魔界のお金のやり取り
前回のあらすじ
キオリは魔族と協力関係を結んだ。
正直にいいます。
経理に関してはWikipedia様から調べましたので、経理に関して不十分な説明があると思うかもしれませんのでご注意ください。
キオリ本人は直ぐに男性用の服に着替えたかったのだが、ティアマトのように他の魔族は必要最低限の服装しか持っていない為、女の子らしいフリルをあしらった服やアクセサリーなどと言った小物やら靴までも多く持っているのはティアマトしかいないので、キオリは女装姿でいることを余儀なくされた。ちなみに、魔族専用の服は魔王城周辺にある装飾店に行けばあるのだが、何せ値段が高い。しかも個人で買わないといけないという魔族と人間関係に契約があるので、無賃金であるキオリは買い物すらままならないのである。
「魔族って賃金がもらえるのか……………」
などとキオリは賃金が発生することに関心していた。
「賃金を貰うというより支給されている方が正しいね。僕たち魔族には何かしらの因果により人間から魔族に変化することが多々あってね。それによって僕たち個人の部屋にお金が置かれているんだ。でも、ホムンクルスと言った人工的に造られたものには支給されないというのが分かっている。君の場合はその後者に当てはまるよ」
急にティアマトによってキオリ専用の教育係として1人の男性が連れてこられたのは、ソールという笑顔が似合う男性である。ティアマトとは一緒に食事をする仲だということが分かった。
ソールは朗らかな笑顔で
「僕としては君にもお金が置かれるのが望ましいんだ。あ、僕はこう見えても魔界の経理を任せられているから安心してから何でも聞いて」
というので、キオリは
「一応ツッコミを入れたいところがあるんだが、自室のテーブルにお金が置かれるのか?」
「そうだね。一応札束1つだよ」
「その札束って誰が置いているんだ?」
そのキオリの言葉にソールは持ってきた鞄の中から1冊のノートを取り出してからそれを捲りはじめてから
「ああ、あった。これです」
ソールは顔を明るくしてから一度咳払いをして
「失礼。読み上げますね。数年ほど前から発生している自室の部屋の鍵を施錠しているのにも関わらず、1束のお金が袋に入れられ置かれる件について、お金が振り込まれる日の前日に張り込みをした者の証言によると魔界では伝承で伝われているウロボロスが空間移動を使い部屋に侵入し金銭を置いていることが判明した。ウロボロスは生きた生物のみを愛しており、人工的なものは冷たさを感じて毛嫌いしているということが分かった。と書かれてますね。ああ、これは90000万年前に経理を担当していた者の記録ですのであしからず」
ソールはそう言ってからノートを閉じて再び鞄の中に仕舞い込んだ。
「伝承の生き物ってのが金銭を置くのは分かったが、その、ウロボロスはどうやって金銭を貯めているんだ?」
キオリは腕を組んでから唸るようにそう言えば、ソールは肩をすくめてから
「それは、僕たち魔族でも不明だよ。突然現れてお金を置いて消えていくからね。それ以外の質問をしてもウロボロスは答えなかったんだ。だからそれに関しては魔界の七不思議として捉えられるといい。でも、君が金銭を受け取れないのは確定はしているし、君は記憶が無いだろうとは思うけど、ヘルモーズの時に人間にお願いされて行ったことがあってね。その時のみなら君に賃金は発生するだろうね」
と言ってから紅茶を1口飲んだ。
「でも、基本的にティアマトが君を世話をするだろうけど、まぁ、働くというのなら、その時は僕に行ってよ」
そう言ってから紅茶を最後まで飲み干してから時計を見てから
「じゃあ、僕は用があるからまたね」
ソールはそう言ってヘルモーズの自室から出て行った。
それから2000年経過したのだが、俺は初めて先代魔王が無様に殺されているざまを目にしてしまった。絞首、斬首、などといったものが王座が赤い血で床を汚していた。そしてそれを見た俺は思わず口を手で隠しながらトイレに駆け込み、嘔吐した。
「…………っ。はぁっ…はぁっ…はぁっ……っ!」
人の死を目の当たりにするのは、2度目なのに、慣れない。いや、慣れた方がおかしい。この世界では初めて見る光景。だというのに、本当にこれが勇者候補としてやることなのか? もし、魔王を救うことを決しなかったら平気で残忍で冷酷な人間になっていたに違いない。それを忘れることも元の世界に戻ったとしても決して何も知らない無垢な日常に戻れるはずがないのは、既に確定している。
トイレの水を流してから洗面所で手を洗いつつ、ついでに口を洗った。酸味のある味が異様なほどに残るのは気持ち悪いからだ。
「…………くそッ」
自室になっている部屋に戻ってベッドに倒れこむ。洗い立ての爽やかなにおいが鼻孔をかすめた。だが、冷静になれなかった。
「これをあと、12000万回耐えなきゃいけないのかよ…………。くそ。俺がここまで精神が弱いとは思いもしなかった。強固なメンタルを持っていると自負していたが、それは間違いだったな…………」
独り言のように呟けば
「入るわね。キオリ」
部屋をノックなしに入ったのは、ティアマトさんである。
「ああ、やっぱり顔色が悪いわね。ヘルモーズの時もなるべく見せないようにしていたけれど……キオリは耐性があると思っていたけど思い違いだったわね。大丈夫かしら? トイレに行った?」
「当分は食事が食えないかもしれないぐらいだ。これを12000万回耐えなきゃならないってのに悲壮感を感じる」
ティアマトさんの顔を見ないまま俺はそう言った。
「私の洗脳で忘れられることも出来るけど…………。それは止めた方がいいのでしょう?」
「そりゃあ、なぁ。俺が魔界に来ることは俺が魔界の出来事をこの世界に教えなくちゃならないと思っているんだ。それで現実に目を逸らすってのは絶対にしない。…………っう。気持ち悪くなってきた。すまない」
俺はそう言って再びトイレにこもって再び嘔吐するなか、ティアマトさんが俺に聞こえるようにトイレの入り口まで近づき
「1つ。知らせておくわ。ソールも魔王と同じように無様な死体で発見されたらしいわ。明日は葬式を開くけれど、キオリは参加する?」
そう言って尋ねてきた。
魔王が連れ去られたのが13名。その内の1人にソールが巻き込まれていた。
ソールとは最初の会話以来、飲み友達として暇な時間を見つけては俺とティアマトさんと一緒にお茶会をした。その中でいろんなことを話したりして仲のいい友人として接したし、ソールもそうだった。最初は、さん付けで呼んでいたのだが、呼び捨てでいいと言われてからずっとソールと呼んでいたし、トールと一緒にロッククライミングをしたりした。ヘルモーズとしては何度もやっているのだが、俺自身は初めての経験で上手くできるか不安だったのだが、難なく登れたことに俺は呆気らかんとしたのを覚えている。命綱なしってのは恐怖だったけどな。
そんなソールが俺が最初に見たあの光景と同じように殺されたとなると何かと殺意を沸いてしまう。しかし、それを抱いてしまったとしても、理性はそんなことをしては駄目だと言っているような気がした。気がするだけだ。
「い、きます」
何度か嘔吐を繰り返して若干掠れた声で俺は返事をすれば
「そう。分かったわ。今日の予定はすべて中止になるから部屋でゆっくり体調を整えて。また、明日」
ティアマトはそう言ってからトイレの前から遠ざかり奥の方で扉が閉まる音が聞こえた。
嘔吐によって溢れた涙を拭ってから息を整えて水を流してから洗面所に向かう前に地面に座り込んでしまった。起き上がろうにも体力が抜け落ちたかのように立ち上がれないそういう感覚が襲ってくる。
俺はここまでメンタルが弱かったのか。そう嘆きたくなるような情けない気持ちになった。
【ソール】
男性で成人済みだが、童顔で子供っぽく見える。笑顔が似合う。褐色肌。
魔王城では経理を担当している。常に大きめの茶色の鞄を持ち歩いていることが常。中には資料やらが沢山入っている。
【賃金】
魔界での給料のようなもの。月1でお給料が支給される仕組みになっている。
この世界だと勇者候補だったので前膳としてお金は貰っていたので苦労はしていなかったのだが、魔界だと無一文なのでキオリは魔界で生活するうえで働くことになる。
【メンタル】
精神面のこと。菩薩メンタルとか鋼メンタルとか豆腐メンタルとか言われるそう言うの。TRPGでいう所のSAN値。