君!」
声をかけずにはいられなかった。
なぜだかわからないけど、ハルト君が魂ごとどこかへ行ってしまいそうな気がした。
するとイリスちゃんがそんな私に勝ち誇ったような顔を向ける。
「⁉︎」
イリスちゃんたちは再び光の粒子になってハルト君を覆い尽くす。
ハルト君から強い光が放たれるとその光が私たちを飲み込む。
ーー
眩しさから閉じていたまぶたを開けると私の目の前には真紅のマントを翻し、
禍々しく黒いレリーフがあしらわれた金色の鎧を纏った人物が立っている。
その顔は紅い眼光が際立つフルフェイスマスクに覆われている。
「魔王⋯⋯」
「我れは魔王クライム・ディオール」
「右条君、君はどこまでもしつこい男だな。そのような姿になってまでまだこの僕にまだ抗うか!」
陽宝院君は『やれ』と合図をすると、ライフル銃を持った魔王軍討伐隊の兵士たちが続々と押し寄せてくる。
「「「「「うおおおお!」」」」」
鎧を纏った魔王クライム・ディオールが右手を横に払う動作をすると、
魔王からまだ距離が離れているはずの兵士たちの目の前で爆発が起きて身体ごと吹き飛ばしてしまう。
その爆発は杏樹ちゃんたちにも⋯⋯
アンジュ親衛隊の菊池さんと南里さんが咄嗟にシールドを展開したけどその威力は凄まじく3人は吹き飛ばされてしまう。
「かおり! 美希!」
杏樹ちゃんが目を開けると菊池さんと南里さんは身体中の関節があらぬ方向に曲がった状態で倒れている。
「いやああああ!」
ーー
「おのれ⋯⋯右条君! 僕たちをどこまで愚弄するつもりだ!」
陽宝院君は立て続けにスーパーライジングアーチェリーから光線のような矢を連射。
攻撃を浴びた魔王クライム・ディオールは激しい爆発の中に消える。
「やったか!」
立ち込めた煙が晴れると魔王クライム・ディオールは微動だにしないまま傷ひとつなく立っていた。
「なんだと⁉︎」
『グランドイリスメイス』
魔王クライム・ディオールが右手を正面に翳すと金の装飾と宝石があしらわれたメイスが出現する。
魔王はそれを空高く投げて、自らも高くジャンプする。
陽宝院君めがけて降下するメイスを空中からキックの態勢で押し込む。
「はあああああ!」
魔王クライム・ディオールが放ったメイスキックは陽宝院君を貫いた。
「月野木天音君! 君は僕のーーぎゃあああああ!」
陽宝院君は断末魔の叫びをあげながら爆発四散する。
爆発の炎を背に立ち尽くす魔王クライム・ディオールの姿に
私はどこか抗えない恐怖と戦慄を覚えたーー
つづく
鎧を纏った魔王クライム・ディオールを
作者的にはオーマジオウを参考にイメージして書いています。




