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異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第5章 右条晴人とクライム・ディオールの伝説

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第58話「飾られた神様」

目を開けると幌を継ぎはぎしてできた天井が視界に入ってきた。


”ここは⋯⋯”


朦朧とした頭の中で記憶を辿ってみてはいるけど、なかなかこの部屋にまで結び付かない。

唯一、幌に点々と空いた穴から差し込む光だけが、今が朝なんだということを教えてくれている。

すると、男の子が僕の顔を覗き込んできた。


「かあちゃーん! いきだおれが起きたよー」


突然、大声を出す男の子に思わず上体を起こすと胸のあたりに激痛が走る。

見やると僕の上半身にはグルグルと包帯が巻かれていた。

「これは⋯⋯」

痛みがするあたりに手を当てた瞬間、頭の中に兄弟子ファルドから攻撃を受けた光景がよみがえった。

兄弟子が鞘の中から剣をわずかに引き抜いた瞬間、衝撃波が刃となって僕に迫ってきた。

気がつけば生暖かい血が僕の中から噴き出した状態で体が宙に浮いていた。


「ルーリオッ!」


ハルトが僕の名前を叫ぶ声が聞こえてきたのを最後に記憶が途切れたーー


「バラト、静かにしなさい」と、女性が奥から出てくる。

「⋯⋯」

僕より5つは歳上だろうか? はっと目を引く大人の女性に言葉が出てこなくなってしまった。

「自分で起き上がれるようなら大丈夫そうね。 これから食べれそうなもの持ってくるわ」

「あの⋯⋯」

「いきだおれは崖の下で倒れていたんだ」

「え?」

僕が尋ねたかったことを男の子が答えてくれた。

見た目は7歳くらいなのに僕よりしっかりしていそうだ。

「それをオレが見つけて、かあちゃんと(ここ)まで運んだんだ」

「じゃあこの手当は」

「かあちゃんだよ。ひどいケガをしていたんだ」

「よしなさい、バラト」

「「⁉︎」」

「ごめんなさい。起きたばかりなのに騒がしくして」

「いいえ。大丈夫です。僕の方こそごめんなさい。手当までしてもらって」

「いいのよ別に。放っておく方が寝覚め悪いから」

「ああ⋯⋯」

「ところでいきだおれはどこから来たの?」

「ハハハ⋯⋯せめてお兄さんって呼んでくれないかな」

「ヤダ」

「ダメなの⋯⋯」

なんだか苦笑いしかでない⋯⋯

「バラト、お兄さんはケガがまだ痛いからちょっかい出しちゃダメよ」

「えー」

「あなたもおとなしくしてて、結構高い崖から落ちたみたいだから」

「⁉︎ ⋯⋯」

「この子はバラトっていうの。さっきから迷惑かけちゃっているけど、大人の男の人がめずらしいだけだから大目にみて」

「かまいません」

「ありがとう。私はレーナよ。この子の母親」

「僕はルー⋯⋯」

「あとでいいわ。先に食事用意してくるから」

「あ⋯⋯はい」


***

レーナさんが食事を用意してくれている間、バラトがずっと僕を発見してから

目を覚ますまでの間のことを身振り手振り交えながら話してくれている。

彼なりに僕の面倒を見ていてくれているんだろう。


「おまたせ」


レーナさんはスープを作ってくれた。

口にするととてもおいしくて、回復魔法が無くてもこのスープだけで傷が癒えそうなくらいだ。

しかしーー

レーナさんとバラトも同じスープを食べている。だけどその量は僕よりもはるかに少ない。

2人が暮らしているこの家も幌を継ぎはぎして作った簡単なもの。

このスープもブツ切りにしたジャガイモが2、3個入っているだけとささやかだ。

お世辞にも裕福とは言えない。

「あの⋯⋯僕がこんなに食べてしまって大丈夫ですか?」

「かまわないよ。あんたはケガ人なんだから食べないとね」

「だけど、バラトはまだ小さいし⋯⋯」

「オレは平気だよ。だってオレはかあちゃんやいきだおれを守れるくらい強いんだから」


***

結局、この母子は朝の1回しか食事をとらなかった。

なのに僕は朝と晩の2回もいただいた。

そして今も僕がベッドを占領して、2人は地面に雑魚寝している⋯⋯

「いつまでも厄介になるわけにいかないか⋯⋯」


***

1日経って自力で歩けるようになるまでに回復した。

「あんな大ケガだったのに治るのが早いのね」

「治癒力が他人より高いんです」

これも師匠から預かった紋章のおかげだ。これのおかげで死なずに済んだのは間違いない。

それに早く回復しないとこの母子の負担が大きくなる。

「いきだおれ! 歩けるなら外に行こう。オレが村を案内してあげる」

はやる気持ちを抑えらないバラトは、僕の手を引っ張りながらねだる。

「バラト、お兄さんを困らせない」

「かまいません。せっかくなんで散歩させてください」

「だけどまだ痛みがあるんじゃないのかい?」

バラトなりにもてなしをしようとしてくれているんだ。それなら応えないと。

「大丈夫ですよ。行こうバラト」


***

表に出てはじめてわかった。

周囲にはバラトの家と同じように幌や廃材をかき集めてできた家が立ち並んでいる。

ここはクエッジャの渓谷の狭間にできた難民キャンプ地だ。

バラトは普段、子供が獣道のように使っている狭い路地を通りながら村の案内をしてくれている。

「僕にはここは厳しいかな⋯⋯」

「いきだおれ! はやくはやくこっちこっち!」

「待ってよ。お尻が引っかかっちゃって」

「次はお父ちゃんに会いに行くんだ」

「え?」


***

バラトのお父さんがいるんだったらちゃんとお礼を言わないと。

“昨日はレーナさんと息子さんにお世話になりました”って。

ここは奥様の方がいいのかな?

大人がする挨拶って難しいから緊張するな。

こんなことハルトに相談したら絶対笑うよな。

“神様がなに挨拶で緊張しているんだ”って。

だけど、どうしてお父さんに会うってなったら急にうしろめたさを感じるんだろうか。

さっきからレーナさんの顔がチラつくし⋯⋯

「お父ちゃんだよ!」

「あの! は⋯⋯」

バラトが指をさした相手は流木を立てて作った墓標だった。

「お父ちゃん。いきだおれを連れてきたよ」

「あの、コレって⋯⋯」

「お父ちゃんだよ。お父ちゃんはオレが記憶にないときに死んだんだよ。戦争で」

「え?」

気づけば同じような墓標が無造作にたくさん立てらていた。

ここは墓地だーー


***

無邪気なように見えて、とても気を使っていてくれたみたいで、家に帰るなり

バラトは疲れてすぐに寝てしまった。

それもレーナさんの膝枕ですごく気持ち良さそうに寝ている。

“おもてなしありがとう。バラト”

だけどレーナさんの虚げな表情を見ているとどうしても聞かずにはいられなかった。

「旦那さん⋯⋯亡くなっていたんですね」

「バラトはそんなところまで連れて行ったのね」

「あの戦争って⋯⋯」

「貧しいところだったでしょ?」

「え? ⋯⋯はい」

「戦争のせいよ。クエッジャはいくつもの国が接した場所にあるから頻繁に取り合いが起こるのよ。

それで何度領主が変わったことか。その度、住むところを失って、大事な家族を亡くして、お金もなくなって、やがて流れ着いたこの場所に住み着くようになった。

いつしかみんな、雨風さえしのげればいい。生きてさえすればいいって思うようになってこんなテントみたいな家で暮らすようになったわ。

戦争のせいで気づいたら心まで貧しくなっていた。

なんとかディオールって神様か知らないけどさ。街に行ったら帝国から解放してもらえるなんて話題で盛り上がっていたけど、そのために戦争が起こるんじゃただの迷惑だわ。次は誰が犠牲になるのかしら? バラトには死んで欲しくない。私だけが生き残るなんて嫌よ。

もう大切なものを失いたくない。きっとバラトも同じに思っている」

そんな⋯⋯

気づけば握った拳が震えていた。

「⋯⋯ルーリオ」

「え?」

「ルーリオ・ディオールーー それが僕の名前です⋯⋯」

「⁉︎ じゃあ⋯⋯」

「ごめんなさい! 僕がなんの覚悟もないまま、ここまでやって来てしまって」

僕には地面に頭を擦り付けて謝ることしかできない。

「ええ⋯⋯」

戸惑うレーナさんを他所に僕は続けた。

「僕のせいでクエッジャは再び戦場になる。

僕が与えられた役割りは師匠から託された神様を演じること。

戦争のことなんて全くわからない。僕はまだ師匠から教わることの多い未熟な冒険者なんだ。

だけど、僕のために集まってくれた貴族の人たちを失望させるわけにいかなかった。

みんなは僕を通して師匠の姿を見ている。だからみんなの期待に応えられる神様じゃないと師匠のことまでがっかりされてしまう。次はどこと戦争して欲しい。次はどこと。何が正解かわからなくても、期待に応えられるなら求められたことには意に沿って決断してきた。

僕自身もそれが苦しんでいる人たちを救うことになるならと自分を奮い立たせていた。だけど違った。バラトに教えらてはじめてわかった。僕たちが戦えば戦うほど、救われる人より犠牲になる人の方が多い⋯⋯そんなことも知らずに僕は戦争をはじめてしまったんだ」

泣きながら謝る僕をレーナさんはそっと抱きしめてくれた。

「いいのよ。ルーリオ」

「ーーだけど、クエッジャは⋯⋯」

「わかってた。ルーリオが戦う人だって。なんせ剣を身につけて倒れていたんだから。

旦那もそうだった。誰よりも臆病なクセに戦えるのは自分しか残っていないからって自分を追い詰めながら戦ってた。

そっくりだよ。本当はあなたも戦いたくないんでしょ?」

頭を優しく撫でるようにしてレーナさんは僕の顔を見つめる。

「神様ってこんなに優しい顔をしていたんだね」

どうしてだろう⋯⋯レーナさんの潤んだ瞳に吸い込まれていくような感覚がする。

自然と指が絡みついて、お互いの息が顔にかかるほどに顔が近づいている。

そしてレーナさんからもたれかかるようにして2人の身体を重ね合わせたーー


***

「いかにも場末の酒場といった感じだな」

ファルドがドアを開けて入った酒場は、テーブル席が2つ、カウンター席がメインの狭い店舗だ。

「探したぞレーナ。こんなところで働いていたんだな」

「ファルド⁉︎」

「シルヴァは死んだんだってな?」

「野放者が何しにクエッジャに帰って来たの?」

「つれないな。かつてひとりの女を取り合った男の墓に花を手向けに来たんだ」

「よして、迷惑だわ」

「こう見えても主人から男爵の地位を貰えることになったんでな。

領地もくれるそうなんだが⋯⋯どうだ? 俺についてこないか。楽をさせてやる」

「けっこうよ」

「ガキだっているんだろう? まとめて面倒を見てやる」

「ここを捨てたあなたと違って、私は生まれ育ったクエッジャが好きなの。それに旦那が眠っているこの地から離れたくない」

「わかったぜ。口説き落ちるまで何度も来てやる。じゃあな」

ファルドは見せつけるように金貨が詰まった袋をカウンターに置いて店から立ち去った。


***

「相変わらず見すぼらしいところだな」

ファルドは難民キャンプ地を眼下に見下ろす。

「レーナ、お前を連れ出してやるよ。こんな掃き溜めのようなところから」

ファルドは何軒か聞き回り、1時間ほどでレーナたちの住む家を見つけた。

物陰に潜んで家の方を覗き込むと、庭先で男物の洗濯物を干すレーナの姿がある。

レーナの周りをはしゃぎながら駆け回る男の子の姿にファルドが目を細めていると、

男の子が「いきだおれー!」と、叫びながら駆け寄っていった先を見て驚く。

「⁉︎」

そこには椅子に座ってくつろいでいるルーリオの姿。

そこにレーナもやってきて仲睦まじく談笑している光景に、

ファルドは憤りが込み上げてくる。

「あのガキ⋯⋯」




つづく








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