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分かれ道の右側

前回あらすじ

転生冒険者のタツオさんを救出しました。

 タツオさんを空洞の入口付近の壁際あたりにある、魔術で構成されたエレベーターが岩肌にカモフラージュされていたらしくアキベエルさんは迷いもなく壁の凹凸(おうとつ)のある部分に触れれば軽やかな音と共に扉が横開きに開いたことに俺とタツオさんは驚愕していた。

「魔術で造ったとは聞いていたものの、そこにあったとは…………」

 とタツオさんは何とも言えない微妙な顔をしつつそう言っていた。

 そこにタツオさんを入れてから地上に上がりミカエルさんに報告するようにとアキベエルさんが言えば、タツオさんは頷いてから

「また、地上で会おう。この問題が解決することを祈っているよ」

 と扉が閉まるまで手を振ってからそう言った。

 俺たちはそれを見送ってから、再び元のいた場所まで歩き進め、右手で持ったランタンをゆらゆらと揺らめかせながら歩いていく。道中にモンスターの出現はないらしいが、稀にどこかに地上と繋がっている場所があり、その場所がモンスターの住処となっている場合があるらしく子育て期間に入るとモンスターは敏感になるので、なるべく音は立てない方がいいということをアキベエルさんに教わりつつ、慎重にかつ足早に歩美を進めた。


 タツオさんを発見した場所から20m付近に辿り着くと道が2手に分かれており、そこの看板にこう書かれてあった。

(なんじ)が進むべき場所に道は示される』

 右側の方向でも左側の方向でもどちらもいけるってことか? と悩みながら腕を組むと

「どうしたんだい? キオリ? 道は1つしかないのに何か悩むところでも?」

 とアキベエルさんは俺の顔を覗き込みながらそう言って来た。

 は? あ、いや。ちょっと待って。アキベエルさんは何て言った? 道は1つしかない?

「いや、ちょっと待ってください。今、何て言いました?」

 俺の言葉にアキベエルさんとティアマトさんは訝しげな顔で

「何って、道は1つしかないのに悩むところはあるのかって、ことなのだけど?」

 ほら。とそう言って指を指示(さししめ)した方向には左側の方向。

 俺だけしかこの右側しか見えていないのか…………。

「キオリ?」

「あ、いや何でもありません。その、俺こっち側行くんで!」

「え? こっち側って壁じ…………」

 アキベエルさんの言葉が途切れたので振り返れば、アキベエルさんがパントマイムしているように入り口付近を叩きながら何かを喋っている。ただしその喋り声は俺には聞こえない。

「うわぁ…………思わず説明せずにこっちに来たけど、怒っているよなぁ…………。叫んでみるか? いや、聞こえるかどうかさえ怪しいな…………。まぁ言わないよりましか」

 独り言をぶつぶつと呟いてから俺は深呼吸を繰り返して

「アキベエルさんたちには見えないだろうけど、俺には右側の道が見えたんでそっちに行きます! 後で説教は訊きますので!!」

 そう言ってから今度は振り返らずに真っすぐに走った。


「はぁ…………はぁ…………っ。そういえば、女装で走ったのは初めてだった。走りづらくてありゃしない」

 右側の入り口に入って数十mで息切れをしながら俺は両手を両ひざで支えるようにしてから身体を起こして右腕で汗を拭いつつ

「で、えーっと。1人で無防備にこっちに来たのはいいが、地下のはずなのになんか遠くの方が明るいな?」

 目と鼻の先ではないが、かなり離れた場所に灯りが差し込んでいたので、今度は歩きながらその明かる場所へ向かったのだが、50mにも満たない距離だろうと思っていたが、どうやらあの光はそうではないらしく程遠いように思う。

「あー…………。思ったより遠いな。目測を見誤ったか?」

 1人になると独り言が増える。というのを高校2年生の時に同じクラスになった同級生の1人がそう言っていたな。そいつは、高校に入学してから規則に厳しい両親の家から飛び出してわざわざ3つ隣町の高校に入学するぐらい思い立ったが吉日と言わんばかりの行動力だった。

 そんな彼が言っていた独り言が増えるっていうのを俺は今実感している。話を訊いていた時はなんじゃそりゃ? とか当時は首を傾げていたのだが、今になってようやく分かる。常に誰かと一緒だったから独り言は無縁だと思っていたけど、俺しか見えていなかった道に俺1人で進んだ。こういう決断がいつか必要になる。俺が大人になった時、高校を卒業した時。そんなのは分かるはずないけれど、必ずあるはずだ。

 いつの間にか歩くのやめていたらしい俺の足が再び動き出す。

 気合を入れなおして俺は前に進んだ。


 それから数十分して光の方向だと思って進んだ先にいたのは何故か発光している大きい犬がいた。

「おっと、何かの入り口だと思ったら勘違いだったか…………」

 魔界のモンスターは見たことがないので、どういうやつなのかは不明だが一応覗き見る。金色の毛並みが光によって発光しているようだ。近くに蠟燭(ろうそく)があるのでその光で発光しているのだろう。それになんだか顔色が悪いようにも思う。

 などと観察していると、その犬から変な匂いがした。塗料のようなものが鼻孔を掠めた。

「ん? ちょっと失礼」

 恐る恐るその犬に近づきながら顔を近づけて確認すると犬独特の匂いに混じった塗料の匂いがあった。

「発光する犬だと思っていたけど、もしかして発光塗料を塗られた犬なのか!? おいおいマジかよ…………」

 独り言が多くなっている自覚はある。犬だし人の言葉なんて分からないよな?

 しかし、これは放ってはおけないな。一応ヘルモーズの記憶として魔術の知識はある程度分かってはいるしそれをやることも出来るが、目は閉じていて寝ている犬に対して許可なしに勝手に洗うのは気が引けるんだよな…………。2m以上の図体の大きい犬だしどれくらいの発光塗料をかぶせられたのかは分からないが、全身を洗うにしても結構な時間が掛かるぞ。

 などとさんざん悩んだが、一大決心をしてから

「あのー。身体洗いますねー?」

 耳がピクリと動いたが起きる気配はないことを確認しつつ、犬の全身を洗うためにまずは羽織っていたコートを脱いでからそれを近くに置き腕をまくってから

「えぇっと、確か、こうだったか?」

 などと独り言を呟きつつまずは犬の身体を濡らすために雨を降る魔法を使用して濡れたのを確認してからそれを消して分身魔術で俺を20人ぐらい召喚して予めとして買っておいた犬用洗剤を塗り込みそれを傷つかないように綺麗に洗う。

 匂いが取れてきてある程度の触り心地を確認しつつ一旦、犬から距離を置いて雨を降らす魔法を使用して泡を洗い流すようになるべく長くやってから泡が流れ落ちたのを確認しながら、風を作り出す魔法で2m弱ある犬を乾くまで扇風機の容量で乾かしつつ人間サイズのタオルを巨大魔法で大きくさせてからそれを俺の分身と一緒に合図を送りながら綺麗に水滴を拭ってあげる。

 それらを約20分ほどで洗い終えてから犬用ブラシで毛並みを整えてから犬に近づいて匂いを嗅ぐ。塗料のような匂いは感知できず。洗い立てのいい匂いがした。

「うっし。これでOKだな」

 さらに10分ぐらい犬の毛並みを整えてから俺は右腕で汗をぬぐう。

 光に当てても発光しない普通の犬になった。ただし大きいまま。

 少し誇らしげになる。どうだ。約30分近くぐらいの奮闘を。と内心ドヤ顔になりつつ吹き残しがないかどうか確認しつつぐるっと周りを見ながら頷いて犬の顔を見ると目と目が合った。

「うおっぁ!?」

 変な声が出た。いつ起きたかなんて気づきもしなかった。

「お前の分身は戻さなくていいのか?」

 犬の口が開き安定したテノールボイスでそう尋ねてきた。

 あ、そう言えば戻すのを忘れてた。あまりにも達成感に感動が先に来ていたようだ。俺は言われて分身を元に戻すと同時にさっきまで気にならなかった寒さが急に戻ってきて思わずまくっていた腕を下ろして上着を羽織る。

「…………て。犬が喋った!?」

「今更だな」

【キオリが高校2年の時の同級生】

男性。両親とは不仲で規則の厳しさに耐えられず、キオリが住む街の高校に入学している人物でかなりの行動力がある。1人暮らしをしている。


【犬】

2m前後ある。ただしキオリの目測な為、正確な証拠ではない。何故か発光塗料が塗られていた。かぶったかどうかは今のところ不明。


【分身魔術】

自分自身を分身させる魔術で構成上複雑であるため、ある程度の実施訓練を繰り返さなければならないほど正確さを求められる。同じ意思、同じ思考、同じ趣味などと言った者を全部再現しなければならない。少しでもずれたら分身魔術は上手くいかない。最高で100人ほどが限界であると魔界では思われている。


【雨を降らせる魔法と風を造る魔法】

自然現象魔法の1つでその構想上を理解しなければ、雨を降らせることは出来ない。

どうやって雨になるかという基礎知識が必要になる。

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