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異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第6章 魔王降臨

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第74話「メイ・べルディウス」

私、あかね、東坂君のウィギレス3人とミレネラさん、ディルクさんは

魔王クライム・ディオールと直接話しをするためラガン領にやってきた。

辺りはハルト君の記憶のままの景色に驚かされる。

人の記憶を辿るというのも不思議な感じがするけど、

この道を進んでいけば、ハルト君たちが過ごしたギルドがあるはずだ。

建物は焼失したけどいけば何かがある。

魔王クライム・ディオールはおそらくそこにいる。

「着いた!」

周りに生えている木の感じからしてここで間違いない。

「天音、見てあそこ」

あかねが指をさした先を見やると、木材を十字に組んだものが40体くらい地面に突き刺さっている。

「もしかしてお墓? 」

そう言ってあかねが後退りする。

間違いない。たしかにここだ。

ここに建てられているのは殺された冒険者たちの墓標。

そしてひときわ大きい3つの墓標がネルフェネスさん⋯⋯ネウラさん⋯⋯そしてロザリーさん⋯⋯

「こんなところに右条が本当にいるの?」

「近くにいる。だから油断しないで、みんな」

すると、近くの茂みから葉っぱどうしが擦れる音が聞こえてくる。

茂みから姿を現したのはフードを目深に被った黒装束の人物。

やはりと言うべきか⋯⋯私たちがここに来ることがわかっていたようなタイミングだ。

「お会いになりたいお方はあちらにおりますーー」

声からして黒装束の人物は女性だ。

私たちについて来いと言わんばかりに背を向けて歩き出した。


***

茂みを抜け出るとそこには魔王クライム・ディオールの姿。

ハルト君に、あかね、東坂君が揃うと、ファンタルスフレイムのアバターの姿が重なる。

ただ違うのはハルト君が敵だということ。

クライムとテーブルを囲むのは武器に変身する4人。

もうひとりの女性にも見覚えがある。

おそらく現ラガン領・領主のクレイス・ラガンさん。

さらにその周囲には大勢のコボルトとゴブリンがいて物々しい。

私に気づいたイリスちゃんが敵意のこもった眼差しを向けてくる。

イリスちゃんはやっぱりそんな目で私を見てくるんだ。

黒装束の女性がテーブルに広げた地図に目を落とすクライムに近寄って声をかける。

「お客人をお連れしました」

「ありがとう。佐倉先生」

「「「佐倉先生⁉︎」」」

「違いますよ。魔王様」

そう言って黒装束の女性は被っていたフードをはずした。

露わになった素顔はたしかに私たちのよく知る佐倉先生だ。

「メイ・ベルディウスです」

「そうだったな。お前たち先生を祝ってやるんだな。

俺たちの佐倉先生はトゥワリスの政財界を牛耳る富豪と結婚して、いまやトゥワリスの支配者だ」

佐倉先生が変わってしまったのは名前だけじゃない。その雰囲気もだ。

頬や黒装束から露わになっている肌すべてにタトゥーの模様が見える。

まるで田宮理香さんを彷彿とさせる。

「驚くことじゃない。先生は俺と同じ“フェーズ2”に移行したんだ」

「フェーズ2? それはなんなの!」

「それより俺に要件があるんだろ?」

「それはーー」


『断る』


「待ってまだ何も⋯⋯」

「人間を殺さないでくれと泣きをいれに来たんだろ。月野木のことだから、そろそろやってくる頃だとは思っていた。

だが、 見てのとおり軍議の最中で忙しいんだ。相手にしている暇はない」

「おい、待てよハルト! 月野木はどんな思いでここまでやってきたと思っているんだ」

「東坂か。これ以上騒ぐなら、そこのゴブリンたちに命じて始末してもらう」

「⁉︎ お前ーー」


『聞いて!』


「?」

「今すぐ仲間を連れて逃げて! ディフェクタリーキャッスルに向かうのは危険なの!

陽宝院君が魔王討伐軍を作って、ハルト君が攻めてくるのを待っている」

「血迷った? クライムが怖くて、魔王軍に逃げてほしいってどういうことなの」

イリスちゃんがこわい顔で迫る。

「博士が陽宝院君の命令で恐ろしい武器を開発したの。討伐軍の主要装備は銃よ。博士が量産に成功させた。

使われている銃弾は亜人の細胞を壊す物質が含まれている。だからはやく逃げて」

「あれほど力の差を見せつけてやったのに、月野木に見くびられているとは驚きだ」

「お願いだから! このままだとイリスちゃんたちまでーー」

「断る」

「ハルトッ!」

しびれをきらした東坂君がクライムに掴みかかろうとする。

すると、ゴブリンたちの群れの方からうめき声が聞こえてくる。


「「「「ぎゃあああ!」」」」


一筋の光線がゴブリンとコボルトの群れの中をジグザグに駆け抜ける。

鞘に剣が納められる音と一緒に、ゴブリンたちの身体がバラバラに弾け飛んだ。

「ね、いつまでつべこべと話ししているの? さっさと魔王になった右条君の首を取れば終わりでしょ?」

「ナユタッ!」

どうして如月君がここに? ややこしくなるから連れて来なかったはずなのに⋯⋯

「如月那由多か。先生、好きに始末してくれ」

「はい。仰せのままに」

「佐倉先生⁉︎」

先生どうして⋯⋯生徒を殺せと命じられたのにどうしてそんなに素直なの?

「先生やめてくれ! 相手はナユタだぞ。あんたの生徒だ」

佐倉先生は東坂君の問いかけにも薄ら笑いで答える。

「東坂君は黙ってなよ。この佐倉先生は間違いなく僕らより強いよ」

如月君は攻撃を繰り出す態勢に入った。

姿勢を前かがみにして腰に差した刀に手をかける。

「フフッ⋯⋯」

先生はそれでも薄ら笑いを浮かべたまま⋯⋯


『斬光ーー飛天』


如月君が抜刀と同時に一歩踏み込んだ瞬間、側面から稲妻を帯びた紫色の魔法陣が

飛んできて衝突する。

如月君はそのまま岩に魔法陣ごと叩きつけられる。


『嘆きの監獄ーー』


先生は静かにそう呟いた。

岩と魔法陣に挟まれた如月君は身動きが取れないでいる。

「無闇に身動きしない方がいいわ。指先ひとつピクリとも動かすだけでビリビリしちゃうから」

「ああああああーーッ!」

「なんだあの女性は、ナユタ少年のあの剣撃を一撃で破るなんて」

剣に詳しいディルクさんが動揺している。

先生いったいどうして⋯⋯やさしかったメイちゃん先生はどこへ行ってしまったの?

臆病だけど、いざというときに身を挺して私たちを守ってくれる強い先生だったのに。

どうして生徒を傷つけてそんなに笑っていられるの。

「如月家秘伝奥義の抜刀術もたいしたことないな」

クライムが如月君をこきおろす。

抜刀したミレネラさんが私の隣に立って肩に手を置く。

「アマネたちじゃ、あの女を倒せないだろ。私たちに任せな」

そう言ってディルクさんと飛び出していく。

「待って!」

「「うおおおお」」

2人は素早い動きで、先生の左右から同時に攻撃を繰り出す。

対する先生は両腕を広げて左右の手のひらから魔法陣を放つ。

「「⁉︎」」

飛び出してきた魔法陣のスピードに2人は対処することができずに直撃。

「「うあああ」」

ダメージを負って地面に転がる。

「そのまま磔になっておとなしくしていて」

「言っただろ。先生はもう”フェーズ2“だ。お前たちが束になってかかってきても勝てやしない」

「そのフェーズ2ってのはなんだ! 答えろハルト!」

しびれを切らした東坂君が拳に稲妻帯させて殴りかかる。

クライムはそれを澄ました顔で躱したと思った瞬間、拳が東坂君の腹部にめり込む。

「ぐはぁ」

嘔吐する東坂君にクライムは言葉を浴びせる。

「お前たちとは、異なる高みにいるっていうことだ。

それはお前たちがいくらレベル上げても到底、手が届かない領域だ」

東坂君はすぐさま後ろに飛んでクライムと距離をとる。

「なめるな! 俺だってハルトと顔を合わすたびに強くなっているんだ。喰らえッ!」

東坂君は左右の手のひらを正面に翳すと雷から作られるスパークエネルギーを圧縮する。

そして球体状になったエネルギーをクライムに向けて放つ。

しかし、エネルギー弾はクライムに直撃する前に弾ける。

まるで見えないバリアに覆われているようだ。

それでも東坂君がやめることなくエネルギー弾を連射。

巻き上がる土埃にクライムの姿が見えなくなる。

吹き抜けた風が土埃を払い去ると、無傷のまま立ち尽くすクライムの姿が現れる。

「無駄だ。俺の能力はお前たちの力を無効化する」

「これならどうだ! ”雷撃号砲“」

東坂君は拳を地面に叩きつけて、土を隆起させながら稲妻を走らせる。

「愚かな。いくら攻撃を仕掛けても体力の浪費にしかならない。”這いつくばれ!“」

そう言ってクライムが手を上から下にさげる動作をすると、東坂君が重力に押しつぶされるようにしてその場にうつ伏せになった。

「どうやってその力を手に入れたのか知りたいって顔をしているな」

クライムはうつ伏せに倒れた東坂君に歩み寄ってきて、手のひらをふみつける。

「フェーズ2の力は絶望を越えたその先にある」

クライムがふみにじると東坂君の手のひらから骨が砕ける音が聞こえてくる。

「あああああ」


『よくも東坂を!』


氷で作った槍を手にあかねが高くジャンプして攻撃に出る。

「オッド!」

クライムはすかさずオッドさんを変身させた盾を掲げると、直撃した槍が先端から砕ける。

そして盾の陰に隠していた拳銃を発砲。

「きゃっ」

「あかね!」

肩を撃ち抜かれたあかねがその場に倒れる。

「敵の死角をついて斜め後ろからの攻撃。俺が教えたプレイスタイルが活かしているじゃないか」

「右条てめぇ⋯⋯」

「だけど俺には通用しない。ファンタルスフレイムで戦ったどのモンスターよりも俺は強い。

生半可なお前たちじゃ敵わない」

「まだだ、私はまだ戦える」

「セレス!」

クライムの呼びかけにセレスさんが瞬時に日本刀に変身して翳したクライムの手のひらにおさまる。

クライムは手にした日本刀を自分の影に向かって突き刺した。

影が自我を持ったかのようにもがき出して、中から葉賀雲君が飛び出してくる。

流血する腹部を抑えながら葉賀雲君は意識失って倒れた。

「あとは能力も使えない役立たずの月野木さんだけですね。先生が始末してあげます」

この異世界にやってきて散々、役立たずと言われてきたけど、慕っていた佐倉先生に言われるのは

正直、泣きたくなるくらい傷ついた。

「手を下さなくても何もできないんだ。放っておけ」

すると、黒い物体がクライムと先生の目の前を横切った。

クライムの頬からは血が流れる。

そして地面にはトライトエールが刺さっている。

「見くびらないほうがいい。そのお嬢さんは強い」

ディルクさんが私を守るためにトライトエールを投げてくれた。

これが魔王クライム・ディオールに与えたはじめてのダメージ。

「トライトエールを手に取るんだ」

「はい」

刺さっているトライトエールを全身に力を入れて引き抜く。

「”トライトエール“⋯⋯神器か⁉︎」

クライムが動揺している?

もしかしてこれは反撃のチャンス?

「重い⋯⋯」

せっかく魔王を止める糸口が掴めたのに⋯⋯

私にはこの剣を持ち上げることすら難しい。

「何やっているんだ! たかが80キロだぞ。はやく持ち上げて構えるんだ!」

「⁉︎」

ディルクさんは私をなんだと思っているのよ。

あかねと違ってか弱い私にはムリ!

「天音、どさくさに紛れて私のことディスらなかった?」

「そんなこと思ってない。あかねはそこでおとなしくしてて」

ダメだ。数センチ持ち上がった剣先がまた地面についた。

「とりあえずのところは脅威にならなそうだな。先生、ガルードとトールに進軍を伝えてくれ」

「かしこまりました」

「俺たちもここを離れる。出発の準備だ」

「待って!」

「ポーションを置いていく。お前たちはリグリット村に戻っておとなしくしていろ。

あそこはこの異世界にとって特別な場所だ。手を出したりはしない」

「陽宝院君のことだからきっと他にも罠がある。これ以上、傷つくハルト君の姿を見たくないの!

冷静に考えて、もしイリスちゃんたちまで失ったらハルト君に何が残るの?」

「クライム、やっぱりこの女嫌い。私に殺させて」

「よせ、イリス」

「クライム!」

「俺たちには魔鉱石で作った特殊な盾がある。

他にも武器やら兵糧がトゥワリスから次々と入ってくる。

陽宝院たちがどんな武器を使って攻撃してきても俺たちには効かない」

「行ってはダメ!」

「俺たちは人間を滅ぼすまでは止まれない。覚えておけ」

魔王クライム・ディオールが私たちに背を向けて立ち去る。

止めることができなかった。この先に待っているハルト君の絶望を。


つづく


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