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異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第1章 月野木天音とクライム・ディオールの伝説
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第7話「再会」

な、なにこれ、か、(かべ)ドス⋯⋯

顔の真横に突き立てられた日本刀に驚いた。

そして右条晴人(うじょう はると)君は鋭い眼光でグッと私に顔を近づけてきた。

「え⋯⋯」

「なんで月野木のような弱っちいヤツがこんなところにいるんだ。ここはお前がいるところじゃない」

その言葉に抑えていた私の感情が湧き出した。

「どうして⋯⋯どうして、ハルト君がそんなこと言うの!あの頃のハルト君だったら絶対そんなこと言わなかった!」

さやかちゃんたちに何言われても平気だった。なのにハルト君の言葉は私の心を深く傷つけた。

気づけば私の目から一気に涙が溢れ出している。

「どうしちゃったの⋯⋯いったい⋯⋯」

MMORPGを一緒にプレイしていた頃の記憶が私の脳裏にフラッシュバックする。

教室ではいつも机にうっぷしてばかりで、クラスでは浮いていたけど、ゲームの中のハルト君は強くて優しくて憧れだった。

初心者だった私に、弱くても初心者でも一緒に強くなろうと言ってくれたのが嬉しかった。

ステ振りを笑われて喧嘩したこともあったけど、東坂君とあかねと4人で冒険していた頃が楽しかった。

あの頃のパーティー“ウィギレス”

私だって居たくないよ。こんなクソゲーな世界。

「⋯⋯」

ハルト君は黙って日本刀を引き抜いた。

「右条邪魔よ。そいつは私が仕留めるの」

さやかちゃんが棘鞭を回しながら近寄ってくる。

「イリス!」

ハルト君が天に向かって右手を広げると、あのときの金髪の少女が

木箱の上からメイスへと姿を変えながら、飛び降りてくる。

メイスを手にしてからのハルト君の動きが凄まじかった。

さやかちゃんの腹部目掛けメイスを打ち込むと、その衝撃でさやかちゃんの身体は弾き飛ばされ

木箱の壁をブチ抜いて叩きつけられる。

ハルト君の姿が確認できなくなった。

すると、瞬間移動のように桂君と内海君の頭上にあらわれ、メイスでなぎ払う。

桂君も内海君も木箱へと叩きつけられる。

「チッ、メイスが当たる直前にバリアで防いだか」

「クライム。ここは片付いた。行こう」

「そのようだな」

「待て。ハルト」

東坂君がハルト君を呼び止める。

振り向きざまにハルト君は槍を投げつけてきた。

槍は東坂君の手前で地面に突き刺さる。

「エルドリック商会を調べているなら、なぜこれに気づかない」

槍には、荷馬車と同じマークがついている。

はじめてマークを見た葉賀雲君がハッとする。

「これは肥後家の家紋⋯⋯」

「このマークを知っているのか? 葉賀雲 」

「ああ。もちろんだ」

私たちが槍に気をとられていると、ハルト君の姿はもうそこにはいなかった。


***

高台から炎に包まれるエルドリック商会の荷馬車をムルグとかいうじいさんが見つめている。

「これをあんたたちがやったのか?」

「そうだ」

じいさんは黙って俺、イリス、ライル、オッド、セレスの5人をジッと見つめる。

「じいさん。俺たちをエルドリック商会まで案内してくれるか?」

「⋯⋯わかった。ついて来てくれ」

多少の間があったもののじいさんは、そう答えて、俺たち一行と、トゥワリス国へと歩きはじめた。


***

トゥワリス国の港、問屋街へとやってきた。

「じいさん。エルドリック商会とは何があった?」

「ヤツらは、気前のいいことを言ながら、ワシから塩を奪おうとしている。したたかな笑みを浮かべてな。

エルドリック商会と契約すれば飛ぶように売れる。だが、ヤツらと契約する条件が到底飲めない」

じいさんが話たエルドリック商会との契約条件というのはこうだ。

提供する品物は、生産する田畑(でんばた)などの土地から商標に関するまで全ての権利をエルドリック商会に譲ること。

そして商品には、あの家紋“エルドリック商会のマーク“をつけて販売する。

つまりは荒ぽいプライベートブランド化だ。

エルドリック商会は、他の商会とは類をみない高値で取引してくれる。

今まで商人たちに買い叩かれてきた生産者にとっては救いの手だったのであろう。

だから、エルドリック商会に流れる生産者があとを絶たない。

しかし契約した生産者は、先祖の代からの土地を譲ってまで金が欲しいわけではないようだ。

強い力を持ったエルドリック商会はトゥワリス国内の市場を牛耳るようになった。

契約していない生産者には、嫌がらせが待っている。

市場に出した商品は店舗の端に陳列させられる。もしくは同じ品物をエルドリック商会から破格の安さで出されて、それをとなりに並べて対抗してくる。

これに文句を言おうものなら市場から締め出される。

じいさんの塩は、先祖代々からの製法で作られる、質が良く国内外にも知られるブランド物。

トゥワリス国の名産品にまで押し上げた代物だ。

一方、エルドリック商会で扱っている塩は低価格だが、それ相応に質が悪い。

だからじいさんはここまで強気なのだ。

だが、人というのは安いものを手に取る。ましてや、内戦で情勢が不安定なときならなおさらだ。

運がいいのは、どの軍勢もトゥワリス国経済の要となる、港や生産拠点となる集落で、ドンパチは行わないこと。

みな、自分の治世となった時に楽をするため、暗黙の了解で、広い平原で(いくさ)をしている。

だから、民は至って普通の暮らしができる。

エルドリック商会の誘いを頑なに断り、市場も追い出されたじいさんは、国外へ直販をはじめたようだが、

国外にもエルドリック商会の勢力が伸びていて、フェンリファルトでも盗賊を使ったエルドリック商会の嫌がらせを受ける羽目になった。

エルドリック商会の勢力はウェルス王国、フェンリファルトへと広がって来ている。

ウェルス国は、戦争を繰り返して来た歴史から、職人たちの腕が良くて武器の質が高く、

種類が豊富なことで有名だ。

敵対しているフェンリファルトは、エルドリック商会を通じればウェルス国の武器が手に入ると、エルドリック商会の参入を容認している。

一方のウェルス国もフェンリファルトから流行病に効く薬を手に入れることができるから、同じくエルドリック商会の参入を認めている。

こうしてエルドリック商会は、巧みに経済網を広げて来ている。

肥後の家族が経営する大手通販会社もそうやって日本の業界を支配した。

ここまで、難しい話をつづけて来たが、イリスとライルなんか白い目ですっかり遠くを見つめている。

「理解できたか。イリス」

「うん。分かった」

うそだ。

張り合うようにライルが答える。

「つまりは悪いヤツってことだろ。理解した」

もうそれでいい。

じいさんがピタリと立ち止まる。

ついにたどり着いた。エルドリック商会の本部。

庭付きの大きな屋敷だ。

屋敷の門番がじいさんの顔を見るなり門を開けた。

中へと進むと、屋敷の扉の前でエルドリック商会の商人の男が待ち構えていた。

「ムルグさん。お待ちしておりました」

俺たちは、金の装飾が眩い応接間へと通された。

エルドリック商会が、執拗なまでにじいさんに嫌がらせするのは、是が非でもじいさんの塩がほしいからだ。

「ムルグさん。ようやく我々と契約してもらえる気になりましたか。私はとてもうれしいですよ」

「何を勘違いしている。じいさんは、俺と契約したんだ。今日はその挨拶に来たんだ」

「なんと⁉︎ どういうことですかムルグさん」

俺の急なアドリブに戸惑いながらもじいさんは「そ、そういうことだ」と、合わせてくる。

「あんたたちは何ものなんだ」

「肥後に伝えておきな。クライム・ディオールがやってきたと。じゃあ、さっそくチンケなお宅んとこの商品を見させてもらうぜ」

「おい。ちょっと待て! 屋敷の中を勝手に歩き回るな!」

俺は応接間を出て、廊下を突き進む。

俺の腰にしがみついて騒いでくる商人の男には壁とお友達になって黙ってもらった。

俺は、屋敷の中の蔵をしらみつぶしに破壊した。

扉をけ破り入った部屋には檻がいくつも置かれていた。

どうやら珍しい魔物が入れられているようだ。

檻のひとつひとつ中に入れられている魔物を確認していって俺は驚いた。

「先生!」


つづく






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