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異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第5章 右条晴人とクライム・ディオールの伝説

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第54話「叛逆の狼煙」

俺とイリス、ルーリオ、シルカ、ロザリーさんの5人は、領主であるラガンさんの屋敷に匿われた。

凍てつく身体に、貸してくれた毛布とスープの暖かさが沁みる。

脇にあるベッドに目をやると傷を負ったロザリーさんが横たわっている。

どうやらギルドの冒険者で生き残ったのは俺たちだけらしい⋯⋯

「どうしてなんだッ!」

悔しさで手にしている鉄製のマグカップを握りつぶせそうだ。


あとでわかったことがある。

イリスとはじめて出会ったあの日、俺たちが倒した盗賊の正体は

フェンリファルト帝国の第二皇子ディノス・ウルム・ガルシャードだった。

そして子分の盗賊たちもまた帝国選りすぐりの騎士たちだったそうだ。

シルカが手練れと評していたのも納得できる。

それにアームズ族の村を守っていた弓矢(ライル)(オッド)(セレス)の所有者たちがあっさりと殺されたのにも説明がつく。

彼らもまさか労をねぎらうかのようにして顔を出した主君が、家臣である自分たちを殺そうとしているなんて思ってもみなかったはずだ。

おそらく規律正しく挨拶をしている最中にでも、背後から盗賊を装った皇子の家来たちに撫で斬りにされたんだと想像がつく。



数週間前ーー

小さな村を狙う盗賊の情報がギルドに相次いでいた。

俺たちは襲われた村の惨状を目の当たりにして心の底から怒りが込み上げたのを覚えている。

盗賊は逃げ惑う村人たちをまるでゲームを楽しむかのように追い回したあげく惨殺。中には壊れるまで弄ばれた女性もいた。

ギルドには盗賊のアジトに関する情報も紛れ込んでいた。

ネルフェネスさんはキナ臭いと違和感を感じて俺たちを止めたけど、どうしても盗賊たちへの怒りが抑えられなかった俺は

ルーリオ、シルカを無理矢理連れて情報にあった場所へ向かった。

結果は当たりだった。

かなり危なかったけど、こうしてイリスも救い出せた。

ラガンさんの話によれば、ディノス皇子は武勇に優れていて、果敢に敵国へ攻めていく姿勢から、貴族たちの間では次期皇帝にと期待する声が高まっていた。

だけど盗賊を装ってまで村を襲う人狩りにのめり込んでいたため、皇帝は相応しくないとして、ディノス皇子を自身の後継には据えたくなかったそうだ。

それをおもしろく思うはずがなかったディノス皇子は、聖剣を手に入れて皇帝の座を奪おうとしていた。


『帝国はこの先、私たちをひっそりとしては置かないだろうね』


ネルフェネスさんの『ひっそりとしては置かない』という言葉が頭を過ぎる。

皇帝は、俺たち冒険者にディノス皇子を、盗賊だと思い込ませて退治させることでネルフェネスさんを皇子殺しの首謀者に仕立て上げた。

そうなればネルフェネスさんを支持している貴族たちを抑え込むことができる。

それはディノス皇子を支持している貴族たちもだ。

クーデターを起こそうとしていた皇子が立ち上がる前に殺されてしまったのだから。


ネルフェネスさんの忠告はいつも当たっていた。それなのに俺は冒険者に夢中になるあまり

その忠告も無視してどんどん危険なところに進んでいった。

その結果としてダンジョンで危うく死に掛けたし、皇帝が仕掛けた罠にも気付かずに飛び込んでいって、それで大事な家族を失ったーー

「俺が無茶したせいでネルフェネスさんとネウラさんを⋯⋯」

「違う。ネルフェネスとネウラは嬉しかった。ハルトたちは無茶して大きくなる。だからいっつも笑って褒めてくれてた」

小っちゃいはずのイリスがこのときは大きく見えた。

「そうだったな⋯⋯イリスごめん。だからもう一回無茶をさせてくれないか」


***

大きな花火が打ち上がり、フェンリファルト帝国の帝都では胸くそ悪いことに、

ネルフェネスさんの死を祝う祭りが催されていて大いに賑わっていた。

この僅かな期間で、帝国民の間にネルフェネスさんが国家を転覆させようとした大罪人という認識が広まっていた。

俺とイリスとロザリーさんは、怒りを堪えながらローブのフードを目深に被って、大勢の人たちが行き交う大通りを進んだ。

目的地の教会に辿り着くと、皇帝が教会の信徒たちを従えて集まった民衆を前に高らかと演説を行なっている。

語られているのは亜人に対する偏見と差別、そして純粋種たる人類こそが至高だというおごりだった。

「長い耳に鋭い牙、獣の頭部を持った卑しき種族がまだこの世界に蔓延っておる。

愚かなことにウェルス王国などの敵国はそのような者たちと結託しこのフェンリファルト帝国に刃向かおうとしている。

だが、案ずることはない。愛しき我が帝国民たちよ。前を見よ! 儂に刮目せよ!

ここに宣言しよう!我はここに神“プリミティスプライム”として顕現したり!

皆の目の前に立っている儂こそが神だ。150年の時を経てここに降臨した。

皆の力で亜人を排し、純粋種たる我ら人類だけの世界をつくるのだ」

ギャラリーから割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。

思わず耳を押さえたくなるほどの大きさだ。

だけど動じている場合じゃない。俺はこの空気に水を差さなくちゃいけない。


「皇帝は偽りの神だーッ!」


こんなの陰キャが出すような声の大きさじゃないな。

一回で喉が悲鳴をあげている。

だけど狙い通り、教会内の視線が一気に俺に集まる。

俺ははっきり言って全校集会で全校生徒たちの注目を浴びたいようなお調子者じゃない。

メンタルが一瞬にしてやられそうになった。

あいつらってよくこんなダメージ受けても平気でいられるよな。

今ままでバカにして見てたけど、今はとても尊敬してるぜ。

これから俺がやろうとしていることは全校生徒の前で校長先生をディスる異世界バージョンだ。

だけどこっちの場合は命がけだ。

なんせ止めに入る教員たちが全員、剣を持った騎士たちだからな。

ほら、さっそく「なんだあの無礼者は」なんて言ってこっちに向かって来ている。

そして主役の校長先生⋯⋯いや、皇帝陛下はというと、相変わらず凄まじいオーラで俺を攻撃して来やがる。

それでも俺は手の甲を見せつけるようにゆっくりと右腕を突き上げた。

「皇帝の身体には紋章はあるか?」

皇帝の顔色が変わった。やはり食いついて来たか。

「俺はこことは違う別の世界からやってきた人類種だ。皇帝だったらこれがどういう意味かわかるよな?

だけどまだ驚くな。俺の他にもこの世界にやってきた奴らが36人いる。そいつら全員にもこの紋章がある。

さすがにもうわかったよな皇帝! プリミティスプライムは俺を含めたその37人の中にいる!」

「小僧⋯⋯ネルフェネスと一緒におった奴だな」

「あんなに一瞬だったのに覚えていてくれたんですね。ちょっとうれしい。なんてね」

「ならばおもしろい。お前とその残りの36人を殺してその力を集めよう。それで儂が“神”本来の力を取り戻すのだ」

「俺たちをアイテムにしたクエストってわけか。案外ノリがいいんだな皇帝。だけどな俺たちの紋章はすでに無価値だ。

ネルフェネスさんが死んだあのとき、この世界に真の神が生まれた。その神の名は“ルーリオ・ディオール” だ」

そう。あのときルーリオの左胸には紋章が輝いた。

「皇帝、神に逆らいし大罪人はアンタだ!」

「愚かな⋯⋯ディオールなどこの世界にあってはならぬ存在だ!」

「頃合いか⋯⋯」

騎士たちが人だかりを掻き分けて俺たちを取り囲む。

ロザリーさんがすぐさまネウラさんのスティックで大火炎魔法放った。

教会内は一気に騒然となる。

だけど長居は無用だ。

イリスが変身したメイスで2、3人倒して道を開けると、そこから一気に2人で脱出をはかった。


***

豪華な装飾があしらわれた一台の馬車が街道を走っている。

乗車している人物が書類に目を通していると、走行中にも関わらず

突然、左のドアが開く。

すると、馬車にしがみついた状態で抜き身の剣を手にしたシルカが現れる。

続けざまに右のドアが開き、そっちからはルーリオが姿を表す。

ルーリオとシルカは左右から同時に、乗車している人物に向かって剣を突き刺す。

馬車が過ぎ去るのと同時に道端の花に血飛沫がかかる。

この出来事が帝国に大きな衝撃を与えた。


***

教会では起きた騒動が治らない状況の中、血相をかいた騎士たちが皇帝のところへ駆け込んでくる。

「皇帝陛下!」

「取り逃がした小僧を見つけたか?」

「 一大事にございます。皇太子殿下が道中にて不逞の輩に襲われお命を落とされてございます」

「なんだとッ!」

側で聞いていた執事はめまいを起こしてその場にあった柱にもたれかかった。

「恐れながら陛下、皇太子殿下の若君であるユークス様はまだ4つでございます。ここはニュアル様しかおりません」

「ならぬッ! あの者には卑しき血が流れておる」

有力な後継者を相次いで失った皇帝は(よわい)90を越える。

それを受けて帝国を支える24の貴族たちと同盟を結ぶ国々の反応は様々だった。


***

ダルウェイル国の国王は書状を読みながら高らかに笑う。

「ハハハッフェンリファルトの皇太子が死んだぞッ! ざまぁみろあのクソジジイ。これで帝国の言いなる必要はない。

よいか! これよりウェルス王国と手を結ぶ。それからすぐにでもエルムの森を焼き払うぞ」

「しかし、あそこにはニュアル様が⋯⋯」

「かまわぬ。もはやあの小娘に人質の価値はない。やれ!」

「はッ!」


***

月野木天音視点

頭の上から落ちてきたクライム・ディオールの紋章は私の脳内にハルト君の記憶を流し込んだ。

そして私もこの先の出来事を強く思い出したーー


つづく











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