第78話「告白」
修学旅行ーー
それは生徒たちにとって高校生活きってのビックイベント。
教室で一緒に過ごしてきたクラスメイトたちとはじめて訪れた地域で
学び、遊んで、そして観光スポットを前に撮った記念写真と一緒に一生の想い出を残すのだ。
ゆえに生徒たちは皆、テンションが高まり過ぎてハメをはずしがちだ。
そのため旅行先でのトラブルがつきものとなる。
だからこそ修学旅行は生徒会役員にとっても重要な行事となるのだ。
生徒会にかせられた任務は教職員と生徒を含めた総勢160名を事故やトラブルもなく、
安心して旅行を満喫してもらうこと。
修学旅行の成否は今後の生徒会の評価にもおおいに関わってくる。
僕が生徒会長になったからには詠凛学園の生徒会に末永く語り継がれる功績を残さなくてはならない。
掲げた公約はーー
“生徒第一”
それは決して容易いことではない。
だが、詠凛学園・第21代生徒会長の陽宝院光樹と副会長の月野木天音君なら成せると信じていた。
ーー
生徒会による修学旅行対策は1ヶ月にも及んだ。
ストリートビューを使っての修学旅行先の下見。
それは生徒が巻き込まれそうな危険な箇所をひとつひとつチェックする根気のいる作業だ。
さらに集団行動を乱すリスクのある生徒をピックアップしておく必要がある。
あらかじめ目を配る箇所を決めておけば、トラブルが起きそうな場合にも素早く対処ができる。
生徒たちが見学するコースの設定も重要だ。
人目につかなくなるようなところは通さず、全生徒が常に目の届くところを歩かせるのだ。
とくに問題を起こしそうな生徒には如月那由多君と忍者の葉賀雲影家君にトラブルシューターとして目を光らせてもらう。
幸い僕のクラスには”鉄壁の鷲御門“がいるから安心だ。
目を配る対象が少ないことには越したことがないからね。
しかし残念なことに引率する教職員の中にも頼りない教師はいる。
さらにはトラブルメーカーになりうる教師もいるのだから頭が痛い。
だからこそわれわれ生徒会は、旅行中つねに教師や生徒たちの行動に目を配って行かなくてはならない。
他の生徒たちと同様に旅行を楽しんでいる余裕はないのだ。
修学旅行初日を終えようとしていた夕方ーー
生徒たちが今日一日の想い出を楽しげに話しながら旅館のロビーに並んで受付を待っている。
生徒会役員は生徒たちの様子を脇で見守っていると月野木天音君がポツリとこぼした⋯⋯
「みんな楽しそう⋯⋯裏で生徒会がどんなに大変だったのか知らずに笑ってる。
わかってはいてもちょっとは褒めてほしいかなぁ」
「それが生徒会の仕事さ。普通のことや、あたりまえのこと、何気ないことの影には必ず誰かの努力がある。
それが経験できたのだから僕たちは幸運だ。きっと将来の糧になる」
修学旅行を成功裏に導くーー
それは僕と月野木君にとって序章に過ぎない。
なぜなら今回の共同作業は未来への布石。
月野木君と僕なら世界すら変えることができる。
だからこそ僕は決断した。
”2日目の夜に彼女へ告白する“
泊まるホテルの近くに2人きりになれる場所があるのをすでに把握している。
夜空の星がきれいな浜辺のビーチ。
進学して大学を卒業すれば僕は政界に進出する予定だ。
はじめはどこぞの代議士の秘書だろう。だが、それまでに僕と月野木君が結ばれていれば
そう遠くない未来に彼女をファーストレディに僕たちは世界から注目される存在になれるはずだ。
迎えた2日目ーー
そんな大望を抱きながら目的地に向かうバスへ乗り込んだ。
あろうことか僕は滅多にしないはずの緊張をしていた。
致し方ない、普段の僕ならありえないが世界の行く末を左右する行動を起こすんだ。
これぐらいの緊張が出てくるのは当然。
”しかし、運命の歯車はこの直後に狂い出す“
僕らを乗せたバスが高速道路を走行していると
目の前から迫ってきた光がバスごと僕たちを飲み込んだーー
***
気がつくと僕は森の中で横たわっていた⋯⋯いや、2年B組全員がだ。
クラスメイトたちは呻き声をあげながら点在して倒れていた。
中には木の枝に引っかかっている生徒も。
頭の理解が追いつかないまま、中世のような甲冑を身につけた集団に追い回され、
ニュアル・ウルム・ガルシャードと名乗る幼女とギール・アウルスと名乗る老紳士からは
ここが僕たちがいた世界とは異なる場所だと説明されても頭の理解がそれを拒絶する。
混乱しているのは僕だけじゃない。
本来、頼りになるべき大人の佐倉先生が放心状態。
クラスメイトたちは動揺や不安に苛まれ口論をはじめる始末。
「みんな、落ち着こう。ひとまずは状況を整理しよう。今は何を優先的にするべきか考えるときだ」
このままではクラスがバラバラになってしまう。
冷静を装っていても内心は焦っていた。
鷲御門のフォローもあって、なんとかクラスメイトたちを落ち着かさることができた。
一刻もはやく僕と月野木君とで、クラスをまとめる必要があった。
しかし残酷な真実が追い討ちをかける。
僕たちにはこの世界で生き抜いて行くためのアイテムかのように異能の力が備わっていた。
これは偶然なのか? はたまた神か何者かによる意思なのか? このときはまだ分からなかった。
だが、月野木君には紋章はあれど生き抜くための異能の力が与えられていなかった。
その事実を知ったときから”月野木君の命を守る“ことが僕の中で至上命題となった。
国家間で争い、人間同士殺し合うことがあたりまえの社会で異能の力がない月野木君が生き残るためには安全圏をつくることが先決だ。
しかし、僕たちのいた世界の理屈は通らずダルウェイル国に保護してもらうことは叶わなかった。
それどころか異世界人は得体の知れない僕たちをあらゆる手段で排除しようと攻撃してくる。
担任の佐倉先生に至っては役に立たない。
状況が好転しない中で僕と鷲御門でこの難局を乗り切るしかなかった。
ーー
右条君と肥後君を使っての情報収集と資金の調達、そして不要な人物の追放ーー
考え得るさまざまな手立てをすべて実行した。
一方で僕たちに与えられた異能の力は異世界人には抗えないほどの絶大な力だった。
鷲御門を中心に彼らの軍事力を圧倒し瞬く間にこの世界を支配することができた。
だが、異世界人たちは戦うことしか能がない。
あろうことかクラスメイトたちまで己の力に溺れて暴走する始末。
彼らに秩序と法の支配を叩き込まなければならない。
7人会議もウィギレスもそのためにつくられた。
法の整備とインフラ投資、治安の安定といった異世界の近代化を急ぎ、
僕たちのいた世界と遜色無い社会をつくりあげて、はじめて月野木君の安全は担保される。
それまでの間、過保護と思われても僕は月野木君を徹底的に危険から遠ざける必要があった。
なのに月野木君はそんな僕の気も知らずにどんどんと危険に近づこうとする⋯⋯
今もそうだーー
吉備津瑠美花君とドラゴンの戦闘に集中するあまり、
背後から近づいてきている刃物を持った金髪の少女の存在に気づいていない。
だから僕がこうして危険を取り除いてあげなければならない。
少女の顔を殴るなんて僕の趣味じゃないんだ。
だけど僕の大切なパートナーを傷つけようとしたんだから
このぐらいのことはしないと僕の腹の虫がおさまらないよ。
***
ゴブリンにオーク⋯⋯なんだか知らないが月野木君にまとわりついてくるモンスターは徹底的に倒す。
「アマネ様をあの男から取り返せー!」
さっきから亜人どもがどこからともなくやってきてワラワラ群がってくる。
僕は月野木君を抱えながら“ライジングアーチェリー”で斬っているがキリがない。
そうまでして月野木君を奪おうとする理由はなんだ?
これも右条君の命令なのか?
「もうやめて陽宝院君! これ以上、亜人の人たちを傷つけないで!」
「優生思想だよ月野木君。彼らのような醜い生き物は存在ごと根絶やしにしなければならない」
「⁉︎」
「この世界を2人でつくり変えるんだ」
エルムの森を彷徨っていたダグラス・オルト内務卿と出会い、この異世界の神々の歴史を教わり、ニュアルの出自を知った。
「僕たちの子供を作ろう。幾度と阻まれてきたけど今度こそ月野木君を女王にそして僕が神となる。
やがて僕たちの子供たちがこの異世界で子孫を残して未来永劫繁栄していく。僕たちはこの異世界の始祖となるんだ。
そのためにも先住民たちには滅んでもらおう」
「ちょっと離して!」
月野木君が僕の腕を解いた。
「照れなくていい。君の答えを聞かせてもらおう」
「私がどうして命を簡単に踏みにじる陽宝院君と命を残さなければいけないの?
陽宝院君のことは生徒会長として人をまとめられる人として尊敬していたけど
異性としてみたことは一度もない!」
「⁉︎」
思わず耳を疑った⋯⋯返ってくる答えは”よろしくお願いします“のひとつだったはず⋯⋯
なのにその答えはなんだ? 僕は知らないーー
「月野木君、正気で答えているのか⋯⋯」
なぜだ? 告白した場所が星がきれいなビーチじゃなくて、血まみれになった亜人の死体が転がる戦場のせいか?
それとも右条君に何かしらの洗脳が掛けられているのか?
「私は正気です。陽宝院君に返す答えは”ごめんなさい“のひとつです」
「⁉︎」
あ、ありえない⋯⋯僕と月野木⋯⋯いや天音君が結ばれることで世界が大きく変われた。
なのに僕たちが結ばれなかったら世界は大きな損失だ。
そこのエルフもなぜ僕を哀れんだ目で見る?
その目をヤメろ!
愕然と汗が滲む両手に視線を移すと僕は驚愕する。
タトゥーのような紋様がいつのまにかできて広がっている。
筋肉が膨張し、全身が熱い。
窓ガラスに映った自分の姿を見てあらためて驚愕する。
紋章がある右目を中心に顔の右側にタトゥーが入って、背中には刺々しい金の装飾まである⋯⋯
「これが僕⋯⋯ありえない」
「陽宝院君⋯⋯」
「待ってくれ僕はこんな」
僕が手をかざすと空気が衝撃波となって天音君に飛んでいく。
「しまった⁉︎ 」
力が暴走しているのか⁉︎
制御できていない。
天音君に直撃する直前に黒い影が彼女を連れ去った。
見上げると天音君をお姫様抱っこした状態で高くジャンプした右条君の姿⋯⋯
彼は苦い顔で僕を見下ろす。
「フェーズ2か⋯⋯」
つづく




