精神ごと移動したキオリ
前回のあらすじ
スズカのお世話を全員でしました。
1月8日修正
文章を追加。
あとがきの追加
スズカの体調が万全に整ったと、思いきや、今度はカズキが熱を出して翌週には俺が熱を出して、ラーシュ、ドロシー、ソフィさんと立て続けに病に伏したので、何かの流行り病が流行っているのかと疑問に思うほどであった。
ソフィさんの話では、膠着状態が続いていたから気が抜けたのだろうということだった。それでも7月過ぎぐらいには、全員が回復したのだが、その時には東の街を出る予定日だったこともあったのだが、アルデバランさんからまだ、教わっていないことも多かったのを知っていたのか、女将さんが半月ほど延期をお願いしていたことには感謝しかない。時間に余裕があるときに女将さんを手伝うことを言えば、女将さんは笑いながら
「やだねぇ。気にしなくていいよ。どうしてもっていうなら、そうだね。あんたたちがこの街から出るときに荷物運びを手伝ってもらいたいね」
と言って来たので、俺たちはそれに了承した。
そんなこんなで、いつの間にか7月を迎えていた。現在7月13日。セミが煩く鳴くわけでもなく、気温が高くなって蒸し暑い季節が到来する季節なのだが、肌から感じる気温の変化は、この世界に来てから変わらず春のような暖かな風と丁度いい穏やかな気温を常にキープしていた。それについて、女将に尋ねてみたところ、どうやら西の街、東の街、北の街、南の街で気温の変化が若干あるらしく、西の街は秋、東の街は春、南の街は冬、北の街は夏と言った感じで気温の変化が分かりやすく現れるらしい。東の街が農業の街として知られるのは、収穫するものが他より比べて比較的に多いから。ということだった。少しふと疑問に思い、旧暦は何なのかと尋ねればアルデバランさん達は頭上にクエスチョンマークを浮かべるだけだったのでこの世界には旧暦というものが存在していないということが明らかになった。
「さて、久々の訓練だが、外での実践訓練を行うことになった。スズカはそうだな………。この世界では稀にだが、水が平均より少ない状態で生まれてくることがあるんだが、その人物と同じでモンスターを使役することが出来るんだ。ただし、人間がモンスターを選ぶのではなく、モンスターが人間を選ぶのがこの世界では、暗黙の了解となっている。スズカはそのモンスター探しから始めようか」
ということで、スズカはドロシー、イザールさんと共にどこかへと向かっていった。イザールさんは保護者同伴兼説明役を担っている。ドロシーもモンスターとの使役なら問題ないだろうというジャンジャン族の長でもあるアルギエバさんもその方がいいだろうという話だった。
残った、俺とソフィさん、ラーシュ、カズキはアルデバランさんの家から少し離れた所に石材で構成された訓練所があった。民宿兼料理屋からでもアルデバランさんの家はギリギリ見えていたのだが、この訓練所だけは見えない位置にあるようだ。
「こんなところに訓練所があるんだね。少し驚いたよ」
ソフィさんがそんな感想を零せばアルデバランさんは
「5年ぐらい前にジャンジャン族がここの場所で一時期、仕事をしていたんだが、その名残で訓練所にしてもらっている。目立たないのは、ジャンジャン族は目立つのが苦手だからだ」
「5年前に?」
「ああ。北の街で雪崩が起きたんだ。それで東の街と西の街だけその訓練所があるんだ。北の街は暑さでジャンジャン族が無理してしまったのが過去に何度か会ったからないんだけどな」
ジャンジャン族は暑さに弱いということだけが分かってしまった。
「訓練所には、北の街の戦闘訓練所でもあったあの幻術魔法をもついての練習が行われる。だが、キオリ。すまない」
アルデバランさんはそう言って謝罪する
「戦闘訓練所とは違って、相手のイメージが強い分のその人物が現実で生きているような感じで再現されてしまうんだ。もし、トウヤが出てしまった場合の為に俺は先に謝らせてもらうぞ」
そう言われたのである。
訓練所に入ってから俺たちは無言になった。
緊張しているからなのか、そうじゃないのかは相手の心理を理解しているほど俺は賢くはない。俺はアルデバランさん言われたことについて考えていた。
もし、幻術魔法とはいえ、トウヤが出てしまった場合、ちゃんと訓練出来るだろうか。といった不安があった。
その覚悟を胸に俺は息を飲んで、頬を叩いてから気合を入れた。
ヴォンという機械音が作動したような音が聞こえた。幻聴魔法でもあるのではないかと疑ってしまうぐらいだ。
場所は薄暗く、どこかの建物内だった。周りを見れば一緒にいたはずのソフィさん達が見当たらなかった。一ヶ所に纏めると同じような場所になるだったはずと思いつつ俺は、その場に向かう前に、誰かによって腕を掴まれた。
振り返れば、トウヤがいた。いや、角が生えているから魔王だった時のトウヤがそこにはいた。確か魔王の名前はトールだったか…………?
「……………あんた、どこから来たんだ?」
トールは怪訝そうな顔をしつつもそう尋ねた。
さて、どう答えるべきか、ここで選択を間違えれば間違いなく幻覚にはなるんだろうが殺さてしまうのは確かだ。
「その…………。上の方?」
「……………上の方? 地上界の事か? なら、あんたは死んだのか?」
おっと知らない単語が出てきたぞ。地上界ってなんだ?
「地上界?」
「ん? 知らないのか? 人間達が暮らす世界のことだぞ?」
「そうなのか? その、なんというか……………ここに来る前の記憶が無くてだな…………」
申し訳なさそうにそう言えばトールは腕は離さないまま少し首を傾げたのち
「記憶喪失ってところか。分かった。俺と同じだな。偉いやつに合わせてやるから着いてこい! あんた名前分かんないんだろ! なら俺がつけてもいいよな! そうだな…………………。ヘルモーズとかどうだ?」
一人称が全く違うトールは喜々として俺にそう尋ねた。偽名としてはそれで十分かと思いつつ
「あ、ああ……………好きにしてくれ。それで、俺はあんたをなんと呼べばいいんだ?」
「俺? 俺はトール! よろしくなヘルモーズ」
「ああ。よろしくな」
歩きながら俺は、トールのいう王様に逢うことになった。はぁ…………これってどうなるんだ?
訓練所に足を踏み入れたと同時に、キオリは気絶するように倒れた。アルデバランは驚愕しすぐさまキオリの様子を確認すると
「どういうことだ…………………。おい! ドーラ。あんたはいるだろう!? 説明しろ!」
アルデバランの言葉にキオリが目を覚ますが、それはキオリの雰囲気ではないということが、ソフィとラーシュだけは理解できた。
「説明しろっと言われてもね………………。アルデバランが思った通りだよ。彼は彼の精神ごと18万年前に行ったんだよ」
「精神事!? じゃあ、君は誰なんだい?」
ソフィさんの言葉に彼は
「? 前に逢ったことがあるだろう? この街に着く前にキオリが倒れたのを見ているはずだろう? それとも名前のことか? それなら答えよう。キオリが付けてくれた名だ。僕の名前はドーラという。素晴らしい名前だろう?」
キオリの身体を自由に扱うドーラはそう言って怪しい笑みを浮かべた。
それでも不安が残るソフィたちに、アルデバランは、ドーラは吸血鬼であるということとその習性などを説明した。
「まぁ、大方アルデバランの言った通りだな。僕たち吸血鬼は、人間の数がいればいるほどそれと同じようになるように吸血鬼が存在するんだ。契約者が死ねば僕たちも死ぬ。それがこの世界の仕組みでね。でも戦闘には期待しないでくれ。キオリにも話したが、僕たちは戦闘では役に立たないんだ」
アルデバランとドーラの答えにソフィたちは納得したのだが、肝心なことが分かっていない。
「キオリだけが精神事、過去に戻ったか知っているか?」
アルデバランはドーラに尋ねた。
「僕は万能道具でも何でもないんだけどね……。まぁ、分かる範囲で説明すれば、僕が生まれたが18万年前なんだ。つまりキオリの精神が18年前に飛んだと同時に僕は生まれている。その時にでも直ぐに契約することは可能だったが、あくまで魂だけの存在。そうだな、幽体離脱状態になっている状態なんだ。つまり、キオリにとっては過去のことを戦闘訓練のシミュレーションのようなものだと思っているから契約することは不可能だったんだ。それに過去ではキオリはヘルモーズと名乗っている」
ドーラの言葉にアルデバランが驚愕した。
「ヘルモーズ!? あの正体不明な魔王の1人で現在行方不明とされているあの!?」
【使役】
水がない場合の時のための処置方法としてモンスター側が認めた人間に対して使役を行うことが出来る。モンスターが人間を選ぶので、最初はギスギスするのは間違いない。
【ヘルモーズ】
キオリの偽名としてトール(トウヤ)がつけた名。
アルデバランの話によれば、ヘルモーズは正体不明の魔王の1人だという。