↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で闇落ちした俺は大好きだった彼女の宿敵(ラスボス)となりました。  作者: ドットオー
第2章 詠凛学園2年B組とはじまりの国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/98

第18話「スクランブル」

「ああああっ!」

大きな呻き声をあげる川南君は矢が突き刺さった太ももを抱えながら床の上をのたうち回る。

みんなで祝勝会をやるはずだったミーティング棟の広間は、負傷して苦しむクラスメイトたちが横たわっている。さながら野戦病院のようだ。

この光景に私は驚いた。みんなが大ケガをして帰ってくるなんてはじめてのことだから。

川南君に寄り添う田宮さんは涙を零しながらしきりに「ごめんなさい」「ごめんなさい」を繰り返す。

田宮さんは、自分が能力を発揮できなかったせいでクラスメイトたちが負傷したと自分を責め続けているのだ。

自然と体が動いた。私は包帯を手に2人に駆け寄る。

こんなときクラスメイトを励ますのが私の役目だ。



普段ならーー


“どいて”

突然、横から突き飛ばされて私はその弾みでその場に倒れ込んだ。

私を押しのけていった石動エミルさんは涙目で、緑色に光る手のひらを川南君に翳しながら、必死に「ヒール!」「ヒール!」と繰り返す。

全身が緑色の光に包まれる、川南君はおとなしくなりそのまま静かに眠りについた。

「ヒーリング能力ある奴は、はやく来てくれ!」と、稲葉君が叫ぶ。

彼が手当てしている阿久津君は、二の腕からの出血が止まらなくて、呼吸が弱くなってきている。

「待ってくれ!すぐ行くから」と、椿君が叫ぶ。

「はやくしてくれ! 阿久津が死んじまう」

4人しかいないヒーラーは手当たり次第、回復魔法をかけて手当てをしているけど追いついていない。

このような状況のときに私にできることはないようだ⋯⋯


「オーッ!」


突然、遠くから大軍が一斉に叫ぶ鬨(とき)の声が聞こえてきた。

胸の奥でざわざわと暴れる恐怖に体が固まる。

さっきまで喧騒としていたミーティング棟が一気に静まり返る。


「オーッ!」


再び鬨の声が聞こえてくる。

日はとっくに落ちていて夜。

あたりは暗くてウェルス王国の兵士たちがどこまで迫ってきているのか視認できない。


「オーッ!」


まただ⋯⋯


「オーッ!」


また⋯⋯


まるで四方から囲まれているような感覚にとらわれる。

何人かの女子は「ヤツらが来る」「ヤツらが来る」と身を寄せ合いながら震えている。

おさまったかと思うと「オーッ!」とまた鬨の声がする。

それから鬨の声は不意をつくように不規則なタイミングで何度も聞こえてきた。

鬨の声は夜通しつづいて、張り詰めた緊張を解くことができないまま朝を迎えた。

一睡もできなかったクラスメイトたちの顔に疲労の色が見える。


ウェルス王国軍の挑発はつづく。

今度はウェルス王国軍の兵士たちがエルムの森領内を侵犯し、何もせずすぐ引き返すという行動をはじめた。

エルムの森へウェルス王国軍が攻めてくると索敵システムが反応して持っているスマートフォンから警報が鳴る。

これはモンスターの居場所を探知するためにハルト君が考えた方法を応用したもの。

ソナーと同じで紋章が発する力を音波のように放つことで遠くにいる物体を探知できる。

現在、防衛のためにこの音波を防御特化型(タンク)能力者の子たちがエルムの森周辺に放っていて

反応があるとみんなのスマートフォンに返される仕組みになっている。

警報音が鳴るたびに領内に侵入したウェルス兵たちを追い払うためにと出撃。そしてウェルス兵たちが引き返すのを確認すると戻ってくる

というのを2グループで交代しながら対応した。

ウェルス兵たちによる領内侵犯は頻繁に繰り返され、回数を重ねるごとに戻ってきたクラスメイトたちの顔に悲壮感が滲む。

そして鬨の声と領内侵犯は3日続いても治る気配はない。

これまでモンスター狩りから帰ってくるみんなを出迎えるのが私の日課になっていた。

私が“おつかれ”やおかえり”と声をかけるとハイタッチまでして応えてくれていたのに、今は雰囲気が違う。

声をかけてもチラッと視線を返すだけで黙ったまま通り過ぎてゆく。

私にはその視線が痛く感じる。

とくに紡木美桜さんが私に向ける視線は。


***

次の日

兵の数を増やしてきたウェルス王国軍は、挑発行為にとどまらず武力行使にも出てきた。

小競り合いのすえ、かろうじて追い返すことに成功したものの、クラスメイトたちの疲労はピークに達している。

食事も喉を通らないようで私が握ったおにぎりにも手をつけようとしない。

「士気が下がっているな」

陽宝院君と鷲御門君の表情にも深刻さがあらわれる。

私たちはすでにレオン・ハイストンという指揮官の術中にはまっている。

ウェルス王国軍側の陣に潜り込み諜報活動をしている葉賀雲(はがくも) 影家(かげいえ)君からの情報によれば、

この度重なる挑発行為は、精神的、肉体的に私たちを追いつめて疲弊させることを狙っているとのこと。

”人外の力を持つとはいえ、所詮は生き物。疲弊したところを数の力で圧倒すれば勝機はある”と、レオン・ハイストンは企んでいる。


ーーねぇ、みんな。世界を征服するってことは戦争をするってことだよ。いいの? この世界はゲームじゃない。

現実よ。月野木さんのように戦えない仲間もいる。みんな強いわけじゃないし、相手だって訓練されたプロの軍人よ。

力だけで勝てるとは思えない⋯⋯。


佐倉先生が言っていたように相手は手練れた戦争のスペシャリストたち。いくらチート能力があるとはいえ、一筋縄では行かない。


「私にはこんなことしかできないけど食べて」

私はしゃがみ込む紡木さんにおにぎりを手渡す。

「いらない⋯⋯」

「少しでも食べて休まないと」

「わかっている! あなたの施しは受けない」

そういって紡木さんはおにぎりを私の肩にぶつけた。

「落ち着け、美桜」と鷲御門君が紡木さんをなだめる。

2人はいとこ同士。

「黙っていて、凌凱。私は弱くない。必ずウェルス王国は倒すから」

「強くならなきゃ勝つことはできない」としげみの向こうから紫芝(ししば)さやかさんがやってくる。

みんなはやってきた彼女の姿におののく。

破れた制服の代わりにニュアルちゃんからもらったゴスロリの服は血まみれになっている。

そして右手にはウェルス兵の生首が2つ握られている。

さやかちゃんは立ち止まるとその首をみんなに向かって投げつける。

首から飛び散った血がびしゃっと、音を立てて紡木さんたちの顔にはりついた。

「私たちは戦うほどに強くなれる」

さやかちゃんは「見て」と空中に出現させた魔法陣から専用武器である鞭を取り出す。

彼女の鞭は太く刺々しい棘鞭へと変化していた。

「自分が強くならねければ生き残れない。強くないからいざというときに自分の力が発揮できない」

と、さやかちゃんは不安や恐怖心が能力の発動に作用すると指摘した。

その言葉に田宮さんはハッとする。

「強くなればもっといっぱい殺すことができるわ」と、さやかちゃんは唾液の糸をひかせながら口元を開いて

不気味な笑い声を出す。

するとーー


「いたぞ!」

男の声が響く。

しげみからウェルス兵たちがわらわらと出てきた。

「女子(おなご)もいるぞ」と20人近い兵士たちが槍や剣を私たちに向ける。

「僕の後ろに下がっていて」と、陽宝院君は私の目の前に立って盾になってくれる。

みんなが疲れきっているところへの襲撃。みんな戦える力なんて残っていないはず。

すると「ここは俺が戦う」と鷲御門君が前に出る。

「鷲御門⁉︎」

陽宝院君も驚く。

「ほほう。ひとりで戦うなんていい度胸だな。その首はアルマン様へのいい手土産にしてやる」

「悪いがお前たちは、そのアルマンという人物のところへは帰れない」

鷲御門君の左の黒目に紋章が浮かびあがる。

そして鷲御門君の背中に大小様ざな大きさの魔法陣が7つ現れてそのひとつから出てきた柄の部分を握ると、

魔法陣の中からゆっくりと大剣をひっぱりだした。

その大剣は180cmはある鷲御門君の身長に等しく扇状の切っ先が特徴だ。

切っ先が地面に付くとズシンと減り込むことからいかに重たいかがわかる。

そして鷲御門君はその大剣を片手で軽々と頭上より高くへと持ち上げる。

その光景にウェルス兵はジリジリと後ずさりをはじめる。

鷲御門君は大剣をいっきに振り下ろす。たった一太刀。

だけど鷲御門君の攻撃は全体攻撃。

鷲御門君のたった一太刀によって20人近くいたウェルス兵たちは肩から骨盤にかけて斜めに真っ二つに裂かれる。

そして紋章のエネルギーが起こす爆発によってウェルス兵たちの身体は四散した。

“強い”

鷲御門君の姿にその言葉が印象付けられる。


つづく







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。