第47話「剣王 女王陛下の守護神」
稲葉新一郎が旧ウェルス王国の王城に姿を現した。
謁見の間へと通された稲葉は、さっそく玉座に座る女王陛下 =ニュアル・ウルム・ガルシャードの目の前で跪く。
ニュアルの両脇に立っている鷲御門とギール・アウルスは稲葉を訝しむような表情で見つめる。
「用とはなんじゃ?」
「ニュアル女王陛下にお願いしたい義がございまして⋯⋯」
「ほう? 申してみよ」
稲葉の口元がニヤリと開いて白い歯を覗かせる。
「とりあえず死んでくれ⋯⋯」
稲葉の背後から飛び出してきたサソリ型の尻尾がニュアルに向かった襲いかかる。
すんでのところで間に入ってきた鷲御門が大剣で弾き返す。
「なんのマネだ。稲葉」
「ニュアルを殺して俺がウェルスの王になるんだ。どうせ7人会議に入れないなら王様にくらいしてくれないと割に合わねぇんだ」
「愚か者が⋯⋯」
稲葉は右腕にアリアドネの糸を収束させコーン状の武器を作って新たな攻撃に出る。
鷲御門は稲葉の攻撃を防ぎながら背後のニュアルを気にかける。
目を向けると、彼女は動じることなく玉座に腰を据えたまま、愚行に及ぶ稲葉を見据えている。
“さすがは女王と言うべきか、斯様な状況にあっても堂々としている。だが⋯⋯”
鷲御門はギールに目で合図を送り、応えたギールは素早くニュアルの手を取って玉座から連れ出す。
「させるかよ!」
それには稲葉もすぐさま気づいた。
「ハハハッ それで逃げているつもりかよ! 俺の目にはスローモーションに見えるぜ」
巨大化したサソリ型の尻尾が、2人が走る床を破壊するーー
ニュアルとギールは瓦礫と一緒に下の階層へと落下していく。
「女王陛下!」
2人の救出に行かせまいと、稲葉は背中から蜘蛛脚を生やしてスパイダーフォームとなってさらに攻撃を繰り出していく。
「陽宝院とウィギレスはどうした? お前はあの者たちから断罪を受けたはずだ」
「俺は陽宝院とやり合ったお陰で学習したんだ。攻撃は戦う前から仕掛けた方がいいってな!」
「何?」
「悪いがこの広間にはあらかじめ動きを鈍化させる毒を充満させておいた。
おかけでお前たちの動きがスローモーションのコマ送り映像を見ているようで楽しいぜ!」
同時に毒の影響を受けていた鷲御門たち3人は気づいていなかったが、喋るのも動作も全てがゆっくりになっている。
毒の影響を受けていない稲葉から見れば、まさしくスローモーションの映像だ。
***
稲葉は陽宝院との戦いで追い詰められた。
ライジングアーチェリーのリムが首筋に食い込んだ瞬間、壁に叩きつけられ、そのまま崩れた壁ごと隣の知事室に転がり込んだ。
稲葉に覆い被さった陽宝院はある提案をする。
「僕は7人会議が今のままの体制を維持していくのは難しいと考えている。
もともと7人は多いと思っていてね。紡木君も未だ眠ったままだ⋯⋯だから先を見据えた行動をしていかなくてはならない」
「何が言いたいんだ?」
「君にウェルス王国をあげよう」
「は?」
「これからは君と僕、2人でこの異世界を蹂躙していくんだ」
突拍子も無い提案に稲葉は言葉を失う。
「⋯⋯」
「それにはニュアルと鷲御門の存在が目障りだ。それも消したいほどにだ。君だったらもう分かるよね?」
陽宝院は稲葉の上に馬乗りになったままライジングアーチェリーを薙いだ。
一筋の閃光が稲葉の首の上を横切り、次第に稲葉の全身が黒い炭へと変わっていく。
そして原型を留めることなく崩れてしまう。
そこから1匹の小さな蜘蛛が這っていく。
***
稲葉は驚く。
「ならば体感の3倍の速さで動けばいい」
毒の影響下でありながら鷲御門が通常の速度を取り戻したのだ。
それどころかさらに加速して通常を上回る速度に達した。
“マジかよ⁉︎ 鷲御門が着ている黒釼の鎧は特殊な鉱物でできていてどんな鉄よりも硬く、それでいて布地より軽い特殊なアイテムだ。
だとしてもこの動きは有り得ない。こいつこそ人外のバケモンだ”
鷲御門は背中に発現させた大小7つの紋章の中からロングソード型の剣を取り出す。
“小回りの効く剣で振りを小さくして攻撃のスピードをさらに上げて来やがった”
焦る稲葉を追い詰めるように鷲御門は新たに蛇腹剣を紋章から取り出した。
鞭のようにしなる剣さばきが稲葉を翻弄する。
畳み掛けるように今度は連なった刃が分離して、ひとつひとつが短剣となって空中に浮遊する。
鷲御門は同時に複数の短剣を意のままに操れる。
短剣が矢のように四方から飛んできて、稲葉にダメージを与えてゆく。
稲葉がトリッキーに襲ってくる短剣に気を取られている隙に、鷲御門は懐に飛び込んできて喉を掻っ切る。
「ぐはッ」
怯んだところで、今度は黄金の剣=エクスカリバーを紋章から取り出す。
稲葉に反撃する隙を与えない。
エクスカリバーに黄金のオーラが収束していくーー
「ウルティメイズスラッシュ!」
鷲御門の一撃が稲葉を胴体から真っ二つに斬り裂いた。
稲葉の上半身が地面に転がる。
”チクショー、これが剣王の力⋯⋯ やはり陽宝院と鷲御門の紋章は特別なのか⋯⋯どんなにレベルを上げても俺はあの2人には勝てなというのか?
稲葉は悔し涙を流しながら拳を握る。
“認めたくない。俺だってお前たちと同じ上位の人間なんだ。
本来ならお前たちよりもずっと上に行ける存在なんだ。
証明してやる⋯⋯お前たちを倒して俺は!”
斬られた上半身の付け根部分から露出している肉片が沸き立ち、
まるで意思を持っているかのようにグニャグニャと動きながら形を変えていく。
そして見る見るうちに稲葉の下半身が巨大なサソリへと変わり、髪の毛が蛇となって、稲葉は完全体となる。
「ハハハッ!見たか俺の究極の姿を!これでお前もお終いだ!」
巨大なハサミが鷲御門の身体を挟む。
「しまった!」
徐々に閉まっていくハサミに黒釼の鎧はヒビを走らせてついに破断する。
鷲御門の胴体から血が滴り落ちる。
「こんなに弱かったんだな鷲御門。これが俺の強さだ」
「くッ⋯⋯」
「いつまでもあんな無能を担ぎ上げていた陽宝院も無様にちょん切られるお前も7人会議に相応しくない!俺こそが最強で、真の王だ!」
すると、1匹の火の鳥が飛んで来て、鷲御門を捕まえているハサミに被弾する。
強い爆発の衝撃で鷲御門は吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
朦朧とする意識の中、霞む視界にコツコツと靴音を鳴らしながらやってくる人物が写る。
「よう、遅かったじゃねぇか陽宝院」
陽宝院は「フッ」と、不敵な笑みをこぼす。
***
ニュアルは崩れ落ちた崖に上に座りながら、静かに待っていた。
「ニュアルちゃ〜ん」
そこへ手を振りながら、月野木天音たちウィギレスメンバーとディルク、ミレネラが駆けつける。
「遅かったではないか」
***
爆発で吹き飛んだ稲葉のハサミは徐々に再生していく。
「約束は果たしたぞ陽宝院。ニュアルは死に、鷲御門もこのザマだ。俺をここの王として認めるな?」
「ハハハッ」
声に出して笑う陽宝院。
「何が可笑しい⁉︎」
「僕は甘い言葉にたぶらかされて、平気で仲間を裏切るような奴は信用しない」
「どういうことだ陽宝院⁉︎ 騙したのか!」
「なんのことかね?君の勝手な解釈が起こしたことだろ」
稲葉はハッとする。自身が陽宝院の言葉に踊らされていたことに。
「おのれーッ!」
陽宝院は稲葉に向けてライジングアーチェリーを構える。
そこへ天音たちウィギレスメンバーも駆けつけてくる。
稲葉は東坂、あかね、葉賀雲の姿を見てさらに驚く。
「どうしてお前たちがここにいる? 2度と立てない身体にしてやったんだぞ」
天音が前に出て反論する。
「友が⋯⋯異世界の友が3人を治してくれたのよ」
稲葉が蜘蛛の姿となって逃走した直後、エルフのリルフィンが駆けつけてきて、負傷した3人を手当てしていた。
「ふざけるな!異世界人は俺たちの敵だ。相変わらず虫唾が走る奴らだ」
「女王陛下は?」と、陽宝院は天音に尋ねる。
「無事です。ディルクさんとミレネラさんが2人を安全なところまで逃しています」
“そうか仕留め損なったか⋯⋯やはり用済みだね。稲葉君”
ライジングアーチェリーに炎の渦が収束する。
手を離して放たれた火の鳥が再び、稲葉に被弾する。
“今度は甲殻の強度を上げておいたからダメージを最小限だ。
しかし、全力の陽宝院に勝てるのか?⋯⋯“
ニヤリと歯を覗かせて陽宝院は駆け出す。
ライジングアーチェリーのリムにオーラを纏い、次の攻撃を仕掛ける。
しかし、フラついてその場にしゃがみ込んでしまう。
「陽宝君⁉︎」
肩で息をはじめた陽宝院は、手の甲にできた傷を抑える。
そして吐血をはじめる。
「そうか!あのとき破れかぶれで出した攻撃が効いてきたか。アリアドネの糸が掠ったときに仕込んでおいた毒が
ようやく陽宝院の全身に回ったんだ」
陽宝院が抵抗ができなくなったとわかるやいなや稲葉は巨大なハサミで陽宝院を摘まみ上げる。
「いつもスカした顔で俺たちを見ていやがって、前から癪に触ってたんだ。なぁ、陽宝院。すぐには死にたくないだろ?
だからお前をじっくりなぶり殺してやるから喜べよ!」
「うッ⋯⋯」
すると一筋の閃光が走って左側のサソリ脚が切断される。
巨体が大勢を崩す。
「なんだ⁉︎」
頭上を見上げるとクライム・ディオールの姿がーー
右腕に盾と剣が一体となった武器が装備されている。
一撃目の攻撃を終えて刀身が180°回転して盾に収納される。
クライムの左肩にも盾が装備され、背中には収納されたバズーカ型の武器=グラビティキャノンとメイスが装備されている。
「手応えがありそうなバケモンじゃねぇか。今回は5人で行くぜ」
つづく




