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異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第3章 ハズレ領主月野木天音と異世界の民

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第31話「願いが果たされるとき」

手甲に刻まれた印が発光して握っている聖剣トライトエールが緑色したオーラに包まれる。

騎乗から敵兵目掛けて薙ぐと、十数人が一気に吹き飛ぶ。


“なんて力だ”


これほどに凄まじい力と対峙してきたのかと戦慄すら覚える。

勢いに乗り「ハッ」と、手綱を叩いて、群がる敵陣へ突っ込んで行く。

左右から槍で突いてくる敵兵をトライトエールで薙ぎ払う。

その度、人間の束が軽々と吹き飛んでゆく様に、心地いいという感覚が支配してくる。

“爽快だ”

並みの戦士ならこの力に溺れてしまいそうだ。

敵兵も印の力を使い、発光する剣で襲ってくる。

だが、同じ舞台に立てば、ウェルス王国最強の戦士ディルク・ライザーにかなうまい。

正直、華々しく散る覚悟であったが⋯⋯これなら!


***

「リリーシャ!」


出陣前のことーー

私はリリーシャ夫人を強く抱きしめた。

「ずっとお慕い申してました。ディルク⋯⋯」

そう言ってリリーシャは私の腕の中で涙を流した。

「ああ、私もだ⋯⋯」

ようやく感じることができたリリーシャの温もりに私の目にも涙が滲んだ。


“アルマンなど滅んでしまえ“

そう願うことがあった。


***

私とリリーシャは同じ村に生まれ、家が隣同士ということもあって幼き頃から一緒に過ごしてきた。

2人で朝から馬の世話をし、水を運び、夕暮れまで山中で遊び、私の日常はリリーシャとともにあった。

この日常は変わらずずっと続いていくんだろうと当たり前のように考えていた。

だが、その終わりは突然に訪れる。

14になる年、村を訪れた若君のルイール様の目にとまり、見染められたリリーシャはアルマン家に嫁ぐことになった。

別れの日、リリーシャが乗る馬車を村人総出で見送った。

この日を迎えるまで”領内の安寧のためだ“

”貴族に嫁ぐなんてこれほど幸せなことはない“

と、理屈や建前を並べ立てて、心に言い聞かせてきていた。

なのに、涙を流しながら馬車に乗せられてゆくリリーシャの顔を見たとたん感情を抑えることができなかった。

「リリーシャを離せ!」と、帯同する騎士に掴みかかった。

無様なものだった。

あっさりと取り押さえられて地面に這いつくばらされた。

押さえつけられたまま、走り去ってゆく馬車に向かって「リリーシャ!」と叫びながら

“アルマンなど滅んでしまえ“と、願うことしかできなかった。

だから強くなろうと、王都に出て修練に励んだ。

自分の手で守れないものは無くすと誓い、王国最強と称されるまでの戦士となった。


なんの因果か、滅んでしまえと願った私が、こうしてアルマンのために戦っている。命を賭して⋯⋯

「死ぬおつもりですね? ディルク」

「リチャール様が寝ておられたのは好都合でした。また余計な約束を背負い込んでここへ帰って来なくてはならないと思うと戦いづらくなる」

「⋯⋯無邪気な子供の願いというのは大人にとって酷なものですから」

「部屋の外に我が弟子アルデルトが控えています。折を見て城から逃げるのです。

例えこの(いくさ)に敗れても、生き延びてアルマンの血が残せれば勝ちだ」

「あなたはどうなさるおつもりなのですか? 」

「最後は戦士として死ぬつもりだ」

「ディルク、あなたは生きて、生き延びて」


***

面倒な約束をした。生きるという面倒な約束を。

私は”生きる!“

トライトエールを振り上げさらに敵陣深くへと突っ込んで行く。

爵位や領地を失おうとリチャールとリリーシャが生き残れば勝ちと考えていた。

だが、この勝ちようであれば、本領が安堵されるどころかクロム・ハンクより扱いが劣ることないように

新政権下での重用を約束させることができる。


そのときだった。手甲の印が強い光を放ったーー


***

「”ヘタレ“のおじさん」

「おい!」

これから出陣というときにナユタが私のところへ駆け寄って来てくれた。

「夫人に伝えたいことは伝えられた?」

「ま、まあな⋯⋯」

「よかったね」

「ディルクだ。ディルクと呼んでくれ」

「僕はクラスの女子たちからよく”ショタ“って呼ばれている。ディルクもいいよ」

なんだろう⋯⋯意味は分からないがそう呼んだら周りから変な目で見られそうな気がする⋯⋯

「遠慮しておくよ」

「ディルクがどうしてこのマークがある防具を着けてるの?」

ナユタは私の手甲の印に気づいて質問を投げかけてきた。

「敵の騎士長を倒したときに手に入れた物だ」

「奪ったんだね」

「戦利品だ!」

嫌な言い方をする。

「これは阿久津誠の能力。この印を与えた従属者に自分の力を付与することができるんだ。

分け与える力の割合は阿久津自身が調整できる。阿久津はより強い従属者を強化する。

ゲームで強いキャラクターを育てているみたいで楽しいと言っていた」

ゲームというのは理解できなかったが、おかげでなんとなくだが戦い方が見えた。


***

能力ーーステ振りーー

「おお! なんだかすげぇ反応が出てるぞ」

小高い丘に陣を敷く阿久津誠は紋章の能力のひとつである半透明のコンソールを宙に出現させて

無数に表示されている緑の点の動きを確認しながら従属下にある兵士たちの戦闘力を調整している。

「こいつはマジすげぇー!」と、興奮しているのは一際大きく光る点を見つけたからだ。

「かなりの適合者だ。こいつと、こいつと、こいつはいらない⋯⋯」

阿久津は緑の画面をポチポチと押しながら緑の点を消してゆく。

「全部こいつに極振りだ」と、不気味な笑い声を出しながら反応の強い点にステータスポイントを集中させてゆく。

すると大きな爆発が戦場で起こる。

立ち昇る煙と共にビロード状の緑のオーラが空へと伸びる。

「なんだ⁉︎」


***

「うおおおおおお!」

ディルクはビロード状のオーラを放つトライトエールを水平に広げて敵兵を薙いでゆく

一度に十数人だったが今は5倍以上の数の敵兵が悲鳴をあげて吹き飛んでゆく。



「狙い通りだ!」


この力の主は俺が敵とも知らずに力を注いだ。

見ていろ。必ずアルマンが勝つ。



***

兵士たちの断末魔の叫びが戦場に響き渡る。

「俺の手駒が⋯⋯俺の手駒がどうして⋯⋯」

まるで竜巻に飲み込まれるが如く、兵士たちが緑色の光エネルギーに巻き上げられている。

「いったい何が起きてる⋯⋯」

阿久津が頭を抱えて混乱しているところへ蹄鉄の音が近いてくる。

顔を起こして見やると、光放つ大剣を手にした人物がこちら目掛けて馬でやって来ている。

「あああああ!」

悲鳴をあげる阿久津はその場にしゃがみ込む。

ディルクは手甲と同じ印を宙に発現させている人物が敵の大将と定めて、一段とスピードをあげる。

射程内に入ったところでトライトエールを阿久津めがけて薙払う。

「行けぇえええ!」


”ガッキィイイン!“


衝撃波と共に鉄同士が激しくぶつかり合う音が響き渡る。

「何⁉︎ 」

肉を骨ごと断ったはずがまさかの金属音に見やるとトライトエールを黒い棘鞭が受け止めていた。

ディルクはすぐさま馬を飛び降り、距離をとった。

黒い棘鞭の持ち主はいつぞやの少女であった。

「紫芝!」

「何やってんの! 敵に力を利用されるなんて」

紫芝さやかは阿久津に檄を飛ばしてディルクを見やる。

「アレ? あんとき尻尾を巻いて逃げたお兄さんじゃん。何?殺されに来てくれたんだー! 濡れんじゃない!」

「もう私に迷いも躊躇もない君に対する恐怖は乗り越えた!」

「何をごちゃごちゃ言ってんのよ」

火花を散らせながらトライトエールと黒い棘鞭が斬り結ぶ。

“勝てる”

ディルクが、次の一太刀が紫芝さやかに届くと確信したときーー


“ズッドーン”


背後から激しい爆発音が響く。

振り向くと城から黒い煙が立ち昇っている。


「リリーシャ!」


***

燃え盛る炎の中、眠るリチャールを抱き抱えているリリーシャ。

「ディルク⋯⋯あなたは生きなさい」

慈愛に満ちた表情でリリーシャは覚ますことのないリチャールの寝顔を見やりそっと頬を摩る。

「お待たせしましたリチャール。母もこれから参ります。一緒に(いくさ)のない新しい世界へ参りましょう」


***

「どうして⋯⋯」

床にうつ伏せになって吐血するアルデルト。

その背中に槍が突き立てられていてその槍を握り締めているギルティウスは涙を流している。

「リリーシャ様、あなた様は素晴らしい奥方様でした。奥方様のご判断によってアルマン家はこの先も誰からにも支配されることなく、

敗北を知らず、強きまま権勢を誇ったままに終えることできるのですから⋯⋯」

そう言ってギルティウスは静かに首を掻っ切る。


***

地下牢

「出してくれ! 火が! 火が!」

幽閉されたリヴァル・オルトロス公爵一派を炎が飲み込もうとしている。

「誰か早く出してくれ! 私はリヴァル・オルトロス。公爵だ!褒美ならいくらでも出す。

早く来てくれー!」

その叫びは轟音に掻き消され、外に届くことなく、引き起こされた誘爆が眩い光を放ちオルトロス公爵たちを飲み込んだ。


***

“アルマンなど滅んでしまえ”

あの日願ったことがこうして返ってくるのか⋯⋯

私は戦いの最中であることを忘れ、爆発を繰り返し燃え盛る城を見つめて呆然と立ち尽くした。


***

「よそ見してんじゃないよ!」

棘鞭が背後から迫る。


2人を目掛けて木々の間を駆け抜ける存在ーー


突き出された一本の刀が棘鞭の行く手を遮るようにして弾く。

「邪魔をするな!」

「もう決着はついた。戦争は終わったんだよ」

「⁉︎ お前は如月⋯⋯那由多」

「ディルクも陽宝院も子供を想う母親の心まではわからなかった。勝ったのはお母さんの愛だよ」


***

燃え盛る炎の中、リチャールを抱えたリリーシャの姿は

倒れてきた柱や崩れ落ちた天井によって見えなくなる。


***

フェンリファルト・ハンク軍とアルマン軍による大規模な衝突はわずか3時間で終わった。

これにより旧エルドルド支配地域の混乱は平定がなされた。


ディフェクタリーキャッスルにいる陽宝院光樹はこの報せに、憤った呻き声を上げながら

目の前のテーブルを叩く。


つづく





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