第9話
「まあ大変ですわ。あなた、お洋服が濡れているわ!
すぐにお着替えなさって、。お風邪を引いてしまったら大変よ。」
「え、あ、はい。」
まずはこのやらかしてしまったメイドを退出させる。
これでもう余計なことをする心配は消えた。
「ティーカップの破片が散らばってしまっているわ。
誰かが踏んでしまったら。危ない・。」
私は可憐な動作でハンカチを取り出す。
そして素手で破片を拾おうとする。
この自然に出てきた動作。
ハンカチはお母様からのプレゼントで大切だし
素手でティーカップの破片を拾うなんてわたくしの
美しく、可憐で、妖精みたいな手が傷ついてしまうから嫌なのだけれど
『健気妖精モード』の以上やらねばならないのだ!
それにわたくしがこの嫌で嫌で仕方が無い行為をしようとするのは
150パーセント、ウィアドル様の後ろにいる執事らしき人が止めるだろうという
確信を持っていたからだ。
だってだ、
メイドがお茶をこぼしティーカップをわりこの大事な場面をぶち壊す。
↓
そのメイドが婚約者様にお客様呼びをする。
↓
お客様と呼んでしまったその美しく可憐な相手に心配される
↓
その美しく可憐な相手に「心配だから戻って」といわれ。
↓
そして受け答えもまともに出来ず退出。
↓
で、今その美しく可憐な婚約者様が
使用人を心配し自らのハンカチを取り出し
素手で破片を拾おうとしている。
かなり、オーラン公爵家ヤバイ状態ですよ!
このまま拾わせたらどうなるか。
美しく可憐な婚約者様が本来は使用人がするべき事を
オーラン公爵家の使用人が誰もやらないからやってくださった。
しかも美しく可憐な婚約者さまの手が破片で傷ついてしまう・。
この婚約者様のお家柄は王家が関わっているから王家が出てくる可能性があって、婚約者様のお父様が宰相なので社会的影響を受けるかもしれなくて。
などなどと
オーラン公爵家、の株は激落ちし、
それに加えてオーラン公爵本人が影響を受ける、。
と、いう事態が起こるのだ、。
オーラン公爵の後ろにいる執事らしき人が
本当にこの公爵家に忠誠しており
オーラン公爵を大事に思っているならばこのわたくしの手にティーカップの破片が触れる瞬間までにわたくしを止めるはずなのだ。
この瞬間は
オーラン公爵家への忠誠を試されているのだ。
わたくしが手を伸ばし始める。・・・・・・・
「ミリレアッ!」
いきなり呼び捨てで呼ばれ
この声はとオーラン公爵の方を見る
彼は足が早いらしいすぐに走って私の目の前に来る。
そしてわたくしの手を両手でふんわり包んだ。
「君の手が傷ついてしまうよ。」
「ルウ。」
「はい、オーラン様。」
「彼女と庭園を散歩してくる。
ここを頼む。」
「承知しました。」
「ミリレア、行こうか。」
彼に腕を惹かれる。
完璧なエスコートをされて、私はオーラン公爵家の庭園に
足を踏み入れたのだった。