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異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第3章 ハズレ領主月野木天音と異世界の民

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第34話「ハズレ領主たち」

鮮血が流れる二の腕の傷口が魔法のようにスッと消えてゆく。

「無茶しちゃダメよ」

心配するあかねに「大丈夫。回復だけは早いから」と答えて安心させる。

「でも、ものすごく痛かった。もう少し長くやってたら気絶してたかも」

「ほらぁー」

「葉賀雲君もありがとう。あのとき私がすばやく動けたのは葉賀雲君が影の中にいてくれたおかげだよね」

シャンデリアを飛び越えてご令嬢の喉元に剣先を突きつけるまでの一瞬の動きは明らかに私にできるものではなかった。

「すまない。見兼ねてしまった」

私の影から上半身だけ出している葉賀雲君は顔を紅くして再び影の中へと潜っていった。

「にしてもミレネラとかゆうご令嬢も気の毒よね」

見やると、床に手をついて打ちひしがれるご令嬢は、表情に悔しさを滲ませながら涙をこぼしている。


「やはり女に剣士は務まらないな」

「ドートス男爵もさぞお嘆きであろう」

「はやくどこぞに嫁に行くこといい」


周囲からはヒソヒソとご令嬢に対する失望の声が聞こえてくる。

ご令嬢は剣の才能に恵まれながらも、女というだけで正しく評価されて来なかったことがうかがい知れる。

もといた世界でもそうだ。古い価値観によって女性が苛まれることには憤りを覚える。

だけどこの世界にあってはその価値観は現在進行形ーー

悔しいが私にはそれを変えてあげるだけの力はない。

「ハンク子爵に啖呵切ったんだから急がないと」

後ろ髪を引かれる思いだけど、振り返ってその場を後にする。

「だけど天音って紫芝みたいなああいう子に粘着されるところあるよね」

「それってどういう意味⁉︎」



***

私はあかね、葉賀雲君、ミザードさんを伴ってハンク子爵が待つ謁見の間へとやってきた。

扉を開けて中へ入ると、玉座に踏ん反り返り不敵な笑みを浮かべているハンク子爵が待ちかねている。

「先ほどはお見事でした。ツキノキ殿」

「あれはあなたが仕組んだことですね。ハンク子爵」

「ハハハ⋯⋯いい余興になったでしょ」

「否定するおつもりはないと?」

「ええ。ミレネラには剣士として重用することを約束していたんですが、とんでもない期待ハズレでしたよ」

「期待ハズレなのはあなたです。ハンク子爵」

「なんだと?」

「女であっても剣士として認められたいミレネラさんの気持ちを弄び踏みにじった。あなたは領主失格です」

「剣すらまともに握れないお嬢さんに負けた奴を本気で雇おうする領主がどこにいるんだ! まぐれで勝ったからと調子に乗るな小娘。単刀直入に言おう。リグリットの村をおとなしくよこせ。今日はそのために呼んだんだ」

「実は私、リグリット村の領主をあなたにお譲りするためにやってきました」

「何⁉︎ どういうことだ」

「だけど今日会ってあなたがとんでもない期待ハズレだと分かりました。だからお断りします!」

「戦えもしない小娘が私をハズレと愚弄するか!」

「ハンク領とリグリット村がひとつになれば、戦争への備えもなくなって村人たちの生活も楽になる。

本当の意味の平和がやってくると希望を抱きました。だけど治める領主があなたであったならば平和なんてやってこない。だからあなたはハズレ領主です!」

感情が高ぶった。こんなに声を張り上げて人を非難するのはじめてだ。

「さすが天音。かっこいいよ」

「それでこそ我らが認めた領主様です」

あかねとミザードさんの言葉が私を勇気付ける。

前に進み出て私の両隣に立った2人がとても頼もしく見える。

「よいことを教えてやろう。まもなく王都より書状が届く。そこには私を司祭にするとあるはずだ。

どういう意味だか分かるな? ミザード」

ハンク子爵に睨まれたミザードさんは、わなわなと口を震わせながら狼狽した様子で後ずさりをはじめる。

「あなたが司祭⋯⋯まさかーー」

「口を慎め! 防人の民よ」

「どういうことなのミザードさん! 司祭ってなんなの?」

「司祭は年に一度、リグリット村の神殿で行われる祭事を取り仕切るお立場。これまでエルドルド伯爵が担ってきましたがウェルス王国では国王に次ぐ権威として崇められてきています」

「それって子爵が目当てにしていたっていう力のこと?」

「そうです⋯⋯」

「司祭であれば亜人どもを従わせることができる。なにせ奴らが崇拝する神の使いだからな。

これで村人もオークの襲来に怯えることはないぞ」

私の後ろにリグリット村の人たちがいて支えてくれているように感じた。

ガクガクとする身体の震えに耐えながら、彼らを守るように私は両手を広げて宣言する。

「それでもあなたには屈しません!司祭だろうと王様だろうとよい治世を行わない人にはリグリット村は渡しません」

「おとなしくミレネラに殺されていれば、手荒なマネをしなくて済んだものを⋯⋯

よいか村の周囲にはすでに2千の兵を配置してある。この城からあげた狼煙を各拠点へ伝番させていって1時間後には村を焼き尽くす手筈になっている」

私の頭を過ぎったのは武装した兵士たちが森の木々に潜んでその指示を今かと待ち構えている光景ーー

あかねはすぐさまスマホを手に取り東坂君に繋ぐ。


スマホの画面が“通話中”に切り替わりーー

『敵? そんな気配は全くないぞ』

「そんなはずはない! もっとよく探して東坂」


「お前たちが遠くのものと会話できる魔術を使うのは想定内だ。だが抗ったところで防人の民は司祭には逆らえない。それに私を愚弄しておいてここから生きて帰れるとは思わないことだな」

ハンク子爵が指を“パチン”と鳴らすと、両サイドの物陰から武装した兵士たちが出てくる。

「まかせて天音。こんなやつら私の能力で氷漬けに」

「よせ東堂」と、葉賀雲君が紋章を発光させるあかねを制止する。

「何よ⁉︎」

「よく見ろ。こいつら阿久津の能力で強化されている」

たしかに兵士たちが身につけている防具には阿久津君の能力である従属の印が刻まれている。


「そうやって口封じってわけ」


聞き覚えのある女性の声が響く。

カッカッカッと鳴る靴音ともに柱の影から現れたのは紡木美桜さんだ。

ハンク子爵が背筋ピンと伸ばしておそるおそる紡木さんの方に顔を向ける。

「どうしてここに?って顔ね。 続けて構わないわよ。私たちもリグリット村は合併してひとりの領主の手によって治められるべきだと考えているわ。それを月野木さんたちが邪魔するんだったらこの状況も仕方ないじゃない。同級生でも止める権利はないわ」

「紡木美桜、ちょっと薄情じゃない!」

「だけどリグリット村含めた領地を治めるのは知事であってあんたじゃないわ」

「ご、ごもっともです」

「そう?さっきの態度はそんな風には見えなかったけど」

玉のような冷や汗がハンク子爵の額から落ちてくる。

「まぁいいわ。舞踏会なんて、なんだか楽しそうな雰囲気だから知事にも来てもらおうかしら」

「こ、このような下世話な場所、知事様に来てもらうなど滅相もございません」

「なに?」と、紡木さんはたしなめるような表情でハンク子爵の顔を見やる。

「なんだかうしろめたいことがあるのかしら。さっき上機嫌で歩いてくる男性とすれ違ったけど、アレって敵だったアルマン家の家臣じゃないかしら?知事の権限を勝手に行使して領地を分け与えたり出世を約束させるなんていい度胸ね。知事の命令だとアルマン家の者は一族郎党根絶やしだったはずよ」

紡木さんの冷たい視線がハンク子爵を刺す。


「申し訳ございません!」


ハンク子爵はその場に見事なジャンピング土下座をしてみせた。

「お、恐れながら申し上げます。この地を治める領主たちは皆、他所からやってきた知事という存在に戸惑っておりました。力のある者は愚かにも武力で抗い、(いくさ)が終わってもなお領主たちの猜疑心は消えておりません。知事の治世が円滑にまわってゆくためにも、この私が知事と領主たちの間に立って領主たちをまとめあげることが必要と考え、振舞っておりました」

「そうやって知事の権力を削ごうとしたわけね」

「滅相もございません」

ハンク子爵は床に額を打ち付けて謝る。


『だったらなぜ、知事を上回る司祭の立場が必要だったのかな?』


男の子の声がした途端、宙に紋章が現れる。

その紋章が縦に裂けると歪んだ次元の空間から陽宝院君の姿が現れる。

それは陽宝院君自身がここへやってきたのではなく、紋章をモニター代わりにしたリモート映像のようだ

『紡木君も稲葉君も不用意だったね。口と腹では異なることを唱える人物を重用するなんて』

「はなっから異世界人なんて信用してないわ」

「司祭を誰にするかだけど、陳情書が女王陛下の手許にも届いたよ。女王陛下の判断は月野木君だ」

意外な裁定に私含めて周囲に衝撃が走った。

「陽宝院君って相変わらずね!」と、紡木さんは噛みつくような目で陽宝院君を睨みつける。

『陳情書はリグリット村のゴーグ長老や多くの村人から届いた。フェンリファルトからやってきた月野木君がこれほどまでに民に慕われているのかと

女王陛下はいたく感動してね。これはニュアル女王陛下の御採択だ』

「まさか⋯⋯」と混乱するハンク子爵と私をよそにあかねとミザードさんは飛び上がらんばかりに喜んでいる。

「これでオークも怖くないね」

「はい」

『7人会議のメンバーをどうするかについてはこれで振り出しだね』

「ほんとしぶといわね、陽宝院君」

『さぁ、クロム・ハンク子爵。ここにいる兵士たちの武装を解除したまえ』

ハンク子爵が「はい⋯⋯」と、小さく答えた瞬間、目を逸らしたのを陽宝院君は見逃さなかった。

『従わなければ僕の能力で彼らを殺す』

陽宝院君は右の黒目に刻まれた紋章を光らせて右手を翳す。

兵士たちの胸のあたりに紋章が出現して、そこから発せられる黒い稲妻によって金縛り状態になる。

「「「「うああああ」」」」

うめき声をあげる兵士たち。

「さっさとしなけれな僕の太陽(ソルス)の力で彼らを溶かすよ」

ハンク子爵は声を震わせながら「は、はぁ!」と、答えて兵士たちに引っ込むように命じた。

「“司祭”なんてポストがあるって知って陽宝院君が飛び上がらんばかりに喜んでいた姿が目に浮かぶわ」

『言っただろ。裁定を下したのは僕じゃない。ニュアル女王陛下だ』

「どうだか」


“ドッゴーン”


突然の大きな衝撃音にルース城が揺れる。


「「キャっ!」」

思わずあかねと2人でその場にしゃがみ込んだ。

振動によって陽宝院君を写した紋章が掻き消えてしまった。

「地震?」


”ドッゴーン“


2発目の衝撃音が鳴り響く。


すると騎士長級の兜をかぶった兵士が「大変です!」と、駆け込んでくる。

「ハンク様、亜人どもが街で暴れています」

「なんだって⁉︎」



***

城下を見下ろせるバルコニー出ると、街のあちこちから黒い煙が立ち上っていた。

この光景は歴史の教科書や動画で見たことがある近代戦争の光景に酷似している。

嫌な胸騒ぎを覚えた瞬間、「アレを見ろ!」と、兵士のひとりが叫んだ。


”ヒュー“と、音を立てて飛来してきた物体は紛れもなくミサイルだ。


そしてミサイルがルース城の側塔に着弾する。

激しい爆風と瓦礫が私たちを襲う。

「亜人たちが城壁を越えたぞ!」

見やると、リザードマンにオーク、ゴブリンたちが武器を手に次々と侵入してくる。

「何をやっているツキノキ殿、認めたくはないが司祭はあなただ。ここにいる者で亜人どもを止められるのはあなたしかいない!」

ハンク子爵の言葉に”ハッ“としたミザードさんは亜人たちに向かって叫ぶ。

「よく聞け亜人ども! ここに在わすお方は神殿をまつりし”司祭“月野木天音様だ!」

「司祭だ? 笑わせるな」

と、リザードマンたちは嘲笑う。

「ちょっとハンク子爵、全然効果ないじゃない! どうなってんのよ」

あかねがハンク子爵の胸ぐらを掴んで詰め寄る。

「そ、そんなはずは⋯⋯」

「我らには魔王様がおられる!」

「もはや神の使いごときにひれ伏す我らではない!」

「そうだ!そうだ!」

「魔王?⋯⋯」

キョトンとしているハンク子爵の表情からも、亜人たちの反応が意外なものであったことが読み取れる。


「どうなってんのよ。亜人どもは田宮さんが制圧したんじゃないの⁉︎」


「田宮なら死んだ!」


絶望を告げるその言葉が響いた瞬間、リザードマンやオーク、ゴブリンが歓声をあげる。


「魔王様だ!」

「魔王、クライム・ディオール様だ!」


「ディオールだと⁉︎」

胸騒ぎを覚えるその名前にいち早く反応したのは、意外にもハンク子爵だった。

亜人たちが左右に分かれて道をつくる。

そしてその先からやってきたのは、クライム・ディオール。私がよく知る人物ーー

彼の手には田宮さんのものと思われるスマホが握られている。

「むしろ田宮は俺が殺した」

クールな紡木さんが目許を赤くして「右条おーッ!」と、感情をむき出しに叫ぶ。

「月野木もよく司祭なんて役に立たないスキルを獲得したもんだな。言っただろおとなしくしてろって」

「クライム君、見くびらないで私だって戦えるの。私のやり方で」

「引っ込め月野木、お前はハズレだ」



第3章完

第4章 来たる魔王軍とはみだしモノたちのパーティーへ

つづく





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