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異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第3章 ハズレ領主月野木天音と異世界の民

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第24話「田宮理香」

「あの男、いや⋯⋯クロム・ハンク子爵のお誘いには乗らないように以後、お気をつけ願います」

ミザードさんは、真顔で私に言い放った。

「さっきは2人の顔色を見て、断ったけどよかったの? 手を差し伸べてくれているようだったけど」

「それがあの子爵殿の狙いです。領主様がこの地域のことを理解なされていないうちに、この村に兵を置かせる約束をさせて支配しようとしていたのです」

「え! 私、あやうく詐欺に引っかかるところだったの?」

「子爵殿は、かねてよりこの村を手に入れようとあれこれ画策していたお方。それを貴族を束ねるエルドルド様が寄親としてのお立場で差配していただきお守りしてもらっていたのです」

「エルドルド様が生きておられれば、このようなことはなかった」

外にいる長老が聞こえるようにぼやいてくる。

「子爵はどうしてこの村にこだわるんだ?」

東坂君が尋ねるとミザードさんは「これを見てください」と、私たちの目の前に地図を広げる。

「エルドルド領とハンク領の境にあるこのわずかな土地が、ここリグリットの村です。我らは古よりこの村にある神殿を守る防人(さきもり)にございます。神殿は神が在わすとしてこの王国でも大事にされている場所。子爵の目当てはそこにあります」

どうやらこの神殿の支配権が貴族たちにとって大きなステータスになるようだ。

とくに年に1回行われる神殿の祭事は国王までもが出向くほどの重要な儀式。

祭事を取り仕切る立場になれば、王国内でも大きな影響力を持つことができるというのだ。

子爵はこのエルドルド侯爵の支配がなくなったこのどさくさに紛れて神殿を手に入れようとしている。

それに神殿さえ手に入れば村や村の人たちはどうでもいいという子爵の態度が、長老たちが抵抗しているもうひとつの理由のようだ。


***

ーーそして2日後

「オークだ!大型のオークが迫って来ている!」

見張りをしていた青年が血相をかいて屋敷へ駆け込んできた。

私、東坂君、あかね、ミザードさん、レルク君の5人は急いで高台にある見張り櫓に登り、

森の方を見渡した。

「ねぇ、アレ!」

あかねが指差した方角を見やると遠くの方から防具を身につけ、手に石の斧を握りしめた大型のオークが村へ向かってゆっくりと歩を進めてきているのが確認できる。

「3、4mはあるな」

「あんなにデカイの? オークって」

驚くあかねにミザードさんが答える。

「いえ、あんな大きいのは我々もはじめてです」

「翼竜に比べたら大したことはない」

「私とレルクは至急、村の男たちを集めて戦う用意をします。領主様たちもご準備を」

「俺たちは大丈夫だ。いつでも戦えるぜ」

「頼もしいかぎりです」

「東坂君。私も、私も戦う。剣だって用意したの戦わせて」

私はそう言って東坂君とあかねに剣を見せる。


***

私はハクドアル領の街にある武器屋を訪れてこの剣を買った。

「うーん。お嬢ちゃんにはこの刀身を細くした剣がいいんじゃないか?

軽くて丈夫だし。振り回しやすいぞ」

気さくな店主さんに勧められた剣を選んで、自分の力で戦う用意はできている。


***

「それにいざとなればコレで⋯⋯」

私がベルトのホルダーに忍ばせてあった物を取り出そうとすると、東坂君が私の手を押さえて制する。

「月野木、ここは俺たちに任せてくれ」

「だけど、私が戦わなかったら村の人たちに認めてもらえない。紡木さんたちにだって」

「大将が真っ先に飛び込んじゃダメだろ? 月野木は俺たちにかっこよく指示してくれ」

「だけど、それだと⋯⋯」

「それでいいんだって。オークを倒せる奴らを従えているこの領主様はもっと強いんだって認めてくれるはずだ」

そう言って東坂君は、空回り気味だった私の頭にポンと手を置いて落ち着かせてくれた。

⋯⋯いきなり素人のビギナーズラックが通用する相手には見えない。渋々だが、ここは東坂君とあかねに任せるしかない。


***

柵が設置された河川敷には剣や槍、弓と言った武器を手にした村の男の人たちが集まってきている。

「それにしてもこの柵が完成していてよかった」と、ミザードさんは感慨深げに柵を見上げる。

「これも木材を提供してくれた親方のおかげです」

「親方って?」

「ああ、エルドルド様の街でオークのことを相談していたら、格安で木材をくれるっていうオッさんがいたんだ」と、レルク君が教えてくれた。

その親方というのは大工さんのことで、あらかじめ加工した木材を運んできてくれたため、着工から完成までの期間が短くて済んだという。

しかもその親方が柵建設の陣頭指揮まで取ってくれたそうだ。

「その方は今、どこにいらっしゃるの?」

「幼馴染のネルバの家に下宿してもらってます」

「わかりました。この騒動が落ち着いたら私も領主としてその方にお礼の挨拶に行かなくては」

すると、「ミザード!レルク!大変だ!」と、ダウズ君が再び息を切らしながら駆けてくる。

「今度はなんだ?」

「ハンク領の兵士が攻めてきた!」

「こんなときにか⁉︎ それで敵の数は?」

「それがひとり⋯⋯」


***

「しかも女だ」

ーー

私たちがハンク領とリグリット村の境界付近の丘に駆けつけると、待っていたのは同級生の田宮理香さんであった。

「田宮⁉︎」

「田宮さんどうして?」

田宮さんは、この異世界にやってきてすっかり雰囲気が変わってしまった。

トレードマークのメガネは外し、短く黒かった彼女の髪は紅く染まり、露出度高めな服装によって右肩の紋章が露わになっている。

控えめで地味めな印象だった彼女の面影はない。

紋章を構成する紋様は、全身に広がり、タトゥーのように頬、胸に、そして、スリットの入ったスカートからチラ見えする左の太ももから

ふくらはぎにかけて、まるでつるが巻きつくようにのように刻まれている。

「この村に、ハンク領内の木を無断で切り倒して盗んでいった不届き者がいるはずよ」

「ふざけるな! 俺たちの村にそんなことするやつはいない!」

レルク君は否定する。

「知っているのよ。この村の連中が大量の木材を必要としているのは。さぁ、どこに隠したの?」

ミザードさんが両手を大きく広げて田宮さんの目の前に立ちはだかる。

「木材を大量に必要としていたのは事実だ。だけどそれはエルドルド様の街まで行ってお金を出して手に入れたものだ。子爵殿の領地に勝手に入り盗んだものではない」

「どきなさい。犯人を差し出さないなら、村の建物、一軒一軒壊して探すから。それか⋯⋯」

田宮さんが右腕を突き出して、開いた手のひらから放った衝撃波がミザードさんや私たちをかすめて

数百メートル後方にある棚田の土手を破壊した。

田んぼに張られた水が滝のように勢いよく溢れ出す光景にミザードさんとレルク君、ダウズ君は

表情を強張らせたまま言葉を失う。

「なんてことするんだ、田宮!」

「知事の命令だから、これくらいのことして脅しておかないと」

「稲葉が?」

「クロム・ハンク子爵が領内で起きた略奪事件の解決を知事に依頼したのよ。

ほら、貴族同士や領土間の争いを調停するのが知事の役目でしょ。だ・か・ら」

「それでもこれはやりすぎでしょ。理香」

「散々味わってきたじゃない。こうでもしないと認めないのよ。この異世界の奴らは」

すると割り込むように吹き付ける風とともに葉賀雲君が現れる。

そして葉賀雲君のとなりには村の青年がひとり。

「ネルバ⁉︎」

「ミザード大変だ! イモークの親方が居なくなった」

「親方が! ーーまさか⁉︎」

「どうしたの?」と、田宮さんは舌を舐めずりながら首を傾げてみせた。

葉賀雲君はクナイを取り出して構える。

「オークが柵の目に前まできてる。急いだ方がいい」

「月野木たちは戻れ。俺たちは田宮をなんとかしてからそっちへ行く。柵があれば時間稼ぎになるはずだ」

「でも⋯⋯」

「領主様行きましょう」

「そうだぜ。ここは任せるんだ」

そして東坂君とあかね、田宮さんも拳を握りしめ、互いに闘う意思を示す。

「東坂君! あかね! 葉賀雲君。 オークを倒すために必ず戻ってきて。これは領主命令です」

「こういうときばかりズルくない? 天音」と、あかねは吹き出して笑う。

そして「約束する」とあかねはウィンクして私に応える。

東坂君と葉賀雲君 も「OK」「御意」とが応える。

私は断腸の想いでここを離れ、急いでミザードさん、レルク君と柵の方へ向かう。


つづく


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