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異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第5章 右条晴人とクライム・ディオールの伝説

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第63話「リグレーヌ平原の戦い」

俺は走る馬車の中から身を乗り出す。

城を脱出してから2時間。

ついにリグレーヌ平原が見えてきた。

空にはどんよりとした鉛色の雲が横たわり平原全体を薄暗い影が支配している。

丘にはぞくぞくと集まった帝国の兵士たちが黒い塊をなして大蛇の如くうごめいていた。

ドラゴンとはよく言ったものだ。

俺はゴクリと息を呑む。

「想像以上の数だ⋯⋯」

「帝国中の兵士たちが集まってきている感じだね」

ルーリオの顔にも焦燥の色が滲む。

帝国側の数はざっと計算しても36万。

掲げられている旗の中には、チラホラ俺たちに味方してくれていた貴族の家紋が。

対する俺たちはというと、兵士の総数を合わせても1万⋯⋯

残ってくれた貴族は3人。そしてラガンさんのひとり娘、クレイス・ラガンが

ラガン家の新たな当主として戦列に加わっている。

彼女は勇猛果敢な女騎士長としても評判が高く、彼女が率いるクレイス隊はラガン兵の中でも精鋭たちが集まった主力部隊だ。それを持ってしても戦力差は歴然。

圧倒的な物量が俺たちの前に立ちはだかる。

早くも帝国兵たちが俺たちの行軍を見るなり、槍の先端をこちらに向けて突進をはじめた。

けたたましく『オーッ』と、声を上げながら迫ってきている。

「じゃあ、さっそくやっつけちゃいますか」

そう言ってシルカは体をほぐしながら準備運動をはじめる。

「倒そう」

ルーリオは鞘から剣を引き抜きながら、俺とシルカの横に並び立った。

「そう、強大な敵を前にしたときのこの感覚。死の恐怖よりも戦いたいという高揚感が勝るんだ。

これだから冒険者はやめられないよ」

さっきとは打って変わり、ルーリオは清潭な顔つきで剣を前に突き出して、向かってくる帝国兵たちを見据える。

「?」

ふと、気づいた。ルーリオが手に握っている剣は大事にしまってあったはずのネルフェネスさんの剣だ。

「ルーリオ、華々しく散る覚悟みたいだけど、もうじき俺の仲間とウェルス王国が来る。

生き残ったときに顔を紅くするなよ」

「だとしたら、それも悪くないよ。だけどね僕は勝てると思ってるよ。この戦い」

「へへ、そうかい。そうだな。図体はどんなに巨大でも、核になっている皇帝はたいしたことはない。

倒せば俺たちの勝ちだ。なんとしても3人でここを突破するぞ」

すると、イリスが服の裾を引っ張ってきた。

「ハルト、私も入れて4人」

「そうだったな。頼りにしているぜイリス」

頭を撫でてやると、イリスは嬉しそうな顔をしてメイスに変身した。

「サポートはお任せください」

ロザリーさんはネウラさんの杖を手に、木で簡単に組んだお立ち台に登る。

みんないい顔をしている。

いや、むしろ吹っ切れたのか。

悲観的になっていてもおかしくない状況なのに俺たちの顔は自信に満ちている。

俺はスマホを取り出して通話ボタンをタップ。

最後の準備をはじめる。


ーー


ネウラさんの杖に埋め込まれた大きな宝玉を輝かせながらロザリーさんはまぶたをとじて次々とスキル名を唱える。


『回復力向上、スピード向上、体力強化、痛覚鈍化、攻撃力向上、攻撃範囲拡大⋯⋯』


そのたびに俺たちの全身が緑色に発光してスキルが付与されていく。

強化が終わり準備は整った。


「行くぞ!」


俺の一声を合図に3人で一斉に飛び出した。


「「「おおおお!」」」


正面から槍で突いてくる帝国兵たちをメイスで薙ぎ払う。

帝国兵が怯んだところを今度は肩にメイスを振り落として地面に叩き伏せる。

死角から剣を真横にして切り掛かってきた帝国兵には柄の方で突いて、腹部に減り込ませたまま薙ぎ倒してみせた。

シルカは両手に短剣を構えながら忍者のような動きで攻撃を躱すと、高くジャンプして突風が吹き抜けていくような剣さばきで帝国兵たちの首筋を一斉に切り裂く。

そしてルーリオは剣に紋章のエネルギーを込めていく。

青く発光した刀身で斬り掛かってきた帝国兵全員を瞬く間に斬って捨てる。

ルーリオが放つ斬撃の前では帝国兵が着ている鉄製の鎧など無意味。

まるで布地を裂くように鎧ごとさっくりと斬られて、血飛沫を噴き出しながらドシャリと倒れる。

それでも雪崩のように帝国兵たちは押し寄せてくる。

背後から、斜めからと、あらゆる方向から白刃が襲ってくる。

コンソールやライフゲージなんて表示されない。

それでもHPが削られていくのが感覚で分かる。

帝国兵の攻撃は絶え間無くつづく。

HPが削られるたびに全身が緑色に発光してゲージは満タンまで回復。

刺された傷だって瞬時に癒える。

ロザリーさんのおかげで俺たちはいくらでも戦える。

しかし、この数を相手にし続けるのはしんどい。

「ハァハァ⋯⋯」

もう肩で息をしている。

汗が止まらない。

倒しても倒してもそこかしこから湧いてきて切りがない。

ユークス皇帝のいる本陣まではまだ距離がある⋯⋯

「ハハ⋯⋯」

乾いた笑いが溢れた。気が滅入りそうだ。まったく。

はじめて会ったときの自信に満ちたような不敵な笑みは今でも忘れねぇ。

今も高台からあの顔で見下ろしているんだろう?

待っていろよ。その顔、すぐに恐怖で引きつらせてやる。


***

「粘るね」

不敵な笑みを浮かべたユークス皇帝は本陣が敷かれている丘の上から、ルーリオ軍の奮闘を眺めていた。

しばらくして両軍の兵士が入り乱れる戦場からときおり緑色の光が発せられることに気づいたユークスは

後方に立つガルザ公爵に告げる。

「ガルザ、敵側にも魔法師がいるようだ。まずはそいつを潰せ」

「はっ」

ユークスはガルザ公爵に命令すると向き直して再び戦場を見下ろす。


***

ロザリー視点

ハルト君たちの消耗が早い。もっと魔力を生成してあげないと追いつけない。

徐々にですけど宝玉の輝きが弱くなってきています。

とにかくーー


“ネウラ様お願い“


あの人に祈るようにギュッと杖に力を込めると宝玉の輝きが再び強くなりました。

それでもまだダメ。私の回復や防御に使っている魔力もすべて回さないと、ハルト君たちには⋯⋯


「⁉︎」


前衛で食い止めきれなかった帝国兵たちがこちらに向かってきています。

「まずいかな⋯⋯」

頬をいやぁな汗がつたいますね。


「クレイス隊、前へ。ロザリー様は私たちがお守りするのだ」


クレイス様の一声で兵士の方たちが前方と左右の3つに分かれながら横一列に並んで

私を守る壁となってくれました。

クレイス様はさっきお父様を亡くされたばかりだというのに気丈に振舞われながら

兵士の方たちにしっかりと命令を出されている。

私も怖気づいてなんかいられない。

唇を真一文字に結んでもう一度正面を向きます。

すると私の顔に向かって飛んでくる拳ぐらいの黒い物体が。

躱す間もなく、物体は”ゴッ“と、鈍い音を立てておでこに直撃。

体は大きく仰け反る。


”石だ“


倒れるもんかと踏ん張って上半身を前に倒すと床にボタボタと血が。


「ロザリー様!」


心配したクレイス様が後ろから肩を抱いてくれます。

どうやら額から血が流れてきているみたいですね。

右目なんてもう視界が紅くなってよく見えませんよ。

「ロザリー様、ここはお退きください」

「いいえ」

心配は無用とばかりに私はふらつきながらも杖を構え直してみせました。

「私はここから降りません。なんとしてもハルト君たちに魔力を送り続けないといけないんです」

「しかし!」

「それよりクレイス様、お願いがあります⋯⋯」

「?」


***


「しぶとい女だ」


全身に投石をぶつけられつづけても一向に倒れないロザリーに、痺れを切らしたユークスは教会の信徒たちに魔法での攻撃を命じる。

ローブを着込んだ5人の信徒は両手を広げ魔法陣を作り出すと、魔法陣から赤い光線を連続で放つ。

赤い光線はロザリーを守るクレイス隊のラガン兵たちに次々と着弾。

激しい爆炎上げながらラガン兵たちを吹き飛ばす。

「味方まで巻き込んで攻撃⁉︎ ずいぶんと教会の魔法師たち“らしい”ですね。まだ子供だった私を邪教の力が

使えるからって“悪魔”と蔑んでくれた、あの魔法師さんたちが私ひとり相手に複数人ですか?

笑わせてくれますね」

ロザリーの脳裏に子供の頃、みすぼらしい格好で道端に座り込んでいたところを

通りかかったネルフェネスとネウラに声を掛けられたときの光景がよみがえる。

「ええ、本当憎んでますよ。あなたたちに捨てられたこと。本当、拾ってくれたあの人怖かったんですから!」

ロザリーの魔力出力が跳ね上がる。

「それと同時に感謝もしてますよ。ちゃんと」

宝玉の輝きが一層強くなると一筋の光線が放たれる。

光線はユークスたちが陣を敷く丘に着弾。

爆発であたりが見えないほど土煙が捲き上る。

「皇帝陛下!」

煙を掻き分けてガルザ公爵がユークスに駆け寄る。

「大丈夫。直撃は免れた。それよりあそこで伸びている魔法師たちをなんとかした方がいいんじゃないか」

砂塵に混じり魔法師たちが気を失って倒れている。


***

ロザリー視点

今ので無駄な魔力を使ってしまいました。

杖に掴まってはいますが立っているのもやっとなんですよ。

お気に入りだったギルドの制服はボロボロ⋯⋯おまけに乙女の体にブスブスと矢なんて刺してくれちゃって⋯⋯

あーこれどこか骨が折れちゃってますよ。

ホント、ひどいことしてくれますねぇ。

だから杖さん。最後のお願いがあります。

「私の体力も、命も、全部持ってっていいからハルト君たちに最後の魔力を送ってあげて⋯⋯」

ああ⋯⋯ これでいいのです。全身の力が緑色に光る風となって杖に吸われていく。

だからそこの兵士さん、今さら私のお腹を槍で刺したからっていい気にならないでくださいね。

私の役目はもう終わりなんです。


***

右条晴人視点

俺のライフゲージが黄色から緑色の戻ったところで止まる。

そして全身を回復させてくれていた緑色の光が途中で消えたことで何が起きたのか理解した。

「ロザリー⋯⋯」

俺は涙こぼれ落ちた手のひらを握りしめて慟哭をこのリグレーヌ平原に轟かせる。


「あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”」


声を出しきると全身の力が抜けていくかのように両膝が崩れ落ちた。

俺を取り囲む帝国兵たちは獲物がくたばるのを待つハイエナのようにジリジリと距離を詰めてくる。

すると帝国兵を蹴散らしてひとりのラガン兵が馬に乗って現れた。

鎧の胸についているマークからクレイス隊の兵士だと気づいた。

ラガン兵は馬を降りて、風呂敷に包んだ荷物を俺の目の前に置いた。

「ハルト様! ロザリー様から託されたものをお持ちしました」

すぐさま結んであった風呂敷を解くとアームズ族の武器、(セレス)弓矢(ライル)(オッド)が出てきた。

「⁉︎ 」

これは“戦え”というロザリーさんからの最期のメッセージだ。

俺は(セレス)から手に取った。

力を込めてひっぱてみるがやはり鞘から引き抜けない。

まるで強力な磁石でくっついているかのようだ。

イリスも俺がイメージを送り込んだら変身した。だったらこいつもーー

頭でイメージ強く描きながら力いっぱい(セレス)を鞘から引っぱる。

「いつまでそうやって塞ぎ込んでいるつもりだ。そろそろ戦えーッ」

すると(セレス)は青く輝きながら日本刀の姿となって鞘から引き抜けた。

輝く刀身を見上げながらゆっくりと立ち上がる。

「こいつなら戦える」

反撃開始だ。

ゲームもそうだがこの異世界で主流になっているのは西洋型の剣。

叩きつけてから押し斬ることを特徴としているから剣術の型も直線的なものが多い。

だから流れるような曲線を描く日本刀の剣さばきの前では何もできまい。

剣を振り上げてきた頃には腕が飛ぶ。首が飛ぶ。

俺の間合いに入ったら最後、四肢関節すべてが胴から切り離される。

血飛沫が舞い踊る様はもはや美しいとさえ感じる。


『なんなんだあの者は⁉︎』


繰り広げられる凄惨な光景にようやくこの武器の恐ろしさに気づいたのか

俺を目の前にして逃げ出す帝国兵がではじめる。

それでも命知らずはいる。

「くたばれぇ! 悪魔ーッ!」

「黙れ」

剣を高く振り上げた帝国兵の口にハンドガンの銃口を突っ込む。

「俺はめちゃくちゃ機嫌が悪いんだ」

と、睨みつけながら引き金を引く。

乾いた音を轟かせながら帝国兵のうなじから血液が噴き出す。

これは弓矢(ライル)にイメージを送り込んで作り出したものだ。

未知の武器による未知の攻撃に俺を取り囲む帝国兵たちの動きがピタリと止まる。

一瞬で本能がこの武器はヤバイって察したんだろう。

そう泣きそうな顔するなよ。

正解だ。

「そこをどけぇー!」

俺は銃声を鳴らし続ける。


***

「バカな近代兵器だと!」

ユークスが肉眼で捉えられる距離まで右条晴人が迫る。

「まさか大量破壊兵器まであるのか?」

脅威を感じたガルザ公爵はすぐさまユークスに進言する。

「皇帝陛下、ここはいったん陣をお下げください」

「ならん! 相手はまだひとりだ」

右条晴人が新たに装備したシールドからウィップが射出される。

蛇のようにしなやかに帝国兵たちに絡みつくと電撃が放たれる。

想像を超える右条晴人の攻撃に、ユークスの顔が「くっ」と、苦虫噛み締めたように歪む。


***

右条晴人視点

この異世界で冒険者として過ごしていきたい。

それが俺の進路希望だ。

ロザリーさんに小言を言われながらクエストに出かけてダンジョンで出くわしたドラゴン相手に

俺たちのパーティーは戦うんだ。

シルカのサポート受けつつ前衛のルーリオが斬り込む。

ドラゴンの注意がそれたところを後衛の俺がイリスが変身したメイスを叩きつけてダメージを与える。

ドラゴンが怯んだところを月野木のレイピアが放つ連撃で仕留める。

陸上部の速さを活かした月野木の連撃は“ファンタルスフレイム”時代から冴えていた。

笑顔で俺に手を差し伸べてくる月野木の格好がなんだか懐かしい。

その姿は“ファンタルスフレイム”で使っていたアバターのまんまじゃないか⋯⋯


「俺は月野木天音が笑って暮らせる世界を作りたいんだ」


***

いつのまにか空を覆っていた鉛色の雲はどいて太陽の光が平原に射し込んでくる。

雲間に現れた青空から光の矢が雨のように降り注がれる。

轟音を打ち鳴らし、平原には土煙が立ち昇る。

その光景にユークスの顔に不敵な笑みが戻る。

「姉上か!」

次第に土煙が晴れてくると、スマホを耳に当てながら日本刀を杖にして立ち上がろうとしている

右条晴人の姿があった。

体中のあちこちに穴が空いて生きているのが不思議なくらいだ。

防具はところどころ壊れて役割をなしていない。

血まみれであってもなお戦おうとする右条晴人にユークスの顔が生まれて初めて恐怖で引きつる。

それは御子乃木小夜子(みこのぎ さよこ)だった前世ですら経験したことのない感覚だ。

もはや理性を失くしている晴人は目の前にいる帝国兵を片っ端から斬って暴れる。


「誰か止めろ!その者を止めろ!」


ユークスが叫ぶ。

すると意を決した帝国兵が晴人の腹部に左右と背後の3方向から槍を突き刺した。

振り上げた日本刀をゆっくりと下ろし、力なく項垂れ顔を沈める晴人。

右条晴人は停止したーー


「天晴れだ右条晴人! 君を讃えよう! 」

深呼吸をして落ち着きを取り戻したユークスは高らかに宣言する。

「我らの勝利だ。勝鬨をあげよッ!」


『オーッ!』


リグレーヌ平原に割れんばかりの歓声が響いた。


つづく



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