第61話「転生」
い、いま、皇帝って言ったよな?
ってか、その前に日本人って⋯⋯
ベッドの上にちょこりんと座っていた男の子に俺たちはのっけから驚かされた。
「警戒するなよ。詠凛学園の後輩」
「なッ⁉︎」
「仲間のところへ戻るところなんだろう? 」
いったいなんなんだこのガキ⋯⋯
「僕も驚いたよ。姉上のところに皇帝即位の挨拶に行ったら見慣れた制服の子たちがいてね」
「お前まさか⁉︎ 御子乃木小夜子か?」
「そう言う君は咲田君か?」
みこのぎ⁉︎ って、学校の屋上から突然飛び降りたあの生徒会長⁉︎
そうだ! 一緒にいた咲田副会長はそれを止めようとして巻き込まれて⋯⋯
それに陽宝院と月野木が異例の1年の途中から生徒会長と副会長をやることになったのは
2人の死亡事件があったからだ。
御子乃木小夜子ーー
その独特な名前もさることながら、廊下を歩けば振り向かない人なんていない。
読モをやっていないことの方がおかしいとまで言われた容姿に全国トップレベルの頭脳を持った完璧超人。
そして他を寄せ付けない圧倒的な得票数で生徒会長にも選ばれた。
だけど、華やかさとは裏腹に“神様はいる”といった荒唐無稽な発言や真夜中の学校に忍び込んで
“神様を召喚するため”と称した謎の文字と幾何学模様を校庭に描くといった奇行でも注目を集めていた。
そうして起こったのが屋上での事件だった。
***
1年前ーー
ドアノブに”立ち入り禁止“の札が吊るさげられていて
通常は立ち入ることが許されない学校の屋上に御子乃木小夜子と咲田幸太郎の姿があった。
「会長、今度は何がしたいんだ? 鍵まで壊してこんなところに入るなんて教師に見つかったら今度こそヤバイぞあんた」
「私は神様になる!」
「は?」
御子乃木小夜子は咲田幸太郎の目の前で髪をかきあげながら上半身を大きく仰け反らせて天を仰ぎ見る独特なポーズをとった。
「止めてくれるな咲田君。こことは別の世界が私を呼んでいるんだ。私に神になれと」
「バカげたこと言っていないで戻るぞ」
「さらばだ咲田君」
そう言って御子乃木小夜子が老朽化したフェンスに手を触れると、フェンスが外れて彼女の身体ごと落下する。
咲田幸太郎は彼女を救おうと咄嗟に飛び降りた。
その数秒後、凄まじい衝撃音が授業中の校舎に響くーー
***
ユークス視点
私が最後に目にした光景はお人好しが一緒に飛び降りてきた姿。
そして体を張って守ろうとしていたのか私を抱きしめたのだ。
愚かなことをーー
気がつくと西洋風の綺麗な女性に抱きかかえられていた。
頭がボーッとしていてすぐには状況を理解できなかったが、
そばにおいてあった銀食器に映る自分の姿を見てすべてを理解した。
母胎から出てきたばかりの赤ん坊の自分。
そうだ。転生に成功したんだ。私を求めているこの異世界にやってきたんだと。
***
「そしたら股の間にこんな控えめな短剣がぶら下がっていたがね」
ユークスは転生してからの経緯を俺たちに語りつつおもむろにローブの裾を捲り上げた。
憎いくらい爽やかだったレオンの表情がキツくなる。
「相変わらず下品だな。御子乃木」
「この異世界にやってきて4年。幼児のフリをし続けるのはつらかったよ。
なんせ前世の記憶があるっておじいさまに知れたら叔父上やネルフェネスのように
消されていたかも知れないからね。彼は神になるという大望を邪魔するものには誰であろうと容赦はしなかった」
なんなんだ⋯⋯こんな小さな身体からあの皇帝と同じオーラが漂ってくる。
まるで攻撃されているような畏怖さえ感じるこのオーラ⋯⋯
「だけどおじいさまでは遅かった。いや、そもそもなれる運命ではなかった。
なぜならこの僕こそがプリミティスプライムになるために生まれた唯一の存在なんだから。
右条晴人君と言ったね。君はルーリオという男をディオール神にしようとしているんだろ?」
「ああ、そうだ。この世界を治めるのはディオールであるべきなんだ」
「君とは幾晩と議論しても平行線のままだろうから、近く相まみえるはずの戦場で決着をつけよう」
「う⋯⋯」
どうして俺がこんな4歳児に気圧されているんだ。
「ああ⋯⋯覚悟しておけ」
「それにしても僕は4年、咲田君は20年、そして君との時間軸では1年。咲田君とは一緒に死んだはずなのにどうしてこうも
時間差があるんだ⋯⋯謎だ」
たしかに謎だ。レオン・ハイストン (咲田先輩)に会ったときから引っかかっていた。俺たちの時間軸のズレに何か意味があるのか?
日本に戻れるヒントになったりしないのか?
「そうだ!」
ユークス皇帝が手を叩いて声をあげた。
前世ではありえないほどの天才だ。何か分かったのか?
「寝よう!」
思わず肩ががっくりした。
「冗談を言う場面じゃないぞ。御子乃木」
「疲れた頭で考えても答えはでない。だったらリフレッシュして考え直すのが一番だ。
あと、寝ている間に僕にいたずらするなよ。これでも中身はまだ乙女なんだ」
「するかよ。てかその姿で上目遣いやめろ。顔を紅くするな」
2人のやりとりを見ていると前世での関係性がうかがえる。
「あと寝ている間に殺そうたって無駄だよ。部屋の外には護衛がいる。天井にもね」
「わかってるよ。殺すならちゃんとした戦場でだ」
「ならよろしい」
***
一睡もできなかった。
いや、できるはずがない。灯を消したら護衛たちが入ってきて、ベットの傍からずっと俺たちに剣先を突きつけているんだ。
こんな恐怖体験味わったことがない。
早朝、俺とレオンはすぐに出立した。
馬を借りて急ぐ。
侮っていた。ラスボスと恐れていた先帝が亡くなって帝国は完全に死に体になったと思っていた。
だが、そうじゃなかった。
もっと恐ろしいものに進化していた。
帝国領になったダルウェイルがユークス、ルーリオどちらにつくかによって戦況が大きく変わる。
ユークスもそれが分かっていてダルウェイルに行ったに違いない。
だけど俺たちのチート能力の存在は知らないはず。
思わず顔が緩んだ。
“勝算はまだある”
つづく




