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ティンダロス

前回のあらすじ

犬が人間の言葉を喋る。

 異世界に来てから、でかい犬と遭遇するのはこれで2度目なのだが、最初はラーシュが通訳してくれたので何とかなったのだが、犬自身が人間語を喋るという不可解な出来事が起きていた。念のためにと思って以前にティアマトさんに犬は人間の言葉を喋れるかと尋ねたところ答えはNOであったのを思い出しつつ、俺は

「や、や、やぁ。元気かい?」

 何言ってんだ俺。声が震えあがって愛想笑いじゃなくて(はた)から見たら、カツアゲされているおばあさんを助けるために前に出たのはいいものの恐怖で動けなくてでも何か言わなきゃいけない情けない男性の声みたいに震えているぞ。え? 例えが分かりずらい? 知るか。勝手に解釈してくれ。

 とにかく、俺は別にビビる程度でも何でもない犬に声が震えていたのだ。喋ったことへの驚きのあまり緊張でもしているか。俺は…………。

「元気だが、大丈夫か? 背中に乗るか?」

「へぁ!?」

「…………黙った方がいいか?」

「いや!? すまん。ちょっと待ってくれ。心の整理って奴をさせてくれ。俺は思った以上に動揺しているんだ。」

「あ、あぁ…………」

 犬は困ったような表情を浮かべてながら俺が落ち着くまで待っているのだろう。顔を伏せて目を閉じてくれた。

 優しい犬に感謝を心の中で送りながらも俺は落ち着くまで深呼吸を繰り返したり、近場をウロウロといったりきたりしながら心の整理がつくまでの間、いろいろと考えながら模索したりした。


 まぁ、何も浮かばなかったんだけどな。犬が人間の言葉を喋るっていう時点で不可解なことは変わらないし、時間も置いたこともあって落ち着いてきた。

「あの、待たせてしまってすみません」

 俺が犬を見てからそう言えば、犬は顔を上げてから俺をじっと見つめた後

「あのー?」

 俺がそう言えば犬は

「すまない。嫌われていると思っていたからな。喋るたびにビビっていたから逃げだすだろうと……思っていた。此処を通った奴らは全員そうだったからお前もそうだとばかり」

 犬は申し訳なさそうに項垂れる。

「そうなのか…………。まぁ、俺はアンタがいきなり人間の言葉で話しかけたものだからそれに驚いただけなんだ」

 俺がそう言えば犬は驚愕してから

「ん? 人間の言葉を発しているのか? 私は?」

 どうやら自覚が無かったようだ。不思議に思わなかったのかと思っていたら顔に出ていたらしく

「私としての個人的感想で、申し訳ないのだが。そう言った訓練などはしていない。気づいたらと言った感じだ。私のことなどどうでもいい。君はどこに向かうんだ?」

「あーそのまま真っすぐ行こうかと」

「なら乗るか?」

 はい?

 犬の名前は無かった。元々野良犬で昔は小さかったらしいがこの空洞近くにいるモンスターで食いつないできたらいつの間にか大きくなったのだという。

 魔界といいこの世界といい犬が人間より大きくなるのが普通なのかと少し疑いつつ、お礼をいいつつ背中に乗りながらそんなことを思っていた。

「君が名付けてくれないかい?」

「名付けろって言われてもなぁ…………じゃあ、ティンダロスで」

「ティンダロスか…………いい名前だ」

 ティンダロスは嬉しそうに微笑んだ。


 そこからティンダロスの背中に乗りながら進むこと20分近くたって出口のようなものが見えた。

 そこには既にティアマトさんとアキベエルさんが居て、俺を見た瞬間、顔が険しくなり口を開く前に何故か顔が青くなった。

 俺はティンダロスに座るように言えば、彼は従順に従って座ってくれたので、そのまま滑るような感じで地面に着地をしてから

「すみません。ティアマトさん、アキベエルさん。あの、実はあそこの道には俺は右の道と左の道が見えていてそれで立ち止まっていたんです。でも、2人は左の道しか見えていなかったので、独断で右の道に行きました」

 俺はそう言って説明すれば、ティアマトさんは

「それよりも、彼は一体何なの?! あの禍々しい物体は!?」

「は? 禍々しい?」

 ティアマトさんがいう彼とはティンダロスの事だ。

「禍々しいって、何処がだよ? あれは普通の野良犬だぞ。な?」

「そうだが」

「ほら」

 俺がそう言えばアキベエルさんは顔をさらに青ざめながら

「あれが普通の犬だと!? ふざけるのもたいがいにしてくれ! あの物体と会話できる!? 禍々しいにもほどがあるだろう!! もしかして正気を失ったのか!?」

 アキベエルさんは怒鳴るようにそう言いながら両手を俺の両肩に乗せるようにしてから揺さぶってきた。

「正気がないのね!? なんてことなの。わたしたちから離れたばかりに…………」

 とティアマトさんはそう言う。

 俺はアキベエルさんを振り払いながら

「ちょっと待ってくれよ! ティンダロスが禍々しい謎の物体だって!? ふざけるのも大概にしてくれ! 俺が正気じゃないとか訳の分からないことを言うなよ!」

 俺はそう言ってからティンダロスに近づき頭をなでる。

「ごめんな。ティンダロス。本当なのティアマトさんやアキベエルさんは優しいんだが…………」

「…………。すまない。気絶してくれ」

「なに言って…………」

 俺の意識はそこで途絶えた。


 ティンダロスはキオリが気絶したのを確認してから、ティアマトとアキベエルを見た。

「キオリに何をするつもり………? まさか食おうだなんて」

「思っていないな。この言葉なら聞こえるか?」

 ティアマトの言葉を遮ってティンダロスがそう言えばティアマトとアキベエルは驚愕した表情を浮かべた。

「私の正体を彼は知らないのだ。だから、私は彼の優しさに甘えて嘘をついた。それをどうか許してほしい」

 ティンダロスはそう言って頭を下げるような仕草をすればティアマトとアキベエルは困惑した表情を浮かべた。

「右の道で何があったかは訊かないわ。でもキオリに隠し事をするのはどうしてかしら?」

 ティアマトは先ほどよりも落ち着きを取り戻しながら尋ねた。

「彼に知られてしまったら私は、2度と人間や魔族といった種族を信じられなくなる。それこそ、君達が最初に予測した通りに恐ろしい結末を迎えることだろう。それに彼が解決するべきことも出来なくなるのは目に見えて明らかだ。君達も薄々気づいているだろう? 彼が……キオリが何故魔界に呼び出されたのかを」

 ティンダロスの言葉にティアマトは頷いた。

「何故精神だけがその時代ではなく“今”なのか。そして、魔界全体で起きている不可解なことをキオリが解決しなければ意味がないってことは、最初の時に確信したわ。けれど、分からないの。何故、キオリがいなければ解決出来ないのか。救える者云々を抜かしても意味が分からないことが多すぎるわ」

 その言葉にアキベエルさんも頷いた。

「確かにそうだな。天族や魔族でもなく、この世界によって勇者候補として召喚されたキオリなのか。それを解明しなければ意味がない」

 その言葉にティンダロスは

「キオリがいなければ解決できない何かがあるはずだ。それは天族でも魔族でも我々のような異分子でもなんでもない何かだ。それを魔族や天族は調べたりは出来るはずだぞ。そのための猶予期間が“今”ならば納得は出来るはずだ。それが、この世界と魔界を繋ぐ為の手掛かりになると私は考えている」

 そう言って前足でキオリの頭を優しく潰さないように撫でた。

 キオリが起きる気配はない。

 ティアマト達はその光景を見ながら

「私たちで調べなきゃ意味がないか…………。あなたは、まるで分かっているみたいな言い方ね? 何かそういうのが分かるものなの?」

 ティアマトがそう言いながらティンダロスを見れば

「それが分かれば私たちは苦労しないのだが…………」

 と苦笑いを浮かべるようにそう言った。

【ティンダロス】

人間の言葉を喋る犬のこと。

ティアマト達から見たら謎の物体に見えるのは、そういう類のものであるからで、ティンダロス自身はそれに気づいているものの、キオリは普通の犬として見てもらえているので、その優しさに甘えてキオリには話していなかった。

一人称は私でオス

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