第48話「格下の魔王」
あれはクラス対抗球技大会のときだーー
俺たちのグループはバスケでの出場だった。
まだ途中だというのに試合は3ー20でボロ負けの状態⋯⋯
他の種目だとうちのクラスが上位を抑えているっていうのに、俺たちはこのままだと1回戦敗退。
おまけに俺たちのせいでクラスの目標だった総合優勝まで逃しちまう。マズい、もしそうなったら俺は恥ずかしくて教室に戻れねぇ。
こうなったのもすべて右条のヤツが悪い。
あいつがまったく使えないせいで、こっちはちっとも大会を楽しめていない。
肝心なところであいつがボールを回してこなくてしくじるし、
かと思えば、訳の分からないところで変なパスを回してくるからマジでイラッとする。
こんな調子で練習のときから一度も勝てたことがない。
高校生になって初の見せ場が右条のせいで台無しなんてありえねぇ。
たく、月野木もせっかくバックれていた右条を連れ戻してきやがって
こっちは鷲御門が代わりに入ってくれるのを期待していたのによ。
マジでこいつと同じチームにしたクラス委員を恨むぜ。
コートの外に目をやればギャラリーにクラスの奴らがたくさん集まっている。
みんな声援送ってくれているけど、これじゃあマズイな⋯
残り1分ーー
こうなったら特攻ダンクを決めて俺だけでも目立ってやる。
そうだ。一矢報いてやったところを見せつければ立つ瀬どころか、みんなが俺のことを英雄として暖かく迎えてくれるはずだ。
「おい、右条! 俺にパスをよこせ!」
ほら、最後くらい俺の役に立ってみせろ。
「⁉︎」
パスをよこすべき右条がとった行動に俺は目を疑った。
おい⋯⋯どうしてそこでお前がシュートの態勢になる?
おい、まさか⁉︎ おかしいだろ! どうしてお前がやけになってんだよ!
そこは3ポイントラインよりも外なんだぞ!入るわけがない。
シカトするな! ちょっと待て!
右条の手からボールが離れた瞬間、”終わった“と思った。
それは応援しているクラスのみんなも一緒だった。
「あー⋯⋯」
ギャラリーからため息の声が漏れてくる。
俺は下を向いた。見せ場すら作れなかった俺が、みんなにどう顔を向ければいいんだ。
胸には絶望が去来する。
⁉︎ 突然、場内の声が歓声に変わった。
俺は起きたことが飲み込めず放心状態となった。
信じられないことに放物線を描いたボールは吸い込まれるようにしてゴールへと入った。
試合終了のブザーがすぐに俺を我に返した。
それと同時に怒りが込み上げてきた。
「おい、右条!どうしてあそこで俺にパスを出さなかった⁉︎ 」
俺は右条に詰め寄った。
「意味不明なことしてんじゃねぇよ! 今のが入ってなかったら、お前のせいで俺たちが笑いものになるところだったんだぞ!」
こいつはもうただイジるだけじゃ俺のムシャクシャは治らねぇ。
ここで全部ぶちまけて、右条のこれまでの失態を大勢の前で晒してやる。
「あそこで稲葉にパスしたとして、ドリブルで1人抜いたあと、死角にいた5番にサイドから取られていた。
最後にどうしても一矢報いたいなら、あそこで俺がシュートを決めるしかなかった」
「はぁ? てめぇみたいなキャラが分かってる風に語ってんじゃねぇよ!」
相手クラスの奴らがヒソヒソと話しながらコートを離れていく。
「あいつ右条だろ?」
「うわ、マジかよ」
右条の奴、他クラスの奴からもウザがられているのかよ。マジでキモいな。
「ほら、小学生のときミニバスで全国に行ったってやつだろ?」
は?
「それでさっきの3ポイント⋯⋯」
「けど、もったいないな。高学年のとき途中でやめちゃったらしいぜ」
「は? なんでだよ」
「なんでもバスケより夢中になること見つけたんだってさ。つづけてたらもっと活躍できてたのにって同じチームだった奴が嘆いていた」
「にしてもあれはメンバーに恵まれていなかったな⋯⋯右条の的確なパスを読み取れるヤツがいないんだから」
さっきから何を言ってんだあいつら⋯⋯正気なのか?どうして俺たちの方が使えないみたいな言われ方されているんだ?
月野木や東坂、クラスのヤツらもどうして右条なんかに駆け寄っていくんだ⋯⋯
「よくがんばったねハルト君」
どうしてみんな、温かい目で右条を見るんだ。どうして俺をスルーする⋯⋯
どうして右条は俺をスカした目で見てきやがる。
***
「俺はもっと高く飛びたかったんだ⋯⋯」
俺はあと数センチ、ゴールに自分の手が届かなかった試合で自分の限界を知った。
だからか、画面の向こうで、リアルの身体よりも、もっとはやく動けて、もっと高く飛べる、そしてもっと自由に生きていける世界に夢中になった。
稲葉の攻撃を避けてジャンプした俺は遥か高いところから稲葉を見下ろした。
ああ、そういえばあのときもそんな顔してたな。稲葉の呆けた顔に思わず俺の顔がゆるんだ。
背中のグラビティキャノンを展開。
伸びてきたアームを脇に挟み、長い砲身を両腕で抱えてスタンバイ完了。
砲門に粒子状のエネルギーがジワジワと収束していく。
その間、稲葉は崩れた体勢を起こそうと失った脚の再生に必死になっている。
「どしてだ⁉︎ どうして身体が再生しないんだ⁉︎」
混乱する稲葉の顔が突然、ハッとした表情に変わった。
あの日、阿久津たちとで、俺を殺そうとしたときの記憶と一緒に
俺の能力が他の紋章の能力を無効化することを思い出したようだ。
しかし、グラビティキャノンのチャージは完了した。
ついでに左眼に装着したアイパッチ型のターゲットスコープも目標をロックオン。
用意はできた。トリガーを引いて、砲門から光線を放つーー
一直線に伸びた光線はレーザーカッターの如く、稲葉のサソリ型の胴体を斜めに真っ二つにした。
「ぐあああああッ!」
稲葉が激痛で顔を歪めているところへ、間髪入れずに次の攻撃に出る。
「イリス待たせたな」
背中に装備したメイスを取り出して、稲葉の頭上めがけて一気に降下する。
稲葉もさすがに反撃に出てきた。
稲葉は体毛を毒針にして乱射してくる。
抵抗を試みたんだろうが針は俺の身体に触れる直前で消滅する。
悪いが俺には効かない。
「クラス対抗球技大会のときもそうだったな。お前はゲーム全体の流れを見ずに、自分が目立つためのパスばかり求めてきた。だから勝てなかったんだ」
***
なんだその目は右条⋯⋯まさかそいつで俺の頭を潰す気なんじゃないだろうな?
やめろ⋯⋯やめろ⋯⋯
は? さっきからなんで俺が涙流しているんだよ。
ちゃんとつるむ仲間もいて、女子との絡みもある俺が、
クラスでイジられている奴より格下だったなんてどういう冗談だよ。
どうして俺がお前なんかに殺されなきゃいけないんだ!
***
「やめろーッ!」
稲葉君の悲鳴がこだました瞬間、見上げると、魔王クライム・ディオールは大型のメイスで稲葉君の頭部を粉砕した。
そしてさっきまで稲葉くんだった血と肉片が雨となって私たちに降り注がれる。
意識を取り戻した陽宝院君はたどたどしく口を開く。
「まさか、魔王に救われるとはね⋯⋯」
「そんなつもりはない」と、魔王クライム・ディオールは取り出したピストルの銃口を陽宝院君に向ける。
私は咄嗟に両手を広げて陽宝院君を庇う素ぶりを見せた。
自分でもこんな大胆な行動が出来るようになったんだと驚きだ。
「今からここを魔王城とする。出て行け」
まるで示し合わせたかのようにオークたちが入ってくる。
「素直に従えば、今日のところは命まで取らない」
「クライム、やっぱりこの女に甘すぎ」
と、メイスの少女が怪訝そうな表情で私を睨んでくる。
「断るという選択肢は与えてくれないようだね」
「当然だ。もう一度言う、出て行け」
そして魔王クライム・ディオールの向けた銃口から発砲音が鳴り響いた。
***
ーー2日後
テント内で眠り続けていた紡木さんが目を覚ました。
ずっと手を握り続けていた椿君は、安堵したのか涙を流しながら顔をほころばせる。
私は2人の邪魔をしないようにとテントの外で控えていた。
「⁉︎ 右条君はどうなったの?」
「ウェルス王国は⋯⋯リグリット村を除くすべてが魔王の手に落ちました。僕らはこれからフェンリファルトに撤退します」
「! ちょっと待って、稲葉君と月野木さんはどうなったの?」
「稲葉君は魔王に倒されました」
「え?」
「そして7人会議は解散⋯⋯今、陽宝院君が魔王討伐のための軍を立て直しています」
紡木さんは目を丸くしたまま、言葉を失った。
無理も無い。起きてすぐに入ってきた情報量が多すぎるのだから。
私は静かにその場を離れた。
***
魔王城となったウェルスの王城を私はひとりで眺めている。
そこへあのメイスの少女が剣を手にしてやってくる。
「やっぱりあんたはクライムの邪魔になるーー」
私に対する敵意の目が以前より強くなっている。
「生かしておくわけにはいかない⋯⋯」
と、彼女は剣先を私に向けて言い放つ。
「ここでお前を始末する」
つづく




