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異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第3章 ハズレ領主月野木天音と異世界の民

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第32話「ハズレ領主にできること」

アルマン城の陥落により旧エルドルド支配地域の平定が叶ったとの知らせがリグリットの村にも届いた。

「稲葉の7人会議入りが濃厚になった」

東坂君が険しい表情をして話す。

それは同時に私の追放が決定的になったことを意味している。

戦争が終わったことは良いことだけど私たちの胸中は複雑だ。

「8人じゃダメなの?」

「決がきまらないだろ」

通らない案だけど、あかねも私の身を案じて一生懸命に考えてくれている。

だけど、稲葉君の活躍で平和になったのは事実。

私はこの村でやることをやるだけ。


ーーかと言っても何をやろうか。


そんなことばかりここ数日考えている。

次のオーク襲来に備えて壊れた柵の修理と、田宮さんが壊していった田んぼも直さないといけない。

それにはお金がいる。

何よりもクロム・ハンク子爵の動向が気がかりだ。

ハンク子爵の屋敷に潜入している葉賀雲君の情報によれば、稲葉君たちに反旗を翻したアルマン、ネルムといった貴族に仕えていた家臣たちがゾクゾクとハンク子爵の屋敷を訪れて挨拶しているそうだ。

ハンク子爵は、すっかり旧エルドルド支配地域の政治のいっさいを取り仕切っている。

それだけの力を持ったハンク子爵がいつ牙を剥くか分からない。

もしかしたらこの村には真の平和は訪れていないのじゃないか?

そうだとしたらこの穏やかな空気にあぐらをかいているわけにはいかない。

「天音、どうかしたの?」

「⁉︎ 私は何も⋯⋯」

「難しい顔してたよ」

「え⋯⋯」

あかねは「ここ」と、自身の眉間を人差し指で指し示す。

「シワが寄ってる。女子高生のする顔じゃないよ」

「領主様、お身体の具合で悪いのですか?」

「大丈夫なのか?領主様」

考えにふけっていたら、あかねだけでなくミザードさんやレルク君にまで心配を掛けてしまったようだ。

「うん。大丈夫だから心配しないで。アハハ⋯⋯」


***

気分転換に屋敷の外に出て、村の様子を見て回ることにした。

棚田が広がり、ザ・田舎な風景。

麓の街まで買い物に行く道は細い山道一本で交通の便が悪い。

私がこの村に来る前は、手をつけるなら公共事業かなーなんて単純に考えていたけど

実際に来てみると何から手をつけていいのやら⋯⋯

それに長老によれば村が辺境地にあるのは外敵から身を守るためと話していた。

街へ行く山道が馬車が通りにくいほど細く険しいのは外敵からの侵入を拒むためで、

現代から来た私たちにすれば不便な生活を解消したいと考えてしまうがそれは平和だからできることなんだと思い知らされた。

小さな子供達が何往復もしながらバケツ一杯に生活用水を運んでいる。

そんな光景を見ていると“博士”頼んで水道を引きたくなる。

だけど、掛ける労力もお金も防衛のための柵が優先だ。


「おーい!」


物思いにふけりながら歩いている私の耳に

レルク君の声が聞こえてくる。

振り向くと、レルク君が息を切らしながら手を振ってあぜ道を走ってくる。

「領主様、大変だ! 田んぼから熱い水が出てきた」

「へ?」


***

レルク君に手を引っ張られやってくると、すでに村の人たちで黒山の人だかりができていた。

村の人たちを掻き分けて中心まで進むと、東坂君とあかね、それにミザードさんがいて、

しかめた顔をした長老が、湯気を立てながら噴き出す水を指先で触って確認している。

「熱い⋯⋯火に掛けていないのになぜ湧き出している水が熱いのだ。祟り⋯⋯祟りじゃ! 神の怒りだ!」

怪談の人よろしくおどろおどろしく推察する長老に村人たちから怯えた声が広がる。

「あ!天音」

振り返ったあかねが私に気づく。

「あかね、東坂君、コレって⋯⋯」

「そのまさかだ⋯⋯」


「「「温泉!」」」


なんと田宮さんが破壊した棚田から温泉が湧き出たのだ。

警戒する長老と怯える村の人たちをよそに私たちは飛び上がって喜んだ。

「やった! やった!」

「温泉なんていつぶり?」

「おっしゃー!」

「ありがとう。田宮さん⋯⋯」


***

「石を運んできてくれー!」

さっそく私たちは村の人たちと温泉作りはじめた。

子供たちや女性も一緒になって、石を探したり、運んだりして、集めた石をパズルのように

計算しながら積み上げて、日もくれる頃には段々状に5つの温泉が完成した。



***

女湯

あかねと2人で肩まで温泉に浸かった。

「フ〜癒されるぅ」

「ひさびさに女子力取り戻せたって感じ」

「はー、この世界にやってきてはじめて落ち着いた時間を過ごせてるね。どんな効能があるのかなー」

「それはもちろんお肌ツルツルでしょ!」

上機嫌なあかねを見やると衝撃が走った。

あかねの前にぷかぷかと浮かぶ2つのバスケットボールくらいの大きさの物体が目に飛び込んできた。

服の上からでもうらめしいほどの大きさだったが、直で見るとさらに度肝を抜かれる。

ああ、どうりで私の顔があそこに埋もれるわけだ。

手頃でベストだと思っていた自分のバストが、いつも以上に控えめに見える⋯⋯

「ねぇねぇ天音。美容、健康って宣伝して観光客を呼ぶってのはどう? この村いい感じに秘境温泉でしょ」

「そうね。成分をちゃんと“博士”に調べてもらってからにしましょう。商売はそれからよ」

「天音って、結構リアリストだね。何にに効果があるかわからないから、ワクワクすんじゃん」

「ダーメ、宣伝するからにはちゃんと調べます」


『おお!』


そのときだった衝立の向こうの男湯から驚嘆する長老の声が聞こえてきた。

ちょうど、東坂君、ミザードさん、レルク君も一緒に入っている頃だ。


***

「腕の古傷の疼きがおさまった!」

右腕の手首から肘にかけてできた大きな傷痕を東坂の顔に近づけて、自慢気に見せる長老。

「じいさんも、昔はバリバリの冒険者だったわけか」

「もちろん暴れまわってたぞ。これはその当時、魔物と戦ってできたのものだ」

「ウソつけ、ウサギを狩ろうとして転んだときにできた傷だろ」

「何をいう!レルク。若造のお前はまだおらんだろ。お前が生まれるずっと前の話だ」

「いたよ。目の前で見てたよ」

「何を言っておる。寝ボケるにはまだ時間ははやいぞ」

「いましたよ。そのとき私たちが一緒だったじゃないですか。背負って運び出すの大変だったんですから」

「ミザード⁉︎ お前まで」

「しかも半年前の話だし」

「ぐぬぬ⋯⋯うるさいわい!」

「だけど本当、この間オークと戦ってケガしたところの痛みがひいたぜ」

「ハハハ、湯治の効果は本当にあるかもな」


***

「へー、ケガにいいって話してるね。ゴーグじいさんと男子たち」

「私もね。あかねと同じことを考えていたの。ここのところ何をしたら村の人が喜ぶんだろう?

何をしたらみんなが安心すんるんだろう? 何をしたら幸せになれるのだろう?

そんなことばかり考えて歩いていた。ここが湯治温泉として使えるのなら、冒険者さんに提供して有事の際は村を無償で守ってもらう契約をすれば。

みんな安心はできるのかなって。少なくともモンスターに怯えて暮らさなくてもいいでしょ」

「さっすが天音。領主様。やっぱ考えることが違うわ」

「だけどね。本当に村の人たちを思うなら、この村を稲葉君かハンク子爵に任せるべきだと思うの」

「天音⁉︎ 何言ってんの! ハンク子爵って。やっぱ疲れてんだよ。もう少し休んだ方がいい。あんたは人一倍大変だったんだから」

「そんなことないよ。 でもね、私気づいたの。この村だけが守られて平和になっていても意味がないって。

周囲の領国も平和にならないと、この村の人たちはずっと戦いに備えて暮らすことになるって。

みんなが平和になれば、柵はいらないし、戦うための武器を購入する必要もない。

そのお金を自分たちの暮らしに活用できるの。

街に行くための道をわざと狭く入り組んだ形にする必要もないし。

馬車も通りやすくなるように広くだってできる。それこそ観光客の人たちをたくさん呼んで村を潤わすことができるわ。

水道も引けて、水運びしていた子供たちにも勉強をする時間が作れる。

ね、いいことばかりでしょ。私が退(しりぞ)くだけで実現できるの」

「天音ぇ⋯⋯」

「そんな顔しないでよ。またウィギレスとして一緒にがんばりましょう」

「やっぱり天音大好き」

「ちょっと抱きつかないでよぉ」

「ヨシヨシ」


『あの⋯⋯』


あかねと戯れていると、背後からか細い声が聞こえてきた。

振り返るとレルク君と同じ年頃のイレナちゃんが入ってきた。

私と同じ黒髪ショートカットで、背の小さいかわいい女の子。

イレナちゃんは、私たちに促されながら恐る恐る温泉に浸かる。

「熱い⋯⋯」

キランと、目を光らせたあかねと私は獲物が掛かったとばかりに

素早くイレナちゃんに接近する。

「ねぇねぇ、イレナちゃんはレルク君のことどう思ってんの?」

女子が3人以上集まれば、女子会スタート。

気になることは遠慮なく質問しちゃいます。


「「ムッフフ」」


『おい! イレナ、そいつらに余計なこと言うんじゃねぇぞ!』


衝立の向こうからムキになるレルク君の声が聞こえてくる。

顔を紅くするイレナちゃんはまんざらでもなさそうだ。


『おい、レルク、領主様に失礼だぞ』

『コラ!レルクよじ登るな』

『それじゃあ、わしも向こう側へ』

『ゴーグのじいさんも、ちゃっかりついて行くな!』

『そそられるじゃないか』

『クソジジィ!』


「ハハハハハ」

なんだか楽しくなって声を出して笑った。

こんな日々が長く続けばいいなぁと、願わずにいられない一夜だ。


私にはひとつ気がかりが残っている。

クライム・ディオールを名乗るハルト君が川を挟んで放った一言。


「ハンクとかいう貴族は俺の獲物だ俺が潰す」


その言葉だけが私の胸を騒つかせる。


***

「それじゃあ、はじめますか」

高台の崖から街を見下ろす、クライム・ディオールとイリス、セレス、オッド。

クライムが不敵な笑みを浮かべた途端、4人が囲むライルが変身したパトリオットミサイルが発射される。


つづく




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